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2006 IA 13 I 22, 23, 24, 25, 26, 27 1 16 答案用紙には問題 1(5)、問題 2(3) の答、問題 2(4) の三つだけ解答して下さい。 問題 1. t f (t) g(t) f (t)= t 0 e x 2 dx 2 g(t)= 1 0 e (1+x 2 )t 2 1+ x 2 dx する。 (1). f (t) めよ。(f (t) った ります。) (2). g (t) めよ。(g (t) った ります。) (3). g(0) めよ。 (4). lim t→∞ g(t) めよ。 (5). 0 e x 2 dx めよ。 問題 2. 2 f (x, t) を、 f (x, t)= x 2 x 2 + t 2 (x, t) = (0, 0) 0 (x, t) = (0, 0) する。 (1). f (x, t) (0, 0) において t し、 ∂f ∂t (x, t) めよ。 (2). ϕ(x)= ∂f ∂t (x, 0) する。 1 0 ϕ(x)dx せよ。 (3). t F F (t)= 1 0 f (x, t)dx する。F めよ。 (4). F (0) してみよ。

miya-13 - lecture.ecc.u-tokyo.ac.jpnkiyono/2006/miya-13.pdfヒント 問題1. (1). 積の微分法を使ってから微積分の基本定理を使いましょう。(2). 積分される関数は2変数関数としてC1-級ですので積分と微分の順序を入れ

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2006年度数学 IA演習第 13回理 I 22, 23, 24, 25, 26, 27組

1月 16日 清野和彦

答案用紙には問題 1(5)、問題 2(3)の答、問題 2(4)の三つだけ解答して下さい。

問題 1. t の関数 f(t) と g(t) を

f(t) =

(∫ t

0

e−x2

dx

)2

g(t) =

∫ 1

0

e−(1+x2)t2

1 + x2dx

と定義する。

(1). f ′(t) を求めよ。(f ′(t) の式の中に積分が残った形になります。)

(2). g′(t) を求めよ。(g′(t) の式の中に積分が残った形になります。)

(3). g(0) の値を求めよ。

(4). limt→∞

g(t) の値を求めよ。

(5).

∫ ∞

0

e−x2

dx を求めよ。

問題 2. 2変数関数 f(x, t) を、

f(x, t) =

x2

x2 + t2(x, t) �= (0, 0)

0 (x, t) = (0, 0)

と定義する。

(1). f(x, t) は (0, 0) においても tで偏微分可能なことを示し、∂f

∂t(x, t) を求めよ。

(2). ϕ(x) =∂f

∂t(x, 0) とする。

∫ 1

0

ϕ(x)dx を計算せよ。

(3). t の関数 F を F (t) =

∫ 1

0

f(x, t)dx で定義する。F を求めよ。

(4). F ′(0) を計算してみよ。

ヒント問題 1.  (1). 積の微分法を使ってから微積分の基本定理を使いましょう。

(2). 積分される関数は 2変数関数として C1-級ですので積分と微分の順序を入れ替えられます。

(3). t = 0 を代入して計算するだけです。

(4). 積分される関数は 2変数関数として連続なので、積分と lim の順序を入れ替えられます。

(5). まず f(t) + g(t) が定数関数となることを証明しましょう。

問題 2.  (1). (0, 0) における tによる偏微分とは f(0, t) の t = 0 における微分のことです。(0, 0) 以外では商の微分法などで普通に計算できます。

(2). ϕ(x) を具体的に書いてしまえば良いだけです。

(3). t を定数と見たとき、t �= 0 なら f(x, t) は x の関数として連続なので普通に積分を計算できます。f(x, 0) は不連続ですが、不連続なのは x = 0でだけなので、今までに何度か見てきたとおり不連続点のことは気にせずに計算して大丈夫です。

(4). F (x)の式は x = 0 で切れているので、F ′(0) は定義に従って計算しなければなりません。

2006年度数学 IA演習第 13回解説理 I 22, 23, 24, 25, 26, 27組

1月 16日 清野和彦

解答

問題 1

(1)

F (t) を

F (t) =

∫ t

0

e−x2

dx

とおくと、f(t) =(F (t)

)2 です。よって、積の微分法によりf ′(t) = 2F ′(t)F (t)

となります。微積分の基本定理により F (t)は被積分関数 e−t2 の原始関数、つまり

F ′(t) = e−t2

が成り立っていますので、

f ′(t) = 2e−t2∫ t

0

e−x2

dx

となります。 □

(2)

被積分関数は C1-級ですので、微分と積分の順序を入れ替えられます。つまり、

g′(t) =d

dt

∫ 1

0

e−(1+x2)t2

1 + x2dx =

∫ 1

0

∂t

e−(1+x2)t2

1 + x2dx

が成り立ちます。被積分関数を t で偏微分すると、

∂t

e−(1+x2)t2

1 + x2= −2te−(1+x2)t2

となりますので、

g′(t) =

∫ 1

0

∂t

e−(1+x2)t2

1 + x2dx =

∫ 1

0

(−2)te−(1+x2)t2dx = −2te−t2∫ 1

0

e−(tx)2dx

となります。 □

第 13回解説 2

(3)

t = 0 を代入して計算すると、

g(0) =

∫ 1

0

1

1 + x2dx = Arctan 1 − Arctan 0 =

π

4

となります。 □

(4)

被積分関数は 2変数関数として連続ですので、極限を取ることと積分を入れ替えられます。被積分関数で t → ∞ とすると、任意の x に対して

limt→∞

e−(1+x2)t2

1 + x2= 0

となります。よって、

limt→∞

g(t) =

∫ 1

0

limt→∞

e−(1+x2)t2

1 + x2dx =

∫ 1

0

0dx = 0

です。 □

(5)

t �= 0 として (2)の計算結果で y = tx と置換すると、(1)の計算結果から

g′(t) = −2e−t2∫ t

0

e−y2

dy = −f ′(t)

となります。(xでの積分に関しては tは定数であることに注意してください。)また、t = 0のときは (1)と (2)の計算結果に t = 0を直接代入して g′(0) = −f ′(0) = 0

です。よって、

(f(t) + g(t))′ = f ′(t) + g′(t) = 0

となり、f(t) + g(t) は定数関数であることがわかります。f(0) = 0 なので、(3)の計算結果から

f(t) + g(t) = g(0) =π

4

です。つまり、f(t) + g(t) は t によらずに常に値が π/4 の定数関数です。よってt→ ∞ の極限も π/4 です。t→ ∞ とすると、(4)より

π

4= lim

t→∞(f(t) + g(t)

)= lim

t→∞f(t)

第 13回解説 3

となりますので、 (∫ ∞

0

e−x2

dx

)2

= limt→∞

f(t) =π

4

となります。e−x2 は常に値が正の関数ですので積分値も正です。よって、∫ ∞

0

e−x2

dx =

√π

2

と計算できました。 □

問題 2

(1)

t によらずに f(0, t) = 0 なので、f は (0, 0) において t で偏微分可能で、

∂f

∂t(0, 0) = lim

t→0

f(0, t) − f(0, 0)

t= lim

t→0

0

t= 0

です。また、f は単なる有理式ですので、(x, t) �= (0, 0) のときは商の微分法により

∂f

∂t(x, t) =

−2x2t

(x2 + t2)2

となります。 □

(2)

(1)より x によらずに ϕ(x) = 0 ですので、

∫ 1

0

ϕ(x)dx = 0

です。 □

(3)

f(x, t) で tを定数だと思った x の関数は、t �= 0 なら連続だし t = 0 でも x �= 0

では連続なので、x による積分は存在し F (t) は問題なく定義されます。積分を計算しましょう。t = 0 のときは x �= 0 では f(x, 0) = 1 ですので F (0) = 1 です。

第 13回解説 4

t �= 0 のときは

F (t) =

∫ 1

0

x2

x2 + t2dx

=

∫ 1

0

(x/t)2

(x/t)2 + 1dx

=

∫ 1t

0

y2

y2 + 1tdy

= t

∫ 1t

0

(1 − 1

y2 + 1

)dy

= 1 − tArctan1

t

となります。 □

(4)

定義に従って F ′(0) を計算してみましょう。

limt→0

F (t) − F (0)

t= lim

t→0

(−Arctan

1

t

)

ですが、1/t が入っているので t→ +0 と t→ −0 で分けて考えた方が安全です。t → +0 のときは

limt→+0

F (t) − F (0)

t= − lim

t→+0Arctan

1

t= − lim

s→+∞Arctan s = −π

2

です。一方、t → −0 のときは

limt→−0

F (t) − F (0)

t= − lim

t→−0Arctan

1

t= − lim

s→+∞Arctan(−s) =

π

2

となります。よって、いわゆる右微分と左微分が一致しないので、F (t) は t = 0 で微分できません。 □

第 13回解説 5

前書き今回のテーマは、

積分や広義積分と関数列の極限やパラメタ付き関数の微分との入れ替え

です。問題 1では、直接には計算できそうもない積分でも、積分と極限や微分を入れ替えを使って上手く工夫すると計算できる場合があることを見てもらい、問題 2では、積分と微分を気楽に入れ替えるのは危険だということを、つまり∫ b

a

∂f

∂t(x, t)dx �= d

dt

(∫ b

a

f(x, t)dx

)

日本語で言えば

「t で微分してから x で積分」�= 「x で積分してから t で微分」

となることがあるということを見てもらいました。問題 2のようなことが起こってしまう以上、関数列やパラメタ付き関数の極限と積分が入れ替えられるためにはそれらがどのような条件を満たしていなければならないのかを調べておかなければ、安心して計算を進めることができなくなってしまいます。この解説ではその点について説明します。

目 次

1 一様収束:第 7回解説(その 1)第 10節の復習 6

1.1 そもそも第 7回の問題 4の動機はなんだったか . . . . . . . . . . . . 6

1.2 第 7回解説第 10節のあらすじ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2 積分および広義積分と関数列の極限 10

2.1 関数列と積分再論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.2 例:フーリエ級数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

2.3 広義積分との関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

3 積分および広義積分と微分 27

3.1 連続的なパラメタを持つ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

3.2 パラメタ付き関数を 2変数関数と見ると . . . . . . . . . . . . . . . 28

3.3 広義積分との関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31

3.4 パラメタを利用した計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34

3.5 例:フーリエ級数と微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36

第 13回解説 6

1 一様収束:第7回解説(その1)第10節の復習既に第 7回の問題 4で関数列の極限と微積分とのかかわりについて取り上げ、解説プリントの第 10節で論じました。ただし、そのときはリーマン和の極限による積分の定義を学んでいませんでしたので、積分は「微分の逆操作」であるとし、被積分関数としては「C1-級関数の導関数になりうるもの」として扱い、積分の性質∣∣∣∣

∫ b

a

f(x)dx

∣∣∣∣ ≤∫

|f(x)| dx (1)

を認めて議論しました。今ではすべての連続関数がC1-級関数の導関数になりうることや、f(x) が積分可能なら |f(x)| も積分可能で不等式(1)が成り立つことも証明してありますが、第 7回演習の段階では不等式(1)どころか |f(x)| が積分可能なことさえあやふやでした。また、関数列に対する極限操作と微積分との関係を論ずるには関数列の一様収束という概念が欠かせませんが、これについても「既に学んだとおり」とか「思い出してください」とかで済ますのはつらいでしょうし、かといって「これを読む前に第 7回の解説を読んでください」なんて書いちゃったら、この解説を読んでくれる人がグンと減っちゃうでしょう。そこで、この節では第 7回演習の解説の内容を簡単に復習しながら、積分の定義をし直したことによってもう少し詳しく証明できるようになった定理を証明し直しましょう。もちろん復習はあらすじになりますので、できれば手元に第 7回演習の解説を置いて参照しながら読んでいただけると良いと思います。

1.1 そもそも第7回の問題 4の動機はなんだったか

第 7回演習の問題 4は

fn(x) = n2xe−n|x| とすると、n→ ∞のとき任意の xに対して fn(x) →0 なのに、

∫ 1

0fn(x)dx �→ 0、f ′

n(0) �→ 0、maxx |fn(x)| �→ 0 である

ことを示す問題でした。なぜこのような問題を扱ったかというと、冪級数の極限として定義される関数に対して、その微積分を項別に施しても良いことは自明でないことを明らかにし、それでもなお冪級数の場合には収束の仕方が「良い」ので項別微積分を行えることを説明するためでした。なぜ上の問題が「冪級数の極限として定義される関数を項別に微積分することが自明でない」と言っている思えるかといえば、冪級数とは要するに部分和のなす多項式の列で、項別微積分するとはその多項式たちを微積分したものの極限を取ることで、問題 1は関数列の収束先の微積分と各項を微積分したものの極限が一致しないものの例になっているからです。しかし、問題 4の関数列の

limn→∞

maxx

|fn(x)| �= 0

第 13回解説 7

という性質がこの fn の収束の「良くない」ということを示唆しているでしょう、というわけです。それでは、以下第 7回解説第10節をたどりながら復習してゆくことにしましょう。

1.2 第7回解説第 10節のあらすじ

以下、第7回解説第 10節に従って必要なことがらの定義や定理を復習しましょう。

1.2.1 関数列の収束と一様収束

関数が連続であるということや関数の微分積分などは、すべて変数についての極限を使って定義されているので、関数列の極限をとる操作と入れ替えようとすると二つの極限の順番を入れ替えることになり問題が発生します。関数列の極限と微分や積分が入れ替えられないことは前節に書いた第 7回の問題 4が例ですし、連続関数列の極限が連続関数にならない例としては [0, 1] 上の関数列 fn(x) = xn

が簡単な例です。このようなことが起こるのは、「任意の x に対して fn(x) → f(x)」という条件を課しただけでは各 x ごとに fn(x) が f(x) に収束する「速さ」が違うからでした。そこで、すべての xでの数列 fn(x) の収束の速さがそろっているという条件、正確には「あんまりゆっくり収束するやつがいない」という収束の「遅さ」に対する制限を付けた収束概念を持ち込みました。それが一様収束です。

定義 1. 関数列 fn が f に一様収束するとは、任意の正実数 ε に対してある自然数 N があって、n > N を満たす任意の自然数 n と任意の x に対して

|fn(x) − f(x)| < ε

が成り立つことを言う。 ◇

一様収束との違いを強調するために、関数列の今までの収束のことを各点収束と呼ぶことにしました。第 7回問題 4の関数列は、各点収束はしているが一様収束はしていないというわけです。論理記号で書くと、一様収束は

∀ε, ∃N, ∀x, ∀n[n > N → |fn(x) − f(x)| < ε]

で、各点収束は

∀ε, ∀x, ∃N, ∀n[n > N → |fn(x) − f(x)| < ε]

で、N を x によらずに取れるのが一様収束です。グラフで考えれば、極限関数f(x) のグラフにちょっとでも幅を付けると、十分大きな n に対する fn(x) のグラフはすべてその幅の中に収まってしまうという状況です(図 1)。

第 13回解説 8

� �

O

y

x

y = f(x)

y = fn(x) たち

図 1: fn が f に一様収束しているときの f のグラフと十分大きな n に対するfn のグラフとの関係

� �

一様収束は、二つの(有界な)関数の間の「近さ」を導入すると簡潔に表すことができました。それは

‖f − g‖ = supx

|f(x) − g(x)|

というものです。これを使うと、fn が f に一様収束していることを

limn→∞

‖fn − f‖ = 0

と、数列の収束のように表すことができます。

1.2.2 一様収束と連続性および積分

連続関数の列が一様収束しているとき、極限関数も連続になり積分値の極限と極限関数の積分は一致します。

定理 1 (第 7回解説 59ページ). 連続関数列 fn が f に一様収束しているなら f

も連続である。 ■

定理 2 (第 7回解説 60ページ). (積分可能な)連続関数の列 fn が(積分可能な)関数 f に一様収束しているなら

limn→∞

∫ b

a

fn(x)dx =

∫ b

a

f(x)dx

が成り立つ。 ■

第 13回解説 9

第 7回の時点では任意の連続関数が積分可能なことを知らなかったのでこのようになっていましたが、それを知った今では「積分可能な」という修飾語は必要ありません。実は、連続性の仮定の方を外して「積分可能な関数の列」と弱めることができます。この定理は仮定を弱めた形で次の第 2.1節でキチンと証明しましょう。なお、どちらの定理においても一様収束という条件は十分条件であって必要十分条件ではありません。

1.2.3 一様収束と微分

次に微分を考えましょう。第 7回解説 61ページからで fn(x) = (sinnx)/n という例を使って説明したように、微分可能な関数列がただ一様収束しているというだけでは極限関数の導関数と導関数の列の極限は一致しません。そこで、微分については、積分についての定理 2を微積分の基本定理を使って微分の形に言い換えることで得られる次の定理で満足することにしました。

定理 3 (第 7回解説 62ページ). C1-級関数の列 fn がある関数 f に各点収束しており、導関数の列 f ′

n がある関数 g に一様収束しているなら、f も C1-級で f ′ = g

が成り立つ。 ■

後に定理 2をもっと弱い仮定で証明し直しますが、この定理 3はこれ以上良くなりません。なぜなら証明中で微分積分の基本定理を使っており、微分積分の基本定理は C1-級関数に対してしか成り立たないからです。なお、この定理も十分条件であって必要十分条件ではありません。定理 2という「必要十分条件ではないもの」から得たのですから当然でしょう。

1.2.4 一様収束性の判定

新しい収束概念がでてきたので、その意味で収束しているかどうかを判定する方法が欲しくなります。特に、勝手な関数列が与えられたとき、それの極限関数が具体的にわかってしまうことは稀です。極限なしで収束を云々するときには実数の完備性に頼ったコーシーの条件の出番です。

定義 2. 関数列 fn が一様コーシー列であるとは、任意の正実数 ε に対して自然数 N で

n > N,m > N ⇒ ‖fn − fm‖ < ε

を満たすものが取れることを言う。 ◇

と、実数のコーシー列のときと同様に定義すると、

第 13回解説 10

定理 4 (第 7回解説 65ページの補題と定理). 関数列 fn がある f に一様収束しているための必要十分条件は、fn が一様コーシー列であることである。 ■

が成り立ちました。必要であることは当たり前で、十分であることが実数の完備性から導かれるのです。

1.2.5 関数項級数の一様収束

上のコーシーの条件でもまだ使いやすい判定法とは言いにくいでしょう。しかし、関数列をテイラー級数のような関数項級数の形のものに限ると、コーシーの条件からもっと使える判定法を引き出すことができます。優級数の方法、あるいはワイエルシュトラスの M テストと呼ばれます。

定理 5 (第 7回解説 65ページ). 関数列 ϕn に対して、数列 Mn で、二つの条件

(1) ‖ϕn‖ ≤Mn (2)

∞∑n=1

Mn は収束する

を満たすものがあるならば、関数項級数∑∞

n=1 ϕn は一様収束する。 ■

「関数項級数が一様収束する」とはもちろん部分和のなす関数列が一様収束するという意味です。

1.2.6 広義一様収束

代表的な関数項級数である冪級数の収束は一様収束でないことがしばしばあります。しかし、連続性や微分を考えるには各点のほんの近くで、積分を考える場合でも定義域内の任意の有界閉区間上で一様収束していてくれれば良いので、次の広義一様収束で十分こと足りました。

定義 3. 有界とも閉区間とも限らない区間 I で定義された関数列 fn が広義一様収束しているとは、I に含まれる任意の有界閉区間をとったとき、関数列 fn の定義域をそこに制限すると一様収束していることを言う。 ◇

冪級数が収束している場合、その収束は広義一様であり(第 7回解説 69ページの定理)、また、一様収束を広義一様収束に取り替えても定理 1, 2, 3はそのまま成り立ちました。

2 積分および広義積分と関数列の極限

2.1 関数列と積分再論

以上、ざっと第 7回解説第 10節の内容を復習しました。この説では積分の定義を使って関数列と積分の関係を詳しく論じ直しましょう。

第 13回解説 11

そもそも、積分の定義はある関数列に対する積分の極限と言い換えられます。具体的に言いましょう。f が [a, b] で積分可能であるとは、|∆n| → 0 となる任意の分割の列とその代表点の列の列

(ξn = (ξn,1, . . . , ξn,Nn)

)nに対して、数列

R∆n,ξn(f) =

Nn∑k=1

f(ξn,k)(xk − xk−1) (2)

がつねに同じ値に収束することであり、その極限値を f の積分と言って∫ b

af(x)dx

と書くのでした。そこで、関数 fn を

fn(x) =

f(ξn,1) xn,0 ≤x≤ xn,1

f(ξn,2) xn,1 <x≤ xn,2

......

f(ξn,Nn−1) xn,Nn−2 <x≤ xn,Nn−1

f(ξn,Nn) xn,Nn−1 <x≤ xn,Nn

という階段関数とすると(図 2)、

� �

O

y

x

f(x)

a

ξn,1

xn,1

ξn,2

xn,2

ξn,3

xn,3

ξn,4

b

図 2: 階段関数 y = fn(x)� �

∫ b

a

fn(x)dx = R∆n,ξn(f)

なので、積分可能であることとは

limn→∞

∫ b

a

fn(x)dx

が存在することであると言うことができます。そして、その極限値を∫ b

af(x)dxと

書くわけです。一方、直感的には

limn→∞

fn(x) = f(x) (3)

第 13回解説 12

に見えますので、積分と極限の入れ替え

limn→∞

∫ b

a

fn(x)dx =

∫ b

a

limn→∞

fn(x)dx (4)

の式が見えてきます。実際には式(3)の成り立たない例があるのですが、例えば、

補題 1. f(x) が連続なら式(3)が成り立つ。

証明. 閉区間上の連続関数は一様連続ですから、任意の正実数 ε に対してある正実数 δ があって、

|x− y| < δ ⇒ |f(x) − f(y)|

が成り立ちます。いま、limn→∞ |∆n| → 0 ですので、ある M があって

n > M ⇒ |∆n| < δ

となります。fn は、x ∈ (xn,k−1, xn,k] のとき fn(x) = f(ξn,k) と定義されているのですから n > M なら

|x− ξn,k| ≤ |xn,k − xn,k−1| < δ

を満たします。よって、

|fn(x) − f(x)| ≤ |fn(x) − f(ξn,k)| + |f(ξn,k)− f(x)| < 0 + ε

となって、

limn→∞ fn(x) = f(x)

が示されました。 □

ですので、うっかりすると

積分は、不連続点を有限個持つような関数であっても収束先が連続関数なら極限と積分の入れ替えができるほど、関数列の極限との入れ替えが成り立つようにできている。

と思えてしまうかもしれません。しかし、一般にこのことが成り立たないことは第 7回で見たとおりです。補題 1の状況(あるいは証明)をよく見直すと、実はこの場合は一様収束になっていることがわかります。実際には、収束先が連続関数かどうかが問題なのではなく、収束が一様収束であることが重要なのです。実際、第 1.2.2小節で予告したように、積分可能な関数の一様収束先は必ず積分可能になり積分と関数列の極限の入れ替えができます。定理をキチンと書き直してから証明をしましょう。

第 13回解説 13

定理 6. 定義域内の任意の有界閉区間で積分可能な関数の列 fn が広義一様収束しているなら、極限関数 f も定義域内の任意の有界閉区間で積分可能で

limn→∞

∫ b

a

fn(x)dx =

∫ b

a

f(x)dx

が成り立つ。

注意. 定理の仮定「定義域内の・・・広義一様収束しているなら」の部分が鬱陶しいですが、積分というのはどうせ有界閉区間 [a, b] を一つ決めないと決まらないものですし、有界閉区間上では広義一様収束と一様収束は同じですので、実質的には「[a, b] で積分可能な関数列が一様収束しているなら」でも同じなのです。ただ、広義一様収束という概念を定義したのにそう書いてしまうと、「広義一様収束では積分と極限は入れ替えられないのかぁ」とつい思ってしまう人もいるのではないかと思って、くどいと思いながらも上のようにしておきました。★

証明. f(x) が積分可能なことを証明しましょう。まず確認ですが、f(x) は有界です。実際、fn(x) たちは積分可能なので有界で、f(x)

に一様収束しているのですから、十分大きな n に対し

|fn(x) − f(x)| < 1

が x によらずに成り立ちます。つまり、

fn(x) − 1 < f(x) < fn(x) + 1

が x によらずに成り立つので、f(x) は有界です。有界なので、f(x) の上下リーマン和を考えることができます。f(x) が積分可能である

ことは、上リーマン和と下リーマン和の差の極限が 0であることと同値でした。記号を簡単にするために、f(x) の ∆ に対する上下リーマン和を R, R とし、fn(x) の ∆ に対する上下リーマン和を Rn, Rn としましょう。つまり

∆ = {x0, x1, . . . , xk−1, xk}として、

R =k∑

i=1

supxi−1≤x≤xi

f(x)(xi − xi−1), R =k∑

i=1

infxi−1≤x≤xi

f(x)(xi − xi−1),

Rn =k∑

i=1

supxi−1≤x≤xi

fn(x)(xi − xi−1), Rn =k∑

i=1

infxi−1≤x≤xi

fn(x)(xi − xi−1)

です。さて、任意の正実数 ε が与えられたとしましょう。fn が f に一様収束していることか

ら、ある十分大きな N があって、

‖f − fN‖ < ε

4(b− a)

を満たします。よって、任意の ∆ とその任意の i 番目の小区間に対して、

supxi−1≤x≤xi

f(x) − supxi−1≤x≤xi

fN (x) ≤ supxi−1≤x≤xi

|f(x) − fN (x)| ≤ ‖f − fN‖,

infxi−1≤x≤xi

fN (x) − infxi−1≤x≤xi

f(x) ≤ supxi−1≤x≤xi

|f(x) − fN (x)| ≤ ‖f − fN‖

第 13回解説 14

が成り立ちます。一方 fN (x) は積分可能ですので、ある正実数 δ があって

|∆| < δ ⇒ RN −RN <ε

2

を満たします。よって、|∆| < δ ならば、

R−R =k∑

i=1

supxi−1≤x≤xi

f(x)(xi − xi−1)−k∑

i=1

infxi−1≤x≤xi

f(x)(xi − xi−1)

≤k∑

i=1

(sup

xi−1≤x≤xi

fN (x) + ‖f − fN‖)

(xi − xi−1)

−k∑

i=1

(inf

xi−1≤x≤xi

fN (x) − ‖f − fN‖)

(xi − xi−1)

= RN − RN + 2‖f − fN‖(b− a)

2+ 2

ε

4(b− a)(b− a) = ε

が成り立ちます。これは

lim|∆|→0

(R−R

)= 0

を意味します。最後に、f(x) の積分の値を計算しましょう。∣∣∣∣

∫ b

a(fn(x) − f(x))dx

∣∣∣∣ ≤∫ b

a|fn(x) − f(x)|dx

≤ ‖fn − f‖(b− a) n→∞−−−→ 0

ですので、 ∫ b

af(x)dx = lim

n→∞

∫ b

afn(x)dx

です。 □

です。つまり、積分可能な関数の列 fn がとりあえず積分可能かどうか不明な関数f に収束しているとき、その収束が一様収束なら f も積分可能になってしまって積分と極限が入れ替えられるのです。一様収束と積分はとても相性が良いのです。

注意. 積分可能な関数列が一様収束してさえいればだまっていても極限関数は積分可能になってしまうので、一様収束と積分は本当にとても相性が良いのです。実際、極限関数が積分可能であることを条件として課してしまえば、収束に課す条件を「一様性」よりずっと弱められます。

例 1. 第 7回問題 4の関数を少し変えた

gn(x) =nx

enx, 0 ≤ x ≤ 1

という関数列は恒等的に 0という関数に各点収束していますが、どの n に対しても gn(x)の最大値が 1/e なので一様収束はしていません。しかし、limn→∞

∫ 10 gn(x)dx = 0 は成り

立ちます。 ■

第 13回解説 15

� �

O

y

x O

y

x

y = fn(x) y = hn(x)

4

3

2 n = 14 3 2 n = 1

...

· · ·

図 3: fn と gn の違い� �

第 7回問題 4の関数列との違いはグラフから見て取れるでしょう(図 3)。 fn(x) は n

が大きくなるにつれやせてゆく分高さが高くなって面積を稼いでいますが、gn(x) の方は1/e という天井から頭を出すわけに行かないのでやせて減った分の面積を他で補うことができずにあえなく面積=0に収束してしまうわけです。実はこれは一般的に成り立ちます。この gn のような関数列を「一様有界」と言います。

正確には

‖gn‖ < M、すなわち n にも x にもよらない定数 M で任意の n, x に対して|gn(x)| < M を満たすものがある

という条件を満たすとき、関数列 gn は一様有界であるといいます。

定理 7. [a, b]上の一様有界な可積分関数列 gn が可積分関数 g に各点収束しているならば、

limn→∞

∫ b

a

gn(x)dx =∫ b

a

g(x)dx

が成り立つ。 ■

一様収束よりかなり弱い一様有界だけで積分と極限の入れ替えは可能なのです。(例によって「一様有界」もこのための必要十分条件ではありません。一様有界でなくても関数列の極限と積分の入れ替えられることはあります。)なお、定理 7の証明はしません。なぜなら、そこまで積分と関数列の極限にこだわるな

らその点でもっと整合性のあるルベーグ積分を学んで、この定理を含むルベーグの収束定理を証明する方がよいと考えるからです。つまり、これから先ルベーグ積分を学びたいと思っている人や学ぶ必要のある人はそのときに証明する方がよく、ルベーグ積分を学ぶことになりそうもない人はこんな細かいことにこだわらず一様収束の概念と「一様収束なら積分と極限が交換可能」ということをしっかり身につけることの方が重要だと考えるからです。★

2.2 例:フーリエ級数

広義積分と関数列との関係を論ずる前に、普通の積分の範囲で考えられる、応用上も理論上も大変重要なフーリエ級数を例に取って一様収束や項別微積分を使っ

第 13回解説 16

てみましょう。関数の級数展開としては、既にテイラー展開を学びました。それはある 1点での高階導関数たちを係数とする冪級数で、ほとんどの関数ではもとの関数に収束しないという大変厳しいものでした。一方、これから紹介するフーリエ級数展開とは、定義域こそ有界閉区間でなければならないのですが、そこでのある積分たちに三角関数を掛けたものを足しあげるという三角級数で、C∞-級関数どころかすべての連続関数でもとの関数に「ほとんど」各点収束します。それどころかかなり不連続な関数でもO.K.というおおらかなもので、どのくらい不連続なところがあってもよいのかとか、「ほとんど」各点収束するというなら収束しない点はどのくらいあるのかとかといった問題から現代数学の基礎である集合論やルベーグ測度論が、またフーリエ級数展開の微分方程式への応用から関数解析学が生まれたという、テイラー展開に勝るとも劣らない重要なものです。上に書いたように、フーリエ級数展開はかなり汚い関数に対して考えられるのですが、相手を C∞-級に限ると大変おとなしい議論になるので、ここではそれを紹介します。

定義 4. 周期 2π を持ち [−π, π]で積分可能な関数 f(x) に対し、数列 af,k、bf,k を

af,k =1

π

∫ π

−π

f(x) cos kxdx, bf,k =1

π

∫ π

−π

f(x) sin kxdx

と定義し、f のフーリエ係数と言う。また、無限級数

af,0

2+

∞∑k=1

(af,k cos kx+ bf,k sin kx)

を f のフーリエ級数と言う。 ◇

af,k の方は k = 0 からなのに bf,k の方は k = 1 からで、このずれがいちいち面倒なので、任意の f に対して bf,0 = 0 と定義することにします。周期関数は、x に適当な定数を掛けて変数変換してやれば周期を好きなように変えることができるので、三角関数の本来の周期である 2π を使うことにします。なお、この節の最初では「任意の有界閉区間」と説明しましたが、微分を考える場合、閉区間の両端での微分が一致していることが必要なので、このように周期関数として表現しました。実際に考えているのは半径 1の円周を定義域とする C∞-

級関数だと言えます。以下、f(x) は周期 2π を持つ C∞-級関数とします。まず、f(x) の(高階)導関数たちのフーリエ係数を f(x) のフーリエ係数で書き表しておきましょう。(最終的には項別微積分によって当たり前になる関係式です。)

補題 2. f (n)(x) のフーリエ係数は、n = 2m のとき

af (n),k = (−1)mknaf,k, bf (n),k = (−1)mknbf,k

第 13回解説 17

で、n = 2m+ 1 のとき

af (n),k = (−1)mknbf,k, bf (n),k = (−1)m+1knaf,k

である。

証明. ここでは関数列と積分の入れ替えは出てきません. ただ部分積分をくり返すだけです。実変数複素数値関数 e

√−1kx = cos kx+√−1 sin kx を使って部分積分すると、周期 2π

に注意して、 ∫ 2π

0f (n)(x)e

√−1kxdx = −∫ 2π

0f (n−1)(x)

√−1ke√−1kxdx

=∫ 2π

0f (n−2)(x)

(√−1k)2e√−1kxdx

...

= (−1)n

∫ 2π

0f(x)

(√−1k)ne√−1kxdx

となります。π で割って

af (n),k +√−1bf (n),k =

(−√−1k)n (

af,k +√−1bf,k

)です。(ただし、任意の g(x) に対して b0[g] = 0 とおいています。)これを実部と虚部に分ければ

af (2m),k = (−1)mknaf,k, bf (2m),k = (−1)mknbf,k

af (2m+1),k = (−1)mknbf,k, bf (2m+1),k = (−1)m+1knaf,k

となります。 □

これを使うと、極限関数が何になるかを問題にしなければ f (n)(x) のフーリエ級数たちがそれぞれ何らかの関数に一様収束することが簡単に示せます。

補題 3. 任意の非負整数 n に対し、無限級数

∞∑k=1

(ak

dn

dxncos kx+ bk

dn

dxnsin kx

)

は一様収束する。(ただし d0/dx0 は 0回微分、つまりなにもしないことです。)

証明. n を一つ固定して考えます。関数項級数の一様収束を示せというのですから、定理5の優級数の方法の出番です。つまり、各 n に対し∣∣∣∣ak

dn

dxncos kx+ bk

dn

dxnsin kx

∣∣∣∣ ≤Mk

なる Mk で∑∞

k=1Mk の収束するものを見つけようというわけです。

第 13回解説 18

∣∣∣∣akdn

dxncos kx+ bk

dn

dxnsin kx

∣∣∣∣ ≤ (|ak| + |bk|)kn

であって、上の補題 2より

(|ak|+ |bk|) kn+2 =∣∣∣af (n+2),k

∣∣∣+ ∣∣∣bf (n+2),k

∣∣∣です。関数 f (n+2)(x) も周期 2π を持つので最大値をとります。それを Ln+2 としましょう。| coskx| ≤ 1, | sin kx| ≤ 1 なので、k によらずに

∣∣∣af (n+2),k

∣∣∣ ≤ 1π

∫ 2π

0Ln+2dx = 2Ln+2

∣∣∣bf (n+2),k

∣∣∣ ≤ 1π

∫ 2π

0Ln+2dx = 2Ln+2

が成り立ちます。よって

(|ak|+ |bk|) kn ≤ 4Ln+2

k2

となります。

∞∑k=1

4Ln+2

k2≤ 8Ln+2

となって収束しますので、

Mk =4Ln+2

k2

とすればよいことになります。 □

注意. f (n)(x) のフーリエ級数が一様収束することを示すのに、f (n+2)(x) のフーリエ係数を使いました。だから、f(x) が C2-級であれば f(x) のフーリエ級数の収束は一様です。実は、f(x) が C1-級であれば同じことが示せるのですが、煩雑になるだけですので、ここではやりません。興味のある方はフーリエ級数(展開、積分、解析)の入門書を当たってください。★

この補題と項別微分定理 3から「C∞-級関数のフーリエ級数は何らかの C∞-級関数に一様収束する」ということが即座に示せます。

定理 8. f(x) のフーリエ級数はC∞-級関数に一様収束する。

証明. まず、補題 3より

a0

2+

∞∑k=1

(ak cos kx + bk sin kx)

第 13回解説 19

は一様収束するので各点収束します。そして、再び補題 3より

d

dx

{a0

2+

n∑k=1

(ak cos kx+ bk sin kx)

}=

n∑k=1

(ak

d

dxcos kx+ bk

d

dxsin kx

)

も一様収束します。よって、項別微分定理 3より、f(x) のフーリエ級数は C1-級で、導関数は

∞∑k=1

(ak

d

dxcos kx+ bk

d

dxsin kx

)

であることが分かりました。三度補題 3より

d

dx

{n∑

k=1

(ak

d

dxcos kx+ bk

d

dxsin kx

)}

=n∑

k=1

(ak

d2

dx2cos kx+ bk

d2

dx2sin kx

)

も一様収束します。よって f(x) のフーリエ級数の導関数は C1-級、つまり、f(x) は C2-級で、二階導関数は

∞∑k=1

(ak

d2

dx2cos kx+ bk

d2

dx2sin kx

)

であることが分かりました。以上、帰納法により、f のフーリエ級数が C∞-級関数に一様収束することが示せました。 □

f(x) から作ったフーリエ級数が、極限関数はわからないけれどもとにかく C∞-

級関数に収束することがわかったわけです。あとはこの極限関数が f(x) 自身であってくれればめでたしめでたしですが、それを示すにはちょっとテクニカルな補題と非常に重要な三角関数の性質が要ります。

補題 4. −π < a < b < π に対して

α(x) = cos

(x− a + b

2

)− cos

a− b

2+ 1

とおくと(図 4)

limn→∞

αn(x) =

0 x ∈ [−π, a)∪ (b, π]

1 x = a, b

∞ x ∈ (a, b)

となる。

第 13回解説 20

� �

O

y

x

1

πba

図 4: α(x) のグラフ� �

証明. 図より明らか、といってしまっても良いとは思いますが、一応説明も書いておきましょう。導関数は

α′(x) = − sin(x − a+ b

2

)

なので、α(x) は(−π, (a+ b)/2

)で単調増加

((a+ b)/2, π

)で単調減少です。

−1 < α(−π) = α(π) < 1, α(a) = α(b) = 1

ですので、

|α(x)| < 1 x ∈ [−π, a)∪ (b, π]α(x) = 1 x = a, b

α(x) > 1 x ∈ (a, b)

ですから、

limn→∞αn(x) =

0 x ∈ [−π, a) ∪ (b, π]1 x = a, b

∞ x ∈ (a, b)

となります。 □

この α(x) を使うと次が示せます。

補題 5. 周期 2π を持つ二つの連続関数 φ(x) と ψ(x) のフーリエ係数が一致すれば、φ = ψである。

証明. φ �= ψ と仮定して矛盾を導きます。φ(x0) > ψ(x0) となる x があるとしてかまいません。(なければ、φ と ψ の役割を入れ

替えます。) ε = (φ(x0) − ψ(x0)) /2 とすると、0 < a < b < 2π なる a, b で閉区間 [a, b]上 φ(x) − ψ(x) > ε となるものがあります。この a, b に対して

α(x) = 1 + cos(x− a+ b

2

)− cos

a− b

2

第 13回解説 21

と定義します。任意の自然数 nに対して、αn(x)は 1, cos x, sinx, cos2 x, cos x sinx, sin2 x, . . . , cosn x,

cosn−1 x sinx, . . . , sinn x 達の一次結合なので、1, cosx, sinx, . . . , cosnx, sinnx 達の一次結合です。実際、

α(x) = 1 − cosa− b

2+ cos

a+ b

2cos x− sin

a+ b

2sin x

なので、A = 1 − cos a−b2 , B = cos a+b

2 , C = − sin a+b2 として

α(x) = A +B cos x+C sinx

α2(x) = A2 + 2AB cosx+ 2AC sinx+ B2 cos2 x+ 2BC cos x sinx+C2 sin2 x

= A2 +B2 + C2

2+ 2AB cosx+ 2AC sinx+

B2 − C2

2cos 2x+ BC sin 2x

α3(x) = · · ·

となります。よって、φ(x) と ψ(x) のフーリエ係数が一致するという仮定より、任意の nに対して ∫ π

−π

(φ(x) − ψ(x))αn(x)dx = 0

です。さて、この式は∫ b

a(φ(x) − ψ(x))αn(x)dx = −

∫ a

−π(φ(x) − ψ(x))αn(x)dx

−∫ π

b(φ(x) − ψ(x))αn(x)dx

と書き直せます。閉区間 [a, b] 上 φ(x) − ψ(x) > ε でしたので

左辺 > ε

∫ b

aαn(x)dx

です。補題 4より、[a, b]上 limn→∞ αn(x) = ∞ ですので、n→ ∞ のとき左辺は∞ に発散します。一方、|φ(x) − ψ(x)|も周期 2π の連続関数ですので、最大値を持ちます。それを M とすると

|右辺 | ≤M

{∫ a

−π|αn(x)|dx+

∫ π

b|αn(x)| dx

}

です。補題 4より、[−π, a) ∪ (b, π] 上 limn→∞ αn(x) = 0 ですので、n → ∞ のとき右辺は 0 に収束します。これで矛盾が導けました。 □

最後に簡単だが重要な三角関数の直交関係を用意しましょう。

第 13回解説 22

補題 6. 次が成り立ちます。

1

π

∫ π

−π

cosmθ cosnθdθ =

0 (m �= n)

1 (m = n �= 0)

2 (m = n = 0)

1

π

∫ π

−π

cosmθ sinnθdθ = 0

1

π

∫ π

−π

sinmθ sinnθdθ =

{0 (m �= n, or m = n = 0)

1 (m = n �= 0)

証明. 三角関数の積を和に直す公式

cosx cos y =12{cos(x + y) + cos(x− y)}

cosx sin y =12{sin(x + y)− sin(x− y)}

sinx sin y =12{cos(x − y)− cos(x+ y)}

を使えば、

∫ 2π

0cosmθ cosnθdθ =

12π

∫ π

−πcos(m+ n)θdθ +

12π

∫ π

−πcos(m− n)θdθ

∫ π

−πcosmθ sinnθdθ =

12π

∫ π

−πsin(m+ n)θdθ − 1

∫ π

−πsin(m− n)θdθ

∫ π

−π

sinmθ sinnθdθ =12π

∫ π

−π

cos(m− n)θdθ − 12π

∫ π

−π

cos(m+ n)θdθ

となるので示せました。 □

これで念願の「フーリエ級数の収束先はもとの関数そのものである」を項別積分を利用して示すことができます。

定理 9. f(x) から作ったフーリエ級数の収束先は f(x) 自身である。

証明. 周期 2π の C∞-級関数 g(x)を f(x) のフーリエ級数の収束先としましょう。つまり

g(x) =a0

2+

∞∑k=1

(ak cos kx+ bk sin kx)

です。g(x) のフーリエ係数を求めましょう。定理 8により f(x) のフーリエ級数の g(x) への

第 13回解説 23

収束は一様収束なので、定理 6により項別に積分することができるので、補題 6を使うと

ak[g] =1π

∫ π

−πg(x) coskxdx

=1π

∫ π

−π

{a0

2+

∞∑l=1

(al cos lx+ bl sin lx)

}cos kxdx

=∞∑l=0

{al

π

∫ π

−π

cos lx cos kxdx+blπ

∫ π

−π

sin lx coskxdx}

= ak

bk[g] =1π

∫ π

−π

g(x) sinkxdx

=1π

∫ π

−π

{a0

2+

∞∑l=1

(al cos lx+ bl sin lx)

}sin lxdx

=∞∑l=0

{al

π

∫ π

−πcos lx sinkxdx +

blπ

∫ π

−πsin lx sinkxdx

}

= bk

となります。つまり、g(x)と f(x)のフーリエ係数は一致します。よって補題 5より f(x) =g(x) が分かりました。これで、f(x) のフーリエ級数は f(x) 自身に一様収束することが示せました。 □

微分から作られるテイラー展開の「窮屈さ」(悪い意味ではありませんよ)と積分から作られるフーリエ展開の「おおらかさ」の違いが味わえたでしょうか。なお、これの応用を第 4節の最後に少しだけ書いておきます。

2.3 広義積分との関係

広義積分は、積分という「リーマン和の極限」にさらに「積分区間の極限」を施しているので、関数列の極限との交換は一筋縄ではいかないという感じがするでしょう。実際そうなのです。が、fn が有界区間 [a, b) 上の関数列で収束が広義でない本当の一様収束なら、広義積分の場合でもふつうの積分と同じことが成り立ちます。定理を述べる前に(かなりくだらない)例を一つあげておきましょう。

例 2. (0, 1] で定義された関数列 fn(x) を

fn(x) =1√x

+1

n

とすると、fn(x) は f(x) = 1/√x に一様収束し、∫ 1

0

fn(x)dx =

∫ 1

0

f(x)dx

が成り立つ。 ■

第 13回解説 24

次の定理とその証明がわかりにくいと感じたら、この例を思い浮かべながら読んでみてください。

定理 10. 有界な区間 [a, b) で広義積分可能な関数の列 fn が関数 f に一様収束しているなら、f も広義積分可能で

limn→∞

∫ b

a

fn(x)dx =

∫ b

a

f(x)dx

が成り立つ。

証明. まず、f が広義積分可能なことを示しましょう。定理 4の「コーシーの条件」を使います。どういう条件だったかというと、

任意の正実数 ε に対して c ∈ [a, b) を

c < r < s < b⇒∣∣∣∣∫ s

r

f(x)dx∣∣∣∣ < ε

を満たすようにとれる

ことでした。正実数 ε が与えられたとしましょう。関数列 fn は f に一様収束しているのですから、

十分大きな N をとれば、n > N を満たす任意の n に対して x によらずに

|f(x) − fn(x)| < ε

2(b− a)(5)

が成り立ちます。つまり、

fn(x) − ε

2(b− a)< f(x) < fn(x) +

ε

2(b− a)

です。fn は広義積分可能なのですからコーシーの条件を満たします。つまり、ある c が[a, b) にあって

c < r < s < b ⇒∣∣∣∣∫ s

r

fn(x)dx∣∣∣∣ < ε

2

が成り立ちます。よって、∣∣∣∣∫ s

r

f(x)dx∣∣∣∣ ≤

∣∣∣∣∫ s

r

fn(x)dx∣∣∣∣+ ε

2(b− a)(s− r)

2+ε

2= ε

となって、f はコーシーの条件を満たすので広義積分可能です。次に広義積分の値を計算しましょう。n > N ならば∣∣∣∣

∫ b

af(x)dx−

∫ b

afn(x)dx

∣∣∣∣ ≤∫ b

a|f(x) − fn(x)|dx

2(b− a)< ε

第 13回解説 25

となりますので、 ∫ b

af(x)dx = lim

n→∞

∫ b

afn(x)dx

です。 □

不等式(5)が決め手になっていることが見て取れると思います。この式は広義一様収束では成り立ちませんし、定義域が無限区間だと b− a が意味を持たなくなってしまうので、本当の一様収束だったとしてもこの定理と同じものは成り立ちません。

例 3. 定理 10が無限区間では成り立たないことの例を見ておきましょう。R 全体の上の関数列 fn を、

fn(x) =e−(x/n)2

n

とすると(図 5)、 e−(x/n)2 ≤ 1 なので fn は f ≡ 0 に R 全体で一様収束します

� �

O

y

x

図 5: 山の高さがだんだん低くなるに応じてすそ野が広がり、つねに一定の面積を保ち続けている。(かなり高さを強調してあります。)

� �

が、y = x/n と置換すると、

∫ ∞

0

fn(x)dx =

∫ ∞

0

e−(x/n)2

ndx =

∫ ∞

0

e−y2

nndy =

∫ ∞

0

f1(x)dx

となって、R 全体にわたる広義積分の値が n によらずに一定であることがわかります。この積分の値が

√π/2 になることは、今回の演習でも計算してもらいまし

たし、講義でも学ばれたことと思います。特に、その値は 0でないので積分と極限を入れ替えることはできません。 ■

第 13回解説 26

無限区間上の場合と、任意の区間上の広義一様収束な関数列の場合には、次の優関数の方法で我慢しなければなりません。

定理 11. [a, b)(b = ∞ でもよい)上の関数列 fn が関数 f に広義一様収束しており、任意の xと任意の n に対して |fn(x)| < ϕ(x) を満たす関数 ϕ で [a, b)上広義積分可能なものが存在するなら、f も [a, b) で広義積分可能で

limn→∞

∫ b

a

fn(x)dx =

∫ b

a

f(x)dx

が成り立つ。

この ϕ のことを、関数列 fn の優関数といいます。

証明. 定理の条件から、x によらずに |f(x)| ≤ ϕ(x) の成り立つことに注意します。実際、各点 x に対して |fn(x)| → |f(x)| ですので、|fn(x)| < ϕ(x) より |f(x)| ≤ ϕ(x) となります。f が広義積分可能なことを示しましょう。前定理と同様にコーシーの条件を使います。

正実数 ε が与えられたとすると、ϕ は広義積分可能ですので、[a, b) 内の c で

c < r < s < b⇒∫ s

rϕ(x)dx < ε

を満たすものが存在します(ϕ は 0以上ですので、絶対値記号ははずしておきました)。よって、 ∣∣∣∣

∫ s

rf(x)dx

∣∣∣∣ ≤∫ s

r|f(x)|dx ≤

∫ s

rϕ(x)dx < ε

となって f もコーシーの条件を満たし、広義積分可能です。値を計算しましょう。∣∣∣∣

∫ b

af(x)dx −

∫ b

afn(x)dx

∣∣∣∣=∣∣∣∣∫ t

af(x)dx+

∫ b

tf(x)dx−

∫ t

afn(x)dx−

∫ b

tfn(x)dx

∣∣∣∣≤∣∣∣∣∫ t

af(x)dx−

∫ t

afn(x)dx

∣∣∣∣+∣∣∣∣∫ b

tf(x)dx −

∫ b

tfn(x)dx

∣∣∣∣≤∣∣∣∣∫ t

af(x)dx−

∫ t

afn(x)dx

∣∣∣∣+∣∣∣∣∫ b

tf(x)dx

∣∣∣∣+∣∣∣∣∫ b

tfn(x)dx

∣∣∣∣≤∣∣∣∣∫ t

af(x)dx−

∫ t

afn(x)dx

∣∣∣∣+∫ b

t|f(x)|dx+

∫ b

t|fn(x)|dx

<

∣∣∣∣∫ t

af(x)dx−

∫ t

afn(x)dx

∣∣∣∣+ 2∫ b

tϕ(x)dx

です。ϕ(x) は広義積分可能ですので、t を十分 b に近く選べば∫ b

tϕ(x)dx <

ε

4

第 13回解説 27

が成り立ちます。この t に対して fn は [a, t] 上 f に一様収束するので、定理 2により、十分大きな N をとると、n > N を満たす任意の n に対して∣∣∣∣

∫ t

a

f(x)dx −∫ t

a

fn(x)dx∣∣∣∣ < ε

2

を満たすようにできます。よって、この n に対して∣∣∣∣∫ b

af(x)dx−

∫ b

afn(x)dx

∣∣∣∣ <∣∣∣∣∫ t

af(x)dx −

∫ t

afn(x)dx

∣∣∣∣+ 2∫ b

tϕ(x)dx

2+ 2

ε

4= ε

となって、 ∫ b

af(x)dx = lim

n→∞

∫ b

afn(x)dx

が示せました。 □

例 3の関数列が優関数を持たないことを確認してみてください。

例 4. 第 7回問題 1の関数列の定義域を (0, 1] に制限すると広義一様収束です。しかし、その問題の (2)にあるとおり

limn→∞

∫ 1

0

fn(x)dx = 1 �= 0

∫ 1

0

0dx

となっています。この場合も (0, 1] における優関数の存在しないことを確認してみてください。 ■

3 積分および広義積分と微分

3.1 連続的なパラメタを持つ関数

ここまでは関数列 fn を問題にしてきました。しかし、なにも n を自然数に限ることもなさそうだと思った人も多いのではないでしょうか。数列の収束と関数の連続性の関係のように、自然数 n を実数のある区間をとるパラメタ t に置き換えるだけで、今までの議論はすべてパラメタ付き関数 ft(x) の性質に翻訳できそうです。この節ではそれについて考えましょう。fn が収束する関数列だったように、ft にも何か仮定する必要があるのは当然でしょう。定理 2などの類似を得るには一様収束にあたる概念が要りそうです。全く当たり前に次のように定義すればよいでしょう。

定義 5. t → t0 のとき ft が ft0 に一様収束するとは、任意の正実数 ε に対して正実数 δ で

|t− t0| < δ ⇒ |ft(x) − ft0(x)| < ε

が任意の x に対して成り立つようなものが存在することである。 ◇

第 13回解説 28

もちろんこれは関数列のときと同様に

limt→t0

‖ft − ft0‖ = 0

と同値です。

注意. なお、t0 が ±∞ のときも全く同様ですが、この場合は t0 が実数の場合よりもさらに関数列 fn の場合に近いので、以下では t0 が実数の場合で論じておきます。t → ±∞の具体例に適用する場合などは適宜読み替えてください。★

t → t0 のとき ft が ft0 に一様収束しているなら、定理 1, 2, 3にあたることは全てそのまま成立します。まとめて書いておきましょう。

定理 12. t → t0 で ft が ft0 に一様収束しているとき、

(1). t �= t0 で ft が連続なら ft0 も連続(2). t �= t0 で ft が積分可能なら ft0 も積分可能で、

limt→t0

∫ b

aft(x)dx =

∫ b

aft0(x)dx

また、ft が t �= t0 のとき C1-級で t→ t0 のとき ft0 に各点収束しており、f′t が g

に一様収束しているなら、ft0 も C1-級で f ′t0

= g が成り立つ。

証明. 対応する定理で n を t に置き換えるだけです。確認してください。 □

一様収束に対するコーシーの条件や広義一様収束の定義、広義一様収束している場合の各定理や広義積分との関係なども同様に翻訳できます。だいぶページ数が多くなってしまったので、それらについてはお任せします。(関数列の場合で理解しておけば十分だという気持ちもあります。)広義一様収束の場合の細かな条件に拘泥するより、連続パラメタに変えたことによってもっと重要な視点が生まれるので、そちらの議論をしましょう。上の定理 12の 2から特に、I に含まれる任意の t0 に対して t→ t0 のとき ft が

ft0 に一様収束しているなら、

F (t) =

∫ b

a

ft(x)dx

で定義される t の関数 F (t) は limt→t0 F (t) = F (t0) を満たすので連続関数です。このように、離散的パラメタ n を連続パラメタ t に取り替えたことによって、数列∫ b

afn(x)dx の代わりに関数 F (t) ができるのです。

3.2 パラメタ付き関数を2変数関数と見ると

第 3.1節では n を t に代えたからといって新しい事実は増えなかったわけですが、t をパラメタとして特別扱いしないで f(x, t) という 2変数関数を扱っているのだと思うことで、定理 12の一様収束の仮定が(見た目には)消えてなくなります。つまり、

第 13回解説 29

定理 13. f(x, t) が 2変数関数として連続ならば、F (t) は連続関数である。

が成り立ちます。

証明. 有界閉集合上で定義された連続な多変数関数は一様連続です1。「一様連続」の定義は x = (x, t), y = (y, s) として論理記号で書けば、

∀ε∃δ ∀x ∀y(d(x, y) < δ ⇒ |f(x) − f(y)| < ε

)となりました。普通の連続性との違いは、δ を x によらずに取れることです。f(x, t) の変数 t の定義域に含まれる任意の有界閉区間上で

F (t) =∫ b

af(x, t)dx

が連続なことを証明しましょう。[c, d]をそのような有界閉区間とします。すると、f(x, t)は二変数関数として連続ですので、[a, b]× [c, d] 上では一様連続です。つまり、任意の正実数 ε に対してある正実数 δ があって、√

(x− x′)2 + (t− t′)2 < δ ⇒ |f(x, t)− f(x′, t′)| < ε

b− a

を満たします。特に x = x′ ととることによって、x によらずに

|t− t′| < δ ⇒ |f(x, t)− f(x, t′)| < ε

が成り立ちます。よって、

∣∣F (t) − F (t′)∣∣ ≤ ∫ b

a|f(x, t)− f(x, t′)|dx

≤ ε

b− a(b − a) = ε

となって、F (t) は [c, d] で連続です。[c, d] は任意でしたので、F (t) は定義域全体で連続です。 □

さらに t について微分することを考えてみましょう。2変数関数と考えることでそれについても次のように簡明に言えます。

定理 14. 連続な 2変数関数 f(x, t) が t については微分もできて ∂f∂t

(x, t) も連続なら、F (t) は C1-級で

F ′(t) =

∫ b

a

∂f

∂t(x, t)dx (6)

が成り立つ。

つまり、微分と積分の順番を入れ替えられると言うわけです。

1第 12回解説の 1.4.2小節を参照してください。

第 13回解説 30

証明. ∂f∂t (x, t) は 2変数関数として連続なのですから、フビニの定理により、

∫ t

t0

(∫ b

a

∂f

∂t(x, s)dx

)ds =

∫ b

a

(∫ t

t0

∂f

∂t(x, s)ds

)dx

が成り立ちます。微分積分の基本定理により、この式の右辺は F (t) − F (t0) です。よって、両辺を t で微分すると、今度は左辺に微分積分の基本定理を適用して∫ b

a

∂f

∂t(x, t)dx =

dF

dt(t)

となります。これで示せました。 □

演習の問題 2は、f(x, t) が連続でないなら式(6)の成り立たない場合があるという例なのでした。実際、問題 2の関数

f(x, t) =

x2

x2 + t2(x, t) �= (0, 0)

0 (x, t) = (0, 0)

は (0, 0) で不連続です。ただし、この関数は (0, 0) 以外では 2変数関数として連続ですので積分と微分の交換ができます。つまり積分してから微分しても(偏)微分してから積分しても同じ関数が得られます。

注意. 上の「ただし」以下の部分を正確に言い直すと、

0でない任意の t0 に対して

d

dt

∫ 1

0f(x, t)dx

∣∣∣∣t=t0

=∫ 1

0

∂f

∂t(x, t0)dx

が成り立つ

ということです。実際、例えば t0 > 0 とすると、f(x, t) は [0, 1]× (t0/2, 3t0/2) では定理14の仮定を満たすので定理を適用できるわけです。この f(x, t) についてはこのことを計算で直接確かめることもできます。やっておきま

しょう。

F (t) =∫ 1

0

x2

x2 + t2dx

=∫ 1

0

(1 − t2

x2 + t2

)dx

= 1 − tArctan1t

なので、

F ′(t) =t

1 + t2− Arctan

1t

第 13回解説 31

となります。一方、

∂t

x2

x2 + t2= − 2x2t

(x2 + t2)2

ですので、 ∫ 1

0

∂f

∂t(x, t)dx = −

∫ 1

0

2x2t

(x2 + t2)2dx

= t

∫ 1

0

x−2x

(x2 + t2)2dx

= t

([x

1x2 + t2

]1

0

−∫ 1

0

1x2 + t2

dx

)

=t

1 + t2− Arctan

1t

となります。一致しましたね。F (t) のグラフを書いておきましょう(図 6)。 F (t) は t = 0 でとがってしまっている

� �

O t

1

F (t) = 1 − tArctan1

t

図 6: 問題 2の F (t) のグラフ� �のでそこでは微分できないわけです。しかし、先に f(x, t) を t = 0 で偏微分しておいてから x で積分すると、そのとんがりがならされて値だけは存在するという状況になっています。★

3.3 広義積分との関係

2変数関数と見ることによって

t についての収束が x について一様かどうか

を考える必要がなくなりました。しかし、x についての積分が広義積分の場合、

広義積分という x についての極限が t について一様かどうか

第 13回解説 32

を問題にしなければならなくなります。ややこしいですね (^^;

f(x, t) の x についての広義積分が(広義)一様収束であるとは、次のように定義されます。

定義 6. x の定義域が [a, b) である 2変数関数に対し、広義積分

F (t) :=

∫ b

a

f(x, t)dx

が(広義)一様収束であるとは、c ∈ [a, b) に対し

Fc(t) =

∫ c

a

f(x, t)dx

としたとき、c → b のときの Fc の F への収束が(広義)一様収束であることである。 ◇

各 Fc はふつうの積分ですので、定理 13から直ちに次の定理が得られます。

定理 15. 連続な 2変数関数 f(x, t) の x についての広義積分が広義一様収束するなら、

F (t) =

∫ b

a

f(x, t)dx

は連続である。

証明. [a, c]での積分 Fc はふつうの積分ですので、定理 13より Fc は連続関数です。F は連続関数属 Fc の広義一様収束先ですので連続です。 □

同様に、微分に関する定理 14から次の定理が得られます。

定理 16. 任意の tに対して xについての広義積分が可能な 2変数連続関数 f(x, t)

が、t については偏微分可能で ∂f/∂t(x, t)も連続であり、∂f/∂t(x, t)の x についての広義積分が広義一様収束しているなら、

F (t) =

∫ b

a

f(x, t)dx

は C1-級で、

F ′(t) =

∫ b

a

∂f

∂t(x, t)dx

が成り立つ。

第 13回解説 33

証明. c ∈ [a, b) に対して

Fc(t) =∫ c

af(x, t)dx, Gc(t) =

∫ c

a

∂f

∂t(x, t)dx

とおくと、Fc および Gc ともふつうの積分なので、定理 14より Fc は C1-級で F ′c = Gc

が成り立ちます。

G(t) =∫ b

a

ft(x, t)dx

とおくと、「各 t に関して広義積分は収束している」という仮定は Fc は F に各点収束していることを意味し、「∂f/∂t(x, t)の広義積分が広義一様収束している」という仮定はF ′

c = Gc は G に広義一様収束していることを意味しているので、微分と極限の入れ替えに関する定理 12が適用できて F ′ = G が成り立つことが示せました。 □

広義積分∫ b

af(x, t)dx が一様収束していることを判定する十分条件として、関

数項級数の一様収束の判定法である優級数の方法と似た次の方法が有用です。

定理 17. x の定義域が [a, b) である 2変数関数 f(x, t) に対し、[a, b) 上広義積分可能な関数 ϕ で、任意の (x, t) に対して |f(x, t)| < ϕ(x) を満たすものが存在するなら、f(x, t) も任意の t に対して広義積分可能で、その収束は一様収束である。

証明. まず、広義積分可能なことを示しましょう。コーシーの条件を使います。ϕ は広義積分可能なのでコーシーの条件を満たします。よって、∣∣∣∣

∫ s

rf(x, t)dx

∣∣∣∣ ≤∫ s

r|f(x, t)|dx ≤

∫ s

rϕ(x)dx < ε

となって、f(x, t) も任意の t についてコーシーの条件を満たし、広義積分可能です。この広義積分が一様収束していることを示しましょう。

F (t) =∫ b

af(x, t)dx, Fc(t) =

∫ c

af(x, t)dx

とします。t によらずに、

|F (t) − Fc(t)| =∣∣∣∣∫ b

c

f(x, t)dx∣∣∣∣ ≤

∫ b

c

ϕ(x)dx < ε

です。これで示せました。 □

注意. この ϕ のことを優関数といいます。これは第 2.3節にでてきた優関数と同じものです。実際、第 2.3節定理 11の仮定「ϕ は広義積分可能で n によらずに |fn(x)| < ϕ(x) が成り立つ」というのは、fn(x) の広義積分が「離散変数」n について一様収束しているということ、つまり、

F (n) =∫ b

afn(x)dx, Fc(n) =

∫ c

afn(x)dx

とおいたとき、c が b に十分近ければ n によらずに |F (n) − Fc(n)| < ε が成り立つということを保証するための条件だったのです。★

第 13回解説 34

3.4 パラメタを利用した計算

定理 14や 16を使うと、一見計算できそうもない積分が計算できる場合があります。被積分関数の中の適当な定数をパラメタと思うことで、まずパラメタで微分してから積分し、そのあとでパラメタで積分し直してやるわけです。つまり、∫ b

a

f(x, t)dx =

∫ (d

dt

(∫ b

a

f(x, t)dx

))dt =

∫ (∫ b

a

∂f

∂t(x, t)dx

)dt

を使うのです。まず、普通の積分の場合の定理 14を使ってみましょう。

例 5. a > 0, b > 0 として

F (a, b) =

∫ π2

0

log(a2 cos2 x+ b2 sin2 x)dx

を計算してみましょう。被積分関数を a で微分してみると

2a cos2 x

a2 cos2 x+ b2 sin2 x

となり x, a の 2変数関数として連続です。よって、定理 14より、

Fa(a, b) =

∫ π2

0

2a cos2 x

a2 cos2 x+ b2 sin2 xdx

となります。y = tan x と置換してこれを計算すると、a �= b として、

Fa(a, b) =

∫ ∞

0

2a

(a2 + b2y2)(1 + y2)dy

=2a

a2 − b2

∫ ∞

0

(1

1 + y2− b2

a2 + b2y2

)dy

=2a

a2 − b2π

2

(1 − b

a

)=

π

a + b

となります。a = b のときは

Fa(a, a) =2

a

∫ π2

0

cos2 xdx =π

2a

ですので、結局、Fa(a, b) = π/(a+ b) です。よって、

F (a, b) =

∫π

a + bda = π log(a+ b) + C

となります。

第 13回解説 35

F (a, a) を直接計算すると、

F (a, a) =

∫ π2

0

log a2dx = π log a

となりますので、

C = π log a− π log 2a = −π log 2

と分かり、

F (a, b) = π loga+ b

2

と計算できました。 ■

同様にして広義積分も計算してみましょう。今度は定理 16を使って、第 12回解説の例 2(41ページ)で扱った「広義積分可能だが絶対広義積分できない例」∫∞0

(sinx)/xdx の値を計算してみます。

例 6. 被積分関数 f(x, t) を (sinx)/x に e−tx を掛けたものとして

F (t) =

∫ ∞

0

e−tx sinx

xdx

を考えます。x ≥ 0 ですので、t ≥ 0 の範囲では e−tx ≤ 1 です。よって (sinx)/x

が f(x, t) の優関数になっているので、この広義積分は正の t に関して一様収束しています。よって、特に収束しています。また、∂f/∂t(x, t) = −e−tx sinx なので∣∣∣∣∂f∂t (x, t)

∣∣∣∣ ≤ e−tx

であり、t > 0 のとき ∫ ∞

0

e−xtdx =

[−e−xt

t

]∞0

=1

t

と広義積分が収束しているので、t0 > 0 を一つとると、e−t0x は ∂f/∂t の t ≥ t0における優関数であり、∂f/∂t の広義積分は t ≥ t0 の範囲で一様収束します。t0は任意の正実数だったので、∂f/∂t の広義積分は t > 0 で広義一様収束するわけです。以上より定理 16を適用できて、t > 0 の範囲で

F ′(t) = −∫ ∞

0

e−tx sinxdx

が成り立ちます。

第 13回解説 36

この積分を部分積分を使って計算してみると、

F ′(t) = −∫ ∞

0

e−tx sinxdx

=[e−tx cos x

]∞0

+ t

∫ ∞

0

e−tx cos xdx

= −1 + t[e−tx sinx

]∞0

+ t2∫ ∞

0

e−tx sinxdx

= −1 − t2F ′(t)

となります。よって

F ′(t) = − 1

1 + t2、

つまり、

F (t) = −Arctan t+ C

です。定数 C を求めるために t → ∞ の極限をとってみると、定理 12から積分と極限が入れ替えられるので

−π2

+ C = limt→∞

F (t) =

∫ ∞

0

0dx = 0

となり、C = π/2 とわかりました。F (t) は t = 0 まで連続なので、∫ ∞

0

sinx

xdx = F (0) = lim

t→+0F (t) = lim

t→+0

(−Arctan t+

π

2

)=π

2

となります。 □

3.5 例:フーリエ級数と微分方程式

第 2.2節で考えた C∞-級周期関数のフーリエ級数展開とこの章で学んだ積分と微分の入れ替えを組み合わせて、具体例に応用してみましょう。針金で円を作り、それのある部分を氷で冷やし他の部分をホカロンで温めるなどして、温度分布が一様でないようにしてから放置します。すると徐々に温度分布が一様になっていきます。針金の太さは無視できるとし、基準点を一つ決めて針金上の点の座標 x を針金円の中心から計った角度とします。すると、時刻 t におけるこの針金の温度分布 u(x, t) は x について周期 2π の関数思うことができ、フーリエ級数の議論が使えそうです。

第 13回解説 37

さて、もしも針金と外部とで熱のやりとりがないという断熱状態にあったとすると、この温度分布 u(x, t) は

∂u

∂t(x, t) =

∂2u

∂x2(x, t)

という関係を満たすことがわかっています。(熱方程式、あるいは拡散の方程式というやつです。詳しくは適当な物理の本を参照してください。)そこで、うるさいことは置いておいて、関数 u(t, x) が良い性質を満たすと仮定して、この方程式をフーリエ級数展開を使って解いてみましょう。ここで言う「良い性質」とは、

u(x, t) 任意に t を固定したとき x の関数として C∞-級で、また、t で偏微分可能で偏導関数 ut(x, t) は 2変数関数として連続である

ということです。たとえば、x でも t でも何回でも偏微分可能ですべての偏導関数が連続ならO.K.です。u(x, t) の x についてのフーリエ係数を ak(t), bk(t) と書くことにしましょう。

ak(t) =1

π

∫ π

−π

u(x, t) cos kxdx, bk(t) =1

π

∫ π

−π

u(x, t) sinkxdx

です。t を任意に止めたとき u(x, t) は x の C∞-級関数だと仮定しているので、第 2.2

節で調べたように、

u(x, t) =a0(t)

2+

∞∑k=1

(ak(t) cos kx+ bk(t) sin kx

)

となっており、x ついて項別に微分することができて

∂2u

∂x2(x, t) = −

∞∑k=1

k2 (ak(t) cos kx+ bk(t) sin kx) (7)

となっています。一方、u(x, t) は t で偏微分可能で、偏導関数 ∂u/∂t(x, t)は 2変数関数として連続と仮定したので、定理 14により積分と微分が入れ替えられて、

a′k(t) =1

π

∫ π

−π

∂u

∂t(x, t) cos kxdx, b′k(t) =

1

π

∫ π

−π

∂u

∂t(x, t) sin kxdx

が成り立ちます。この式たちは何をいっているかというと、

tを止めたとき、xの関数 ∂u/∂tのフーリエ係数は a′k(t), b′k(t)である、

第 13回解説 38

つまり、

∂u

∂t(x, t) =

a′0(t)2

+∞∑

k=1

(a′k(t) cos kx+ b′k(t) sin kx

)(8)

が成り立つと言っています。熱方程式は二つの式(7), (8)が等しいというものですので、式(8)から式(7)を引いて

a′0(t)2

+∞∑

k=1

{(a′k(t) + k2ak(t)

)cos kx+

(b′k(t) + k2bk(t)

)sin kx

} ≡ 0

が得られます。よって、両辺のフーリエ係数を比較して

a′0(t) = 0, a′k(t) = −k2ak(t), b′k(t) = −k2bk(t) (k = 1, 2, . . . )

となります。この微分方程式たちは簡単に解けて、

a0(t) = A0, ak(t) = Ake−k2t, bk(t) = Bke

−k2t (k = 1, 2, . . . )

が答えです。ただし Ak, Bk たちは実数です。Ak, Bk たちを決めるには、時刻 t = 0 のときに針金に与えた熱分布が必要です。それを f(x) とし、f(x) のフーリエ係数を ak, bk とすれば、f(x) = u(x, 0) という初期条件でフーリエ係数を比較して、答えは

u(x, t) =a0

2+

∞∑k=1

e−k2t(ak cos kx+ bk sin kx

)

となります。(これが本当に答えだと言うためには、u(x, t) に対して仮定していた「よい性質」をこの関数が満たしていることを確かめなければなりませんが、それはお任せします。)この答えが「時間が経つにつれて温度分布が一様になっていく」という直観とあっていることは、

limt→∞

u(x, t) =a0

2

と x に依らない定数に近づくことからわかります。例えば、最初に与えた温度分布がちょうど cos x なら、u(x, t) = e−t cosx というふうに全体が温度 0に近づいてゆくわけです。上の解き方を大雑把に眺めてみると、

「周期 2π の関数の集合」を

cos kx と sin kx たちを「基底」とするベクトル空間 V

第 13回解説 39

と思い、u(x, t) を

時刻の空間 R から関数のベクトル空間 V への写像

と思って V の「基底」で分解して成分ごとの微分方程式を解く

というふうに、前期の最後にやった有限次元ベクトル値関数の線形微分方程式のときのように解いていると言えるでしょう。ただし、決定的な違いがあります。それは

cos kx、sin kx は V の基底ではない

ということです。皆さんが今学んでいる線形代数におけるベクトル空間には「極限」という概念がないのです。このように、ある条件を満たす関数の全体を「極限付きベクトル空間」と思って微積分の技と線形代数の視点を駆使して微分方程式などを調べるのが関数解析学というものです。それでは、今熱方程式を解くのに使った「極限概念」とは具体的にはどのようなものでしょうか。f(x) のフーリエ級数の n 項までの和を fn(x) と書くことにすると、第 2.2節で示したことは

fn(x) は f(x) に一様収束する。

と言い換えられます。しかし、第 2.2節でも指摘しておいたように、フーリエ級数というのは大変おおらかで、微分可能でない関数 g(x) に対しても gn(x) が g(x)

に一様収束してしまうことがあります。gn(x) は三角関数の有限和ですから、g(x)が微分可能でなくても C∞-級です。よって、C∞-級関数が微分できない関数に一様収束することがあるわけです。C∞-級関数の全体は一様収束で閉じていないのです。ところが、実は第 2.2節ではもっと強く、

任意の m に対し、f (m)n (x) は f (m)(x) に一様収束する。

が示されています。この収束のことをC∞-級収束と言います。これなら C∞-級関数から飛び出すことはありません。定理 8の根拠になっている補題 3で、優級数の存在を示すときのキーポイントは、f(x) のフーリエ係数 ak, bk 達が任意の n に対して

supkkn|ak| <∞, sup

kkn|bk| <∞

を満たすことでした。この性質を満たす数列のことを急減少数列と言います。逆に、勝手な急減少数列 {ak}, {bk} を使ってフーリエ級数を作ると、それは C∞-級関数に C∞-級収束します。周期 2π を持つ C∞-級関数全体のなすベクトル空間に

第 13回解説 40

C∞-級収束を考えたものと急減少数列の全体とが、フーリエ級数展開を通じて同じものになるのです。急減少数列を見て l2 空間を思い出した人もいるのではないでしょうか。l2 空間とは

∞∑k=0

|cn|2 <∞

を満たす数列全体のなすベクトル空間のことでした。急減少数列は l2 数列です。だから、l2 数列を係数としたフーリエ級数が何らかの意味で収束してくれれば、C∞-級関数の空間の拡張で l2 空間と同型なものができるわけです。実は、周期 2π を持つ関数で、∫ π

−π

|f(x)|2dx

が有限の値に収束するもの全体がそれに当たります。(この関数空間を L2 空間と言い、この積分を f の L2 ノルム2と言います。)つまり、l2 数列を係数としたフーリエ級数の n 項までの和を hn(x) とすると、[−π, π] 上で積分可能な関数 h(x) があって、

limn→0

∫ π

−π

|hn(x) − h(x)|2dx = 0

を満たし、逆に、 ∫ π

−π

|h(x)|2dx <∞

を満たす関数(L2-関数)h(x) に対し、そのフーリエ係数は l2 数列となり、フーリエ級数はもとの関数 h(x) に L2 収束するのです3。実は、R

2 のノルムが内積から得られるように、L2-ノルムも内積∫ π

−π

f(x)g(x)dx

から得られます。これを見ると、第 2.2節の補題 6をなぜ「三角関数の直交関係」と呼ぶのかわかるでしょう。三角関数たちは、この内積に関して直交「基底」になっているわけです。さて、周期関数を考えるにはフーリエ級数でよかったのですが、周期性のない関数を考えるにはフーリエ変換がいります。それは、フーリエ級数において k に

2絶対値もどきのことです。3L2 で考えるときには「ほとんどいたるところ同じなら同じ」と思うことにします。例えば、可

算個の x を除いて h(x) = g(x) なら、L2 関数としては同じとします。詳しく述べるには、ルベーグ積分論が必要です。

第 13回解説 41

ついての和をとっていたものを、k を R 全体を動くと思って積分することです。つまり、フーリエ級数では関数と数列の対応だったのが、フーリエ変換では関数と関数の対応となって、少々混乱しやすくなるかもしれません。それを避けるためにも、以上の様な周期関数のフーリエ級数展開の理屈を理解しておくのは有用でしょう。フーリエ級数は、フーリエが提唱して以来現代的な数学概念の源になってきました。集合、測度、関数とはそもそもなんなのか等 . . . フーリエ級数から多くの数学的概念が生み出されてきたということは、フーリエ級数を初等的に取り扱うといろいろほころびがでるということでもあり、大学初年度で扱うのには少々無理があって、テイラー展開に比べて地味な存在になってしまっています。しかし、先へ進むと(分野を問わず4)、それとは気付かずに(気付かされずに)フーリエ級数の考えを使っていることがあるので、余りうるさいことを言わずに今のうちにざっと眺めておくと、後の苦労が減るのではないかと思います。

4だと思います。