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Copyright @ Agilent Technologies and MWE 2011 Steering Committee. All rights reserved. MWE2011 学生コンテスト 設計チュートリアル Agilent ADS2011 Rev 1.0 2011.09.07 1. はじめに 本チュートリアルはマイクロ波増幅器設計の経験のない参加学生のためにマイクロ波増幅器設計の 基本的な手順を記したものです。マイクロ波増幅器の設計手法はここに示したものだけではありません。 またここに示した設計手法は極めて基本的なものですから、上位入賞を目指すにはより高度な設計が求 められます。参加者各位におかれましては本チュートリアルを参考に自ら手を動かして本チュートリア ル記載の結果よりも優れた設計結果を出されますことを期待いたします。 注意)ADVANCED DESIGN SYSTEM(ADS)は、Agilent Technologies 社の製品です。 2. マイクロ波増幅器設計のおおまかな流れ マイクロ波増幅器設計の大まかな流れは下記のようになります。 (1) トランジスタのSパラメータの把握 まずは設計に使用するトランジスタのSパラメータを把握します。またこの際にトランジスタの K ファクター(安定係数とも言う。)および MSG/MAGMaximum Stable Gain/Maximum Available Gainの周波数特性も把握します。(3章) (2) 安定化回路の設計(バイアス回路を兼ねる。) 次に帰還回路あるいは抵抗回路を用いて任意負荷に対して安定となる(発振しないようになる) ようにします。具体的には安定係数 K 1 以上となるように設計します。(4章) (3) 整合回路設計 最後に増幅器の入出力インピーダンスが入出力負荷インピーダンス(通常は 50Ω)とインピーダ ンス整合がとれるように整合回路を設計します。(5章) 3. トランジスタのSパラメータの把握 ここでは MWE2011 学生コンテストの課題に従い1段増幅器を設計する手順を示します。 3.1 トランジスタSパラメータの入手 まずはトランジスタのSパラメータまたはモデルパラメータを入手します。トランジスタのSパラメ ータまたはモデルパラメータは下記のメーカーサイトからダウンロードできます。

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MWE2011 学生コンテスト 設計チュートリアル Agilent ADS2011 版

Rev 1.0 2011.09.07

1. はじめに

本チュートリアルはマイクロ波増幅器設計の経験のない参加学生のためにマイクロ波増幅器設計の

基本的な手順を記したものです。マイクロ波増幅器の設計手法はここに示したものだけではありません。

またここに示した設計手法は極めて基本的なものですから、上位入賞を目指すにはより高度な設計が求

められます。参加者各位におかれましては本チュートリアルを参考に自ら手を動かして本チュートリア

ル記載の結果よりも優れた設計結果を出されますことを期待いたします。

注意)ADVANCED DESIGN SYSTEM(ADS)は、Agilent Technologies社の製品です。

2. マイクロ波増幅器設計のおおまかな流れ

マイクロ波増幅器設計の大まかな流れは下記のようになります。

(1) トランジスタのSパラメータの把握

まずは設計に使用するトランジスタのSパラメータを把握します。またこの際にトランジスタの K

ファクター(安定係数とも言う。)および MSG/MAG(Maximum Stable Gain/Maximum Available Gain)

の周波数特性も把握します。(3章)

(2) 安定化回路の設計(バイアス回路を兼ねる。)

次に帰還回路あるいは抵抗回路を用いて任意負荷に対して安定となる(発振しないようになる)

ようにします。具体的には安定係数 Kが 1以上となるように設計します。(4章)

(3) 整合回路設計

最後に増幅器の入出力インピーダンスが入出力負荷インピーダンス(通常は 50Ω)とインピーダ

ンス整合がとれるように整合回路を設計します。(5章)

3. トランジスタのSパラメータの把握

ここでは MWE2011 学生コンテストの課題に従い1段増幅器を設計する手順を示します。

3.1 トランジスタSパラメータの入手

まずはトランジスタのSパラメータまたはモデルパラメータを入手します。トランジスタのSパラメ

ータまたはモデルパラメータは下記のメーカーサイトからダウンロードできます。

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http://www.avagotech.com/pages/en/rf_microwave/transistors/fet/atf-54143/

ただし、メーカー提供のトランジスタSパラメータおよびモデルパラメータは測定条件(測定に使用

した基板やスルーホールの条件)や端面情報が正確にはわかりません。したがってより高精度な回路設

計をしたい場合や動作周波数が高い場合にはトランジスタSパラメータを自分で測定するための TEG

(Test Element Group)を作製して自分でトランジスタのSパラメータを測定します。

ここでは設計周波数は 0.9GHz~1.1GHz と比較的低周波であることから、メーカー提供のトランジス

タSパラメータまたはモデルパラメータをそのまま使用することにします。

本書では上記の URLから入手できる ADS2009用のモデルパラメータファイルを使用して説明を行いま

す(ADS Model – ATF-54143 ADS Model(18KB,ZAP)、ファイル名=atf54143_010407.zap、

直接リンク=http://www.avagotech.com/docs/MPUB-1511)

<参考> Sパラメータとモデルパラメータの違い

Sパラメータは簡単に解析が行えますが、解析周波数範囲は測定した範囲のみであり、また DCバイ

アス値も固定値であり、線形解析(リニア解析)のみしか行えません。モデルパラメータを使用する

と、DCバイアス値は任意の値を選択でき、周波数範囲も広く扱え、非線形解析も行えます。

3.2 トランジスタSパラメータの表示

トランジスタのSパラメータをマイクロ波シミュレータ上(ここでは Agilent Technologies 社

ADVANCED DESIGN SYSTEM 2011 を使用します。以下 ADS2011 と表記します)に表示します。(ADSの使用方法

については別途資料などを参照してください。)

ADS2011 をインストールしたらデスクトップアイコンをダブルクリック、あるいはメニューバーから

ADS2011を起動(起動メニュー = スタート>すべてのプログラム>Advanced Design System 2011.05>

Advanced Design System 2011.05)します。(図3-1,図3-2)

図3-1 デスクトップ画面(ADS2011起動前)

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図3-2 ADS2011 起動画面(メインウインドウ)

上記起動画面のことを「メインウインドウ」と呼びます(図3-2)。

図3-3 Getting Start ウインドウの表示

ADS2011 起動時、図3-3のような Getting Start 画面が表示されます。ここでは、インターネットを

経由したオンラインでの情報などを入手できます。必要がなければ [Close]でウインドウを閉じてくだ

さい。

YouTube で

ADSの動画

各種技術情報

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Avago 社サイトからダウンロードした ADS2009の ZAP ファイル(atf54143_010407.zap)を解凍します。

ADS2011のメインウインドウから File > Unarchive Workspace or Project メニューを選択します

(図3-4)。(参考=ADS2011 では圧縮ファイルの拡張子は「.7zap」です。「.7zap」ファイルの解凍も

上記メニューで行います。 一方、ファイルの圧縮は File>Archive Workspace メニューです。)

図3-4 ZAPファイルの解凍:メニューの実行

図3-5 ZAPファイルの解凍:ファイル名の指定

格納する作業用フォルダーは

C:/home/ADS_2011 を推奨

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解凍したい ZAP ファイル名(atf54143_010407.zap)を指定します。通常は、C:/home/ADS_2011 フォル

ダの下に格納しておきます。ファイルを選択し、[開く]ボタンを押します(図3-5)。

(参考=作業用フォルダーは C:/home/ADS_2011を推奨します)

図3-6 ZAPファイルの解凍:ファイルの変換

今回の atf54143_010407.zap ファイルは ADS2009 フォーマットのため、ADS2011 で使用するためには変

換(Convert)が必要です。図3-6はこれから行う作業内容のまとめを表示しています。[Next]ボタ

ンを押して次に進みます。

図3-7 ZAPファイルの解凍:ワークススペース名と格納先の指定

変換するワークスペース名と格納先を指定します(図3-7)。

格納する作業用フォルダーは

C:/home/ADS_2011 を推奨

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図3-8 ZAPファイルの解凍:参照するライブラリの指定

このワークスペースで参照するライブラリを指定します。DSP のチェックをはずしてください(図3-

8)。

図3-9 ZAPファイルの解凍:ワークスペース内のライブラリ名定義

このワークスペース内のライブラリ名を定義します。そのままの名前でかまいません(図3-9)。

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図3-10 ZAP ファイルの解凍:まとめ

まとめです。よければ[Finish]を押すと変換が始まります(図3-10)。

図3-11 ZAP ファイルの解凍:変換の完了

変換が完了し、変換したワークスペースをオープンします(図3-11)。

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図3-12 ワークスペースの表示

「Folder View」タブを選択してください。

ワークスペース「MWE2011_scontest_wrk」の中に、セル「ATF54143_dt」が出来ています(図3-12)。

図3-13 回路図の作成

回路図を作成します。メインウインドウの ボタン(New Schematic Window)を押します

(図3-13)。

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図3-14 新しいセルと Schematic View の作成

ここでは、セル名「chap3_Spara_Sim」と入力します。ビュー名は Schematic のままにします。

[OK]を押します(図3-14)。

<参考> ワークスペース、ライブラリ、セル、ビューの関係

図3-15:ワークスペース、ライブラリ、セル、ビューの関係

セル(Cell)はサブ回路的に扱います。

ADS のファイルは左の様な階層構造を持ってい

ます。

最初に Workspace を作成し、次に Library を作

成し、 Library内に Cellを作成していきます。

Cell は様々な view を持ち、下記の種類の view

があります。

Schematic view

Layout view

Symbol view

emModel view

emSetup view

Viewの名前は任意ですが、種類は上記 5つです。

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図3-16 Schematic ウインドウ

図3-16は回路図入力用のウインドウです。

図3-17 Schematicのアイコン

図3-17に、回路図ウインドウでのアイコンを示します。

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図3-18 サブ回路 ATF54143_dt の配置

サブ回路である「ATF54143_dt」を読み込みます。セル「ATF54143_dt」の左側にある+ボタンを押して

-に変えます。セル「ATF54143_dt」の Symbol ビューを選択し、セル「chap3_Spara_Sim」の Schematic

の回路図内にドラッグします(図3-18)。

図3-19 サブ回路 ATF54143_dt

サブ回路 ATF54143_dtを配置することができました(図3-19)。

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図3-20 Sパラメータ解析の設定

Sパラメータ解析を行います。ここでは解析用テンプレートを使用します。

回路図で Insert > Template メニューを選択します(図3-20)。

図3-21 テンプレートからの読み込み

解析用テンプレートリストの中から「ads_templates:SP_NWA_T を選択し、回路図内にドラッグします。

(図3-21)

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図3-22 テンプレートからの読み込み

解析用テンプレートから、S パラメータ解析用の設定と結果表示が読み込まれました(図3-22)。

<参考>サブ回路の中を見る方法

サブ回路 ATF54143_dtの中身を見るには、 ボタンを押し、サブ回路 ATF54143_dtをクリックします。

上位回路に戻るには、 ボタンを押します。

結果表示用テンプレート

解析用テンプレート サブ回路内への移動

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図3-23 解析周波数などの設定

まず周波数範囲や DCバイアス値を設定します。ゲート電圧は 0.5V、ドレイン電圧は 3Vに設定します。

結線 を行い、さらにグランド を接続します。また結果表示を有効にするために を選択しま

す(最初は無効になっています)。最後に を押して解析を開始します(図3-23)。

<参考> Sパラメータファイルを用いて解析した場合は、DCバイアス値は固定値です。ここではモデ

ルパラメータを用いて解析しているため、DC バイアス値は任意の値を指定できます。

図3-24 解析のステータスウインドウ

解析が始まるとステータスウインドが表示され途中経過などが表示されます。解析エラーなども表示さ

れます(図3-24)。技術サポートにお問い合わせの際はエラーメッセージを明記ください。

エラーメッセージなどはここに表示されます。

技術サポート問い合わせ時には、エラー

メッセージを必ず明記してください。

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図3-25 解析結果の表示:タブ SP_NWA_T

解析結果が表示されます。ウインドウ下にタブが4つあり、さまざまな解析結果を切り替えることができま

す。図3-25で表示しているタブは「SP_NWA_T」で解析周波数全体の Sパラメータ(S11~S22)が表示さ

れています。

図3-26 解析結果の表示:タブ Cicles_Ga_Stab

タブ「Cicles_Ga_Stab」を選択するとゲインなどが表示できます。マーカーを選択し、キーボードの▲▼キ

ーで周波数を選ぶと、その周波数のゲインや Kfactor(数値)などが表示されます(図3-26)。

タブが4つあり切り替え可能

S11

S21

S12

S22

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図3-27 安定係数などの表示:タブ Circles_Stability

タブ「Circles_Stability」を表示すると Muなどが表示されます(図3-27)。

学生コンテストでは安定係数 Kファクターが 0.1GHz~10.0GHz で1より大きくなることが設計条件です。

標準の結果表示テンプレートには Kファクターのグラフ表示が入っていないため、ここでは安定係数 Kファ

クターを新たにグラフに描画します。

図3-28 安定係数 Kファクターの表示:式の代入

グラフウインドウの左にある ボタンを押し、グラフの適当な場所にドラッグします(図3-28)。

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図3-29 関数式の入力

式(Equation)を入力するウインドウが開きますので、Kfactor=stab_fact(S) と入力します(図3-29)。

右辺の関数「stab_fact(S)」は安定係数 Kを Sパラメータから計算する ADS の組み込み関数です。

左辺はユーザが定義する変数名です。大文字小文字の区別があります。

図3-30 グラフ枠の挿入

グラフの枠を挿入します。グラフの左にある を押し、適当な場所にドラッグします(図3-30)。

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図3-31 表示するデータの選択:カテゴリーの選択

今挿入したグラフの枠に表示するデータを選択します。最初に「Equations」(数式)のカテゴリーを選択し

ます(図3-31)。

図3-32 表示するデータの選択

次に、どのデータを表示するかを選択します。「Kfactor」を選択し、[>>Add>>]を押すと、右側に Kfactor

が登録されます。[OK]ボタンを押してください(図3-32)。

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図3-33 安定係数 Kfactorの表示

安定係数 Kfactorが表示されました(図3-33)。

図32よりこのトランジスタはおおよそ 4GHz付近では安定係数KがK>1となっていますが、4GHz 付近以

外ではK<1となっていることがわかります。このことはこのトランジスタは 4GHz付近では安定、つまり

発振することはありませんが、4GHz 付近以外では入出の負荷インピーダンスによって寄生発振を生じる可

能性があることを意味しています。したがって次章ではすべての周波数(ここでは 0.1GHz~10GHz)にてK

>1となるように安定化回路を設計します。

図3-34 線の太さ、色などの変更

線の太さや色などを変更する場合は、線の上を選択(ダブル・クリック)すると図3-34のようなウイン

ドウが現れますので、色や線の太さなどを変更できます。

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図3-35 直交座標への S11、S22 の表示

学生コンテストでは S11と S22の大きさが 0.1GHz~10.0GHz で1より小さくなることが設計条件です。

新しくグラフの枠を挿入します。図3-35に示すように、S(1,1)を選択し、[>>Add>>]を押し、()Magnitude

を選択し[OK]を押して右側に登録します。同様に S22 も Magnitude で表示します。

図3-36 直交座標での S11、S22 の表示

図3-36のように、1より小さい値が確認できます。

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図3-37 MSG/MAGの表示の関数定義

安定化回路の設計に進む前にトランジスタの MSG/MAG を計算します。グラフウインドウの左にある

ボタンを押し、グラフの適当な場所にドラッグします。図3-37のように「msg_mag=max_gain(S)」と入

力します。右辺の max_gain(S)は ADSの組み込み関数です。その他の組み込み関数を確認するには[Functions

Help]を押します。左辺はユーザ定義の変数名です。大文字小文字の区別があります。

図3-38 MSG/MAGデータの選択

安定係数 Kfactorを表示したグラフに MSG/MAGを重ね書きします。Kfactor を表示したグラフの何も表示さ

れていない白い部分を選択(ダブル・クリック)すると図3-38のようなウインドウが現れますので、ま

ず[Equations]を選択し、先程入力した msg_mag を選択し、[>>Add>>]を押すと、右側に msg_mag が登録さ

れます。このまま表示する(下の[OK]を押す)と Kfactor と同じスケールで表示されてしまいますので、

msg_magはグラフの右軸を使って表示します。msg_mag を選択した状態で[Trace Options]ボタンを押してく

ださい。

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図3-39 グラフの右軸にデータを表示

[Plot Axes]タブを選択し、Yaxis を[Right Axis]を選択し[OK]を押します(図3-39)。

図3-40 Kfactorと MSG/MAGの解析結果表示

図3-40に MSG/MAGの解析結果を示します。MSG/MAG のグラフは 3.5GHz 付近まではなだらかに減少する

カーブになっていますが、3.5GHz付近で変曲点を持っていることに気づくでしょう。同様に、5.2GHz 付近

でも変曲点があります。MSG/MAGのグラフではK<1なる周波数範囲では MSG(Maximum Stable Gain)を表

示して、K>1なる周波数範囲では MAG(Maximum Available Gain)を表示します。MAGとはトランジスタ

の入出力負荷インピーダンスを適当に選んで、入出力ともに共役整合条件が満たされたときの利得を指しま

す。いわばこれはトランジスタから取り出しうる最大の利得ということができます。これに対してK<1な

る周波数範囲では入出力ともに共役整合条件を満たす負荷インピーダンスを定義することはできません。そ

こでK<1なる周波数範囲に対してはトランジスタの入力あるいは出力に安定化回路を付け加えてK=1

となるようにしたときにトランジスタから取り出しうる最大の利得として最大安定化利得(Maximum Stable

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Gain)を定義するのです。MSGと MAGは異なるものなので MSG と MAG が切り替わる周波数ではその変化は不

連続になるのです。

それではこのトランジスタを使用して 0.9GHz~1.1GHz で動作する増幅器を設計する場合の最大利得の限界

値を検討しましょう。より詳細な MSG/MAG 値を表示するためにマーカーを表示します。

図3-41 マーカーの挿入

Marker > New メニューを選択し、msg_mag を表示した線の上をクリックします(図3-41)。

図3-42 マーカーの表示

マーカーが表示されました。マウスやキーボードの▲▼キーを使ってマーカーを移動します(図3-42)。

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今回の場合、F=0.9GHzでは MSG/MAG=24.713dB、F=1.0GHz では MSG/MAG=24.230dB、F=1.1GHzでは

MSG/MAG=23.788dBです。基底利得は「比帯域 20%の中での最少利得」で定義されているので、どんなに頑張

っても 23.788dB以上の基底利得を得ることはできません。すなわち、基底利得=23.788dBが今回の回路設

計におけるおおよその限界性能ということになります。

ただし、MSG/MAGはトランジスタに帰還回路を加えると変化させることができるので、適当な帰還回路を設

計することで上記以上の基底利得を達成することは原理的には可能です。

本チュートリアルは増幅器設計の基本を示すことが目的ですから、本チュートリアルでは特別な帰還回路は

用いないことにします。

<参考> DC解析の実行

図3-43 DC解析の設定

今回の解析ではモデルパラメータを使用しているため、Sパラメータ解析だけではなく DC解析も行えます。

回路図で Insert > Template メニューを選択し、解析用テンプレートリストの中から

「ads_templates:DC_FET _T を選択し、回路図内にドラッグします。DCバイアスの値を代入します(図3-

43)。解析を実行してください。

図3-44 DC解析の結果表示

DC解析の結果が表示されます(図3-44)。

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4. 安定化回路の設計

4.1 増幅器の安定化とは

マイクロ波増幅器の安定化回路(発振防止回路)には抵抗回路によるものと帰還回路によるもの、および

その組み合わせ回路がありますが、ここでは抵抗回路によるものについて説明します。

トランジスタの入力あるいは出力に直列あるいは並列に抵抗を加えると、抵抗における電気エネルギーの

吸収効果(ジュール損失)により回路利得が減少します。回路が“不安定である状態”(発振を生じうる状

態)とはいわば利得が高すぎて、入力電力を加えなくても自然に存在する雑音を種として大きな出力信号を

発生してしまう状態ということができます。ですから抵抗回路の損失により適当にトランジスタの利得を相

殺して増幅器が容易には発振しないようにするのです。

4.2 安定化回路の構成

天下り的な説明になってしまいますが、図4-1に安定化回路の一例を示します。図4-1では入出力と

もに同じ回路を使用していますが、より高性能を求める場合、一般には入力側の安定化回路と出力側の安定

化回路は異なったものになります。図4-1の回路の入力方法については後述します。

図4-1 安定化回路の一例

図4-1の安定化回路の動作について説明します。図3-40に示したようにトランジスタは一般に低周

波では安定係数が低くて利得が高く、高周波では安定係数が高くて利得が低くなります。ですから安定化回

路は低周波では抵抗による利得低下の効果が大きく、高周波ではあまり利得低下しないように設計する必要

があります。低周波ではキャパシタのリアクタンスは大きいので、実質的にオープン(開放)に見えます。

また伝送線路の電気長も短く見えるので実質的にショート(短絡)に見えます。したがって図4-1の回路

の低周波での等価回路は図4-2のようになります。つまりトランジスタの入力と出力に抵抗がシャントに

接続されたように見えます。

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図4―2 安定化回路の低周波での等価回路

トランジスタの入力インピーダンスは図3-25に示したように低周波では高インピーダンスです。その

ため図41においてPort1から入力された信号は多くが30Ωの抵抗に吸収されて一部だけがトランジスタに

入力されます。これによりトランジスタの持つ利得を相殺して回路を安定化させます。トランジスタから出

力された信号は負荷抵抗であるPort2(50Ω)と30Ωの抵抗に分配されますのでここでも利得を低下させる

ように作用して回路をさらに安定化させる働きをします。

他方、高周波ではどうでしょうか?高周波ではキャパシタのリアクタンスは非常に小さいので実質的にシ

ョート(短絡)に見えます。したがって図4-1の回路の高周波での安定化回路は図4―2のようになりま

す。つまり1GHzにてλ/4長の先端短絡スタブがシャントに接続されることになります。λ/4長の先端短絡ス

タブのインピーダンスはオープン(開放)ですから、キャパシタの容量値が十分に高ければ1GHzではトラン

ジスタには何も接続されていないように見えます。したがって利得が下がることはありません。

図4―2 安定化回路の高周波での等価回路

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実際には学生コンテストで使用するトランジスタは図3-40に示したように4GHz付近では安定係数K

>1ですが、4GHz付近以外では安定係数K<1です。したがってキャパシタの値や抵抗の値を適当に調整し

て100MHz~10GHzのすべての周波数で安定係数K>1となるように回路諸元を決定します。

図4―3には図4-1の回路の安定係数Kを計算した結果を示します。100MHz~10GHzのすべての周波数

で安定係数K>1となっていることがわかります。このようにして一度安定化回路により安定係数K>1と

することができれば、その外側にいかなる整合回路をつけても安定係数K<1となることはありません。で

すから安心してインピーダンス整合回路を構成することができます。ただし安定化回路の内側に整合回路を

つけたり帰還回路を構成したりすると安定化回路の作用が変わってしまってK<1となってしまうことが

あるので注意してください。

図4―3 図4―1の回路の安定係数計算結果の表示

図4―4 グラフのスケール変更

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図4―3はグラフの縦軸のスケールが大きすぎて、1より大きいかどうかよくわかりません。

グラフのスケールを変更するには図4-3のグラフの線の上を選択(ダブル・クリック)すると図4―4の

ようなウインドウが現れますので、ここで変更したい「Y Axis」を選択し、スケールをMin = 0, Max = 10,

Step = 1と入力し[OK]を押します。

図4―5にスケールを変更したKfactorの解析結果を示します。すべての周波数でKfactorは1より大きくな

っていることが確認できます。

図4―5 スケールを変更したKfactorの表示

<参考>グラフ表示に関して

このように、表示しているデータそのものを変更(色やスケールなど)する場合、データの線をダブル・ク

リックして変更します。グラフにデータを重ね書きなどする場合は、グラフ上の何も表示されていない白い

部分をダブル・クリックして変更します。

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4.3 安定化回路の入力方法

それでは図4-1の安定化回路の作成方法を以下に示します。

図4―6 コンポーネント・パレットリストの選択

回路図で左上のコンポーネント・パレットリストから所望のコンポーネント(部品)グループを選択しま

す。ここでは理想伝送線路を使いますので、「Tlines-Ideal」を選択します(図4―6)。

図4―7 理想伝送線路のコンポーネント挿入

コンポーネント「TLIN」を選択し、回路図中にドラッグします(図4―7)。

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図4―8 コンポーネントの回転

コンポーネントの回転は を選択し、回転したいコンポーネントを選択します(図4―8)。

図4―9 集中定数素子のコンポーネント挿入

次に集中定数のコンポーネントを挿入します。回路図で左上のコンポーネント・パレットリストから

Lumped-Componetsを選択します(図4―9)。

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図4-10 抵抗の挿入とワイヤの接続

抵抗「R」をクリックし、回路図中にドラッグします。またワイヤを接続します(図4-10)。

図4-11 抵抗値の変更:方法1

コンポーネントの値を変更する方法は2つあります。

一つ目は、回路図中の数字を直接クリックして数値を変更する方法です。簡単に数値を変更できますが、回

路図中に表示されている値しか変更できません(図4-11)。

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図4-12 抵抗値の変更:方法2

2つ目の変更方法は、コンポーネントをダブルクリックしてウインドウを表示し、数値を変更します

(図4-12)。コンポーネントの各種パラメータ値を変更できます。

図4-13 グランドの接続と解析の実行

グランドを接続し、解析を実行します。

図4―5と同じ計算結果が得られたら成功です。

<PART 2に続く>