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社会福祉学部論集第 4 (2008 3 月) 地域生活の構造と地域福祉の理論課題 岡崎祐司 〔抄録〕 社会福祉法に地域福祉が法定化され,自治体の地域福祉計画策定指針もしめされた。 しかし,地域福祉と地方自治体については,正確に関係づけられていなし、。地域は住 民の生活領域であり,共同・連帯が形成される場であり,社会的共同生活手段が備え られる必要がある 。地方自治の充実や地域の持続を指向する地域福祉論においては, 社会福祉の変化,発展の原動力をつかむこと,地域福祉の主体論,対象論,目的論が 重要である。「地域の福祉力」論は地域福祉の指針になりうるもので,社会発展の観 点から地域福祉の課題と役割を明らかにすべきである 。 キーワード:地域福祉,地域福祉計画,地方自治体,地域生活,社会的共同生活手段, 地域福祉の主体,住民主体,地域福祉の対象,地域福祉の目的,地域の 福祉力,共同,連帯 はじめに 社会福祉事業法の改正=社会福祉法の施行 (2000 年) は, 地域福祉にとって重要な意味を もっている 。 いうまでもなく ,戦後はじめて 計画を,都道府県が地域福祉支援計画を策定することが規定されたからである 。社会福祉関係 者だけではく,行政職員の問でも地域福祉という用語が使われるようになった。また,社会福 祉の内部だけではなく,地方自治と地域社会の今後のありかたをめぐっても地域福祉が重要な 位置をもっという“地域福祉の主流化"が強調されるようになっている(1)。 では“主流化"たりうる地域福祉理論は,どう構成され練り上げられるべきなのだろうか。 おそらく,地域福祉の現状を鳥敵図風に説明するだけではなく,地方自治の充実,地域社会の 維持とのかかわりで理論的方向性を示す必要があるだろう 。本稿では,地域生活の構造をあき らかにしたうえで, I 地域の福祉力」 論をてがかりに, この理論課題を探ろうとするものであ る。 37

地域生活の構造と地域福祉の理論課題 - Bukkyo u · 社会福祉学部論集第4号(2008 年3月) 地域生活の構造と地域福祉の理論課題 岡崎祐司 〔抄録〕

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社会福祉学部論集第 4号 (2008年 3月)

地域生活の構造と地域福祉の理論課題

岡崎祐司

〔抄録〕

社会福祉法に地域福祉が法定化され,自治体の地域福祉計画策定指針もしめされた。

しかし,地域福祉と地方自治体については,正確に関係づけられていなし、。地域は住

民の生活領域であり,共同 ・連帯が形成される場であり,社会的共同生活手段が備え

られる必要がある。地方自治の充実や地域の持続を指向する地域福祉論においては,

社会福祉の変化,発展の原動力をつかむこと,地域福祉の主体論,対象論,目的論が

重要である。「地域の福祉力」論は地域福祉の指針になりうるもので,社会発展の観

点から地域福祉の課題と役割を明らかにすべきである。

キーワード:地域福祉,地域福祉計画,地方自治体,地域生活,社会的共同生活手段,

地域福祉の主体,住民主体,地域福祉の対象,地域福祉の目的,地域の

福祉力,共同,連帯

はじめに

社会福祉事業法の改正=社会福祉法の施行 (2000年) は, 地域福祉にとって重要な意味を

もっている。いうまでもなく ,戦後はじめて

計画を,都道府県が地域福祉支援計画を策定することが規定されたからである。社会福祉関係

者だけではく,行政職員の問でも地域福祉という用語が使われるようになった。また,社会福

祉の内部だけではなく,地方自治と地域社会の今後のありかたをめぐっても地域福祉が重要な

位置をもっという“地域福祉の主流化"が強調されるようになっている(1)。

では“主流化"たりうる地域福祉理論は,どう構成され練り上げられるべきなのだろうか。

おそらく,地域福祉の現状を鳥敵図風に説明するだけではなく,地方自治の充実,地域社会の

維持とのかかわりで理論的方向性を示す必要があるだろう。本稿では,地域生活の構造をあき

らかにしたうえで, I地域の福祉力」論をてがかりに, この理論課題を探ろうとするものであ

る。

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地域生活の構造と地域福祉の理論課題 (岡崎祐司)

1.地域福祉と自治体行政の関係

社会福祉法第 4条は,地域住民,社会福祉事業経営者,社会福祉の活動を行う者が協力して

「福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み,社会,

経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられるように,地域福祉の推進に

努めなければならない。」 とした。 もっとも,地域福祉にかかわる国と地方自治体の役割と責

任が不明暗な点でも,地域福祉の範鴎が福祉サービス利用者の社会参加に限定されている点で

も,地域福祉の到達点をふまえた規定ではなL、。旧法である社会福祉事業法の第 3条でさえ,

“国, 地方公共団体, 社会福祉法人は社会福祉事業の実施にあたって医療 ・保健 ・その他の関

連施策との有機的連携を図り地域に即した創意工夫を行い,住民の理解と協力を得るよう努め

る"としていたが,現行法第 4条では国も地方自治体も地域福祉の推進者として規定されてい

なL、。

ところで,この社会福祉法第 4条から今後の地域福祉の方針を説明しようとする研究者の説

明も見受けられるが,法に規定された概念、は上記のような限界を持つものであって,地域福祉

の“法定"をあたかも地域福祉理論の闘明とみなすことは誤った認識である。今後の地域福祉

の方針は,地域の貧困 ・生活問題の分析,地域福祉実践の展開に即した理論活動から明らかに

されなけれは、ならないだろう。

社会福祉法第 107条は市町村が地方自治法に定める 「基本構想」に即して地域福祉計画を策

定するものとし(義務ではなしウ,計画の内容を 「地域における福祉サービスの適切な利用の

促進に関する事項,地域における社会福祉を目的とする事業の健全な発達に関する事項,地域

福祉に関する活動への住民の参加の促進に関する事項」と定めている O 第 108条は,市町村の

地域福祉推進支援を含めた都道府県地域福祉支援改革の策定が規定された。重要なことは地方

自治体の行政計画として地域福祉計画が策定できることにより,自治体職員が地域福祉に関心

を向けざるを得なくなったことである。自治体職員の聞でその正確な理解はともかく “今後の

地域福祉をどうすれはよいのか"という議論が交わされるようになったことの意義は小さくな

し、。

もつとも,このことによつて地方自J治台体に

でで、はなし、、。むしろ, いくつかの市町村の地域福祉計画策定にかかわってきた者としては, “地

域福祉は住民相互の助け合いである" とか, “地域福祉計画は住民の福祉活動やボランティア

を推進する計画である"などといったように,自治体職員が自らの行政活動と地域福祉を十分

に結びつけているとはいえないという印象をもっている。あるいは,自治体福祉行政の限界を

あらかじめ見定めたうえで,福祉行政が行き届かない領域をカバーするものとして地域福祉を

とらえる発想にも遭遇する。地域福祉を,住民活動を主流にしてとらえる見方は間違いではな

いが,地域福祉は地方自治体と切り離されたものではないし,また福祉行政の不十分さを補完

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社会福祉学部論集第 4号 (2008年 3月)

するものでもなL、。

では,地域福祉と地方自治体はどう結び、つけ,関係づければよいのか。地域福祉計画の策定

指針では,どのように説明されているのであろうか。ここでいう地域福祉計画策定指針とは,

社会保障審議会福祉部会がまとめた 『市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画策定

指針の在り方について(一人ひとりの地域住民への訴え)J (2002年 1月,以下,社保審 『策

定指針J)のことである。

社保審 『策定指針』は,地域を基盤にした福祉が地域福祉だとしたうえで,サブタイトルに

あるように 「一人ひとりの地域住民への訴え」という項目を起こしている。これまでの社会福

祉は行政から地域住民への 「給付」という形をとってきたが,これからは個人の尊厳,対等平

等の考え方により, I地域住民すべてにとっての社会福祉として, かつ,地域住民すべてで支

える社会福祉に変わってし、かなければならなし、。そのためには社会福祉に対しての地域住民の

理解と協力,つまり地域住民の参加と行動が不可欠なのである。」 としている O さらに,社会

福祉は地域社会での多様な人々の多様な生活課題に地域全体で取り組む仕組みととらえ,それ

に住民が自発的,積極的に取り組むこと,福祉活動を通じて地域を活性化させる積極的な視点

で社会福祉をとらえることを訴えている。政府審議会の策定指針で,こうした住民への訴えを

盛り込むことは異例だとおもわれるが,地域福祉への住民参加や福祉の積極的な位置づけを提

起することそのものは,妥当とおもわれる。 しかし,その論理は,社会福祉を給付行政である

ことに否定的か消極的で,相互扶助的な社会福祉に転換するために参加と行動を求めるという

展開になっている。社会福祉を給付行政でなくするというのは,社会福祉を社会福祉でなくす

るのと同じことである O ここから,社会福祉行政から地域福祉を切り離していくという文脈が

読み取れる。

同様の文脈は, I地域福祉推進の基本目標」でもあらわれる O 社保審 『策定指針』 は地域福

祉の基本目標として, I①生活課題の達成への住民等の積極的参加j,I②利用者主体のサービ

スの実現j,I③サービスの総合化の確立j,I④生活関連分野との連携」をあげている O 地域

福祉と地方自治体の関係でとくに注目されるのは, I①生活課題の達成への住民等の積極的参

加」の内容である O その柱は,1)地域住民を施策対象としてのみ位置づけるのではなく,地

域福祉の担い手として位置づけ,住民の自主的活動と関係諸国体及び公共的サービスとの連携

を図り, 2)地域社会全構成員のパートナーシップを重視し, 3)地域福祉活動における公私

の役割分担を留意する,というものである。 1)や 2)のパートナーシップ(協働)の方針は,

当然のことであるようにおもわれる O ところが 2)のなかでは, Iこの際,地域住民も 『福祉

は行政が行うもの』という認識を改め,行政も 『福祉は行政処分で対処するもの』という意識

を改めて,地域社会の全構成員(住民等)がノfートナーシップの考えをもつことが重要であ

る。jC2J としている。 こうした 「協働」 が地域での創造力を生み出すとしている。 3)では

「公行政の役割をいささかも減じるものではなく,公行政は地域住民の健康で文化的なミニマ

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地域生活の構造と地域福祉の理論課題 (岡崎祐司)

ムな生活を保障する役割を担っている。」としている O

国民の生活を守るナショナル ・ミニマム(国民最低限)は賃金・労働時間の問題だけではな

く社会保障 ・社会福祉にとっても,重要なものである O 労働組合の交渉力 ・規制力による 「共

通規則」を強化し,さらにそれを押し下げられないようにナショナル・ミニマムを政府の責任

で確立すること,個々の労働者の生活の抵抗力 ・防波堤(コンペンションナル ・ミニマム)を

強固にすることが必要であることはいうまでもない(3)。これを地域に即していえば,個々の住

民には生活における抵抗力 ・防波堤があり,それを弱めないように地域生活において確保され

るべき生活水準と生活内容が地方自治体の責任による生活保障として確保され,それが政府に

よるナショナル ・ミニマムを上回っている必要がある O これは,人権の視点で住民の生活保障

をとらえることでもある。こうした観点からいうと,社保審 『策定指針』が“公行政によるミ

ニマムな生活保障"を誼うことは意味があるということになる。

しかし,政策主体の側がミニマム論を打ち出す場合は,人権やすべての人に保障すべき生活

という観点からのミニマム論ではなく,まさに最低限行うべき行政役割としてのミニマム論,

行政責任の限定のための論理になるのが通例である。行政サイドのいうミニマムな保障がなさ

れたとしても,それが社会的に合意された生活水準 ・内容にまでなっているかどうかは別のこ

とである O 社保審 『策定指針』では地域住民に保障されるべきミニマムとはなにかはもちろん,

それとナショナル ・ミニマムとの関係は検討されておらず,ナショナル ・ミニマムの文言自体

もでてこなL、。人権からみた生活保障の構築は志向されていなL、。公行政の役割は最低限行っ

ていさえすればよいミニマムな保障に限定されている。そして,福祉行政の転換すなわち,福

祉は行政で行うもの ・行政処分で対処する認識を転換するというのは,行政から社会福祉供給

を切り離す考え方でもある。こうした後退した福祉行政を前提に,行政と住民組織を協働させ

ようということである O

社保審 『策定指針』の示した地域福祉の理念、すなわち(1)住民参加の必要性, (2)共に

生きる社会つ、くり, (3)男女共同参画, (4)福祉文化の創造や,先にみた基本目標は今後の

地域福祉の方向性として,おおむね了解されたものであろう。 しかし,地方行政と地域福祉の

関係の論理は,地域福祉の方向性としては本質的な問題を含んでいる O この方針でいけば,地

域福祉は福祉行政が後退 ・変質 しようとも独自に機能できるように位置づけられ,またそれを

所与のものとしたうえで機能強化をすべきものと位置づけられることになる O 地域福祉は後退

した地方行政が残した本来の行政領域を代替し補完する役割にとどまってしまう。

地域福祉は住民が主導する領域であるが,地方行政の在り方がどのようであれ,住民に優れ

た発想、と実行力さえあれば発展するというものではない。地域福祉においては住民のアイデア

ややる気も重要な要素であるが,住民がおかれている環境や条件を問わないのであれば,それ

は一種の観念論,精神主義にとどまってしまう。地域福祉にとって必要なのは,科学的な実践

方針,地方自治を強化する方向での地方行政との関係,あるいは地域福祉を推進する地方自治

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社会福祉学部論集第 4号 (2008年 3月)

体側の課題,さらに社会福祉政策と地域福祉の関係,実践を担う主体とその力の発展の条件を

理論的に明らかにすることである。

地域福祉が地方自治体のありかたを住民本位に方向づける力をどう形成するか,地方自治体

が地域福祉の条件を整え住民本位の行政への発展をはかろうとする姿勢をどうつくるか,その

双方が問われなければならなし、。このことは,この国の新自由主義改革である 「構造改革」が

地方自治制度の改革に着手し地方財政改革(三位一体改革), 集権的な手法での市町村合併の

促進,自治体の市場化の促進によって地域を本格的に巻き込んで進行している情勢に照らしで

も重要である。地域福祉は地域の福祉問題とそれに対応する実践 ・システム化・ 制度化の経験

を積み重ねながら, 地方自治の内実を充填する役割をもっている。それが,新自由主義改革=

「構造改革」 の対抗軸や代替戦略に結びつくのか, それとも補完や矛盾の糊塗にとどまるのか

どうかが問われている。

2.地域生活の構造をどうとらえるか

(1)生活領域としての地域 その内容と共同・連帯

地域福祉と地方自治の舞台である地域とはなにか,ここでは住民の生活という視点から明ら

かにしておきたい。地域生活の構造と変動をとらえることは,あとで検討する「地域の福祉

力」の科学的な方向を明らかにする前提になる。

住民にとって地域とはどのような場,空間であろうかω。第一に,地域とは住民にとっては

労働領域であり,生活領域である。農業,自営業者,中小企業,小売業にとって地域は生産と

営業の場であり,その従事者にとっては雇用と所得を得る場である O しかし,資本主義の発展

にともない地域における農業や小生産,零細経営などが没落し賃労働者が増大する歴史的過程,

つまり小生産者が土地 ・生産手段から切り離され賃労働者化する過程が進むため, もっぱら生

活領域としての地域の比重を高めた住民は増大する。ライフサイクルでみれば,乳幼児期, 学

齢期や高齢期においての地域は,その時間のほとんどをすごす生活の場となる。こうしたこと

から地域は基本的には住民の生活領域である。しかし,労働領域としての地域つまり地域にお

ける生産 ・産業は地域の維持のための基盤であり,地域経済は生活領域としての地域の土台で

あるという規定関係を無視することはできなし、。地域産業のありかたは基本的に生活領域とし

ての地域の成立条件であり,その変動は地域の人口構成や家族規模,自然環境, 市場を変動さ

せ,地域の生活問題を変化させる。地域の生産 ・産業は,地域福祉にとってはその物質的基盤

であることを忘れてはならない。

地域を住民の生活領域としてみるとすれば,さらにその構造はどうとらえることができるだ

ろうか。生活者としての住民の側からいえば,地域は ①消費生活の場,②家族生活の場

(子育て,教育,介護,家事などを行う),③文化生活の場(文化的活動やスポーツ, 自然環

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地域生活の構造と地域福祉の理論課題 (岡崎祐司)

境の享受を含む)であり,④居住とその環境でもある O これらは基本的に生活単位である世

帯(個人,家族)で行われるが,①,②において個人 ・家族単位の財 ・サービスの消費行動だ

けではなく ,また③,④においても個人の努力だけではなく ,住民の相互の共同 ・協力によっ

て生活や環境を支える活動やシステムを担わなければならないことがでてくる。消費生活に伴

う廃棄物処理のルールや,子どもの安全の確保,地域文化の継承,居住環境の整備などを考え

ればわかる。また,地域がかかえる固有の問題(騒音,交通,地域開発,山林管理,農地管理,

環境維持など)への対応にかかわっても, 住民の共同と連帯を形成しなければならない場面が

でてくる。これらの点から生活領域としての地域は,⑤住民の共同 ・協力や連帯の場であり,

それを可能にする社会関係やコミュニケーションが行われる場でもあるとすることができる。

もちろん,今日の共同 ・協力はかつてのように,それがなければ生活が成立しないというも

のではなくなっており,全住民を半ば強制的に巻き込んでいるものでもなくなっている。歴史

的にみると生産力の低い段階では,人々が土地に縛られ前近代的な生産関係のもとで全体が被

抑圧的な立場におかれ共同 ・協力なしには生存できないため,より強固であった。それが賃労

働者化が進むにしたがって,弱くなっていった。生活領域としての地域というときの共同 ・協

力は,こうした即自的なものをいっているわけでも,その再生をいっているのでもない。個人

が共同体に埋没する共同 ・協力ではなく,民主主義的な人間関係と個人の人格的独立のもとで

の,対自的な共同 ・協力の形成を意味している。実際には,地域の共同 ・協力で歴史的に遅れ

た側面が全くなくなっているわけではないが,民主的な住民関係が基本になってきており,遅

れた共同 ・協力は受け入れられなくなってきている。

かつてのように,共同 ・協力が住民にとって絶対のものではなくなっているとはいっても,

地域生活のなかでまったく必要でなくなっているというわけではなし、 地域特性によるその機

能の強弱(一般的には農村では強く,都市部では弱し、)や個人とその家族のライフサイクルの

位置における参加度合いの高低(子どもがいる世帯,高齢者のいる世帯では高く,学生や若い

勤労者で単独世帯の場合は低L、)があるが,それは逆に地域特性にもとづく課題やラ イフサイ

クル上の生活課題によって,機能することが求められるということである。単なる消費生活の

繰り返しゃ市場において個人が機能するだけでは解決 ・対応できない課題,すなわち子どもの

遊び場確保,安全,環境維持,孤立防止,生活弱者支援,文化継承,災害対応などが存在する

ことを住民が実感するとき,共同 ・協力の必要性が自覚的に追求されるようになる。歴史的に

は生産関係の変革にともなう旧し、共同体からの個人の解放,それを迫った生産力の発展による

貨幣経済の地域への浸透と市場の拡大が,現代的な共同 ・協力の必要性を浮かび上がらせてい

るとみることができる。

ところで,共同 ・協力と連帯とは同列のものではない。共同 ・協力は住民の生活上の必然や

主体的意識から実践されるもので, 日常生活圏内で発揮されるものである。連帯は,個人が地

域の課題や社会問題を明確に認識し,人権保障やノ ーマラ イゼイション,共生(ともいき),

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社会福祉学部論集第 4号 (2008年 3月)

ソーシャル ・インクルージョン(社会的包摂)(5) などあるべき方向や理念を認識し,手IJ他的に

活動するものであり,地域という枠をこえて展開される。より自覚的で主体的な個人一市民の

活動や,彼ら/彼女らの組織的な活動である。 日常生活園での発揮により生活領域としての

地域を形成する共同・ 協力とちがって,小地域から自治体レベルや国際的なレベルまでの重層

的活動,あるいは地域をこえたグロ ーパルなものである。地域社会の形成には共同 ・協力が府

不可欠であり,市民社会の形成には共同 ・協力に加えて連帯が必要である。いずれにしても生

活領域としての地域の維持,市民社会の形成をめざす住民の取り組みは, 住民自治の基礎条件

をつくることになる。

( 2 )地域生活における社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)

第二に,生活の再生産過程に着目すれば,社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)が地

域には必要であり,それが住民生活成立の一般的必要条件になっている (6)。世帯単位で行われ

る個人消費は,市場における商品の供給を前提に市場における貨幣と商品との交換,交換物の

私的所有と所有者による排他的消費を基本としている。ところが,生活の再生産はこの個人消

費だけを基本にしているわけではない。地域で生活するにあたって社会的公共的に供給される

べき生活手段すなわち上下水道,電気,ゴミ処理,道路,公園,保健,医療,社会福祉,保育,

学校教育,図書館,社会教育,文化 ・スポーツ,通信ネッ トワークなどの施設 ・サービスが生

活の再生産には必要である。これらが,社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)である。

ここでいう共同生活手段(共同消費手段)の意味は, i)個人 ・世帯の生活の維持に関連し

て必要になる社会的対応だけではなく ,u)生産力の発展にともなう新しい社会的能力の養成

や人開発達の要求に沿って住民の成長 ・発達に必要な施設 ・サービス,iii)人権思想の発展に

ともない社会問題が個人生活に与える影響を考慮して準備される施設 ・サービ、ス, iv)住民の

共同 ・協力の基盤,が含まれており個人消費だけではなく発達 ・人権の観点をふまえた人間ら

しい市民生活に必要な社会的手段という意味を含めている。また,共同消費手段と呼ぶのはそ

の供給と利用の形式に着目したものであり,その素材的特質からいって市場で商品として供給

することも個人が独自に調達することも,個人が排他的に消費することも不可能であり, した

がって社会的公共的に供給され社会的に共有され,共同的に消費(利用)されるべき特質があ

ることを示している。

また住民生活にとっての社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)を,地域におけるイン

フラストラクチュアー (物的 ・制度的 ・人的諸施設や前提条件の総体)のひとつと総括すると

すれば,その一部は生産活動や行政活動のインフラス トラクチュアーともなっている O 日本に

おいては社会的一般的労働手段と社会的共同消費手段が明確に区分されず,前者が後者より優

先的に財政投入されてきたことが都市問題を深刻化させてきたことは以前から指摘されてきた。

今日のグロ ーパル化に対応した大都市再開発や交通基盤 ・通信基盤整備はこの構造を引きずっ

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地域生活の構造と地域福祉の理論課題 (岡崎祐司)

たまま推進されており,地域間格差や大都市内の生活格差拡大の要因になっている。いずれに

しても,インフラストラクチュアーもしくは社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)は自

治体行政によって直接的に整備され供給されるか,特定の制度をつくって間接的に整備され供

給されるものである。つまり,住民の集団の財政力に依拠して整備 ・供給し,社会的分業のも

と,今日の住民要求水準に応える安全性や専門性を保持して供給するものである O

生活手段と生活者の結びつき方=生活様式からみるとかつての農村のような自給自足での現

物経済は衰退し,生活に必要な資料は市場で貨幣と交換する生活様式,その意味ではもっとも

資本主義的といえる都市的生活様式が都市 ・農村を問わず支配的 ・一般的になった。それによ

り,消費生活水準は引き上げられた(お金のかかる生活になったこと)。これを生活過程の形

態に着目すると,生活過程が市場に大きく依存し規定される「商品化としての生活の社会化」

が進んだ一方で,先に共同生活手段の説明でふれたように,求められる社会的能力の発展や人

権思想の影響を受けて,もはや旧い共同体に依存できなくなっている個人が,賃労働者として

生活をするためには社会的公共的に整備 ・供給される施設 ・サービスを必要とし,それに依拠

する度合いもますます高まる「公共化としての生活の社会化」も進んだことになる。これらの

ことから社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)は,都市・ 農村を問わず地域生活の一般

的条件になっている。社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)を欠く,あるいはそれが不

足する地域生活は,地域生活の再生産 ・継続の条件を欠くことになる。

なお,社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)だけではなく自然環境も地域生活の再生

産の条件であり,放置し成り行きにまかせることはできなくなってきており,社会的に保全し

なければならない。

社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)はその具体的な機能によって地域住民の孤立や

貧困化,生活の不安定化を防止する役割ももっている O 道路,上下水道,社会福祉サービス,

保健所,公的病院,保育所,公民館などの具体的役割あるいはその担い手の専門労働を想起す

ればよL、。地域における貧困は個人の所得が一般的平均的な消費生活や市民生活をおくるには

不十分な水準のために,消費財が不足・欠如し個人生活の再生産が不全になっている状態であ

り,かっ社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)の欠如 ・不足,あるいはそれからの排除

(利用料負担など制度的要因による)によって住民としての共同的生活の再生産が不全になっ

ている状態である。後者は病気(健康状態)の悪化,目立生活の阻害,孤立などとなって地域

で表出する。地域における貧困問題や生活困難は賃金 ・雇用形態など労働問題からの経路だけ

ではなく,地域生活過程における社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)が役割を果たし

ているのかという経路からも,その背景と対応が追求されなければならない。

こうした地域生活を成り立たせている社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)は基本的

に地方自治体が整備 ・供給の責任をもち,住民にとって機能するように制度化 ・システム化さ

せる責任をもっている O これを住民の側からとらえれば,社会的共同生活手段(社会的共同消

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社会福祉学部論集第 4号 (2008年 3月)

費手段)は消費 ・移動なと、を中心lこした日常的個別生活の基盤(インフラストラクチャー)と,

生活上のアクシデントや問題状況など個人・家族では充足できないニーズへの対応という役割

をもっ生活保障システムと位置づけることができる。地方自治体は地域における生活保障政策

を構築することが期待され,その責任を負っている。地方自治体は, 一定の権力的業務,地域

管理的業務,産業振興,雇用確保など多様な業務を担っているが,地域生活の面からいえば地

域における生活保障政策の構築という役割を担っている。地方自治体が生活保障政策に責任を

もつことを明確にすることは,地域福祉の方針を定めるうえで基本的な前提となる。

3.地域福祉論の方向性

(1)社会福祉の変化,発展の原動力と地域福祉論

こうした地域生活の構造とそれにかかわる地方自治体の責任と役割を前提としたときに,地

域福祉の方向性はどうあるべきだろうか。また,地域福祉と自治体行政はどのような関係にあ

るのだろうか。地域福祉とはなにかについては,その構成を並列したり,活動やサービスの統

合された姿を鳥撒図風にあらわしたりすることも可能である。それによって,地域福祉の全体

像を“一応"とらえることはできる。しかし,それらは静態的で現状説明型の地域福祉論にと

どまるという制約を抱えている O また,現行の社会福祉政策・制度を所与のものとし,その枠

のなかで地域福祉の方向性を示すという理論的限界をもっている。

本質的には地方自治体の責任・役割を引き出す理論構成,地域福祉を推する原動力を明らか

にする理論が求められる。すなわち対象としての社会問題,それへの対応を求め問題を社会化

させる運動,それらに影響されながら統治的意図を込めて福祉政策を打ち出す政策主体(資本

主義国家) という三者の関係とそれぞれの構造をとらえ,変化 ・発展のうちに社会福祉をとら

えるべきであろう∞。

それには社会福祉を固定的で静態的なものとしてとらえるのではなく,国民の運動や民主主

義の力が原動力であるとする理論,社会福祉を支配階級の意図だけでとらえるのではなく,階

級聞の力動関係からとらえる理論に依処すべきであろう。この理論を前提に現実の社会福祉制

度・実践に変化・改革を迫るルートをみると (8) ①国民生活の実態や要求の変化という客観

的状況と,それを社会福祉の充実に結実させる国民の運動という主体的条件,②社会福祉実

践にかかわる理念や実践方針の理論的発展,③政策主体の改革プラン ・政策方針があげられ

る。基本的には①が,社会福祉の変化 ・発展の基点にならなければならない。生活実態や要求

に合致しない実践や制度改革は,住民や当事者の立場にたった社会福祉にならなし、。しかし,

階級社会では政策主体は国民の生活実態や要求,運動に即して政策をうちだすというよりも,

それに対応しつつ社会統合や社会サービスの市場化 ・営利化の意図,集権的行政体制の維持,

財政抑制のねらいをこめて政策化をはかる。そこで,政策を住民生活や当事者の要求にできる

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地域生活の構造と地域福祉の理論課題 (岡崎祐司)

だけを合致させるように,実践や運動を展開し問題を是正する必要性がでてくる O これが,資

本主義における社会福祉がおかれている現実である。

( 2 )地域福祉の主体論

こうした社会福祉の変化と発展の原動力を重視する理論的立場から,地域福祉は理論的にど

うとらえるべきだろうか。そこで重要になるのは主体論,対象論,目的論である (9)。地域福祉

理論の構成はそれらだけではないが,それらが明らかにされることによって方法論,実践論あ

るいは供給論,運営論が方向を定めることができる。地域福祉の主体,対象,目的をどう理論

的にとらえるかは,その理論の性格,理論的立場を規定するものになってくる。

地域福祉の主体は住民主体, 実践主体,政策主体ととらえることができるが,中心になるの

は住民主体である O しかし,これを地域福祉における住民の自己決定とみなす規定や,活動の

担い手とすえる規定だけでは,歴史的な視点で限界をもつことになる。住民主体とは,地域住

民は地域福祉組織 ・活動の担い手であり,かっ地域福祉を主権者として主導するという二重の

意味で主体であるということである。後者は,地域で社会福祉の責任主体=政策主体の役割を

発揮させ,また社会福祉専門機関 ・施設と福祉職の機能を地域に引き出し,福祉理念にそった

地域をそれぞれがっくりだすことを意味している。この場合,政策主体である国家と地方自治

体の歴史的階級的性格からいって,地域福祉に関する主権者住民の意志と政策主体の側の意図

はまったく 一致するわけではない。 したがって,政策主体を住民の生存や権利,発達にかかわ

る共同業務を担うよう民主的に変革させる運動と結びつかなけれはならなし、。住民主体はあく

まで地域福祉に限定しなければならないが,それは住民主体が住民運動や住民自治の運動に繋

がっていくことを否定するものではない。

住民主体は地域福祉活動原則という以上に,主体形成という社会的課題に引き付けて捉えな

ければ実践的にも展望はもてなし、。なぜならコミュニティ ・ワーカーが地域に働きかけるとき

に,すでに福祉課題に自覚的で組織化された住民が存在しているわけではなく,情報提供,体

験,交流,議論など広い意味での学習活動の編成 ・組織を通じて住民の成長を支援し,主体形

成をめざさなければならなし、からである。住民主体は単なる原則にとどまらず,地域福祉の実

践過程そのものであり課題でもある O 地域の福祉課題をめぐって主体形成が目指されるとすれ

ば,それが地方自治の主体形成につながり発展すると考えることは理論的に当然である。

さらに地方自治を担うということでいえば,自治体への要求だけではなく地域生活に必要な

福祉事業を自ら起こしていくこと, 社会福祉法人だけではなく, NPOや協同組合, 社会的企

業をっくり地域福祉サービスを起業する運営能力 ・経営能力をもっ主体の形成も展望されなけ

ればならなし、。これらは地域福祉における非営利協同セクタ ーの可能性,あるいは社会的経済

における地域福祉領域の可能性として理論的 ・実践的に検討する価値がある課題である。

付け加えるならば,住民主体の形成を働きかける社会福祉協議会などのコミュニティ・ワー

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社会福祉学部論集第 4号 (2008年 3月)

カーは地域福祉の実践主体の一人であり,その存在ぬきには住民主体は展望できなし、。政策主

体は,住民が主導する地域福祉の基盤・条件を整備する責任と役割を負っている。それは,社

会福祉協議会やコミュニティ ・ワーカーの財政的保障,地域の社会福祉制度の整備,施設サー

ビス・在宅サービスなどサービス基盤整備,非営利協同のための地域金融システムや財政シス

テム構築である。地方自治体にとって地域福祉の基盤 ・条件とは,住民自治の内実を充填する

住民活動を活性化することであり地方自治体の充実につながっている。

( 3 )地域福祉の対象論と目的論

地域福祉の対象は,①地域の共同性の衰退・解体にともない共同・協力なと地域生活援助

が必要になっている住民, ②地域の社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)の不足 ・欠

如, それからの排除からくる地域生活問題,③地域における社会福祉の対象 i )政策主体

により対象化された社会福祉制度の対象, ii)制度対象になっていないが対応するべき貧困問

題 ・生活問題である(制度対象化が求められる問題), ととらえることができる O ①は住民の

福祉活動で対応できる対象であるが,社会福祉専門職の対応ケースでそれを補助 ・援護するこ

とで専門的サービスの効果を高めたり,対象者の生活の質を高めたりするケースも含まれる。

②は当面,その緊急性 ・必要性から地域福祉で対応するが,中長期的には地方自治体や専門機

関への対応に転換 ・発展させる問題である。地域福祉の対象論は制度対象に限定されるわけで

はなく,むしろ地域の福祉ニーズを掘り起こし社会化したり,住民要求をまとめ整理したりす

る地域福祉活動を前提にしているもので,運動的要素を含んでいる O ③は社会福祉制度の拡充

を求める住民活動や当事者運動につながってし、く対象である。これらのことから地域福祉の対

象は住民の活動やサービスによってのみ対応するものだけではなく ,そこから政策的対応を引

き出そうとする部分を含んでいる。政策主体に働きかける運動主体としての住民主体論に関連

している O

では地域福祉の目的とはなにか。住民の個人の尊厳の保障(日本国憲法 13条),生存権の保

障(日本国憲法 25条),ノ ーマライゼイシ ョン,ソー シャル ・イ ンクルージョン(社会包摂),

あるいはそれらが実現する地域つ、くり,だれもが安心して住み続けられる地域づくり,多様な

人々が共に生きられる地域づくり,などとさまざまに表現されているが,方向性は一致してい

る。地域福祉の目的論については,理論による立場の違いは特にないようにおもわれる。しか

し,次の点で理論的分岐点がある。それは,地域福祉がこうした目的をかかげそれをめざすう

えで,その社会的阻害要因や逆流させようとする社会的潮流をとらえているかいないか,それ

にどういう態度を示すかということである。

今日の日本社会の情勢にてらしていえば,グロ ーパル化に対応して多国籍企業の成長と競争

力強化を主眼に,財政・金融・社会政策・教育・地方自治制度など社会制度・社会的規制を解

体 ・緩和し市場化・ 営利化を推進している新自由主義改革を批判的検討の射程に収めているか,

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地域生活の構造と地域福祉の理論課題 (岡崎祐司)

少なくとも視野にいれているかである。新自由主義改革の影響を地域に限定しでも,地域産業

の空洞化, 中小企業の衰退,正規雇用の減少と非正規雇用の増大(置き換え),ノト規模農家の

離脱や耕作放棄地の拡大にみられる農業の疲弊,商居街の衰退,自営業者の減少など地域経済

の落ち込みは激しく住民生活の物質的基盤はかつてなく弱くなっている。

また新自由主義改革の展開を社会福祉や医療に視野を移せば,社会福祉制度改革においては

介護保険制度改革や障害者目立支援法にみられるように,利用者と事業者の契約利用制度,個

人に着目した給付(事業者への出来高払しつによる社会福祉事業体の経営悪化,利用者の負担

増大,利用者の利用抑制がみられ,医療制度改革では患者負担の増大や医療サービスの抑制や

締め出しがみられる。社会福祉制度および医療制度の改革は,社会福祉,医療の準市場化と営

利化を促進するものになっている。社会福祉,医療は対象者の必要(ニーズ)に応じてだれに

も平等に提供されるはずであったが,営利化を帯びた市場化は社会福祉や医療によって経済的

能力に差のある個人に格差をつける改革になってきている O これらだけをみても,新自由主義

改革が貧困の増大と格差拡大をもたらし,地域福祉がその目的にそって歩むこと阻んでいるの

は自明である O したがって,これを転換させるか,代替する改革を求めることは,地域福祉論

からいって当然、の立場である。

市場万能主義,競争至上主義は歴史的に新自由主義改革が推進される段階にだけ固有のもの

ではなL、。資本主義は剰余価値の拡大を最大の推進的動機として変化 ・発展するものであり,

資本蓄積のための資本蓄積,生産のための生産といわれる利潤追求至上主義があらゆる領域で

の市場拡大,競争激化を迫る。それらにより飛躍的な生産力の発展がもたらされるが,労働問

題,貧困問題,環境問題など社会矛盾もその上昇的発展にともなって拡大深化する。そこで,

社会は人権や民主主義の思想、に裏打ちされた民衆の運動の発展におされて,社会的規制や社会

制度を準備してきた。これらを解体するのが新自由主義改革である O これに対抗して社会的規

制を強化し,社会制度の維持 ・発展をはかり,営利資本だけに市場を支配させない多元的経済

社会を市民の力でめざそうとする理論探求も生まれている O 地域福祉の原動力として市民の運

動を重視する立場からいえば,基本的にはこうした流れに同調し呼応していくことが,実践的

にも理論的にも重要になってきているO

4. I地域の福祉力」論とこれからの地方自治,地域社会

( 1 ) I地域の福祉力」とはなにか

これまで述べてきたような観点から今後の地域福祉の方針として重視されるべきなのが,

「地域の福祉力」論である。この点でも大きな理論的貢献をはたしたのが真田是の理論であ

る(10)。真田のいう 「地域の福祉力」 とは,住民の組織された力が地域で福祉の社会資源を活

かしきりまた必要な社会資源をっくり出し,さらには地域から福祉に反し福祉に合わない物事

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社会福祉学部論集第 4号 (2008年 3月)

を取り除いていく力量である。この 「地域の福祉力」は地域福祉推進の方針として位置づける

ことができ,コミュニティ・ワ ーカーの実践方針とすることができる。

「地域の福祉力」には 「出口」の側面と 「入口」の側面がある。 「出口」としての福祉力とは,

国,地方自治体の社会福祉制度 ・施策を地域の実情に合わせて運用しきり生かしきり最大の効

果を発揮させうる力であり,そのためには1)社会福祉制度を利用することについての偏見や

特別視を一掃する力,そのことに偏見がない地域の状態つまり制度 ・施策の具体化にあたって

それを阻む障害が取り除かれるか最小限にされ,社会福祉を権利として認め保障する環境が地

域につくられること, 2 )社会福祉制度 ・施策が利用しやすい具体的な措置, すなわち①利

用者 ・住民への情報提供が確実になされていること, ②制度 ・施策へのアクセスが保障され,

公的機関・相談機関が民主的な受容性を備え, リソースパーソン(民生委員・児童員など)が

福祉の権利性の思想を具体化する態度 ・方法を備えていること, 3)地域ケアシステムの整備

であり,その動脈として行政,医療機関,社会福祉施設などの専門機関の地域配置と連絡調整

や地域活動,社会福祉 ・医療 ・保健の専門家による地域活動があり,補助的 ・援護的にこの動

脈を有効に機能させる地域住民の体制,住民福祉活動である。

「入口」 としての福祉力は,地域における福祉の発展につながる力であり, 国や地方自治体

の福祉水準を高めようとする力である O まず,1)地域での実践を通して社会福祉制度・施策

を検討 ・点検し,その不備や遅れを指摘し,国や自治体に戻していくフィードパック機能と具

体的な提言を行ってし、く体制であり力である O そのためには,①地域住民の要求を満たすた

めの活動 ・運動が行いやすい環境を整えていること,②公的機関 ・相談機関やリソースパー

ソンが地域住民に聞かれており,利用者,当事者が重視され,機関やメンバーがそれらの要求

を読み取ろうとする姿勢をもつこと,③地域住民としての社会福祉改革 ・補正のプランを具

体的に提起できるようになること,福祉計画策定に参加し住民要求を反映させること,である O

もうひとつは, 2)ソーシャル ・アクションである。地域福祉を推進していくのに必要であり

ながら,欠けている資源を要求し整える社会力として,道理にかなった世論つ、くりや良識と節

度ある住民の行動力である。「入口」というのは,社会福祉制度 ・施策に影響を与えたり変

化・発展させたりする力が入力される場として,地域福祉があるという意味である。

「地域の福祉力」にはさらに,高い次元のありかたが想定されている。それは, ます1)地

域に 「福祉優先」の実が挙がっていることである。その内容は ① 「福祉優先」の考え方の地

域での定着,すなわち人間尊重,生活と健康,基本的人権を互いに守りあうために,必要な制

度 ・施策は公的に用意するよう努力し,必要な地域的対応は協力しあって実現しようとする考

え方が住民の聞に広がり支持を受けていること, ②実際面での 「福祉優先」 の真撃な追求,

すなわち地域の経済 ・産業,教育・文化,交通,建設などの政策において,それが地域住民の

生活と健康,基本的人権にどのような影響が予測されるのか,とりわけ高齢者,児童,障害者,

単親家庭,病弱者にどのような影響を及ぼすかのアセスメン卜が科学的に行われることなど,

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地域生活の構造と地域福祉の理論課題 (岡崎祐司)

福祉以外の問題を考え取り組み場合も常に福祉面から検討されるやり方の確立,の二つである O

さらに 3)地域における社会問題,反福祉的状況を取り除ける高次の段階がある。

( 2 )地域福祉と地方自治の関係

このように 「地域の福祉力」が社会福祉制度 ・施策を地域で活用し必要な住民に確実に届け

るという機能をもっとすれば,それを活かし生活保障の体系を地域でつくるという政策目標を

地方自治体はもつべきであろう O 社会保障制度も社会福祉制度もナショナルな性格をもつもの

だが,地方行政や福祉相談機関が窓口になることが少なくなし、。制度の給付・ サービスを必要

な国民に確実に結びつけ漏給を防ぐには,情報提供, 手続き ・申請の保障,給付のシステムを

行政責任で地域ごとに整える必要がある。それを地域生活保障の体系というとすれば,その視

点で福祉行政とくに福祉事務所など相談機関のありかたを再編していくことが求められる O

真田の理論に付け加えるならば,I出口」 と 「入口」の双方の意味をもっ住民独自の福祉活

動がある O すなわち,要援護者 ・要配慮者の見守り体制づくり,交流 ・コミュニケーションの

ための場づくりや生活要求や地域生活の様式に引き付けた予防活動の場づくり(サロン活動),

日常生活支援活動(家事援助,外出支援など),福祉 ・保健医療専門職を地域に号|き付ける福

祉情報提供や住民の目線にあった学習活動などである。 これは, I出口」である地域ケアシス

テムの専門サービスの補助 ・援護になる場合と,それとは独自に行われる活動がある O 独自の

住民福祉活動は 「出口」と 「入口」の力を結び、つけ, I地域の福祉力」を高めることになる。

さらに「入口」の「地域の福祉力」の高次のものとして付け加えなけれは、ならないのは,住

民が地域lこ必要な事業 ・システムを起業すること,すなわち非営利協同による地域福祉の事業

的推進や社会的共同生活手段(社会的共同消費手段)の創出である O これは地域福祉の主体論

のところですでに述べたとおりであるが,制度の谷間にある福祉ニーズや制度外になっている

が福祉ニーズがある住民への福祉サービス(家事援助,外出支援などで法定外ということにな

る)や,社会福祉制度もとでの事業体になることも含まれる。また,医療,移動保障や地域産

業,文化と福祉を結び、つけた事業もある O 社会的使命をもった非営利事業体を住民主体で起こ

し,社会福祉供給の多元化に加わり社会福祉準市場の営手リイヒへの傾斜を防ぐという戦略を地域

でつくることである。この戦略は,住民主体の地域福祉をめざす社会的使命をもっ非営利事業

体を地域に生み出すこと,非営利事業体の連携 ・共同を 「地域の福祉力」を背景にっくり地域

全体の福祉水準の向上をめざすこと,住民本位の制度改革や制度創出を政策主体に迫る運動を

地域住民 ・当事者とともにっくりだすことによって,新自由主義改革の流れがある下でも準市

場の営利化への傾斜を防ごうとするものである。 中長期的には,社会的使命をもっ非営利協同

が主流となる準市場のシステムを目指すものである。

ここまで真田是の 「地域の福祉力」論を手掛かりに,地域福祉の推進方針を考察してきた。

検討のテーマであった地方自治体と地域福祉の関係,経路はどうおさえればよいであろうか。

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社会福祉学部論集第 4号 (2008年 3月)

これまで述べてきたように 「地域の福祉力」論は地方自治体のありかたを検討の時外において,

住民だけの領域として地域福祉を推進しようとするものではなし、 「地域の福祉力」 論では権

利としての社会福祉制度の活用,地域における行政機関の体制を前提に発揮させるものであり,

またその発揮を通して政策主体へ要求を返し地域から提起・提案をする経路を確立しようとす

るものであるo I地域の福祉力」 によって住民本位の地方自治体を形成する志向であり,行政

責任を具体的に地域に引き出そうする志向である。また,そのために地域福祉を担う住民組織

の民主化, 当事者への理解, リソースパーソンの民主的成長,個人の尊重が必要とされている O

動員型,旧い体質の共同では果たしえない力量である。 したがって,地方自治体は 「地域の福

祉力」の高まりを受けて,行政活動を発展させ行財政のあり方,制度のあり方を住民本位に改

革することが迫られる。住民自治の福祉領域への翻訳が 「地域の福祉力」である,といってよ

いだろう。そのための基盤 ・条件整備が,地方自治体の役割になるのは当然である。

また,住民が福祉活動や非営利協同を担い発展させることは,住民組織と地方自治体の協働

によるコミュニティの形成,地域の活性化の道を模索することである。新自由主義改革の戦略

は小さな中央 ・地方政府一行政の仕事の再市場化と地域間競争による活性化であるが(実は小

さな政府といっても,社会問題は深刻化し社会が不安定になるので権力的業務は強化され,独

占資本のグローパル化のもとでの蓄積を支えるため軍事力も強化される),それに替わる政府

と住民組織との協働,多元的な経済社会の創出,公共サービスの維持,地域間連携と持続可能

な地域づくりという新しい民主的地域管理が求められている。それを生み出すひとつの領域

(地域福祉実践を通しての)土壌として, I地域の福祉力」をとらえることもできる。

ただし,住民の共同や連帯と地方自治体のありかたに関して留意しておくべき論点がある。

住民の共同や連帯の発展は行政が介入したり,一方的に方向付けたりするべきではなL、。あく

まで,住民の意志で形成されるべきものである。 しかし,地域における地域産業が衰退し,そ

れにともなう人口高齢化,行政施策 ・サービスの後退や公共的機関(金融機関や郵便局, 農協

を含む)の撤退,行政からの住民活動への財政支援の縮小などが起こると,住民の共同は大き

な負担を背負わされ持続できない危険性が高まる。簡易共同水道の維持が困難になる, 山林の

管理ができず山が荒れ災害の発生が多くなる,高齢者の医療機関 ・行政機関への移動が地域の

助け合いだけだは確保できない,緊急時の対応ができなくなっているなど,市町村合併が進ん

だ過疎地の周辺部では,住民共同の限界がみられるようになってきている(11)。 都市部におい

ても,高齢化にともない地域共同が弱くなってきている地域がでできている O 産業政策,地域

政策,地方行政のありかたがどうであろうと,住民の意欲と創意工夫さえあれば地域の共同は

機能するというものではなく,その基盤 ・条件は公的にも整備しなければならない。地方自治

体は無条件に住民組織と協働できるわけではなく,住民組織が維持 ・発展できる政策のありか

たを同時に追及しなければならなし、。行政活動を地域から大きく後退させておいて,住民組織

と協働をしようとするのは空想にすぎなし、。社会福祉基礎構造改革において 「公助,共助,自

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地域生活の構造と地域福祉の理論課題 (岡崎祐司)

助」が強調されてきているが,これも同様に公助がどうあろうと共助,自助が機能するわけで

はなく,公助の責任と役割をはたし,共助,自助と連動することが基本である。

終わりに

以上の検討の根底にあるのは, I人間社会とその歩みにとって今日地域福祉はどういう課題

を課され期待を寄せられているかJ(J2) という問題意識である O それは, 社会発展をどうとら

えるかにかかわる。資本主義における生産諸力の発展,それによる市場の拡大は人間の諸欲求

を発展させ, I日L、社会関係に縛られた人聞を解放したが,生産関係に基因する社会的諸矛盾が

社会問題として拡大深化 していくため,それに対応する社会制度や規制を,困難を担わされた

民衆の運動に押されて国家は整備するようになった。その過程で人聞は民主的管理や自治,連

携 ・コミ ュニケーシ ョンの経験を積み重ねる。そして,共生 ・協同の社会の実現可能性が目前

にせまれば,その極措となる生産諸関係の変革に歩みはじめるだろう。民主主義が全面的に開

花してはじめて,発展した生産力を管理し成果を共同社会のために再分配することが可能とな

り,全ての個人の自由と尊厳を保障する社会を展望することができる。これを未来社会の問題

としてだけではなく,今日の地域社会や社会改革にもかかわる課題として,地域福祉論の方向

を探ろうとしたのが本稿のねらいである O

〔注〕

(1)武川正吾「地域福祉の主流化と地域福祉計画J(武川編『地域福祉計画一ガノ¥ナンス時代の社会福

祉計画』有斐閣, 2005年), 23 ページ~ 24ページ。

( 2) I福祉は行政が行うもの」という意識を改めるというのは誤りであるが,I福祉は行政だけが行う

もの」という意識を改めるのであれば誤りではなL、。福祉には住民参加や共同の力が必要だから

であるO また「福祉は行政処分で対処するもの」 という意識を改めるというのも誤りである。福

祉行政の全てが行政処分で構成されるわけではないが,措置や要介護認定など行政処分でなけれ

ばならないものもある。福祉行政から行政処分をなくするというのは,福祉行政をやめるという

のも同じである。また, I意識を改める」という表現も適切ではない。行政は職員が意識を改めれ

ば変えられるというものではなL、。不正確というだけではなく ,ありえない表現はここではみら

れる。ただし,行政処分だけではなく, ほかの行政手法も駆使するというであれば,意味はわか

る。

( 3 )ナショナル ・ミニマムについては,金津誠一「序章 現代の貧困J(金津編著『公的扶助論』高菅

出版, 2004年), 5ページ参照。

(4 )ここでいう地域は,市町村(平成の合併の場合,合併前の市町村の)エリア, 中学校 ・小学校区

エリア,自治会 ・町内内エリアの三層からなる地域のそれぞれをさしているが,住民の生活圏に

なっている地域である。

( 5 )ソーシャル ・インクルージョン(社会的包摂)は,貧困者,不安定就労者,少数者を排除する現

代社会の構造に対して,所得保障,就労保障, 社会サービス, 社会的関係資本の再構成によって

市民社会に包摂をしようとする取り組みである。 これを人々の「つながり」の再構築として取り

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社会福祉学部論集第 4号 (2008年 3月)

上げ注目されたのが,厚生省(当時)の検討会である ri社会的な援護を要する人々に対する社会

福祉のあり方に関する検討会」報告書Jl(2000年 12月8日)である。ソーシャル ・インクルー

ジョンについては,日本ソーシャルインクルージョン推進会議編『ソーシャル ・イ ンクルージョ

ン 格差社会の処方重量』中央法規, 2007年を参照。

( 6 )共同社会的条件として社会的共同消費手段と社会的一般労働手段を最初に理論化したのは宮本憲

一『社会資本論(改訂版)Jl有斐閣,1976年であろう。また,社会的共同消費手段を「都市的生活

様式」にかかわらせて理論的に検討した点では,遠藤晃「現代都市の生活問題J(小倉裏二,真田

是編『地域のくらしと社会保障』法律文化社,1978年)の意義が大きい。本論の地域生活構造の

論理は両著書に依るところが大きい。また, ほかに松村祥子,岩田正美,宮本みち子『現代生活

論』有斐閣,1988年,江口英一編著『改訂新版生活分析から福祉へ 社会福祉の生活理論

一一』光生館,1998年を参照。

(7)このことを理論化したのは, 真田是「社会福祉の三元構造」である。真田 『新版社会福祉の今日

と明日』かもがわ出版,2003年,真由『現代の社会福祉理論』労働旬報社,1994年,真田編『戦

後日本社会福祉論争』法律文化社, 1979年を参照。

( 8 )拙稿「地域住民と共同でつくる社会福祉の道J(福祉労働 ・福祉経営研究会編『民間社会福祉事業

と公的責任』かもがわ出版, 2003年参照。

( 9 )以下の地域福祉の主体論,対象論,目的論については拙稿「地域福祉の構成要件J(藤松素子編

『現代地域福祉論』高菅出版, 2006年)で詳しく説明している。

(10)真田是『地域福祉の原動力』かもがわ出版, 1992年参照。なお,本稿の「地域の福祉力」の説明

は, 真田理論を基本にしながら, 今日の状況に応じて表現をかえ, 内容を追加している部分があ

る。

(11)過疎地域の共同がいまかかえている問題については, 以下で詳しく報告している。後藤道夫, 杉

村宏, 岡崎祐司「座談会 格差拡大社会の現実とこれからの最低生活保障の展望J(r総合社会福

祉研究』第 31号,総合社会福祉研究所, 2007年 10月)

(12)真田是『地域福祉の原動力Jl(前掲), 160ページ

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(おかざき ゅうじ社会福祉学科)

2007年 10月 17日受理