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土壌の間隙構造と溶質移動特性に関する研究
土質改善学分野 濱本昌一郎
はじめに
土壌中にある肥料成分、農薬、その他の塩類などは、土壌水に溶解して移動する。
化学肥料の効率的利用
肥料・農薬の地下水汚染
土壌中での溶質移動現象を明らかにする事が重要
はじめに
土壌中の溶質移動
土壌中の水移動による移流 溶質の濃度差による拡散+
分子拡散
水理学的分散
はじめに
移流
Jc (移流フラックス)= vθC
V: 間隙流速(cm/s)θ:体積含水率 (cm3/cm3)
C:溶液濃度 (mol/cm3)
:溶質
間隙中の水の流れ間隙中の水の流れ
はじめに
分子拡散(拡散)
:溶質
Jd (拡散フラックス)xCDs ∂∂
=xC∂∂
:濃度勾配 (mol/cm4)
Ds:土壌中の拡散係数(cm2/s)
はじめに
水理学的分散
溶質の流れ 土壌水の流れ
xCDh ∂∂
=Dh:水理学的分散係数 (cm2/s)
Jh (水理学的分散フラックス)xC∂∂
:濃度勾配 (mol/cm4)
はじめに
溶質移動式
溶質フラックス = 移流フラックス+拡散フラックス
+水理学的分散フラックス
∂∂
+∂∂
−=xCD
xCDCvJ hsθ
目的
土壌中の水移動は、間隙構造に大きく影響されるため、溶質移動も間隙構造の大きな影響を受ける。
本研究では、土壌の間隙構造(間隙径分布)に重点
を置き、異なる土壌において溶質拡散試験・溶質流出試験を行い、得られた拡散係数・流出曲線・水理学的分散係数から溶質移動形態に関する考察を行なうことを目的とする。
方法
北海道大学附属農場の表層(北大土)
厚田の下層 (砂)
十勝清水の表層(黒ボク土)
対象土壌
塩化物イオンをトレーサーとし、CaCl2溶液を使用した。
対象溶質
実験項目
1. 水分特性曲線から判断する
間隙径分布
2. 溶質拡散試験から拡散係数
の決定
3. 溶質流出試験から水理学的
分散係数の決定
方法
1. 水分特性曲線から判断される間隙径分布
0~-5kPaに相当する間隙が保持する水は、重
力水に相当し容易に移動する。
水分特性曲線において、0~-5kPaに相当する
間隙の全間隙に対する割合から、それぞれの土壌の間隙径分布について考察した。
方法2. 溶質拡散試験
C=Ci C=C0C=Ci C=C0
蒸留水で含水率の調節CaCl2溶液で含水率の調整
2L
2L
時間0
C=Ci
C=C0
時間 t
塩化物イオン濃度
L
得られた溶質濃度分布と溶質移動式を適合させ、拡散係数Dsを決定する。
方法3. 溶質流出試験
H1 cm
15cmH2cm
流入側負圧H1と流出側負圧H2を調節し、
二種類の流れ(高水分高流速,低水分低流速)で流出試験は行なわれた。
流出曲線の概念図
1.0
得られた流出曲線と溶質移動式を適合させ、水理学的分散係数Dsを決定
する。
C/C0 0.5
C0:流入溶液Cl-濃度
C:流出溶液Cl-濃度
0.0
0.0PV (pore volume)
1.0 2.0
結果及び考察
1. 水分特性曲線から判断される間隙径分布
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0
土壌水分吸引圧 (-kPa)
体積
含水
率(m
3m
-3)
北大土
砂
黒ボク土
-5kPa
90.0%
38.9%
34.1%
0~-5kPaに相当する間隙
の全間隙に対する割合
砂:90.0%
北大土:34.1%
黒ボク土:38.9%
砂・北大土・黒ボク土における水分特性曲線
水分特性曲線から判断される間隙径分布
砂は0~-5kPaまでに相当する間隙が
大部分を占め、偏った間隙径を持っている。
北大土・黒ボク土は-5kPa以降に相
当する間隙も充分存在し、多様な間隙径を持っている。
結果及び考察
2. 溶質拡散試験
相対拡散係数と体積含水率
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80
体積含水率 (m3 m
-3)
相対
拡散
係数
Ds/
D0
北大土
砂
黒ボク土
土壌中の拡散係数Ds自由水中の拡散係数D0 拡散領域の減少と拡散経路
の屈曲性が増大するため
・低含水率になるに従い相対拡散係数の低下
・同含水率で砂>北大土>黒ボク土の順で拡散係数は低下
北大土・黒ボク土の拡散経路の概念図
水の存在する最大間隙径が小さい(砂は大きい)多様な間隙径 (砂は偏った間隙径)
・
・
拡散経路の屈曲性の増加
北大土・黒ボク土の拡散係数の低下
結果及び考察
3. 溶質流出試験
流出曲線:砂
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
PV
C/C
0
v=
v=
3.12×10-4(cms-1),θ=0.32
2.21×10-4(cms-1),θ=0.22
砂における高水分高流速、低水分低流速下における流出曲線
低水分低流速になると、曲線の勾配は緩やか
→溶質がよりばらついて流出した。
北大土における高水分高流速、低水分低流速下における流出曲線
黒ボク土における高水分高流速、低水分低流速下における流出曲線
流出曲線:北大土
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
PV
C/C
0
v=
v=
1.73×10-4(cms-1),θ=0.51
1.36×10-5
(cms-1
),θ=0.44
流出曲線:黒ボク土
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 0.5 1 1.5 2 2.5
PV
C/C
0
v=
v=
1.99×10-4(cms-1),θ=0.58
7.85×10-5(cms-1),θ=0.50
低水分低流速になると、曲線の勾配は緩やか
→溶質がよりばらついて流出した。
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
PV
C/C
0 北大 v=1.73E-04(cm/s),θ=0.51
砂 v=3.12E-04(cm/s),θ=0.32
黒ボク土 v=1.99E-04(cm/s),θ=0.58
高水分高流速(-1.05kPa)下における流出曲線
・ 北大土>黒ボク土>砂の順で、溶質が現れ始める。
溶質の流れ
土壌水の流れ
砂の高水分高流速下における溶質移動
北大土・黒ボク土の高水分流速下における溶質移動
間隙径が偏っており、間隙間の溶質の混合によって、均一に流出する。
間隙径が多様であり、間隙間の流速のばらつきが大きく、溶質が均一に流出しない。
水理学的分散係数
Dh (cm2s
-1)
北大土 高 1.76×10-4
低 2.17×10-5
砂 高 3.03×10-5
低 1.06×10-4
黒ボク土 高 8.16×10-5
低 3.69×10-5
溶質流出試験結果
高:高水分高流速
低:低水分低流速
溶質移動のばらつき 小 溶質移動のばらつき 大
溶質の流れ
溶質移動のばらつき 大
土壌水の流れ
溶質のばらつき 小
砂の低水分低流速における、溶質移動
水みちの連続性が悪くなり、間隙間の混合が悪くなる事で、溶質移動がばらついて行なわれた。
水理学的分散係数Dhの増加
北大土・黒ボク土の低水分低流速における、溶質移動
間隙径間の速度差が減少することで、比較的均一な溶質移動になった。
水理学的分散係数Dhの減少
分散長λ
一般に、水理学的分散係数Dhは間隙流速vに比
例する
vDh λ= λ:分散長(cm)
分散長は一間隙流速当たりの水理学的分散の大きさを表し、混合の尺度となる。
分散長が大きいことは、溶質の混合が悪く、溶質移動が均一には行なわれないことを示す。
溶質流出試験結果
低水分低流速になると、すべての土壌で分散長は増加しており、より溶質移動がばらついて行なわれたことを示している。
分 散 長λ (cm )
北 大 土 高 1 .0 1低 1 .5 9
砂 高 0 .1 0低 0 .4 8
黒 ボ ク 土 高 0 .4 1低 0 .4 7
高:高水分高流速
低:低水分低流速
低水分低流速下において、流出曲線の勾配が緩やかになったことを意味する。
まとめ
低含水率は拡散経路の減少と屈曲性を増大させ,拡散係数を低下させる
・・
・
同じ体積含水率において、土壌間によって拡散係数は大きな差がみられ、これは屈曲性の違いによると考えられた。
・流出試験から、すべての土壌で低水分低流速になると分散長は一様に増加し、このことは、流出曲線の勾配が緩やかになることを意味した。
・
土壌間によって、低水分低流速になるときの水理学的分散係数の変化に違いがあった。
本研究から、間隙径分布の相違が溶質移動形態に大きく影響を与えることが明らかになった。
2. 溶質拡散試験
黒ボク θ=0.51 t=216(hr)
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 5 10 15 20
distance (cm)
C/C
i
measured
fitted curve
黒ボク θ=0.65 t=215.9(hr)
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 5 10 15 20
distance (cm)
C/C
i
measured
fitted curve
より拡散現象が顕著に表れた。