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PGSE-NMR 法による拡散測定の均一系への応用 —有機電解液 — 2008/2/11 早水紀久子 1.はじめに 2.拡散とは(古典的なアプローチ) 3. PGSE-NMR で測定する自己拡散係数 4.リチウムイオン二次電池用有機電解液の自己拡散係数 4.1 単一溶媒の有機電解液の自己拡散係数 4.2 無限希釈領域での有機電解液の自己拡散係数 4.3 二液混合有機電解液の自己拡散係数 4.4 種々のリチウム塩を溶解した有機電解液の自己拡散係数 5.イオン伝導度とイオン拡散係数の相関関係 5.1 無限希釈度への外挿 5.2 単独溶媒の有機電解液 5.3 二液混合系有機電解液 5.4 六種類のアニオンを溶解したリチウム塩有機電解液 6. Li/Li 対称セルを用いた電圧印加時のイオン移動の in-situ 観測 7.むすび 1

PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

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PGSE-NMR 法による拡散測定の均一系への応用

—有機電解液 —

2008/2/11 早水紀久子

1.はじめに

2.拡散とは(古典的なアプローチ)

3. PGSE-NMR で測定する自己拡散係数

4.リチウムイオン二次電池用有機電解液の自己拡散係数

4.1 単一溶媒の有機電解液の自己拡散係数

4.2 無限希釈領域での有機電解液の自己拡散係数

4.3 二液混合有機電解液の自己拡散係数

4.4 種々のリチウム塩を溶解した有機電解液の自己拡散係数

5.イオン伝導度とイオン拡散係数の相関関係

5.1 無限希釈度への外挿

5.2 単独溶媒の有機電解液

5.3 二液混合系有機電解液

5.4 六種類のアニオンを溶解したリチウム塩有機電解液

6. Li/Li 対称セルを用いた電圧印加時のイオン移動の in-situ 観測

7.むすび

1

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1.はじめに

パルス磁場勾配NMR(PGSE-NMR)法による拡散現象の測定法については「PFG-NMR法による拡散現象測定の手引書」http://www.jeol.co.jp/technical/ai/nm/pfg-nmr_02.pdf に

記してあるので、測定を始めようとする方は参考にしていただきたい。ここでは

PGSE-NMR法で測定した自己拡散係数 Dをどのように解析するか、どのような現象が

わかるか等についてリチウム電池用有機電解液を中心に述べたい。電解液は溶媒と電解

質塩(溶解してカチオンとアニオンとして振舞う)から構成され、溶媒和、イオン会合と

イオン解離などの現象があるが、系全体としては均一系として考えられる。すなわち、

拡散している成分(粒子)が単一の自己拡散係数 D(温度に対しては敏感であるが、

測定時間の長さに依存しない物理定数)で記述できる系である。 NMR 法によって多くの系で拡散現象の測定は可能である。高分子、バイオ、界面活

性剤を含む系、膜、多孔性物質などにおける小さな分子(水、イオン、有機化合物、ガ

ス等)の拡散など広範囲の分野で研究対象になっている。事実、“Diffusion”と”NMR”をキーワードにして検索すれば驚くほど多くの文献があらわれる。私はそれを広く概論す

るつもりはなく、私の測定したリチウム電池用有機電解液の実験結果を中心に説明した

い。電気化学のパラメータとイオンの自己拡散係数については「電気化学:測定と解析

のてびき」に解説してある[1]。また、高分子電解質とゲル高分子電解質は均一系では

ないが、イオンや溶媒、また高分子鎖が拡散する。ポリエチレンオキサイド(PEO)系

については高分子論文集に纏めてあるので、興味をお持ちの方は参考にしていただきた

い[2]。リチウム二次電池用有機電解液の特性と機能は、地球環境と省エネルギー対策

として重要な電気自動車やハイブリッド自動車などへの車載用リチウム二次電池を設

計する上で不可欠な情報である。ここで述べる解析方法と基本的特性は研究開発に有用

であろう。

2. 拡散とは(古典的なアプローチ)

大学時代の物理化学の教科書には必ず拡散方程式が書いてあり、拡散方程式は基本的

な概念である。理論的研究は非常に広範囲で奥が深い。共同研究を長年にわたって行っ

てきた Prof. William S. Price (University of Western Sydney)が “NMR Studies of Translational Motions” を執筆中であり、その内容は広範囲にわたる拡散現象を NMR で

観測する時の理論が展開されているので、深くこの分野で研究したい方々は近いうちに

出版される本を是非とも参考にしていただきたい。ここでは PGSE-NMR 法によって観

測される均一系における拡散係数を理解するために必要なことを簡単に書いておく。

2

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拡散方程式を導くためには液体に濃度勾配があると仮定する。1855 年に Fick は拡散

の第一法則を見出す。即ち一次元での流れ six は濃度勾配に比例する。

xcDs i

iix ∂∂

−=

ここで Diが拡散係数(diffusion coefficient)と定義された。時間変化を取り込んだ Fickの拡散第二法則は

)( 2

2

xcD

tc

∂∂

=∂∂

となり初期条件が t = 0 で x = 0、c = c0 とすると

DtxeDtcc 4/2/1

0

2)( −−= π

x 軸でプロットすれば Gauss 曲線になる。時間 t の間にの粒子が動く平均距離 2xΔ は

2xΔ =2Dt

で与えられる。三次元で考えれば平均移動距離( ) =mean square displacement ΔR Dt6となる。

子が粘度 η の均一な媒体中を温度 T の時に平均速度一定で拡散する時の自

球形の粒

拡散係数 D は有名な Stokes-Einstein の式である。

srckTDπη

= (1)

こで粒子の半径は rs で与えられ、拡散半径あるいは Stokes 半径といわれている。 k は

さと媒体を

rs の粒子が粘性率 η の媒

ボルツマン係数、η は粘性率である。古典式では c = 6 とされている。 定数 c の大きさは溶媒と粒子の相互作用に依存する。拡散する粒子の大き

成する物質の大きさの比較から、理論的には c = 6(stick boundary condition)と c = 4(slip boundary condition)とされ、大きな粒子が小さな分子サイズの均一の媒体中を拡

散する場合が c = 6 であり、逆に小さな粒子が大きなサイズの粒子で構成される媒体を

拡散し、拡散粒子と溶媒との相互作用が小さい時 c = 4 になると解析されている。実験

的には c の値は必ずしも 4 と 6 の間にあるとは限らない。 Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径

中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

3

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れば拡散は速くなるという非常にわかりやすい式である。自己拡散係数 D は単位時間

に単位断面積を通過した物質量として定義されるので、SI 単位で m2s-1(104 cm2s-1)で

ある。純水の自己拡散係数は 30oC で 2.55x10-9 m2s-1、粘性率は 0.874 mPas(cP)であるの

で c = 6 として Stokes の拡散半径を計算した。

][109.0][1009.1])[1055.2(])[107973.0(6

][303])[10380.1(6

101293

123

nmmsmPas

KJKD

kTrs =×=××××

××== −

−−−

−−

ππη

ち H2O の拡散半径は 1.09 Å となる。もし c = 4 とすれば rs = 1.64 Å となる。参考ま

でに H2O の O-H 間距離は 0.958 Å(平衡距離)である。(数値は D の値を除いて全て化

学便覧)。また H2O のファンデルワールス体積 V は 20.6 Å3 と報告されているので、

V=(4π/3) r3 から計算すると r =1.70 Å となり、この値を rs とするならば cは僅かであ

るが 4 より小さくなる。さらに一般化して広く有機化合物を対象にするためには rs の

見積もりが必要になる。分子軌道法(MO 法)の計算からファンデルワールス体積 Vの算出法が提案され、原子や原子グループに対する値が示されている[3]。また系統的

に MO 法を用いて基準になる基本骨格の化合物のファンデルワールス体積を求めて分

子の種類を拡張するために原子や原子グループの寄与を加算してゆくと、興味のある有

機分子のファンデルワールス体積が計算できる。有機分子は必ずしも球形でない。ファ

ンデルワールス体積 V からファンデルワールス半径 r を見積もり、拡散半径の目安とす

る仮説は厳密でないという議論もあるが、実際に Stokes-Einstein 式を使って溶液内での

分子の拡散現象を説明する時に有用である。ファンデルワールス半径 r は単純に

3 4/3 πVr =

として計算できる。分子の形を無視しているが、実験結果から分子の並進運動を解析す

には有効なパラメータである。中性の有機分子だけではなく、イオン類、特にリチウ

PFG-NMR で測定する自己拡散係数

度勾配というような概念では

く、ランダムな Brown 運動をしている NMR 活性核種の並進運動の速さを測定すると

ム電池で使われているアニオンと溶媒、イオン液体のカチオンのファンデルワールス体

積とファンデルワールス半径については三菱化学の宇恵 誠博士の論文が参考になる

[4-6]。初期には拡散係数の測定は色素を入れてその広がり方を検出する方法や同位体元

素をドープする方法などで行われ、拡散の概念としては考えやすい。

3.

PGSE-NMR で測定する拡散現象では、濃度勾配とか温

4

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考える。即ち分子が磁場勾配を横切って移動する現象を観測する。重心が移動する現象

を測定するので特別な相互作用がない場合,同一分子のどのシグナル、どの核種 (例え

ば BF4の11B と 19F-NMR)を測定しても同じ拡散係数になる。磁場勾配を照射して拡散係

数を測定するため、色素や同位体元素などを混入しないので、測定系を乱すことなしに

データが取得できる無侵襲・非破壊の測定法である。 PGSE-NMR で測定するための基本的なパルス系列は原理を含めてすでに「手引書」

に記述してある。ここでは、 も基本的な Hahn のスピンーエコー(spin-echo、SE) 系列

パルス磁場勾配 (pulse field gradient, PFG) を挿入した PGSE(pulse gradient spin-echo)のパルス系列を説明のために再度書いておく。

ス系列で拡散現象を考える場合に一番重要な物理的なパラメータは PFG の間

Δである。即ち対象核種が拡散した時間を意味する。自己拡散係数 D を持つ核種か

の可変範囲は 2(T2が極端に短い場合は stimulated echo (STE) パルス系列、

]参照)によって制約を受け、実際に測定する立場からは、Δ を長くすると感度

ゼンなどに

このパル

時間 Δの間に移動した平均距離 <R2> は 3 次元方向の平均をとれば

Δ>=< DR 62

となる。Δ T[手引書

が減少する。また極端に短いΔ 値の設定時には装置のハードでの制約があり、信頼性の

あるデータの取得が難しくなる。通常は Δ=20~300ms である。また観測可能な拡散係

数の範囲は 10-8~10-13m2s-1の範囲であるので、拡散距離は μm (10-6m) のオーダーで

ある。Stokes-Einstein 式には、どの位の距離をどの程度の速さで拡散するかという概念

は含まれていないが NMR の測定から時間の長さと空間の大きさについて明確な情報を

得ることができる。均一系では観測時間に関係なくD は一定値になる。 一般有機溶媒についての信頼性の高い拡散測定結果は文献検索をしてみても少なく、

極く 近の文献として種々の有機溶媒を 1% (w/w)で H2O、アセトン、ベン

5

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溶解して PGSE-NMR で D を測定し、拡散現象を溶媒と溶質の分子サイズで説明した論

文が見つかった。298K における有機溶媒の D は 0.8~5×10-9m2s-1であるが有機溶媒中の

H2O の拡散係数は 3~10×10-9m2s-1である[7]。 自己拡散係数は分子が重心を移動する速度に対応するので、分子間相互作用なしに拡

散すれば、同じ分子はどのシグナルを測定しても単一の拡散係数をもつ。化学シフトに

リチウムイオン二次電池用有機電解液の自己拡散係数

拡散係数で電解

の解析した話について述べよう。 測定は初期のころは 4.7 T のワイドボア SCM を用

解液は溶媒に塩を溶解した系である。水溶液系では理論上 1.23V 以上で水の電気分

以上) ので、単電池当り 3~4 V の高い

よって分離したシグナルの拡散係数は独立に観測可能である。 近必要があって測定し

た CH3OH(高純度)の自己拡散係数は 30oC の時、メチルシグナルが 2.82 × 10-9 m2s-1で

OH シグナルが 2.79 × 10-9 m2s-1 になりわずかな差がある。微量の H2O が含まれている

かどうかは明白でないが、分子間相互作用(水素結合)の効果が拡散係数の測定から研究

できる。アルコール-H2O 系は分子間相互作用を研究するうえで基本的な系である[8]。

4.

ここからは我々のリチウム電池用有機電解液の測定データを中心に

て日本電子製 GSH-200 (1H : 200 MHz) に Tecmag 製の MacNMR をデータシステムと

して付属して測定した。日本電子製の PFGプローブ 2 本(1H-多核 (31P~2H)と 19F/1H (1Hはモニター))で 大 PFG が 10T/m を用いた。後半のデータは 6.3 T のワイドボア SCM (1H : 270MHz) に Tecmag 製の Apollo-NTNMR システムにより測定している。 JEOL 製

の PFG プローブ1本(1H, 19F, 多核)で 大の PFG が 20 T/m を用いている。チューニ

ングをとれば全ての核種のデータをサンプルの入れ替えなしに同一温度で測定可能で

ある。 JEOL 製の PFG 用アンプはバックグランドの DC 成分をカットしているので、

PFG 照射時にシグナル位置が移動することはない。温度可変装置は日本電子のコンソー

ルを用いた。今までに拡散測定を行った核種は 1H、19F、31P、7Li、11B、2H、23Na など

である。NMR サンプル管はシゲミ製の対称型ミクロ試料管 BMS-0005J を用い、液の高

さは 大で 5 mm、高温測定の時には対流効果を少なくするために液高 3 mm にした。

4.1 単一溶媒の有機電解液の自己拡散係数 電

解が始まり、H2や O2を発生する(実際には 1.5 V圧を要求するリチウム二次電池には水溶液系は不適である。携帯電話やノート PC に

用いられているリチウムイオン二次電池では、電解液として有機溶媒が用いられている。

有機溶媒は揮発性や引火性があるので、安全性向上の研究が行われている。ポリマーゲ

ル電解質、不燃性溶媒の添加などが研究開発されているが、有機電解液をベースにして

いるのが現状である。そのために、溶媒の種類、リチウム塩の種類(アニオンの種類)

6

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などリチウム電池用有機溶媒の性能について膨大な量の R/D が行われている。我々は

有機電解液の基本的な性質を明らかにすることを目的として、電解液溶媒、リチウムイ

オン、アニオンの D を 1H、7Li、19F(アニオンは F を含む)-NMR で同時にしかも独立

して測定している。 有機溶媒の誘電率は重要なファクターである。誘電率が大きい溶媒は塩を溶解してイ

オン解離度を上げることができる。しかしながらそのような溶媒は一般に粘度が高いの

O2CF3)2、慣用名:Li-TFSI、Li

olactone), GVL (γ-Valerolactone), NMP (N-Methyl-2-pyrrolidinone), DME (1

度を上げたデータを反映している[10]。式(1)の Stokes-Einstein式

、イオン移動には不利に働く。イオン伝導度は解離したイオン数とイオン移動度の積

で決まるので、イオン伝導度をあげるためには、解離したイオンの数が大きく、さらに

イオン移動も速くすることが必要である。経験的にリチウム電池の分野では誘電率が高

い溶媒(粘度も高い)を主溶媒、誘電率は小さいが粘度の小さい溶媒を副溶媒として、

両者を混合して実効的な溶媒としている。これらの溶媒は引火性や揮発性があるので、

安全性の高い溶媒の開発が要求されている。少しわき道にそれるが、イオンだけで構成

される室温イオン液体は揮発性、引火性が低く、液体温度範囲が広く、安定であること

から、有望視されている。数多くのイオン液体が研究され、粘性が低くイオン伝導度の

大きいイオン液体の開発が現時点での研究ターゲットになっている。著者も興味をもっ

て、拡散現象や T1 を測定している。拡散現象からみるとイオン液体は高温領域で粘性

が小さい時には均一な液体としての挙動をしめすが、粘性が大きくなる(=イオン間の

相互作用が大きくなる)と拡散現象は複雑になる。イオン液体が実用的に使うためには、

実用化されている有機電解液を深く理解する必要がある。

ここでは基礎的なデータを取得することを目的に、先ず溶媒の種類に注目した。リ

チウム塩を lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)amide (LiN(S-TFSA、Li-NTf2) に固定して、リチウム有機電解液として色々な目的で検討されてい

る溶媒を対象にした。先ずは純液体の自己拡散係数 D を測定し更に各種の有機電解液

の成分の個別(1H; 溶媒、 7Li; リチウムイオン、 19F; TFSA アニオン)の D を 30oC で

測定した[9,10]。 図1ではリチウム電池で使われている純溶媒について 30oC で測定し

た拡散係数を 1/η (25oCの文献値)でプロットした(但しECは融点の関係上 40oCの値で

ある)。溶媒はリチウム電池の分野ではよく知られているが念のため化合物名を書いて

おく。 EC (Ethylene carbonate), PC (Propylene carbonate), BC (Butylene carbonate), GBL

(γ-Butyr,2-Dimethoxyethane), EG (diglyme), TG (Triglyme), DEE (1,2-Diethoxyethane), DOx

(1,3-Dioxolane), THF (Tetrahydrofuran), PE (Ethyl propionate), DMC (Dimethyl carbonate), DEC (Diethyl carbonate)

図 1 には H2O と CH3OH(CH3の値)のデータを付け加えた。また論文発表[9]後に種々

の理由で再度測定し、精

における重要なパラメータである Dと 1/η の直線関係はほぼ成り立つことがわかる。

7

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H2O は粘性率のプロットからはずれる様である。このプロットでは溶媒分子の形など詳

35

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.50

5

10

15

20

25

30

H2O

CH3OH

DEC

NMPGBLGVL

EC

PC

BC

DOx

DMCDME

THF

1/η (cP)

DG

TG

D (1

0-10 m

2 s-1)

図1.純溶媒の自己拡散係数 D と粘性率ηとの相関

細 c と rs がパラメータになってお

り 幾つかの溶媒に対して、MM2 などで計算されたファンデルワールス半径を代入す

は考慮してないので個別の議論はしない。式(1)では

ると c は 3.3 から 3.6 の範囲になり 4 には届かない。c を単に定数として考えれば、古

典的な理論式である、Stokes-Einstein 式は実験を説明している。我々は今後この式に基

づいて有機電解液を解析してゆくことにする。

0 5 10 15 20

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

DGTeG

PG

DEC

GBL

NMP

GVLTG

EC

PCBC

THF DEE

DMC

DOx

EPDME

TFSA (19F NMR) Li (7Li NMR)

DLi a

nd D

TFSA

(10-1

0 m2 s-1

)

DSolv(10-10m2s-1)

図 2.Li-TFSA を含む有機電解液におけるリチウムと TFSA の Dionを溶媒の Dsolventで

8

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プロット。3 つの D は同一サンプルに対し測定した値、塩濃度は 20 %~0.25 M の範囲 リチウム電池用の有機電解液では溶媒の選択は重要な要素である。ここでは電解液に

おいても溶媒の Dsolventは 1/η に比例すると仮定して、Dsolventで DTFSAと DLi をプロッ

トして図 2 に示す。図 2 にはポリエチレンオキサイド(PEO)系の高分子電解質のモデ

ルである PG (Pentaglyme)、TeG (Tetraglyme)、TG (Triglyme)、 DG (Diglyme) のデータを

含めた[11]。電解液の研究は高分子ゲル電解質の拡散測定の解析が困難であったために

始めたものであり(1997 年ごろ)、我々の 初の研究成果である。拡散測定の経験を積む

ことによって、測定値の信頼性を上げることができたために、 初のデータの修正や新

たな電解液データの追加をおこなっている。電解液の拡散係数は塩濃度によって変動す

る。また初期にはサンプル管に熔封しなかったので、修正はやむをえないことであった。

溶媒は全部で 17 種である。 多くの有機電解液において、同じ電解液中での自己拡散係数は溶媒が常に も速く拡

散し、アニオン、リチウムの順番になる。即ち

Dsolvent > Danion > DLi

電率の小さなEPやDOxを除いて、この順番は多くの溶媒においてリチウム塩の種類、

温度によらず成り立つ。但し電圧印加した場合はこの順番は成り立たなくなり、第 6 章

で詳しく述べる[12]。ファンデルワールス半径 (nm) は後述の表1に与えられているが、

Li が 0.076 で TFSA は 0.327、溶媒で GBL (0.268)と PC (0.276) の値が報告されている。

大まかにみれば半径の大きさは

TFSA > 溶媒 >> Li

であり Stokes 半径からはリチウムの拡散が も速くなると予想されるので、D の大きさ

の順番は説明できない。 我々は Stokes-Einstein 式に基づいて新しい実験パラメータ R を提案した。すなわち

solvsrcπηsolv

kTD = と ions

ion rckTDπη

=

から

solvs

ions

ion

solv

rr

DDR ==

R-値は溶媒を基準にしたイオンの拡散半径である。この値を溶媒の拡散係数でプロット

して図 3 に示す。主溶媒(BC、

(2)

EC、PC、GBL など)では RLiは 2 付近であり、これは

9

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Li イオンが平均して 2 個の溶媒分子を引き連れて拡散することを意味している。リチウ

1 10

1.0

Supplementary solvents

main solvents

3.0

DEE

DMC EP

DOx

THF

DEC

NMP

GBL

GVL

EC

BCPC

PG

TeG

TG

DG

1.5

2.0

2.5

glymes

DME

R

(Dso

lv/D

ion)

Dsolv(10-10m2s-1)

RTFSI

R

ion

Li

図 3.R 値(=Dsolv/Dion)を溶媒の Dsolv でプロット

ムイオンの溶媒和についてはすでに知られている。計算化学の手法からは 4 個の溶媒和

が提案されているが、拡散という動的な条件下で拡散測定の時間尺度(ms オーダー)

では PC、GBL などでは 2 個の溶媒分子が Li と一緒に移動する。当然のことであるが、

バルクの溶媒分子と交換していることは明らかである。一方 RTFSI は 1.1 付近でファ

ンデルワールス半径の比に近い値であり、溶媒和の現象はみられない。グライム類は高

分子電解質で も重要なポリエチレノキサイド(PEO)の同族化合物でモデルとして扱

われている。グライムの繰り返しユニット n: (-CH2CH2O-)nの数と相互作用する Li の数

に関する詳細については数多くの論文があるが、ユニットの数を 50 まで増やした場合

について NMR の拡散係数から解析した結果については我々の論文を参照して欲しい

[11]。 溶媒の拡散係数の大きい副溶媒(=粘度が小さい、=誘電率も小さい)の系では RLi

と RTFSI は共に大きな値となり、その値は類似している。これはイオン解離が小さく Liとアニオンがイオン対を形成したままで拡散するためとして説明できる。この場合にも

H2-O-Me)イオン解離能があるので、リチウム電池用電解液に混合して多用されて、次の混合系

溶媒和の影響が見られる。その中で DEC(Et-CO-O-CO-Et)と DME(Me-O-CH2Cは

10

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のところで詳細に述べる。PGSE-NMR 法によって、溶媒、アニオン、リチウムの拡散

係数が独立して観測できたこと、そのことによって溶媒和、イオン解離などが明らかに

できるようになった。リチウム電池設計上重要なパラメータであるリチウム輸率は電気

化学的測定法で測定されているが。PGSE-NMR からは DLi/(DLi+Danion) としてパラメー

タ化できたるので、従来の電気化学的なリチウム輸率と併せて検討することができる。

4.2 無限希釈領域での有機電解液の自己拡散係数 電解液ではイオン伝導度は も大切なパラメータであり、NMR が与える D との相関

について明らかにしなければならない。イオン伝導に関する研究の歴史は長く、理論的

な取り扱いは無限希釈の状態で均一の媒体中の点電荷からスタートする。第 5 章で拡散

係数とイオン伝導度について述べるが、ここでは無限希釈領域での拡散係数の一般的性

質について測定結果を述べる。我々は有機電解液溶媒に PC と GBL を用い、リチウム

塩はLiBF4とLiTFSAとして、4種類の電解液を調製し、徐々に希釈して、1H、19F、7Li-NMRで溶媒、アニオン、リチウムイオンの自己拡散係数を 30oC で測定した。図 4 に横軸は

濃度 c の平方根として GBL と PC 溶媒の電解液の構成成分の D をプロットした。

70

80

90

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8

20

40

50

30

60

BF4

(a)

GBL 50

60

TFSA

TFSA

D /[

0-11

c1/2 /[M1/2]0.0 0.2 0.4 0.6 0.8

10

20

30

40

(b)

PC

Li

BF4

1m

2 s-1]

BF4TFSA

Li

TFSA

D /[

10-1

c1/2 /[M1/2]

BF4

1-1]

図 4.無限希釈領域における溶媒、アニオン、リチウムの自己拡散係数を塩濃度の平方

根でプロット。(a) GBL 溶媒系、(b) PC 溶媒系 塩濃度が増すにつれて粘性率が上がることは経験的に広く知られている。塩濃度の増加

に従って全ての成分の D は粘性率の増加に反比例して小さくなっており、この現象は

Stokes-Einstein 式の関係から説明できる。絶対値は異なるものの、溶質のアニオンが異

m2 s

11

Page 12: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

なっても、溶媒の D の濃度依存性は類似している。同様に特筆すべき現象として、リ

チウムの D もアニオンの種類には影響されずに塩濃度に対して類似した値をとる。ア

ニオンの TFSA と BF4はイオンサイズが異なる上に、BF4はイオン間の相互作用が大き

いために、Danion はアニオン種によって異なった挙動を示す。TFSA に比べると BF4 のD は塩濃度の増加に伴って著しく減少する。また、詳細に後述するが、アニオン・カチ

オンを問わず、C1/2 に対してプロットした D は直線近似が広い濃度領域で可能であり、

無限希釈度における D0を与える。 図 5 に同一サンプルで同時に測定した Dsolvent、Danion、DLi を用いて、Dsolvent に対して

Dionをプロットした。PC の粘性率は GBL の粘性率の 1.5 倍であることから、Dsolventの範

囲は偶然にも継続して見える。PC と GBL は図 3 の RLi値のほぼ同じ値を示しているの

で溶媒和の現象、イオン解離の割合も類似していると考えられ Li と TFSA の D は

溶媒の D に比例するが、 BF4では塩濃度が小さいときに際立って大きな D となる。イ

オンサイズから大きな拡散係数は説明できるので、塩濃度が増加すると BF4はイオン会

合があると解釈してよいのであろう。

る。

30 40 50

30

50

60

70

60 70 80

20

40

80

BF4TFSA

Sal rati

1

-11 2s-1

方が RTFSAは大きくなる傾向がある。アニオン

ファンデルワールス半径について後述の 4.4章 種々のアニオンの項の表1にデータを

t Concent on

Li

TFSA

BF4GBLPC

Dio

n /[10

-1m

2 s-1]

Dsolvent/ [10 m ]

図 5.溶媒の拡散係数でリチウムとアニオンの拡散係数をプロット。

溶媒分子の拡散半径を基準にした R-値を図 6 に示す。溶媒が GBL であるか PC である

かに無関係で塩濃度に依存せず、RLi は実験誤差以内で平均値 2.25 になる。TFSA にお

いても濃度依存性は小さく、GBL 溶液の

12

Page 13: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

載せてある。TFSA と GBL のファンデルワールス半径比は 1.22、TFSA と PC の半径比

は 1.18 であり、PC の方が小さいので PC の RTFSAが小さくなってもよいであろう。BF4

はサイズが小さく、単純にファンデルワールス半径で計算すると 0.85(GBL)と 0.82(PC)になる。塩濃度とともに RBF4 が大きくなることは BF4のイオン会合を示唆している。

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

1.0

1.5

2.0

2.5

PC

GBL

GBLPC

BF4

TFSA

Li

R (D

solv

ent/D

ion)

c (M)

図 6.無限希釈領域における R-値

4.3 二液混合有機電解液の自己拡散係数

一般に混合系の化学はまだ広く解明されていないように思われる。単独溶媒の性質と

混合系になった時の物性とは当然相関があるが、相互作用によって新たに多様な物性が

発生することが個別に研究されている。有機溶媒混合系の拡散係数も測定されているが、

相互作用の詳細は明確化されていなように思える。実際には我々が日常的に用いている

工業製品では多くの場合多様な成分を混合、添加することにより優れた性能を達成して

いる。リチウムイオン電池用有機電解液でも試行錯誤のうえ多くの混合系が電極やセパ

レータの材料に適用するように探索されている。ここでは EC(Ethylenecarbonate)をベ

ースとして、リチウム二次電池開発で多用されている EC-DEC (Diethylcarbonate)混合

系と、主として小型の一次リチウム電池で使われている EC-DME (1,2-Dimethoxyethane)混合系を取り上げる。EC は室温で固体(mp 39oC)であり、誘電率は大きいが粘性は高

い。低温での性能は混合割合に依存する。DEC や DMC の特性は図 3 から推測できるで

あろう。これら混合溶媒系はリチウム電池では重要な役割を果たしている。 EC は室温で固体であり扱いにくいので、類似した性質を持ち、室温で液体の PC (Propylenecarbonate)を用いて、二液混合系、DEC-PC 系と DME-PC 系の拡散係数を測定

した。純液体の粘性率 (cP) は PC(2.51)、DEC( 0.63)、DME(0.42)であり、実際に

NMR で測定した範囲では EC と PC の相違は極く僅かであっ 先ずはリチウム塩を含た。

13

Page 14: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

まない混合溶媒において 30oC における混合割合を変えて測定したと各々の溶媒の拡散

数を図 7 に示す[13]。 係

0 20 40 60 80 100

5

10

15

30

20

25

5

10

15

20

25

30

PC

DME

Mol% of PC

DME PC

PC

DEC

D (1

0-10 m

2 s-1)

DEC PC

O

図 7.二液混合系で相互の割合を変えたときの各々の溶媒の拡散係数と PC、DEC、DMEの化学構造、リチウム塩はドープしていない。

DME-PC 二液混合系では DME と PC の拡散係数は全混合比において異なり、DME の

方が拡散係数は常に大きい。一方 DEC-PC 二液混合系では純粋な DEC と PC は拡散係

数に大きく相違するにもかかわらず、DEC と PC はほぼ同じ拡散係数を示す。単一溶媒

からなる電解液のデータからは PC-DME 混合系と比べて PC-DEC 系が特異的な系には

見えないが、個々の溶媒の拡散係数では同じ値になることは驚くべきことである。化学

構造からは PC が環状構造で DEC が鎖状構造であるが -O-CO-O- を共通してもつこ

とが二液混合系での均一性、言い換えると局所構造において均一性があるためと思われ

る。 二液混合電解液における溶媒、リチウムイオン、TFSA の D の挙動を図 8 に示す。PCの割合が増えるとすでに報告されているように,粘性が大きくことが図 7 の D からも

わかる。即ち,拡散係数においても PC の割合の増加とともに、全ての構成成分の D は

小さくなる。 DEC-PC 系電解液で DEC と PC の D がほぼ同じ値になることは、リチ

O O

OO

O

OO

PC

DEC

DME

14

Page 15: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

ウム塩ドープによって溶媒構造が影響されないことがわかる。

5

10

15

20

0 20 40 60 80 100

5

10

15

20

(a) DEC-PC system

D /

10-1

0 m2 s-1

DEC PC TFSA Li

D /

10-1

0 m2 s-1

(b) DME-PC system

DME PC TFSA

Mol% of PC

Li

してゆくことが明確に示されている。一方 DME-PC 系では RLiは PC が 60%付近

図 8.二液混合系電解液における構成成分の D を PC のモル%でプロット。(a) DEC-PC系と(b) DME-PC 系 溶媒和の挙動を明らかにするために、Rionを図 9 に示す。DEC-PC 系では RLiは 2.5 か

ら 2.3 へと PC の割合が増えるにつれて僅かに減少し、RTFSAは 2.2 から 1.3 へと大きく

変化する。DEC 100%の時に RTFSAが大きな値になることはイオン会合が大きいことを示

唆し、図 2 に示されている傾向と一致する。PC の割合が増えるにつれて、イオン会合

が減少

で極小値をとるが、RTFSAの変化は小さい。DME 100%であっても RTFSA は比較的小さ

な値になることで、イオン解離があると考えられる。図 2 からも明らかなように、DMEの単独溶媒であっても、イオン解離能は見られるようである。リチウムとアニオンの

R-値から溶媒和やイオン会合についての情報は得られるが、イオン会合はイオン伝導度

と深く関連するので、第 5 章で詳細に述べよう。

15

Page 16: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

0 20 40 60 80 100

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

Mol% of PC

RLi(DEC) RLi(PC) RTFSA(DEC) R

TFSA(PC)

(b) DME-PC

R ion

RLi(DME) RLi(PC) RTFSA(DME) R

TFSA(PC)

(a) DEC-PC

R ion

図 9.Rion(=Dsolv/Dion)を PC のモル%でプロット 世の中で実際に使われているリチウム二次電池には LiPF6が多用されている。この塩

は H2O に対して鋭敏に反応して HF を発生する特徴がある 他のリチウム塩も含めて水

肝要である。ここでは電解液の D の温度変化の特徴を明らかにす

ために、1M の濃度で LiPF6を溶解した DEC、PC および実系に近い PC-DEC 混合系

で DLi を比べると高温で DEC 中で

は PC 中の約 2 倍、低温では 5 倍大きり,DEC の粘性が小さいことを反映している。 PC-DEC 混合溶媒中では PC 単独溶媒系と同じように DPF6 > DLiであり、イオン解離

があることは明らかである。混合溶媒中の DLi は PC 単独溶媒系と比べると高温領域で

分管理は重要であり、不活性雰囲気下のグローブボックスやドライルームの中でサンプ

ル調製を行うことが

(0.6 : 0.4) の温度変化を図 10 に示す。DEC 単独溶媒系の溶媒(DEC)のアレニウス・

プロットはほぼ直線になり、活性化エネルギーは 15.2 ± 0.3 KJ/mol である。他の成分の

アレニウス・プロットは低温になると直線からずれて値が小さくなるVTFタイプ (D = D0 exp[ -B / (T-T0) ]、D0、B、T0はパラメータ) になる。これはイオン伝導度のアレニウ

ス・プロットと同じ傾向である。DEC 中では DLiと DPF6 は全温度領域で類似した値と

なり相互の差は小さい。LiPF6をリチウム塩とした時には DEC 中ではイオン会合が大き

いために、イオン対のまま拡散し、拡散現象からみるイオン会合の割合の温度変化は少

ない。この現象は LiTFSA をリチウム塩にした DEC(図 8)と類似している。塩濃度が

異なる図 2 では DEC 中で DLiと DTFSA が異なっている。一方、PC 単独溶媒中では DPF6

> DLiとなりイオン解離は明かである。単一溶媒系

16

Page 17: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

約 1.3 倍、低温領域では約 2.3 倍で大きくなり、リチウムイオンの拡散が促進されてい

ることがわかる。

3.0 3.5 4.0 4.5

10

10-10

10-9

-11

3.0 3.5 4.0 4.5 3.0 3.5 4.0 4.5

1M LiPF6 in PC(0.6)/DEC(0.4)

1000/T

D (m

2 s-1)

DE

1M LiPF6 in DEC

1M LiPF6 in PC

C 0.4 PC 0.6

DEC PF

PC PF6

6 PF6 Li Li Li

1000/T1000/T

図 10.1M の LiPF6をドープした PC-DEC (0.6 : 0.4) 混合溶媒系、DEC と PC 単独溶媒系

の各成分の D の温度変化

これらの特徴を明らかにするために Rionの温度依存性を図 11 に示す。PC 単独電解液で

は -30oC のデータは観測できなかった。-10oC 以下に温度が下がるにつれて RLi は大き

くなり、溶媒和する PC の数が増加するとみられるが、RPF6の温度依存性は小さい。DEC単独溶媒系では全温度領域で RLi の方が僅かに大きいが RPF6 ≅ RLi となり、イオ

ン会合が顕著である。混合溶媒を用いれば、RLi と RPF6 はともに PC 溶媒系の値より僅

かに大きく、その分イオン会合が考えられるが、全温度領域に渡って、安定した解離イ

オンが存在することを示唆している。誘電率の大きな PC が溶媒和してイオン解離を促

し、粘性が小さい DEC によって拡散が促進されていることが、全温度領域でみられる

ことは明白である。

17

Page 18: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

-20 0 20 40 60 800.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

Li

PF6

PC(0.6)-DEC(0.4)PC

R ion

Temperature ( C)

DEC

o

図 11 LiPF6をリチウム塩とする PC ならびに DEC 単独溶媒系および DEC-PC 混合溶

系における Rion の温度変化

4.4 種々のリチウム塩を溶解した有機電解液の自己拡散係数

リチウム塩としては、LiCl(有機溶媒に不溶)、LiClO4、CH3COOLi など無機

般的である。しかしリチウム電池で実際に使われているのは LiBF4, LiPF6 など

しく登場したアニオンを含むリチウム塩が沢山あり、ここで取り上げるアニオン

構造と略称を一覧表に示しておく。現在、新規なアニオンが次々と数多く合成さ

塩が一

及び新

の化学

れてい

る。有機溶媒に溶解性がよいこと、イオン解離度が高いことが新規リチウム塩開発の重

要なポイントである。

O

B

F

F

F

F P FFF F

FFS

O

O

O

F

F

F

BO

O

O

O O

O

O

NS S

O

O O

O

FF

FF

F

F

NS S

O O

O O F

F

F

F

FFF

F

F

F

BF4 PF6BOBSO3CF3

TFSA TFSA N(SO 2CF3)2

BETAN(SO 2C2F5)2

18

Page 19: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

我々はアニオンの性質を明らかにするために、個別の塩の電解液の研究を行った。ア

ニオンの基本的な性質を表1に示す。

表1 アニオンの基本的な性質 省略名 分子量 ファンデルワールス

半 径 (nm) [4,5]

正式名 塩分子式 注

BF4 87 0.227 Tetrafluoroborate LiBF4

PF6 145 0.254 Pehexafluorophosphate LiPF6

SO3CF3 176 0.267 Trifluorosulfonate LiSO3CF3

BOB 187 0.287 Bis(oxalateborate) LiBC4O8

TFSA 280 0.327 Bis(trifluoromethanesulfonyl)amide LiN(SO2CF3)2

BETA 380 0.362 Bis(pentafluoroethanesulfony amide LiN(SO2C2F5)2 l)

Li 7 0.076 Lithium Li+

GBL 86 0.268 γ-Butyrolactone C4H6O2 溶媒

PC 102 0.276 Propylenecarbonate C4H6O3 溶媒

12.溶媒(GBL)、アニオン、リチウムの自己拡散係数の濃度依存性

8x10-10

1x10-9

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8

2x10-10

4x10-10

6x10-10

Anion

Li

GBL

D (m

2 s-1)

Concentration (M)

BF4

PF6 CF

3SO

3 BOB TFSA BETA

19

Page 20: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

リチウム電池用の電解質(電解液、高分子ゲル、高分子)ではリチウム移動が速い事

が重要である。電気化学的な測定からリチウムイオンの可動の割合をリチウム輸率と定

してその値が大きいことが望ましいとされている。一方でリチウムイオンはアニオン

に比べると移動度が小さい 成して相対的にリチウム

オンが動きやすくする方向での努力がなされ、実際に数多くの有機アニオンが合成さ

れ 散 測 ニ 役割を明らかにするために 6 種 異

なったアニオンのリ GBL を溶媒にして、0.1M、0.25M、0.5M、0.75M の4

点 度で溶 し 30oC 散係 溶媒(GBL)、ア 、Li の を塩

濃 プロッ て図 示そ

から るこ

a じ電解 は拡 の大 アニオン> Lb 度が くな 散係

c L およ Li の自 係 性

図 12 にお 驚く こと 解液中ではリチウムの拡散係数は対アニ の

種 依存し いこと 。特 小さい時には著しい 結果は

期 ていなか こと 、ア リチウムイオン 度と無

ことが明確に示された。 方、アニオンはリチウムイオンとは異なり、濃度が低い時 (0.1M) にはアニオン拡散

は BF4~PF6 > CF3SO3~BOB > TFSA > BETA となり分子量の小さい方から大きい方、ファンデルワールス半径の小さい方から大きい

方へと並ぶ〔表 1 参照〕。濃度が大きく (0.75M) なると、 PF6 > BF4 > TFSA > CF3SO3~BOB~BETA となり単純にアニオンサイズだけで論じられない。特筆すべきことは塩濃度が大きくな

ると BF4の拡散が遅くなることである。 電解液の粘度は溶媒の拡散係数に相関するので、溶媒の拡散係数を横軸にしてアニオ

ンとリチウムの拡散係数をプロットして図 13 に示す。溶媒の拡散が速くなればイオン

の拡散も速くなるという傾向が明確に示されている。驚くべきことはリチウムイオンの

自己拡散係数はほぼ同じ線上にプロットされる。即ち、実験誤差内でリチウムイオンの

自己拡散係数と溶媒の自己拡散係数は直線関係にあり、アニオンの種類に依存しないこ

とである。この実験結果は無限希釈領域で GBL と PC の両方の溶媒において、LiBF4と

ている。すな

ちリチウムイオンの拡散速度を決定するのは溶媒の拡散速度であるといえる。

ので、大きなサイズのアニオンを合

た。拡 係数の 定から、ア

チウム塩を

オンの 、表 1 の 類の

の濃 解 で拡 数を測定した。 ニオン D度で トし 12 に う。 この図 わか とは

. 同 液で 散係数 きさは GBL > i

. 塩濃 大き ると拡 数は小さくなる。

. GB び 己拡散 数はアニオンの種類に対し依存 は少ない。 いて、 べき に、電 オン

類に な である に、塩濃度が 。この 全く予

し った であり ニオンのサイズは の易動 関係で

ある

LiTFSA のリチウムイオンの D はアニオンに無関係(図 4 と図 5)と一致し

20

Page 21: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

diluted

図 13 電解液中の Li イオンとアニオンの D を溶媒の D でプロット

ニオンの特徴を明らかにするために、新しくパラメータを導入する。既に述べたよ

ion を参照すればイオン会合

目安を与える。即ち RLi ≅ Ranionの時にはイオン会合の寄与が大きい。アニオンの挙

うに RLi=Dsolvent/DLi はリチウムイオンまわりの溶媒和と Ran

動を解析するために表 1 に示したアニオンサイズ(ranion)により規格化したパラメータ

RRanion を定義する。

solventanion rr /

anionsolventanion

DDRR /= (3)

Li

また NMR が与えるリチウム輸率 t (NMR)を次のように定義する。

anionLi

LiLi

DDDNMRt+

=)( (4)

これらの実験パラメータを塩濃度でプロットして図 14 に示す。 溶媒 GBL は主溶媒で

あるのでリチウム塩に対する溶媒和能は大きい。RLi はアニオンによって僅かに変わる

が、実験誤差範囲以内で変動しないと考えている。RRanion では塩濃度に関係なく PF6、

TFSA、BETA が類似した値を与える。塩濃度が大きくなると RRanion も大きくなる BF4

や CF3SO3はイオン会合を示唆している。これらの塩に対して RLiは顕著な濃度依存性を

4x10-10 5x10-10 6x10-10 7x10-10 8x10-101x10-10

2x10-10

3x10-10

4x10-10

5x10-10

6x10-10

7x10-10

Li+

Anion

BF

4

PF6

in GBL BF4 PF6 TFSA BOB BETA CF3SO3

Dio

n(m2 s-1

)

Dsolvent(m2s-1)

21

Page 22: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

2.0

2.5

1.0

1.5

2.0

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

0.3

LiBF4 LiTFSALiPF6 LiBETALiBOB

0.4

0.5

LiCF3SO3(a)

R Li

(b)

RR an

ion

(c)

C/[M]

t

の Li anion

イオン会合にリチウム は小さいのではないか。 リチウム輸率ではアニオンのサイズが大きい塩が大きな値をもつ傾向を示している。な

BOB は 11BNMR(シャープなシグナルである)で拡散係数を測定したことを付け加

. イオン伝導度とイオン拡散の相関関係

Li+

図 14. 種々のリチウム塩 (a) R 、(b) RR 、(c) tLiを塩濃度でプロット

示していない。アニオンの カチオンの寄与

えておく。

5

電気化学について物理化学の教科書に書かれていることから始める。電気化学の専門

家でない私の記述は電解液の拡散測定に関連した内容に限定されるので深く知りたい

方は比較的新しい教科書を参照してほしい[14]。また我々は電気化学と NMR を結 つ

ける解説を「手引き」として電気化学会会誌に書いている[1]。

22

Page 23: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

23

電解液の研究はイオン伝導度の測定から始まるといえるくらいイオン伝導度は重要

な物理量である。測定法の詳細は教科書を見てほしい。ここで NMR から得られるイオ

ン拡散が参照するイオン伝導度は,観測周波数を 1MHz から 1Hz まで変化してインピ

ーダンスを測定する方法(AC 法、Alternative Current method)で得られる値である。価

数が一価のイオンを取り扱う場合は、イオン伝導度は電荷をもつイオンの総数(アニオ

ンとカチオンの数の総和)とイオンの平均移動速度の積として定義される。一方 NMRでは電荷をもつ孤立イオンと、イオン対を形成している中性イオンとの識別ができない。

また実際問題として NMR 測定では電荷があるか、イオン会合しているかに関係なく,

イオン数については明確にわからない。数が少なければ観測感度が悪く、積算回数を増

やさなければならない程度の曖昧さである。

拡散係数 D とイオン伝導度との関係は古典的な Nernst-Einstein の式で与えられる。こ

の関係式は希釈電解液の理論から導かれている。価数が一価のイオンを取り扱う場合は、

カチオンとアニオンの拡散係数を D+と D-とすると、観測温度 T におけるイオン伝導の

理論計算値は

)(2

−+ += DDkTne

NEσ (5)

となる。ここで n は単位体積当りのイオン数、e は電荷素量、k はボルツマン定数であ

る。厳密には無限希釈度へ外挿した時に成立する式である。希釈状態でのイオンの運動

ータが必要

ある。ここでは

を記述するものであり、電池で使うような濃厚溶液では常に付加的なパラメ

NEσ を NMR からカチオンとアニオンに対して独立して求められた D

度 σAC より大きくなる。ここで σNMR とσAC の関係を近似すれば以下のよ

になる。

を用いて計算したイオン伝導度 σNMRとして取り扱うこととする。σNMR は計算上、溶液

中、単位体積に含まれる全てのイオン数、即ち電気化学的に不活性なイオン会合をして

いるイオン対を含む、全イオン数を考慮しているため、常にインピーダンス法から求め

たイオン伝導

ασξσσ ACACNMR ≅−≅ )1( (6)

気化学的に AC 法で観測するイオン伝導度 σACは電圧のバイアスに応答し得るイオ

数は化学平衡にあ

ンのみ測定の対象となっていることから、結果的に電気化学的に不活性なイオン対の伝

導への寄与は見かけ除外されてしまう。完全なイオン解離状態では ξ=0 になりσNMRと

σACは一致することが予想される。式中の α はイオン解離の割合を意味するが、電気化

学で定義するイオン解離定数とは厳密な意味で異なる。イオン解離定

る系において定義され、α は NMR 法による拡散係数とインピーダンス法によるイオン

Page 24: PGSE-NMR法による拡散測定の均一系への応用 —有 …...Stokes-Einstein 式の物理的な意味は明快である。拡散半径 中で拡散する時、粒子サイズと粘性率が小さいほど拡散は速くなり、また温度が上が

伝導度の比であり、動的なパラメータの実験値から計算されたものである。

5.1 無限希釈度への外挿

ここで非常に重要な問題が提起される。すなわち NMR で測定する拡散係数とイオピ

ーダンス法(AC 法)で測定されるイオン伝導度とを直接比較してよいものであろうか?

この点を明確にするために、我々は電気化学の理論式の原点に戻ることにした。すなわ

ち Debye-Hückel の点電荷間のイオン相互作用から実証することである。イオン伝導に

関する古典理論式への実証と高濃度領域への拡張式の提唱は水溶液系・非水溶液系を問

わず相当数の研究例が発表されているが、リチウム電池用有機電解液系での研究例はみ

bye-Hückel の式と関連など電気化学についての詳細は我々の原論文を見

いただきたい [15]。イオン伝導度の無限希釈領域での挙動を図 15 に示す。

つからなかった。我々は実験的にアニオン、リチウム、溶媒の拡散係数およびイオン伝

導度の測定値を無限希釈度へ外挿した。電解液には 2 種類の溶媒と 2 種類のリチウム塩

を組み合わせた。すなわち GBL-LiBF4、GBL-LiTFSA、PC-LiBF4、PC-LiTFSA 系の 4 種

類である。 Deて

0.0 .4 0.5 0.6 0.7 0.80.1 0.2 0.3 05

10

15

45

20

25

30

35

40

GBL-LiBF4 GBL-TFSA PC-LiBF4 PC-TFSA

mo

]

c1/2 /[M1/2]

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.105

15

45

Λ /[

104 S

m2

l-1

10

2025303540

図 15. 無限希釈領域での 4 種類の電解液の当量イオン伝導度の塩濃度依存性。

直線は Kohlrausch の式 21

0 Scobs −Λ=Λ で無限希釈度へ外挿した。図 15 の窓に測定

24

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21

c )が充分に小さい時には Koh値が直線になる部分を示してある。塩濃度( lrausch の

係は成り立つことがわかる。 用いて計算した当量イオン伝導度(ΛNMR)と電気化学的に測定

NMR の D から式(5)をした当量イオン伝導度(ΛAC)を同じグラフにプロットしよう。図 16 に 4 つの有機電解

液に対してNMRから求めた当量イオン伝導度 NMRΛ と電気化学測定の当量イオン伝導

度 ACΛ の無限希釈度付近でのプロットを(a) LiBF4 をリチウム塩として溶媒は PC と

GBL 並びに (b) LiTFSA をリチウム塩として溶媒は PC と GBL を示す。これらのプロ

ットから無限希釈度へ外挿すれば ΛNMR と ΛAC が実験誤差内で一致することがわかる。

拡散係数に関しては高濃度域からの直線外挿によって、得られる D0 の正当性が立証さ

れたこととなり、次の関係式が得られる。

0002

0 ( ACNMR DDRTF

Λ+ +−

) ≅=Λ

Nernst-Einstein 式 (5) は有機溶媒系であっても、無限希釈度へ外挿すれば成立すること

が実験的に証明できた。また NMR で観測するイオンが拡散の時間尺度とイオン伝導度

の測定にかかわる時間尺度がほぼ同じであるといえよう。

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8

1x10-3

2x10-3

3x10-3

4x10-3

5x10-3

(a) LiBF4

Calculated from DLi and D

BF4

GBL-LiBF4

PC-LiBF4

Equi

vale

nt Io

n Co

nduc

tivity

[S m

2 mol

-1]

c1/2 [M1/2]

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8

1x10-3

2x10-3

3x10-3

4x10-3

(b) LiTFSA

Calculated from DLi and DTFSA

GBL-LiTFSA PC-LiTFSA

Equi

vale

nt Io

n Co

nduc

tivity

[S m

2 mol

-1]

c1/2 [M1/2]

図 16 無限希釈領域におけるσNMRとσACを塩濃度でプロット

25

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前述のように NMRでは解離した電荷をもつイオンと会合して中性のイオンを見分ける

会合とイオン解離の交

平均の D 値が観測できる。一方イオン伝導度は解離して電荷をもつイオンを対象にし

られな

。濃厚溶液については有効な電気化学の理論式が導出

α

濃度依存性を図 17 に示す。

ことが出来ない。イオン 換時間は NMR の時間尺度よりは速く、

た測定であるが、アニオンとカチオンを見分け い。したがってアニオンとカチオ

ンの移動速度の平均値を観測する

されていないが、 Nernst-Einstein 式においても、イオン解離の割合というパラメータを

取り込めば、イオン伝導度とイオン拡散係数とはほぼパラレルの扱うことができること

を無限希釈度領域で示そう。式(6)を用いて計算した (イオン解離の割合)のイオン

0.8

0.9

0.1 1

0.5

0.6

0.7

1.0

LiTFSA

ssoc

iatio

n

LiBF4

PC-LiTFSA GBL-LiTFSA PC-LiBF4 GBL-LiBF4

Deg

ree

of

i

c [M ]

図 17 無限希釈領域におけるイオン解離の割合のイオン濃度依存性 誘電率の大きい PC と GBL を溶媒にして無限希釈度への外挿値ではα=1(ξ=0)に

近づいても、塩濃度が少し大きくなるとイオン会合は進むことがわかる。リチウム電池

用には 1M 付近の濃度の電解液を用いるが、イオン解離の割合が 0.6 付近になることは

理解できる。塩濃度が大きくなると LiTFSA の方が LiBF4よりイオン会合は低く抑えら

れることは明白である。

5.2 単独溶媒の有機電解液 4.1 で述べた有機電解液のイオン伝導度の測定値[9]に対して、DLi と DTFSA の値を基に

計算したσNMR からイオン解離の割合を求めた実験結果を図 18 に示す。(a)は横軸に溶

D

1/2 1/2

26

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媒の拡散係数をとり、(b)の横軸は純液体の誘電率である。

5 10 15 20 250.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0 20 40 60

(a)

NMP

GVL

DMCDOx

DEE

THF

EPDME

DGTG

GBLPC

BC

Deg

ree

of

Diss

ocia

tion

Dsolvent (10 m2s ) Dielectric c-10 -1

(b)

THFTG

DG

DME

DMC DOx

GVL GBL BC PC

NMP

onstant

質をもつ溶媒として知られている。前述のようにイオン

伝導度もイオンの拡散係数も塩濃度に依存するので、イオン解離の割合は同一のサンプ

ルを測定して求めている。 Rion から描いた LiTFSA のカチオンーアニオン相互作用のスキームとイオン解離の割

合はよく一致している。すなわち誘電率の大きな溶媒が Li イオンの周りで溶媒和すれ

ば解離の割合は大きくなるが、誘電率が小さく溶媒和ができないような溶媒ではイオン

解離も小さい。このときは Li と TFSA がイオン会合したまま一緒に拡散し、Rion は Liでも TFSA でも類似した値になる。

5.3 二液混合系有機電解液 4.3 章で述べた LiTFSA をドープした DME-PC 系と DEC-PC 系のイオン伝導度を PC

図 18 単独溶媒系における解離の割合を(a) Dsolventと (b) 純溶媒の誘電率でプロット 横軸に溶媒の拡散係数(粘性率の逆数に比例)に着目すれば図 2 と比較できる。主溶

媒ではイオン解離の割合は大きいがイオン移動度(溶媒の拡散係数に比例する)は小さ

く、DMC などではイオン移動度は大きいがイオン解離は小さいことがわかる。グライ

ム同族系列の TG、DG、DME 溶媒ではリチウムイオン解離に類似の相互作用機構があ

ることを示唆している。横軸に純溶媒の誘電率をとってイオン解離の割合をプロットし

た(b)では溶媒の種類分けが明確にできる。主溶媒系列、グライム同族系列、副溶媒系

列で、NMP、THF は独自の性

27

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の割合でプロットして図 19(a)に示す。DME-PC 系では 40% 付近、DEC-PC 系では 60% 付近に 大値がある。NMR のイオンの拡散定数から計算したイオン伝導度と実測値と

の比から式(6) を用いて計算したイオン解離の割合を図 19(b) に示す。DME および DEC単独でのイオン解離は小さいが、PC の割合を増やしてゆくことによりイオン解離は著

しく向上することがわかる。

0 20 40 60 80 1000

2

4

6

8

10

12

14

DEC

DME

PC

(a)

σ / m

Scm

-1

Mol % of PC

DME-PCDEC-PC

0 20 40 60 80 1000.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7(b)

PC

Deg

ree

of D

issoc

iatio

n

Mol% of PC

DME-PCDEC-PC

DME

DEC

図 19.二液混合有機電解液の(a)イオン伝導度と(b)イオン解離の割合を PC のモル%で

ロット プ

5.4 6 種類のアニオンを溶解したリチウム塩有機電解液 4.4章で述べたように6種類のアニオンのGBL溶液におけるイオンの拡散係数(NMR)

30

0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.95

10

15

20

25

(a)

σ obs

C1/2/[M1/2]

/[Sc

m2 m

ol-1]

LiPF6 LiBF4 LiBOB LiTFSA LiBETA LiSO3CF3

0.7

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.80.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.8

0.9

1.0

(b)

Deg

ree

LiBOB LiPF6 LiTFSA LiBF4 LiBETA

of

Diss

ocia

tion LiCF

3SO

3

C/[M]

図 20.6 種類の異なったアニオンのリチウム塩を溶解した GBL 溶液における (a)イオ

ン伝導度と (b)イオン解離の割合を塩濃度でプロット

28

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29

と電気化学測定によるイオン伝導度との相関を検討した。図 20(a) に各々の電解液の

イオン伝導度を塩濃度の平方根でプロットした。LiBF4と LiSO3CF3を除く 4 種のリチウ

ム塩の電解液では c1/2に対するイオン伝導度のプロットは直線に近い。式(6)から求めた

イオン解離の割合を図 20(b)に示した。イオン伝導度と同様に、LiBF4と LiSO3CF3を除

く 4 種のリチウム塩のイオン解離の割合は実験誤差を考慮すれば、GBL 溶液中では大

きく異なることはない。

6. Li/Li 対称セルを用いた電圧印加時のイオン移動の in-situ 観測

リチウム二次電池では正極/負極間に 3~4 V の電圧が常に掛かった状態であり、電解

液も印加電圧の影響を大きく受けることが推察される。そこで、実際のリチウム二次電

印加した時のイオン移動挙動を測定する

出を行うことの出来るノンブロッキング

LiTFSA の 0.5M PC 電解液を用いた

ENMR)という研究分野があり、主に水

池の充放電作動時のモデル実験として電圧を

ことを試みた[12]。リチウムイオンの溶解・析

電極として両極に金属リチウムを用い、電解液に

では Electrophoretic NMR(電気泳動 NMR、モデルセルを作製した(図 21)。電圧印加時に拡散現象を測定する方法として NMR の世

溶液系で研究されている。 ENMR 法では電圧印加すればイオンは直ぐに電圧の大きさ

に比例して泳動すると仮定してパルス系列を設定している。従来の NMR 測定には多く

の問題があると我々は考えている。セルは自家製で図 21(a)に示す。またパルス系列を

21(b)に示す。電圧印加できるプローブとアンプは日本電子製である

図 21 (a)Li/Li 電極についたセルと電圧印加時のイメージ、及び(b)in-situ 測定に用いた

(b)パルス系列

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静電場の印加方向と磁場勾配の照射方向はともに外部静磁場方向と同じである。先ず

は NMR 用のセルを用いた電気化学的測定の結果を図 22 に示す。クロノアンペロメト

リー測定法に従って電圧を印加した時の電流値を時間軸でプロットした。(a)は初期段階

で定電流になるまでに電極で観測しておよそ 0.1s (100ms)の時間がかかる。言い換える

と電圧を印加してからイオンドリフトが始まるまでには、拡散測定のパラメータΔに相

当する時間が必要である。定常状態での電流値を印加電圧でプロットした図 21(c)での

直線性は良好であることから、NMR 用に作製したセルは電気化学的にみても問題はな

いといえる。

図 22 図 21(a)のセルを用いたクロノアンペロメトリーの結果。(a)と(b)は時間軸で電流

値をプロット、(c)は印加電圧と電流値の対応。 電場印加のない時に拡散係数 D をエコーシグナルの大きさ(E)の減衰から求めると

きの Stejskal の式

))δ(exp( 222

3δγ −Δ−= DgE (7)

定電圧を印加した時に、電場のはよく知られている(拡散測定の手引き参照のこと)。

下でドリフトするイオンのドリフト速度を ν とすると、

30

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))3

(exp()cos( 222 δδγδγ −Δ−Δ= DggvSS

Eo

v

で表され、 Sv と S0 は各々が電場のある時とない時のエコーシグナルの大きさである

(8)

6]。実際の測定時には式(7)を用いて ln(E)を )3

(222 δδγ −ΔDg[1 でプロットすると直線が

られ見かけの Dapparent が求まる。リチウムイオンと TFSA の見かけの Dapparent(Li)と23

Dapparent(TFSA)を印加電圧 2V、図 21(b)の遅延時間 tDC を変化して測定した結果を図

に示す。

図 23 電圧印加後に拡散測定を始めるまでの遅延時間に依存したリチウムイオンとア

オンの見かけの拡散係数 実際に測定すると遅延時間が長くなるにつれて、エコーシグナルの減少が速くなり、

確かにイオンの移動速度が速くなっていることが実感できる。Dapparent(TFSA)は遅延時間

tDC が 0.4 s付近では一定値になるがDapparent(Li)は一定値に達するまで長い時間がかかる。

これは Li/Li 電極の特性で実際のリチウムイオンの溶解・析出速度と関係する可能性が

ある。リチウムイオンの溶解・析出を伴わない(キャパシタ的な振る舞いを行う)ブロ

ッキング電極である Pt/Pt 電極では Li と TFSA にこのような大きな相違は観られなかっ

た。いずれにしてもクロノアンペロメトリーで観測した電流値一定に達する時間と比べ

るとバルクの状態を反映する NMR で観測するときには遥かに長い遅延時間が必要であ

る。PC を溶媒とした電解液では 3.5V 以上の電圧を印加すると電解液が分解することが

かっている。また拡散測定のように繰り返し電圧を掛けると Li 電極の表面が荒れて

。遅延時間を 0.4 s に固定して、印加電圧を上げながら見掛けの拡散係

デンドライドができることは我々の予備実験からわかっている。in-situ 測定は注意深く

能率的に行った

数 Dapparentを溶媒、リチウムイオン、TFSA アニオンについて測定して図 24 に示す。明

31

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らかに溶媒の D は変化が小さく、リチウムイオンが も大きくドリフトし、TFSA アニ

オンもドリフトすることがわかる。アニオンのドリフトは電解液の電荷の中性を保つた

めには必要な動きである。

図 24. 遅延時間 0.4sの時の印加電圧とリチウムイオン、 FSA(TFSI)と溶媒の Dapparent

T

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

0 2x108 4x108 6x108 8x108 1x109 1x109

0 1x109 2x109 3x109 4x109 5x109

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0 (a)

(

γ2δ2g2(Δ−δ/3)

(b)

A=E/exp(-γ2δ2g2D(Δ−δ/3))

cos-1

(A)

図 25 電圧印加 2V、tDC=0.2 s の時の

リチウムのエコーシグナルの減衰。 (a)は式(7)によるプロットで見かけの Dを求めた。

D は電圧

印加しない時の値を用い

である。

γδgΔ

E)ln (b)は式(8)に基づくプロットで

))3/(exp(/ 222 δδγ −Δ−= gEA

32

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23 および図 24 の Dapparentは式(7)でプロットして求めた値であり、理論的には正当で

ない。そのため式 8)に従ってドリフト速度を計算した。その時プロットを図 25 に示

す。

このようにして求めたドリフト速度の遅延時間依存性と電圧依存性を図 26 に示す。

図26 ドリフト速度を(a)2V印加時の遅延時間と(b)遅延時間0.4sの時に電圧でプロット 図 26 のドリフト速度は図 23 と図 24 の見かけの拡散係数から計算している。Li/Li 電極

を用いた in-situ 測定では、リチウムイオンは TFSA より遥かに高速で電解液中を移動す

ること、溶媒は電圧印加によって大きくは加速されないことなどがわかる。これは電圧

印加のない静的な状態の電解液の拡散とは異なっている。

33

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但し、電圧印加の測定で正確な再現性を得ることは難しい。遅延時間に対しても、印

電圧に対しても、測定データの傾向(大きくなるとか小さくなる)は再現するが、物理

定数としての再現性を得ることは難しい。何がファクターになっているのかがまだわか

っていないが電極表面が影響していると我々は考えている。特に電圧印加を繰り返し行

うと、徐々に電圧印加効果は小さくなり、同じ Dapparent の値を得るために遅延時間も長

くする傾向にある。ここでは述べないが両極を白金電極でリチウムイオンの溶解・析出

を伴わない(キャパシタ的な振る舞いを行う)セルで測定をしていると、同じ設定条件

でも Dapparent が小さくなり、データの再現性を得ることの難しさは Li/Li 電極と同じで

あった。イオンが流れるという現象の解明は将来の重要な研究課題である。

7. むすび

リチウム電池用有機電解液の研究は全て相原雄一博士との共同研究で行われた。彼が

また PGSE-NMR 測定や解析については Prof. W. S. Price との共同研究でおこなわれ

た。我々3人は愉快で楽しい共同研究仲間であり、Price さんがオーストラリアに帰国

してからも信頼関係は継続している。電解液探索ではイオン伝導度の向上が重要な指標

になっている。また拡散係数測定から明らかになったこととして、リチウムの拡散係数

が も小さく(=リチウム輸率が小さい)、アニオンの移動がイオン伝導度を決めてい

るといえよう。しかしながら第 6 章で述べたように Li/Li 電極をつけて、リチウムイオ

ン、アニオン、溶媒のドリフト拡散を測定すると、リチウムイオンはアニオンと比べて

速く移動することがわかっている(関 志朗博士と胸をワクワクさせながら行った共同

研究)。電解質の評価はセルを作ってテストしないとわからない面が確かにあるが、セ

ルの中で何が起きているのかをミクロの眼で考察するためには NMR は有効で重

増すものと私は信じている。 本稿作成にあたって、相原雄一、関 志朗、徳田浩之の三 ら電気化学、リチウ

ム電池、電解液などについて貴重なコメントをいただ 。

リチウム二次電池は携帯電話、ノート PC、電気 動車などで今後重要性が増大す

るであろう。安全性という観点から電解質の研究は重 あり、固体電解質(無機伝

体や高分子電解質)、ゲル電解質、イオン液体などが候補として上げられているが、実

用的には有機電解液を無視できないであろう。電極材料やセパレータなどに適合する電

解質の探索の時に、ここで示した有機電解液のデータは参考になると期待している。従

から NMR といえば構造解析のための分析方法と一般に認識されている。確かに NMR

サンプル条件の設定、サンプル調製、イオン伝導度測定など重要なファクターを担当し

た。

要さを

博士か

いた 自

要で 導

は化学構造をはじめとして、物質構造解析には強力であり、感度向上にともない、観測

可能な核種も多くなり,広い分野で不可欠な分析手段になっている。同時に NMR は時

34

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間に依存するような現象を捉えるために重要な手法であり、特に PGSE-NMR 測定によ

て得られる自己拡散係数は分子やイオンの移動を的確に解明できる。

子グループの池田武義氏、国領憲治氏にお礼申し上げます。また NMR 装置のメンテ

ナンスをして下さる日本電子データム筑波センターの方々、特に竹内 茂氏にはお世話

になっています。よい NMR 装置があるから、よいデータが取得できると日ごろから考

えています。

文献

[1] 「電気化学:測定と解析のてびき―NMR 法―電気化学パラメータとの相関」

早水紀久子、相原雄一、Electrochemistry, Vol. 75, No.1, 75-79 (2007).

高い磁場勾配の PFG プローブと電極付の PFG プローブを製作してくださった日本

[2] 「多核種 NMR 法によるポリエチレンオキサイド(PEO)系電解質中のイオン拡散と高

分子鎖運動の研究 」早水紀久子 高分子論文集 63, 19-30 (2005).

[3] John T. Edward, Molecular Volumes and the Stokes-Einstein Equation, J. Chem. Edu. 47,

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Propylene Carbonate and γ-Butyrolactone, J. Electrochem. Soc., 141, 3336-3342 (1994)

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Self-Diffusion Coefficient, J. Phys. Chem. A 106, 11841-11845(2002)

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