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新しいデバイス「Kinect」を生かした新しい遊びを この冬、ヒップホップファンやダンスマニアの間で密かな話題を呼んで いるゲームがある。11月発売の「The Black Eyed Peas Experience」 がそれだ。タイトル通りグラミー賞6度受賞に輝くヒップホップグルー プ「The Black Eyed Peas(以下「BEP」 )」をフィーチャーしたダンス ゲームだが、実はこの作品、北米やヨーロッパ等の海外のみの発売な のだ。――にも関わらず大きな注目を集めているのである。開発を担 当したイニスの小澤明訓氏にお話を伺った。 「まずBEPの人気ナンバー28曲をフィーチャーしたのはもちろん、BEP メンバーや彼らの公式振付師の方の協力を得て、メンバーの声や動 作、そして印象的なダンスステップ等を忠実に再現した点がファンの 人気を集めたのでしょう」。実際、完成時にはBEPメンバーの自宅まで 仕上りを見せに行き、これを大いに気に入ったメンバーが自らtwitter で強力にプッシュしてくれるほどだったと言う。しかし、無論それだけで ヒットが生まれるわけではない。いくらBEPが人気者でもそこにダンス ゲームとしての新しさや楽しさがなければ、ダンスフリークの注目を 集めることは難しかかっただろう。真のポイントは、Kinectによるアバ ターを用いたユニークで没入感の高いゲームシステムやBEPのビ ジュアルを忠実に再現したグラフィックなど、ダンスゲームとしての新 しさとそのクオリティの高さにあった。 「もともとこのゲームは“Kinectという新デバイスを使った新しい遊び” という発想が出発点です。当社は音楽ゲームの開発経験がありました し、すぐにKinectを生かしたダンスゲームという発想が生まれました。 もっとも当初は複数のアーチストのさまざまな曲で遊べるゲームとし て企画していたんですよ」 (小澤氏)。その発想とは、 Kinectでプレイヤー のダンスステップをゲーム内に取り込み、これをゲーム内にユーザ自 身が作ったアバターへリアルタイムに反映させ、ゲーム内でキャラクタ とユーザのアバターを共演させるアバターシステムである。このユニー クな企画は、Autodesk 3ds MaxとAutodesk MotionBuilderをメイ ンツールとして、早速開発が進められたが、スケジュールは非常にタイ トなものであった。 「BEPをフィーチャーすることに決まったのが3月頃、ホリディシーズン までに発売するという前提だったため、マスターアップは9月頭。通常 なら最低1年半~2年は必要なボリュームを持った内容なのに、与えら れたのは実質半年弱だったのです」 (小澤氏)。 Kinectでユーザ/アバターをシンクロ! 新次元ダンスゲームを可能にした 3ds Max & MotionBuilder & HumanIK BEPをフィーチャーするという方針が決まっ たのが3月頃で、マスターが9月頭。つまり開 発期間は半年弱しかなかったんです。で、そ こから「ではどうするか」という話になって ……「どうやって対応するか」ものすごく考 え、それこそHumanIKなど、使えるものは全 部使ってなんとかできちゃった、と。ある意 味怖いな、と(笑)。 株式会社イニス ゼネラルマネジャー 小澤明訓 氏 Autodesk ® 3 ds Max ® Autodesk ® MotionBuilder ® Autodesk ® HumanIK ® Autodesk ® Scaleform ® The Black Eyed Peas Experience 活用事例 株式会社イニス ゼネラルマネジャー 小澤明訓 氏 ©2011 Ubisoft Entertainment. All rights reserved.

The Black Eyed Peas Experience Kinectでユーザ/アバターをシ …images.autodesk.com/apac_japan_main/files/BEP_print.pdf · 2012. 2. 6. · 開発を担 当したイニスの小澤明訓氏にお話を伺った。

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Page 1: The Black Eyed Peas Experience Kinectでユーザ/アバターをシ …images.autodesk.com/apac_japan_main/files/BEP_print.pdf · 2012. 2. 6. · 開発を担 当したイニスの小澤明訓氏にお話を伺った。

新しいデバイス「Kinect」を生かした新しい遊びを

この冬、ヒップホップファンやダンスマニアの間で密かな話題を呼んで

いるゲームがある。11月発売の「The Black Eyed Peas Experience」

がそれだ。タイトル通りグラミー賞6度受賞に輝くヒップホップグルー

プ「The Black Eyed Peas(以下「BEP」)」をフィーチャーしたダンス

ゲームだが、実はこの作品、北米やヨーロッパ等の海外のみの発売な

のだ。――にも関わらず大きな注目を集めているのである。開発を担

当したイニスの小澤明訓氏にお話を伺った。

「まずBEPの人気ナンバー28曲をフィーチャーしたのはもちろん、BEP

メンバーや彼らの公式振付師の方の協力を得て、メンバーの声や動

作、そして印象的なダンスステップ等を忠実に再現した点がファンの

人気を集めたのでしょう」。実際、完成時にはBEPメンバーの自宅まで

仕上りを見せに行き、これを大いに気に入ったメンバーが自らtwitter

で強力にプッシュしてくれるほどだったと言う。しかし、無論それだけで

ヒットが生まれるわけではない。いくらBEPが人気者でもそこにダンス

ゲームとしての新しさや楽しさがなければ、ダンスフリークの注目を

集めることは難しかかっただろう。真のポイントは、Kinectによるアバ

ターを用いたユニークで没入感の高いゲームシステムやBEPのビ

ジュアルを忠実に再現したグラフィックなど、ダンスゲームとしての新

しさとそのクオリティの高さにあった。

「もともとこのゲームは“Kinectという新デバイスを使った新しい遊び”

という発想が出発点です。当社は音楽ゲームの開発経験がありました

し、すぐにKinectを生かしたダンスゲームという発想が生まれました。

もっとも当初は複数のアーチストのさまざまな曲で遊べるゲームとし

て企画していたんですよ」(小澤氏)。その発想とは、Kinectでプレイヤー

のダンスステップをゲーム内に取り込み、これをゲーム内にユーザ自

身が作ったアバターへリアルタイムに反映させ、ゲーム内でキャラクタ

とユーザのアバターを共演させるアバターシステムである。このユニー

クな企画は、Autodesk 3ds MaxとAutodesk MotionBuilderをメイ

ンツールとして、早速開発が進められたが、スケジュールは非常にタイ

トなものであった。

「BEPをフィーチャーすることに決まったのが3月頃、ホリディシーズン

までに発売するという前提だったため、マスターアップは9月頭。通常

なら最低1年半~2年は必要なボリュームを持った内容なのに、与えら

れたのは実質半年弱だったのです」(小澤氏)。

Kinectでユーザ/アバターをシンクロ!新次元ダンスゲームを可能にした3ds Max & MotionBuilder & HumanIK

BEPをフィーチャーするという方針が決まっ

たのが3月頃で、マスターが9月頭。つまり開

発期間は半年弱しかなかったんです。で、そ

こから「ではどうするか」という話になって

……「どうやって対応するか」ものすごく考

え、それこそHumanIKなど、使えるものは全

部使ってなんとかできちゃった、と。ある意

味怖いな、と(笑)。

株式会社イニスゼネラルマネジャー小澤明訓 氏

Autodesk® 3ds Max®

Autodesk® MotionBuilder®

Autodesk® HumanIK®

Autodesk® Scaleform®

The Black Eyed Peas Experience活用事例

株式会社イニスゼネラルマネジャー小澤明訓 氏

©2011 Ubisoft Entertainment. All rights reserved.

Page 2: The Black Eyed Peas Experience Kinectでユーザ/アバターをシ …images.autodesk.com/apac_japan_main/files/BEP_print.pdf · 2012. 2. 6. · 開発を担 当したイニスの小澤明訓氏にお話を伺った。

アバターシステムの致命的な問題を

ミドルウェアHumanIKでクリア

「何と言ってもテーマは、BEPの魅力を100%伝えな

がらダンスゲームを楽しく遊ばせることです。そのた

めにBEPのキャラクタモデリングにはもちろん、ス

テージ演出、楽曲とダンスを上手く絡めて遊べるよ

う最大限注力しました」(小澤氏)。そこでネックと

なったのが開発期間の短さだ。かつてない短期間で

の開発を前提にすると大きな問題が出てきたのだ。

「実はアバターシステムの基盤である、ユーザの動き

をKinectで高精度で認識させること自体とても難し

かったのです。特に全身キャプチャでは足が滑るな

どして汚く見えてしまう。ダンスゲームとしては致命

的です。しかしこのゲームはアバターシステムが売り。

どうしてもユーザの動きを反映させたかった。そこで

最終的には全身キャプチャは諦め、上半身の動きで

ユーザとアバターのシンクロ感を演出。後はダンス

をきれいに見せることに集中したのですが……」

だが問題はまだあった。ユーザの動きを反映させる

とアバター関節部の動きが不自然になってしまうの

だ。これを自然な範囲に収めるためさまざまな技術

が検討され、試行錯誤が繰り返された。そして唯一満

足いく成果を挙げたのが「Autodesk HumanIK」だっ

たのである。HumanIKは、より自然なゲームのリアル

タイムキャラクタアニメーションを作成するゲームミ

ドルウェア。FBIKシステムにより、キャラクタを環境や

他のキャラタとリアルに相互作用させるのである。

「特に我々が使っていたUnreal Engineと親和性が

高く、統合してすぐ使える点が凄く大きかったですね。

他のソフトは最適化されてないものが多く、厳しいス

ケジュール下では使い辛いのですが、HumanIKは非

常にスムーズで、さらにMotionBuilderとほぼ同じ設

定の仕方で使えるのも魅力でした。早速これでリミッ

ト制御システムを試みると非常に良い成果が出たの

で、すぐに実装しました」。ゲームにおけるリアルの追

求は、いまやビジュアル面だけでなくアニメーション

や物理シミュレーション等々、高度なノウハウと時間

やコストが求められる世界となった。これらの作業

をより効率化し、開発コストを抑えながら品質を上げ

るのに重要な役割を担うのがミドルウェアなのだ。実

際、今回の開発ではHumanIK以外にもUIシステム用

ミドルウェア「Autodesk Scaleform」等も使われ大き

な成果を挙げた。3ds MaxやMotionBuilderと共に

HumanIK等のミドルウェアなしでは実現は難しかっ

たかも知れない――小澤氏はそう感じている。

「HumanIKの採用が7月で、大急ぎで検証しアバター

システムに入れて形になったのが8月。マスターが9

月ですから本当にギリギリのタイミングでした。でも、

ゲームのクオリティには自信があります。BEPファン

だけでなく多くの方に遊んでいただきたいですね!」

導入製品/ソリューション● Autodesk 3ds Max●Autodesk MotionBuilder●Autodesk HumanIK●Autodesk Scaleform

導入目的●Unreal engine上で、キャラクタのモーションを

不自然でないようリミット制御する●厳しい納期をクリアするための作業の効率化

導入ポイント●制作グループ内に最も普及し熟練者多数のため●豊富かつ多彩なプラグインの幅広い活用のため●使いやすいスクリプトによるツール等の作り易さ

導入効果●キャラクターモーションのリミット制御を実現●アニメーション工程の生産性の飛躍的向上●ダンスアニメーション全般の品質向上

今後の課題●さらなる品質向上と作業効率化●3D CGアニメーションの新たな表現手法の開発●より幅広いミドルウェアの活用

対応機種:Xbox 360

ジャンル:ダンスゲーム

発売:11月/北米・ヨーロッパ地区

販売:ユービーアイソフト株式会社

開発:株式会社イニス

©2011 Ubisoft Entertainment. All rights reserved.http://blackeyedpeas-experience.ubi.com/

オートデスク株式会社 www.autodesk.co.jp〒104-6024 東京都中央区晴海1-8-10 晴海アイランド トリトンスクエア オフィスタワーX 24F

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TEL:0570-064-787(オートデスク インフォメーション センター)

Autodesk, 3ds Max, MotionBuilder, HumanIKとScaleformは、米国および/またはその他の国々における、Autodesk, Inc.、その子会社、関連会社の登録商標または商標です。その他のすべてのブランド名、製品名、または商標は、それぞれの所有者に帰属します。オートデスクは、通知を行うことなくいつでも該当製品の提供および機能を変更する権利を留保し、本書中の誤植または図表の誤りについて責任を負いません。©2012 Autodesk, Inc. All rights reserved.

「The Black Eyed Peas Experience」

作品概要

UIに関しては、テキストがでている部分は全てScaleformで作成された。flashでアセットを組みプレビューも可能だ

BEPの紅一点 “ファーギー”のモデリング作業。ビジュアル表現にこだわりを持つアーチストだけに厳しいダメ出しがあった

背景はステージ中心でライトも色も動的に変化する。3ds Maxで焼き付けを行って疑似的にライトが当たっているよう見せている

UnrealEngineとHumanIKを統合したリミット制御により、ユーザの動きを反映するアバターのモーションを自然に制御する

MotionBuilderによるアニメーション作業