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恋愛関係を理論化する ―社会心理学の観点から― 浅野 良輔 浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 2013/9/19 (木) 第77回日心大会公募シンポジウム 青年期の恋愛関係における否定的な関わり ―青年心理学の新展開 (2)―

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恋愛関係を理論化する ―社会心理学の観点から―

浅野 良輔

浜松医科大学子どものこころの発達研究センター

2013/9/19 (木) 第77回日心大会公募シンポジウム 青年期の恋愛関係における否定的な関わり ―青年心理学の新展開 (2)―

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「青年期の恋愛関係」をどのように研究の対象としていくか?

とくに、否定的な関わりに注目して

過去から現在までの社会心理学理論の概観

– 愛情の色彩理論

– 成人の愛着理論

– 個人―関係のダイナミックス

青年心理学と社会心理学に架け橋を!

1分バージョン

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青年心理学と社会心理学

ミッシング・リンク (分断)

「青年心理学研究の大半は社会心理学の研究には触れず、社会心理学は青年心理学の知見を参照していない。相互に研究成果の交流が乏しいために、恋愛に関する研究成果が積み上げられないという、非生産的な事態が生じている」 (松井, 1990, p. 360)

現在も状況は変わらず

なぜか?

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青年心理学と社会心理学

(お互いに)

物足りなさ

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青年心理学と社会心理学

青年心理学者から見た「社会心理学研究」

☺仮説を設定して理路整然とまとめている

☹現実の問題解決にはつながらない

– 「じゃあ、具体的にどうすればいいの?」

社会心理学者から見た「青年心理学研究」

☺その時代における青年像を丁寧に議論している

☹理論的な背景・仮説が弱い

– 「とりあえずやってみただけでは?」

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Kurt Lewin

よい理論ほど 実践的なものはない

社会心理学者の立場

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社会心理学者の立場

よい社会心理学理論 (Van Lange, 2013)

1. 真実性

– 研究者による個人的な信念や妄想ではない

2. 抽象性

– 少ない原理で多くの現象をとらえられる

3. 発展性

– 今までわからなかったことを説明している

4. 応用可能性

– 日常生活を的確に描写している

1つでも欠けると、よい理論ではなくなる

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社会心理学者の立場

理論を最優先

ある一般法則を仮定した上で、システマティックに研究を進める

単に現象を記述したり、データから事後的に解釈したりするのは、あまり生産的ではない

発表者自身も、いつしかそう考えるように

– 社会心理学者としての社会化?

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社会心理学者の立場

恋愛の理論的研究は可能なのだろうか?

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愛情の色彩理論

Lee (1977)

アガペ (献身的な愛)

プラグマ (実利的な愛)

マニア (熱狂的な愛)

ストルゲ (友愛的な愛)

ルダス (遊びの愛)

エロス (美への愛)

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愛情の色彩理論

Lee (1977)

恋愛をめぐる考え方や価値観を分類する

古代から現代までの書物をベースにしている

– 文学作品、歴史書、哲学書など

色彩学における色相環のように、6つのラブスタイルが円環状に並ぶ

– エロス・アガペ:関係満足感と正の相関

– ルダス:関係満足感と負の相関

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愛情の色彩理論

メジャー誌では、見かけなくなった

JPSP, JESP, PSPB, 社心研, 実社心研…

① 真実性:低

– Leeの思索によるところが大きい

② 抽象性 (+発展性):低

– 下位尺度が多く、現象記述にすぎない

– エロス・マニア・アガペを一つの頂点とする三角錐状? (松井, 1993, 心研)

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成人の愛着理論

Shaver & Mikulincer (2003)

ゆりかごから墓場まで (Bowlby, 1973)

幼少期の養育者 (母親) との相互作用経験が、青年期以降の恋愛関係にも影響する

発達段階を通じた愛着スタイルの連続性

– とくに、ネガティブな側面が強調される

– ラブスタイルを包含する (Shaver & Hazan,

1988)

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成人の愛着理論

成人の愛着スタイル

親密性回避・高

関係不安・高

親密性回避・低

関係不安・低

Bartholomew & Horowitz (1998)

安定型

回避型

とらわれ型

恐れ型

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成人の愛着理論

関係不安

自己へのネガティブな期待・信念

– 「自分に愛される価値なんてない」

相手から拒絶される恐怖を抱く

親密性回避

他者へのネガティブな期待・信念

– 「他人は信用できない」

相手から距離を置く

Bartholomew & Horowitz (1998)

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成人の愛着理論

関係不安が引き起こす負のスパイラル

予言の自己成就 (Simpson & Rholes, 2004)

1. 相手から拒絶されることを強く恐れる

2. 相手に過剰な要求や愛情の確認を繰り返す

3. 自分と相手のネガティブ感情を高める

4. 本当に相手から拒絶されてしまう!

5. 他者から拒絶されることをさらに恐れる

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成人の愛着理論

関係不安による予言の自己成就

関係不安

本人の ネガティブ感情

本人の 関係への評価

-.19**→-.03

.33*** -.46***

金政 (2009, 社心研)

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成人の愛着理論

関係不安による予言の自己成就

関係不安

恋人の ネガティブ感情

恋人の 関係への評価

-.19**→-.10

.19** -.45***

金政 (2009, 社心研)

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成人の愛着理論

「かけがえのなさ」(Murray et al., 2009)

相手が感じているだろう自己の代替可能性の低さ

関係を安定化させるには、不可欠な要素

① 関係不安の高い個人

– 関係初期には「かけがえのなさ」を知覚できるが、自分の要求を満たしてくれない相手にいら立ち、次第に知覚しにくくなる

② 親密性回避の高い個人

– 関係継続期間とはかかわりなく、「かけがえのなさ」を知覚しにくい

浅野 (2012, パー心大会, 恋愛カップル)

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成人の愛着理論

マルチレベル構造方程式モデリング

関係継続期間 かけがえのなさ 0.20*

関係不安

親密性回避

かけがえのなさ

-0.04* 0.02

0.12*

-0.15*

-0.01

ペアレベル (Between)

個人レベル (Within)

浅野 (2012, パー心大会, 恋愛カップル)

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成人の愛着理論

3.6

3.8

4

4.2

4.4

短 (-1SD) 長 (+1SD)

かけがえのなさ (1

~5)

関係継続期間

関係不安・低 (-1SD)

関係不安・高 (+1SD)

浅野 (2012, パー心大会, 恋愛カップル)

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成人の愛着理論

真実性:高

理論的前提と合致した知見が得られやすい

発展性:高

個人の健康やストレスの問題にまで言及できる

応用可能性:高

トレーニングや心理療法にも生かされている

抽象性:??

二者関係を「個人」によって説明している

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対人関係研究の限界

先人たちの指摘

対人関係は個人一人ひとりには還元できない (Lewin, 1947)

対人関係研究は方法論的個人主義に陥っている (Berscheid, 1999)

10年以上たった現在も同じ

では、どうするか?

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個人―関係のダイナミックス

個人

ペア

個人

個人―関係の ダイナミックス

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個人―関係のダイナミックス

関係効力性 (浅野, 2011; 浅野・吉田, 2011)

個人―関係のダイナミックスに基づく実証研究を可能にする

個人レベルではなく、ペアレベルの概念

2人がとるべき行動を協力して計画・実行できるかどうかに関する、共有された効力期待

– 実際に期待を共有させており、そのことに両者が気付いている

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関係効力性 (浅野, 2009)

1 問題の解決に向けて、うまく物事が運ぶようにし合うことが常にできる

2 お互いに協力して、2人の間で起こる問題を解決できる

3 2人の間で起きた問題について話し合うと、お互いが納得のいく結論にた

どり着くことが常できる

4 2人の求めることのズレをうまく解決できる

5 さまざまな困難に直面して動揺しても、お互いに相手の気分を和らげるこ

とが常にできる

6 お互いに協力して、2人とって望ましい理想の関係を築くことができる

7 2人の間で起こる良いことも悪いことも思いどおりにできる

8 2人の意見のズレをうまく解決するために必要な、コミュニケーション能

力や問題解決スキルをお互いにもっている

9 お互いに協力して、2人の間にやっかいな問題が起こらないようにできる

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個人―関係のダイナミックス

強度

多様性 関係効力性

頻度

主観的幸福感

個人レベル (Within)

強度

多様性 関係効力性

頻度

主観的幸福感

ペアレベル (Between)

Indirect = -0.002, 90% CI [-0.004, 0.000]†

Indirect = 0.087, 90% CI [0.005, 0.170]†

浅野 (2011, グルダイ大会, 恋愛カップル)

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関係効力性をめぐる課題

愛着スタイルとのダイナミックス

1. 関係不安は2人の関係効力性を阻害し、関係不安をさらに強化する

– 関係不安は相互作用頻度を過剰に高める

– 負のスパイラルはどこまでも続く?

2. 親密性回避は2人の関係効力性をうながし、親密性回避を弱める

– 親密性回避が相互作用頻度を抑える

– そのカップルなりに折り合いがつく?

今後検証していきたい

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個人―関係のダイナミックスへのお誘い

「青年期の恋愛関係における否定的な関わり」をさらに理解するために

青年心理学

– 面接法や観察法などにより、個人レベルとペアレベルの特徴をそれぞれ洗い出す

社会心理学

– 個人レベルとペアレベルのダイナミックな過程をモデリングし、それを検証する

Take-home messages

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ご清聴

ありがとうございました

E-mail: [email protected]

本発表に際して、古村健太郎氏 (筑波大学) に貴重なご意見を賜りました。厚く御礼申し上げます。

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関係不安 (中尾・加藤, 2004)

私は一人ぼっちになってしまうのではないかと心配している

私は、知り合いを失うのではないかとけっこう心配している

私が人のことを大切に思うほどには、人が私のことを大切に思っていないのではないかと、私は心配する

私は、いろいろな人との関係について、非常に心配している

私は、(知り合いに) 見捨てられるのではないかと心配になることはほとんどない (R)

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親密性回避 (中尾・加藤, 2004)

私は、心の奥底にある考えや気持ちを人に話すことに抵抗がない (R)

私はたいてい、人と自分の問題や心配ごとを話し合う (R)

私は人に頼ることに抵抗がない (R)

私は、人になぐさめやアドバイス、助けを求めることに抵抗がない (R)

私は、人に何でも話す (R)

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かけがえのなさ (清水, 2012)

Aさんにとって、私は非常に大切な人である

私は、Aさんにとってかけがえのない人である

Aさんにとって、私の代わりになる人はだれもいない

Aさんにとって、私はなくてはならない人である

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マルチレベル構造方程式モデル

集団データ: X 集団データ: Y

Between Between

Within Within

ペアレベルの影響力

個人レベルの影響力

抽出

抽出

抽出

抽出

reflective aggregation (因子分析の原理)