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超伝導体材料 1/7
超伝導材料基礎
[1]超伝導現象と発見からの歴史
(1)超伝導現象
ある種の物質の温度を下げていくと、
ある温度で電気抵抗が突然0になり、
いわゆる超伝導状態に転移する。 この
ような挙動を示す物質を超伝導体と呼
び、その転移温度を臨界温度 (TC) とい
う。
(2)超伝導現象発見とその背景
1907 年 オランダの Kamerlingh Onnes(カマリン・オンネス)が He の液化に成功 (He の液化温度
4.2 K)
1911 年 オランダのカマリン・オンネスによって 4K 近傍における Hg の超伝導現象を発見: 抵抗が
0.1Ω 程度の値から一挙に 10–6Ω 以下の測定範囲外に低下
その後、Pb, Sn, In などについても同様の超伝導現象が確認
(3)臨界温度の推移
超伝導材料を実用化に導くにあた
り、求められる重要な特性のひとつ
は、材料の臨界温度(TC)である。臨界
温度が高いほど、冷却のためのコス
トを低減させ、また、冷却の操作を容
易にすることができる。 右図はこれ
まで発見された超伝導体の臨界温度
の推移を示している。 1911 年の Hg
の超伝導発見以来、1930 年代前半ま
では、Pb, Sn , In, Nb, V 等の金属単体
についての超伝導現象が数々発見さ
れた。 しかし、TCはどれも 10 K 以下
であり、実用化に導けるものではな
かった。 1930 年代になって、B1 型
(NaCl 型)結晶構造を有する化合物超
伝導 NbC で、はじめて TCが 10 K を超えた。 1950 年代には、V3Si (TC = 17.1 K)をさきがけに、化学式 A3B
で表される A15 型結晶構造を有する化合物超伝導体が数々発見され、TC も少しずつ向上したが、1973 年
の Nb3Ge (TC = 23.2 K)の発見以降、10 年以上もの間、TC の向上は見られなかった。 しかし、1986 年に、(La,
M)2CuO4 (M = Ca, Sr, Ba)の銅系酸化物 (TC = 17~38 K)が発見され、また、翌年の 1987 年に、同じ銅系酸化
物で、TC が窒素の沸点(77 K)を超える YBa2Cu3Oy (TC = 92 K)が発見されるなど、飛躍的な TC の向上がみら
れた。 そして、現在、ブロック層を HgOxとする銅系酸化物で TC は 135 K (31GPa の高圧下で 164 K)まで
達している。 また、最近では、東工大の細野博士のグループにより、2008 年に LaFeAsO という鉄系酸化
物ではじめて超伝導現象が発見されて以来、この 2 年間の間に鉄系酸化物超伝導体の研究が世界的なブ
臨界温度の推移
超伝導体材料 2/7
ームとなり、膨大な論文が発表されている。 現在、鉄系酸化物での TC の最大値は 60 K 弱と、銅系酸化物
に比べてまだ低いものの、“強磁性と超伝導は相反する性質で、両立しない”という従来の常識をくつ
がえす系として大きな関心を集めている。
[2]超伝導発現機構
(1)Meissner効果
右図に物質に外部磁界を印加した際
の磁束の様子を表す。 物質が常伝導状
態にあるとき、物質内部は外部磁界と
同じ方向に磁化され、物質内部の磁束
密度は、外部磁界による磁束密度と、物
質内部に生じた磁化による磁束密度の
和となる。 よって、常伝導状態では物
質内部の磁束密度は外部より大きくな
る。 一方、TC温度以下の超伝導状態で
は、物質内部には外部磁界を打ち消すように、外部磁界とは逆向きに磁化が生じ、物質内部の磁束は完全
に 0 になる (完全反磁性)。 これは Meissner 効果といわれる超伝導物質の主要な性質のひとつである。
(2) 超伝導発現機構 · · · BCS理論
1950 年に Hg の同位体実験が行われ、臨界温度 TCの精密測定により、TCは元素の質量(M)に依存し、以
下の式で表されることが判明した。
MTC
1∝
この結果から、超伝導状態には結晶の格子振動(フォノン)が関与していることが推察された。 また、前
項(1)で超伝導物質の Meissner 効果 (完全反磁性)という性質を説明したが、 元来、Bose凝縮体が完全
反磁性の性質を示すことがわかっている。 よって、超伝導状態でみられる Meissner 効果は、本来 Fermi粒
子である電子が Bose粒子としてその振る舞いを変えるとすることで説明できそうである。
以上のことを背景に、1957 年、バーディン(Bardean), クーパー
(Cooper), シュリーファー(Schriefer)の三人によって超伝導に理
論的な解釈が与えられた (BCS理論)。 この理論では、電子間に
作用するクーロン斥力に打ち勝つだけの引力的相互作用が働き、
その結果、2 つの電子が対(Cooper対)となって Bose粒子化し 、
Bose–Einstein統計に従って、ひとつのエネルギー状態に集団で
凝縮するというものである。 2 つの電子が対(Cooper対)を形
成すれば、それは Bose粒子としての振る舞いを示し、ひとつの
エネルギー状態に集団で凝縮する。 そのためには、電子にクー
ロン斥力に打ち勝つだけの何らかの有効な引力が作用する必要
がある。 ここで、BCS理論が提唱する Cooper対形成機構を定性的に説明すると、以下のようになる。
1. 金属結晶内では金属陽イオンが規則正しく並び、正電荷の分布が一様。
2. 右上図のように、結晶内のある領域を電子①が通過すると、周囲のイオンが引き寄せられ、イオンの
分布は乱れ、結果局所的に正電荷の密度が高い領域が生じる。
3. この領域に電子②が引き寄せられ、結果として電子①と②の間に引力が作用したことになる。
超伝導体材料 3/7
4. この電子間引力がクーロン反発より大きいとき、電子同士は互いに引き合い Cooper対を形成する。
そして、その引力分だけ、低いエネルギー状態をとる
5. Cooper対をなすこの 2 つの電子はフォノンによる散乱を起こすごとに、この引力的な負のエネルギ
ーを獲得して系の安定化を促進する
6. 上記散乱の最大確率を与える電子の組み合わせは、 (波数 k, スピン)と(波数 –k, スピン↓)の 2 つ
の電子である
7. すべての Cooper対は(波数 0, スピン 0)の状態をとり、互いに区別できない。すなわち、 Cooper対
は熱力学的には Bose-Einstein統計に従う。 さらに、Cooper対同士の衝突·散乱はないので、その状態
は時間的にも空間的にも維持される。
(3)超伝導化に伴う電子状態密度分布の変化
常伝導状態及び超伝導状態における電子の状態密度分布を下図に示す。 まず、常伝導状態において、
電子は Fermi粒子として Fermi-Dirac統計に従い、フェルミエネルギー準位(EF)まで電子が占有する。 超
伝導状態では、フェルミ準位(EF) を境にエネルギーギャップ 2∆ が生じる。 このギャップは対形成状態
(クーパー対)と対分離状態(準粒子)のエネルギー差に相当する。 Cooper対は Bose粒子として振る舞い、
Bose-Einstein統計に従い、EF エネルギー近傍(EF – ∆)の準位に凝縮する。 このギャップ以上のエネルギ
ーを外部から与えられない限り、常伝導状態にもどることはできない。
ちなみに Cooper対の密度(nC) の温度依存性は近似的に次式で与えられる。
−≅
4
0 12 C
C T
Tnn
( n0:常伝導状態における全電子密度)
[3]超伝導体の諸特性
(1)第 1種及び第 2種超伝導体
(第 1 種超伝導体) 多くの金属が第 1 種
超伝導体に属し、外部磁界に対し、以下のような挙動を示す。
右上の図のように、第 1 種超伝導材料に外部磁界を印加し、その
磁界を次第に強めていったとき、材料固有の臨界磁界(Tc)以下の
磁界では、マイスナー効果により磁束の侵入を排除するが、臨界磁
超伝導体材料 4/7
界(HC)を超えると、材料全体に磁束が侵入し、超伝導状態から常伝導状態にいきなり移行する。なお、臨界
磁界 HC の温度依存性は近似的に次式で与えられる。
−≅
2
1)0()(C
C T
THTH (TC : 臨界磁界)
(第 2 種超伝導体) Nb, V などがこ
れに属する
右図のように、第 2 種超伝導材
料に外部磁界を印加し、その磁界
を次第に強めていったとき、材料
固有の下部臨界磁界 (HC1)を超え
たところで、超伝導体の一部に磁
束が糸状に侵入し、その領域は常伝導相に転移するが、周囲
は超伝導状態を維持する。 このように、超伝導相と常伝導
相との混合状態になる。 さらに磁界を強めていくと、上部
臨界磁界(HC2)を超えたところで、材料全体に磁束が侵入し、
完全に常伝導状態に転移する。 第 1 種超伝導体に比べ、数
十倍~数百倍の強さの磁界を加えても超伝導状態を維持す
ることができるため、超伝導磁石のコイル等の実用化には
第 2 種超伝導体が必須である。
(2)第 2種超伝導体における量子化磁束
第 2 種超伝導体に侵入する磁束種 は量子化されている。 右図のように、第 2 種超伝導体において、超
伝導相に囲まれた常伝導相領域を貫く磁束伝 ([Wb] =
[J/A])は以下の式で表されるように、磁束量子は0 (= h/2e)の
整数倍 (h[Js]はプランク定数、e[C]は素電荷)の値しかと
ることができない。 これは超伝導相でクーパー対を形成し
ている電子の位相の周期的境界条件の要請に基づく。
e
hn
2=Φ (n = 1,2,3….)
ここで、磁束量子 , Φ0 = h/2e = 2.068 × 10–15 [Wb] = 2.07
[fWb]
(3) 臨界電流密度 (JC )
下部臨界磁界(HC1)以上の外部磁界(磁束密度, B)のも
とで、第 2 種超伝導体に輸送電流 (電流密度, J)を流す
とする。 このとき、超伝導体内部に侵入している“量
子化磁束”には、輸送電流により、単位体積あたり
(J×B)で表されるローレンツ力が、磁束及び電流の双方
に垂直な方向に作用する。 この力を受けて量子化磁束
が超伝導体内部を移動すると、誘導起電力が発生し、超
超伝導体材料 5/7
伝導体であるにも関わらず電気抵抗が発生する。すなわち、常伝導状態への転移が生じる。 こうした状
況を防ぐため、超伝導体に重粒子線を照射したり、不純物を導入したりすることで、わざと欠陥をつくり、
この欠陥に量子化磁束をトラップすることにより、誘導起電力による電気抵抗の発生を防ぐことができ
る。 これを「ピン止め効果」と呼ぶ。 ここで、このピン止めの作用と先のローレンツ力とが釣り合うと
きの電流値を臨界電流密度(JC ) という。
(4)ジョセフソン効果(Josephson Effect)
1962 年に、当時ケンブリッジ大学の大学院生だったブライアンジョセフソンによって理論的に導かれ
た超伝導金属間におけるトンネル効果の一つ
(超伝導–常伝導二層系の近接効果)
超伝導体に常伝導体を接合すると、Cooper対が常伝導体 側
に浸み出し、常伝導体が超伝導性を示す現象。この浸み出 し
の距離は数十のm に及ぶ
(ジョセフソン効果)
・2 つの超伝導体の間に薄い絶縁体、あるいは常伝
導体を挟んだ時(ジョセフソン接合)に、超伝導体間
を超伝導電流(抵抗零の電流)が流れる現象
・上記トンネル電流は接合面内を貫く磁束が磁束
量子の整数倍のとき弱め合い、それ以外のとき強
め合うという Fraunhofer 型の量子干渉効果を示す。
[4]超伝導体材料の種類
超伝導体はその材料の種類から、(1)合金超伝導体 (2)
化合物超伝導体 及び (3)酸化物超伝導体の 3 つに分類される。
(1)合金超伝導体
代表的な合金超伝導体としては Pb–Bi, Nb–Ti, Nb–Zr 合金がある。
(Nb–Zr) 1950 年頃に発見され、TC = 10.8 K を有し、超伝導体実用化への第一歩となった。
(Nb–Ti) TCはややNb–Zr 合金に劣るものの、高い上部臨界磁界(HC2)及び優れた機械的加工性から、マグ
ネット用線材の中心的存在となっている。 TC 及び HC2は Ti の割合によって変化し、それぞれの最大
値は、10.1 K (Ti 35~40 %), 11.5 T (Ti 65~70 %)である。 マグネット用線材として使用する場合の典型的
な組成は、加工性や特性を考慮して Ti 50–70 %のものが用いられる。
(2)化合物超伝導体
(i) A15 型化合物
1953 年に V3Si (Tc = 17 K)が発見されて以来、1973 年の
Nb3Ge (TC = 23.2 K)に至るまで、V3Ga (Tc = 16.5 K), Nb3Sn (TC
= 18 K), Nb3Al (TC = 19.1 K)などの数々の同種化合物が見出さ
れた。 これら、A15 型化合物は TC , HC2ともに、上記合金超伝
導材料に比べ大きいものの、機械的強度が弱く、加工性に乏し
いことが問題となる。 したがって、柔軟性に富む先の合金超
伝導体の実用化が先行している。しかし、A15 型化合物のうち、
Nb3Snや Nb3Al についてはその線材化技術が確立しており、結晶構造 : A15 化合物 (A
3B) の結晶構
超伝導体材料 6/7
特に、Nb3Sn については超伝導マグネット用線材(12T 用)として実用化されている。 A15 型化合物は右
図のような立方晶系の結晶構造を有し、A原子は立方体の各面に 2 つずつ、B原子は立方体の中心及び
頂点に位置する。
(ii)MgB2
2001 年, 青山学院大学の秋光博士らによって発
見された。 金属間化合物では最高の 39K という
Tc を持ち、BCS理論に変わる新しい理論に起因す
る超伝導体発現機構を暗示するとともに、さらな
る Tc の向上への鍵を握るものとして注目を集め
ている。 MgB2は図に示すような六方晶系の結晶
構造をとっている。
(3)酸化物(高温)超伝導体
1986 年 IBMチューリッヒ研究所のベドノルツ(J.G.Bednorz)とミューラー(K.A.Müller)によって、
ペロブスカイト型構造を有する(La1–xBax)2CuO4系のセラミックスが 30K付近の TCをもつことが発見され
た。 1987 年には、 ヒューストン大学のチュウ(C.W.Chu)とアラバマ大学のウー(M.K.Wu)によって、
液体窒素の沸点(77K)よりも高い 92K の TCをもつ、YBa2Cu3Oy系が発見され、数年の間に TCは飛躍的
に上昇した。 1988 年には、Bi 系及び Tl 系酸化物により TCが 100 K を超えた[ Bi2Sr2Ca2Cu3Oy (TC = 110 K),
Tl2Ba2Ca2Cu3Oy (TC = 125 K)]。
(酸化物超伝導体の構造) 下図にいくつかの銅酸化物超伝導体の結晶構造を示す。 図に示す銅酸化
物超伝導体は c軸方向に伸びた正方形晶または斜方晶([Bi2212]の場合)であり、ab面に平行に広がった
CuO2面を 1~複数枚含む。 CuO2面は、c軸方向に沿ったペロブスカイト型構造由来の八面体、あるいは上
下いずれかの頂点の酸素イオンの欠落したピラ
ミッド状五面体、さらには上下両頂点の酸素イ
オンが欠落した正方形の面となっている。
A
B
O
ピラミッド 5面体部部
正方形部八面体部
超伝導体材料 7/7
(ペロブスカイト構造) 化学式 ABO3 (A, B は金属イオン)で表されるある種の化合物は右図のような
ペロブスカイト結晶構造をとる。 O2–イオンと Aイオンが面心立方最密構造をとる。 Bイオンは 6個の
O2–イオンが配位した 8面体サイトを占める。 上図の超伝導体では、BO6八面体が頂点を共有して 3次元
ネットワークを形成している。
超伝導体の化学式が MmA2Bn–1CunO7CuO2 (M, A,
B は金属イオン)で表されるとすると、超伝導体の積
層構造は右図のように簡略化して示すことができる。
積層構造は、[AO面–(MO面)の m回積層–AO面]を
1 つのブロック層とし、一方、[(CuO2面–B面)の n–1
回積層–CuO2面]を超伝導層とし、それらが交互に積
層していると捉えることができる。 銅酸化物超伝導
体では、CuO2面が超伝導発現の舞台で、この近傍に
超伝導キャリアが集まり、超伝導電流は ab面に平行
な方向に流れる。
酸化物超伝導体は上述したように非常に高い超伝
導特性を有しており、特に、TCが 77 K を超えるもの
については、液体窒素での冷却が可能となり、実用化
が実現されれば、経済面や操作面においてもかなり有利となる。 しかし、酸化物超伝導体は極めて脆い
ため、加工性に乏しく、現在、線材化技術確立のための研究が行われており、そのひとつとして、Powder-
In-Tube (PIT)法がある(下図参照)。 (i)酸化物超伝導体に対し、焼結・粉砕処理を繰り返し行い、前駆体
粉末を得る (ii) (i)の前駆体粉末をセグメント用の銀のパイプに充填する (iii)このパイプに伸線処理
を施し、単芯伸線を得る。 (iv) (iii)の単芯伸線を多数用意し、それを外皮用の銀パイプに詰める (v) (iv)
のパイプに伸線処理を施し、多芯伸線を得る。 (vi) (v)の多芯伸線に圧延加工と焼結を 2回繰り返す。