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ACOG(米国産婦人科学会学術集会)に参加して
昭和大学藤が丘病院
竹中慎
2017年 5月 5日から 5月 11日の 7日間、米国産婦人科学会学術集会(以下 ACOG)に参加してきまし
た。一次審査(書類)、二次審査(日産婦学術集会の発表)を通り日産婦の日米若手医師交換プログラ
ム派遣若手医師としての参加(無料)です!私を含めて総勢 6名でした。
開催地はメキシコとの国境近くの町、サンディエゴで、ステップ気候の過ごしやすいはずでしたが、
なんと連日の雨。スーツの下にセーターを来ないと凍える寒さでした。ちなみに通常のサンディエゴの
気候は、夏も最高気温 25度くらいで暑くならず、冬
も変わらない気温のようです。赤道が近いから常夏
をイメージしていたので拍子抜けでした。なんとか
1日だけ晴れて、ちょっとだけカルフォルニアの空
を味わうことができたのは、日ごろの行いのおかげ
だと思います。食事はメキシコ国境近いので、どん
な所でもトルティーヤが出てきました。サンディエ
ゴは年中トルティーヤ祭りです。トルティーヤは 1
日で飽きました。探せば西海岸の美味しいシーフー
ドも食べられるみたいなので、行くことがあれば、
しっかり調べてお店を選ぶことを勧めます。
そろそろ学会の話をします。ACOGの主なプログラム内容は日産婦のような研究成果発表ではなく、「医
師の教育」でした。学生、研修医、修練医、開業医、それぞれを対象にした教育のセミナーが沢山組ま
れています。特にクリニックの開業医向けのセミナーが多かったです。開業医の教育を重視している
ACOGの活動はとても良いと思いました。またどの教育セミナーでもガイドラインの話が出てきます。日
本と比べてガイドラインの数は多く、医師は細かいガイドラインの内容を知る必要があるようです。医
者の負担は大きいですが、これらの活動は「医師の教育」には合理的だと思いました。またポスター発
表でも基礎的研究や臨床研究は少なく、学生教育や病院のシステムなどの発表が多く、学会参加者も教
育がテーマであることを意識しているようです。
メイン会場はとにかく大きく、幕張メッセでの有
名バンドのライブみたいな雰囲気でした。演者の後
ろには超巨大なモニターがあり、ロックフェスの様
でした。どんな演者もプレゼン中に笑いを織り交ぜ
て会場を笑わせており、それも含めてプレゼンテー
ションだという意識が根付いているようでした。日
本人は真面目だといわれる理由がわかりました。日
産婦でも笑いを取りに行く教授陣の講演を期待した
いです。反面、スライドは日本人の方がきれいだと
思いました。向こうのスライドはざっくりしていて、
喋りでその行間をカバーする演者が多かったです。
また学会長など重役の先生方の約半数は PhDの資格を持っていないようでした。日本のように、大学
で働くことに PhDが必ず必要とされていないようです。臨床医と研究医の役割が明確に分かれているた
めでしょうか。またMBAの資格を持った医師がちらほらいるのも印象的でした。米国では MBAの評価
が高く、施設のトップは運営するスキルも必要だと考えているのだと思いました。
また米国は専門医(以下フェロー)の価値が、日本
と異なっています。毎年、本学会でフェロー認定式
というものが行われます。学会役員とフェローは厳
かな衣装を身にまとい参加していました。学会長が
一人一人の新しいフェローに認定証を渡しており、
卒業式みたいでした。話によるとフェローは修練医
の約 3 倍(2000 万円くらい)の給料、サブスペシ
ャリティーまで取得して指導医はフェローの約 2.5
倍の給料(5000万円くらい)をもらえるようです。
資格に十分なインセンティブを持たせることで医
師のモチヴェーションを高め、医師の生涯教育にも
効果的になっていると思いました。なお成果を正当に評価する面は良いですが、誰もが資格を取れる訳
ではなく、実力重視の世界もあるようです。
また米国の帝王切開率は高く、ACOGが帝王切開率を下げるようにセミナーを開いており、各施設でト
ピックスとなっていたのは印象的でした。時間のかかる分娩進行を待てずに帝王切開としてしまう風習
が米国には少しあるようです。その背景には訴訟が多いことも影響しているのかもしれません。開業医
の弁護士費用は、なんと年間数百万円かかるそうです。
またセッションのテーマに「避妊」「性生活」などもありました。「性」の文化が異なることや、医師
が社会へ啓蒙活動する役割を担っていることも影響してそうです。
学会参加の他に、カルフォルニアで最も分娩
数が多い病院に行きました。年間 9000の分娩が
行われ、ハワイなどからハイリスク症例が搬送
されます。産科医と婦人科医は完全に分かれて
おり、フェロー以上の産科医だけで約 30 名勤務
しており、3 人チームで 10 チームくらいに分か
れていました。それぞれの班が別の方針(例えば
VBAC有り無しなど)を立てているとのこと
でした。また新生児のコットにはカメラがつい
ており病院外からも家族などが見られるシステ
ムなど、日本には無い様々な合理的な仕組みを
知ることができました。常に合理化していく姿勢は参考にすべきだと思い帰路につきました。
最後に、推薦状を書いてくださった関沢教授、留守でご迷惑をおかけした藤が丘病院の皆様、参加の
貴重な機会を与えてくださった日本産科婦人科学会、米国産科婦人科学会に感謝申し上げます。いつか
晴れたサンディエゴにもう一度行きたいです。