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86 ぽらんホール[農] 8 27 9:00 27 001 日本人女子サッカー選手のキャリアプロセスに関する研究 ○上代 圭子(東京国際大学) 野川 春夫(順天堂大学) 東明 有美(Pass & Go Co., Ltd.) 金井(2010)は、働く女性にとって結婚や出産・育児はキャリアトランジションのきっかけになるとし、伝統的性役 割観に対抗した就職の継続や再就職の場合、両立の問題が重くのしかかるとしている。スポーツ界では未だに性役割やジェ ンダーステレオタイプが深く根ざし、行動や態度、価値観の一部になる(渡辺 , 2009)ことから、スポーツ選手のキャ リアプロセスにも伝統的性役割観が影響し、結婚や出産を理由に引退していると思われる。 そこで本研究は、①「婚活」「結婚」「出産」をキーワードとして日本人女性アスリートのキャリアプロセスを明らかに することと、② Role Exit Theory の有効性を検証することを目的に実証研究を行った。 調査方法は、Drahota & Eitzen(1998)の「The Role Exit of Professional Athletes」の調査方法を援用している。トッ プリーグでプレー経験がある女子元サッカー選手 20 人を有意に抽出し、半構造化の直接面接調査を実施した。調査結果 を Role Exit Model のステージに当てはめ、キャリアプロセスの特徴を明らかにした。また、これらの結果を基に、Role Exit Theory の有効性を検証するとともに、Role Exit Model の修正モデルの構築を試みた。 ぽらんホール[農] 8 27 9:25 27 002 生涯スポーツとしてのバレーボール・キャリアパターンに関する一考察 金沢市中高年トリムバレーボール連盟登録愛好者調査から ○佐川 哲也(金沢大学) トリムバレーボールは、トリムボールを使用する 9 人制のバレーボールであり、金沢市中高年トリムバレーボール連 盟によって平成 2 年 10 月に創設され、毎日どこかで必ずトリムバレーボールが行われているほど石川県下に広がりつつ ある。同連盟の愛好者を対象とした調査では、6 人制・9 人制・ソフト・トリムを経験しているバレー一筋の人から、は じめてトリムバレーボールを体験する人まで、多様なバレーボール・キャリアパターンを確認することができた。また、 トリムバレーボール継続理由では、生理的欲求・社会的欲求・文化的欲求のいずれもが高い割合を示しており、運動欲求 の充足だけでない魅力を有していることが確認できた。6 人制から 9 人制へと繋がり、新たな愛好者を加えながらソフト・ トリムへと 70 歳を超えて親しむことができるバレーボールのキャリアを確認することができる。 ぽらんホール[農] 8 27 9:50 27 003 身体障害児のスポーツキャリア形成に向けたパラリンピアンのスポーツキャリア分析 ○海老原 修(横浜国立大学教育人間科学部) 勉強ができる児童生徒が委員長はじめクラスの要職を務める学業業績と人格特性のレリバレンスは学校に内面化された 文化装置であるがその関係性は次第に色褪せる。両者が元来異質であるからに他ならないからだ。それでもトップアスリー トがコーチングにもマネジメントにも秀でるとの信条が体育・スポーツ領域では堅持され、その妄信は専門性を否定する 虚構を構築する。近年でもトップアスリートが小学校体育に派遣される文部科学省・スポーツコミュニティの形成促進プ ロジェクトに現出し、小学校体育の指導体系をおざなりとする事例となる。がしかし、スポーツの高度化が大衆化を先導 する噴火型モデルは双峰型モデルに取って代わられつつある。オリンピック選手の活躍が生涯スポーツの発展や児童生徒 の体力低下に明確な連関性をもたないと確認できるからだ。この関係性を障害者にあてはめると、高度化と大衆化がどの ような実情にあり、いかなる方向にあるのか、不明のままである。本研究では元パラリンピアンのうち、中途障害者の発 症・受傷のスポーツキャリア分析を手がかりに、特別支援学校の実情を勘案しながら、身体障害児のスポーツキャリア形

生涯スポーツとしてのバレーボール・キャリアパターンに ...本研究では、スポーツライフ・データ2012(SLS2012)を用いて、成人男女における過去1年間の実施種目とスポー

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ぽらんホール[農]8月27日9:00

社27−001

日本人女子サッカー選手のキャリアプロセスに関する研究

○上代 圭子(東京国際大学) 野川 春夫(順天堂大学) 東明 有美(Pass&GoCo.,Ltd.)

 金井(2010)は、働く女性にとって結婚や出産・育児はキャリアトランジションのきっかけになるとし、伝統的性役割観に対抗した就職の継続や再就職の場合、両立の問題が重くのしかかるとしている。スポーツ界では未だに性役割やジェンダーステレオタイプが深く根ざし、行動や態度、価値観の一部になる(渡辺 , 2009)ことから、スポーツ選手のキャリアプロセスにも伝統的性役割観が影響し、結婚や出産を理由に引退していると思われる。 そこで本研究は、①「婚活」「結婚」「出産」をキーワードとして日本人女性アスリートのキャリアプロセスを明らかにすることと、② Role Exit Theory の有効性を検証することを目的に実証研究を行った。 調査方法は、Drahota & Eitzen(1998)の「The Role Exit of Professional Athletes」の調査方法を援用している。トップリーグでプレー経験がある女子元サッカー選手 20 人を有意に抽出し、半構造化の直接面接調査を実施した。調査結果を Role Exit Model のステージに当てはめ、キャリアプロセスの特徴を明らかにした。また、これらの結果を基に、Role Exit Theory の有効性を検証するとともに、Role Exit Model の修正モデルの構築を試みた。

ぽらんホール[農]8月27日9:25

社27−002

生涯スポーツとしてのバレーボール・キャリアパターンに関する一考察 金沢市中高年トリムバレーボール連盟登録愛好者調査から

○佐川 哲也(金沢大学)

 トリムバレーボールは、トリムボールを使用する 9 人制のバレーボールであり、金沢市中高年トリムバレーボール連盟によって平成 2 年 10 月に創設され、毎日どこかで必ずトリムバレーボールが行われているほど石川県下に広がりつつある。同連盟の愛好者を対象とした調査では、6 人制・9 人制・ソフト・トリムを経験しているバレー一筋の人から、はじめてトリムバレーボールを体験する人まで、多様なバレーボール・キャリアパターンを確認することができた。また、トリムバレーボール継続理由では、生理的欲求・社会的欲求・文化的欲求のいずれもが高い割合を示しており、運動欲求の充足だけでない魅力を有していることが確認できた。6 人制から 9 人制へと繋がり、新たな愛好者を加えながらソフト・トリムへと 70 歳を超えて親しむことができるバレーボールのキャリアを確認することができる。

ぽらんホール[農]8月27日9:50

社27−003

身体障害児のスポーツキャリア形成に向けたパラリンピアンのスポーツキャリア分析

○海老原 修(横浜国立大学教育人間科学部)

 勉強ができる児童生徒が委員長はじめクラスの要職を務める学業業績と人格特性のレリバレンスは学校に内面化された文化装置であるがその関係性は次第に色褪せる。両者が元来異質であるからに他ならないからだ。それでもトップアスリートがコーチングにもマネジメントにも秀でるとの信条が体育・スポーツ領域では堅持され、その妄信は専門性を否定する虚構を構築する。近年でもトップアスリートが小学校体育に派遣される文部科学省・スポーツコミュニティの形成促進プロジェクトに現出し、小学校体育の指導体系をおざなりとする事例となる。がしかし、スポーツの高度化が大衆化を先導する噴火型モデルは双峰型モデルに取って代わられつつある。オリンピック選手の活躍が生涯スポーツの発展や児童生徒の体力低下に明確な連関性をもたないと確認できるからだ。この関係性を障害者にあてはめると、高度化と大衆化がどのような実情にあり、いかなる方向にあるのか、不明のままである。本研究では元パラリンピアンのうち、中途障害者の発症・受傷のスポーツキャリア分析を手がかりに、特別支援学校の実情を勘案しながら、身体障害児のスポーツキャリア形

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02 体育社会学

成のあり方に言及する。

A7[農]8月27日9:00

社27−004

日本とカナダ間における青年の野外スポーツの参加動機と阻害要因の類似・相違点について

○伊藤 央二(順天堂大学スポーツ健康医科学研究所) 山口 志郎(流通科学大学) 岡安 功(広島経済大学) 北村 薫(順天堂大学大学院)

 本研究の目的は、日本とカナダ間における青年の野外スポーツの参加動機と阻害要因の類似・相違点を比較検討することである。日本とカナダの学部生を対象に便宜的抽出法を用いた質問紙調査を実施した。回収数は、日本人 328 名、ヨーロッパ系カナダ人 163 名であった。野外スポーツの参加動機に関しては、Markus and Kitayama(1991)の文化的自己観の概念をもとに Walker ら(2001)が選択したレクリエーション経験選好尺度の項目を、阻害要因については、Wilhelm Stanis ら(2009)の尺度を援用した。先行研究で報告された参加動機の 5 つの因子「自然」、「自己再考」、「自立」、「孤独」、「交流」、阻害要因の 3 つの因子「個人的」、「対人的」、「構造的」ごとに日本とカナダ間で類似・相違点の比較検討を行った。文化(日本 vs. カナダ)を独立変数、参加動機・阻害要因のそれぞれの因子の平均値を従属変数としたホテリングの T 二乗検定の結果、参加動機に関する「自己再考」、「自立」、「孤独」の 3 因子においてカナダ人は日本人よりも有意に高く、阻害要因に関する「対人的」と「構造的」の 2 因子において日本人はカナダ人よりも有意に高い平均値を示していることが認められた。

A7[農]8月27日9:25

社27−005

成人男女の実施種目とスポーツ活動歴との関係 スポーツライフ・データ 2012 の二次分析より

○大勝 志津穂(愛知東邦大学) 來田 享子(中京大学)

 本研究では、スポーツライフ・データ 2012(SLS2012)を用いて、成人男女における過去 1 年間の実施種目とスポーツ活動歴との関連を明らかにする。筆者は愛知県サッカー協会に登録する女性選手のスポーツ経験から、成人期以降にサッカーを始めた人が 4 割いることを明らかにし、家庭婦人バスケットボール登録者との違いを述べた。しかし、この結果を深く考察するためには、より多くの対象者と種目に関する検討が必要であると考え、全国の市町村に居住する満 20 歳以上の男女を母集団とする SLS2012 のデータを用いることとした。上記の問題関心から、中学校体育連盟・高等学校体育連盟の登録者数が多い集団的スポーツ種目であるサッカー、バスケットボール、バレーボール、野球、ソフトボールを分析対象とした。検討の結果、現在実施する種目を過去に運動部等において実施していなかった人の割合は、バレーボール(60.0%)、サッカー(49.5%)、バスケットボール(48.7%)、ソフトボール(38.9%)、野球(20.7%)であり、種目により違いがみられた。また、サッカー、野球、バスケットボールでは、性別により違いがみられた。

A7[農]8月27日9:50

社27−006

デンマークの少年サッカー活動に関する基礎調査報告

○中西 健一郎(東海大学) 加藤 勇之助(大阪体育大学) 白川 敦(東海大学大学院) 長島 健二朗(東海大学)

 本研究は、デンマークと日本の X 市の少年サッカー活動に関する実態を調査し、その比較検討から我が国における有用な知見を得ることを目的とした。本研究の調査結果から獲得・推察された知見は以下のとおりである。①デンマークの 6 ~ 12 歳の少年の 56%がサッカー協会に登録された選手であり、2009 年から 2011 年でサッカーに取

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り組む 6 歳~ 12 歳の少年の割合が約 12%増加している。②デンマークの青少年サッカー選手は、X 市と比較して試合や練習に対する満足感、有能感、他者受容感が高い傾向にある。③デンマークの青少年サッカー選手は、X 市と比較して睡眠時間が長く、日常生活において自由時間が長いことが推察さ

れる。④デンマークでは、サッカー協会が人工芝グランドの増加を推奨し、自治体・行政の機関は気候条件によるサッカー活動

の制限を最大限排除している。 デンマークサッカー協会では、原則として 12 歳までは個々の能力に左右されず、全員平等にサッカーに取り組む環境を整え、競技的側面よりも社会的側面を重視している。この指導指針が、デンマーク国民の精神風土によく適合している点も少年サッカー人口が大きく拡大している一つの要因である。

ぽらんホール[農]8月27日10:15

社27−007

日本における女子サッカーの言説分析 JFA の記事分析と女子サッカー選手の経験に着目して

○東明 有美(Pass&GoCo.,Ltd.) 野川 春夫(順天堂大学) 北村 薫(順天堂大学) 上代 圭子(東京国際大学)

 スポーツにおけるジェンダーは各国の社会的状況や文化などによって歴史的に構築されるものである。そして、ジェンダーの構築には一定の秩序を持った言語として表現される「言説」が大きな役割を果たしている。しかし日本においては、スポーツにおけるジェンダーの構築に関する歴史的な知見が少ないのが現状である。本研究の目的は、男性優位で発展してきた日本のサッカー界に女性が選手として参入した過程において、女子サッカーに関する言説がどのように構築されてきたかを明らかにすることにより、日本サッカーにおけるジェンダー構築の具体像に迫ることである。本報告では、①財団法人日本サッカー協会(JFA)機関誌の記事(写真を含む)分析からみる女子サッカーの言説構築の変遷と、②ジェンダー構築への女子サッカー選手のかかわりかたの 2 点を明らかにする。そのために、① JFA 機関誌 1465 記事の言説分析、② 1980 年代から 2012 年の期間に日本代表としての活動経験がある女性 10 名への半構造化面接法によるデータ収集を実施した。

ぽらんホール[農]8月27日10:40

社27−008

楽天イーグルス優勝の物語に関する考察 「物語」としての「スポーツの力」

○高橋 豪仁(奈良教育大学)

 本研究は、2013 年における東北楽天ゴールデンイーグルスのパ・リーグ優勝と日本シリーズ優勝の翌日から 3 日間の新聞と、日本シリーズ翌日のテレビにおいて、楽天イーグルスの優勝が如何に物語られているのかを明らかにする。新聞については、東北地方の地方紙(東奧日報、岩手日報、秋田魁新報、山形新聞、河北新報、福島民報)および全国紙を研究対象とした。優勝によって勇気をもらったという一般の人々の発言が使われており、こうした構成は、楽天イーグルスの優勝を一緒に経験しているということを読者に感じさせるものであり、震災後の優勝の意味づけを一義的に示すテキストとなっている。また、複数の社説において記されている苦節 9 年をかけて為し得た楽天イーグルスの優勝という物語は、

「社会の仮定法」に相当するものであり、一方で、復興の途中にある被災地の現実は「社会の直説法」(吉見 , 1994)に相当するものである。楽天優勝の物語は、日常的生活の延長線上に描かれたものであり、スポーツという「出来事」から紡がれた「物語」によって現実世界が意味づけられている。こうして紡がれた「物語」にこそ「スポーツの力」があると解釈できる。

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02 体育社会学

ぽらんホール[農]8月27日11:05

社27−009

沖縄県におけるプロ野球キャンプ観戦の魅力に関する研究 県外観戦者に着目して

○秋吉 遼子(東京国際大学) 山口 泰雄(神戸大学) 稲葉 慎太郎(神戸大学大学院)

 本研究の目的は、県外観戦者におけるプロ野球キャンプ観戦の魅力を探索的に明らかにすることである。調査は、2014 年 2 月に沖縄県で春季キャンプを行っていた 2 球団の県外観戦者(n = 23)に対し、グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。分析の際はトライアンギュレーションを行った。プロ野球キャンプの魅力として、「選手との関わり」、

「沖縄の魅力」、「他者とのつながりから」、「チームに愛着がある」、「色々なキャンプを観に行ける」、「観戦による刺激」、「その他」が生成された。また生成されたカテゴリーグループとカテゴリーを基に、プロ野球キャンプ観戦の魅力に関するモデルを検証した結果、プロ野球キャンプの最大の魅力である「選手との関わり」や、「沖縄の魅力」、「チームに愛着がある」、

「色々なキャンプを観に行ける」ことがプロ野球キャンプの魅力の要素であり、その他に、「他者とのつながり」と「その他」の理由からプロ野球キャンプを観戦している。そして、プロ野球キャンプを観戦することで刺激を受け、キャンプ観戦を日頃の活力にしていることが明らかになった。

ぽらんホール[農]8月27日11:30

社27−010

プロスポーツチーム拠点地域における試合観戦者と住民のソーシャルキャピタルの比較

○工藤 康宏(順天堂大学) 野川 春夫(順天堂大学)

 スポーツとソーシャルキャピタル(以下、SC とする)について、地域スポーツクラブと SC に関する研究(中西,2005;長積ら,2006;行實,2009;河原,2007;Okayasu et al., 2010)やプロスポーツチームと地域愛着という視点の研究(二宮,2010,;二宮,2011)は散見されるものの、地域のプロスポーツチームと SC の関連や、経年的な変化を捉えようとした研究はあまり見られない。本研究では 2012 年度に実施したプロスポーツ観戦者調査の指標を用い、観戦者の SC を継続測定しその経年変化を捉えるとともに観戦者の SC と拠点地域住民の SC との比較を試みることを目的とした。その結果、試合観戦者調査では SC 高群の方が、居住年数が長く、千葉ジェッツによって地域に望ましい変化があったと感じている、という 2012 年と同様の結果が得られた。また、拠点施設近隣に住む一般的な住民よりも、プロスポーツチームに関心を持ち試合観戦をする住民の方が SC が高いことが推察される結果が得られた。なお、本調査は笹川スポーツ財団の「笹川スポーツ研究助成」の助成金を受けて実施した。

A7[農]8月27日10:15

社27−011

地域スポーツ組織による関係性創出と地域管理 「日常生活圏」と“スポーツ圏”の異同に着目して

○伊藤 恵造(秋田大学)

 国や自治体による地域スポーツ振興事業は、行政区や学区などの「行政近隣」を単位として展開されている。総合型地域スポーツクラブの全国展開を図るために、『スポーツ振興基本計画』(文部省、2000 年)において示された数値目標も、市区町村という行政区を単位として設定されている。こうした地域スポーツ振興事業の理論的背景となる地域スポーツ振興論は、そこで議論する「地域」の範域を問題化することなく、地域スポーツ振興事業が設定する行政区としての「地域」をそのまま受け入れ展開されてきた。スポーツは、実践者の「日常生活圏」内で行われるものであり、そうであるがゆえに、地域スポーツ組織の活動やそこで形成される社会関係がさまざまな日常生活課題の解決に転用されるのだという。本報告では、スポーツ実践が展開される場所とそこに集う人たちの居住地が含まれる範域としての “ スポーツ圏 ” の存在を提示し、それらと「日常生活圏」の異同の実態を明らかにする。その上で、「日常生活圏」を越える関係性を生み出すこ

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とができる地域スポーツ組織が、「行政近隣」を単位とする地域住民組織には成し得なかった公園管理活動を展開していることを明らかにする。

A7[農]8月27日10:40

社27−012

「小乗」スポーツを大乗化する試み スポーツの負の部分が顕在化する昨今、改めてスポーツが人々の幸せに貢献するあり方を考える

○倉品 康夫(早稲田大学グローバルエデュケーションセンター)

 日本人は豊かさを求めてきたのに、少しも幸せになれておらず、スポーツは未だ人々を幸せにする装置として機能していない▲スポーツは「夢をあきらめない」勝者が生き残る弱肉強食ピラミッドを作る他者を合理的に蹴落とす訓練のための優れた文化装置である▲「見せる・楽しませる」商業的【見世物】スポーツの消費対象トップアスリートはスポーツに専念する「出家」集団(サンガ)である。出家アスリートの活躍に自らの生を仮託して勇気や感動を貰い、喜捨する人が「旦那」・「在家」である▲宗教化したスポーツの側面として民衆をその体制に順応させる働きを持つ。現代の社会的状況において弱肉強食等のイデオロギーに順応させ、さらに鬱状態国民にガンバリを求める働きを担っている。スポーツによる「競争原理」洗脳体制を「小乗」スポーツと呼ぶ▲仏教は出家者ではない俗世間の凡夫でもブッダに成れると宣言し、大乗化して発展した。スポーツの使命実現及び発展のためにも、スポーツをアスリート(出家)及びメディア(霊媒)から解放し、衆生・大衆が生涯にわたりスポーツとの関わりを生かし健康で文化的な生活を持続するスポーツ体験(三昧)できる大乗化を提案したい。

A7[農]8月27日11:05

社27−013

市町村合併によるスポーツ文化の変化について 一般住民参加型種目について、静岡市を例として

○水野 勇(清水馬走囲碁道場)

 いわゆる平成の大合併により、数多くの新しい市が誕生したが、合併前に行われていたスポーツが合併後にはどうなったかについて調査してみた。 新しい静岡市は旧静岡市と旧清水市、旧由比町、旧蒲原町からなっている。旧静岡市は葵区(25.5 万人)と駿河区

(21.1 万人) に分かれ旧清水市(24.7 万人 2005 年合併)は清水区となった。さらに清水区には 2,006 年に旧蒲原町(人口 12,000)が 2008, 年に由比町(人口 9,000 人)が編入された。 合併後の葵区、駿河区(旧静岡市)と清水区(旧清水市)は合併前と同じスポーツをそのまま行っていて新静岡市として統一しようという動きは余りない。 最近、旧清水市民体育大会(現清水区民体育大会)に蒲原町と由比町が参加し始めた。また旧清水市で行われていた縄跳びテストが最近になって、スポーツ指導委員の努力により、旧静岡市にも普及しつつあるのは注目すべき現象である。

A7[農]8月27日11:30

社27−014

スポーツ政策の事業評価に関する研究 スポーツ振興事業におけるアウトカムと課題の検証

○佐々木 里菜(神戸大学大学院) 山口 泰雄(神戸大学)

 本研究の目的は、文部科学省によるスポーツ振興事業のアウトカムと課題を検証することである。具体的には、文部科学省が総合型地域スポーツクラブ(以下、総合型クラブ)などを対象に実施した「地域スポーツとトップスポーツの好循環推進プロジェクト」に着目し、事業評価を行う。本研究では、研究 1 と研究 2 を設定した。研究 1 では、本事業の全体評価を行うため、文部科学省による本事業の報告書(2011 ~ 2012 年度)の二次分析を実施した。研究 2 では、ケー

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02 体育社会学

ススタディとして NPO 法人格を有する 2 つの総合型クラブの代表者を対象に、筆者が作成した事業評価項目チェックリストにおける自己評価とインタビュー調査による事業評価を通して、より掘り下げた評価を行った。本研究より 4 つのアウトカムと 3 つの課題が明らかとなった。4 つのアウトカムは、事業参加者の運動・スポーツに対する意識や姿勢の変化、受託団体と小学校との新たな連携体制の構築、受託団体側のアスリートという人的資源の確保、アスリートのセカンドキャリア形成であった。3 つの課題は、事業実施のための資金不足、事業実施期間の短さ、事業受託終了後の受託団体での事業継続であった。

ぽらんホール[農]8月27日14:00

社27−015

カヌースラローム競技における選手育成システムの構築に関する研究

○山田 亜沙妃(国立スポーツ科学センター) 野川 春夫(順天堂大学)

 カヌースラローム競技の選手育成システムに着目し、強豪国における選手育成システムを比較対象とし、日本の育成システム構築に必要な構成要因を提案することを目的とした。調査対象者は、カヌースラローム競技における欧州強豪国(スロバキア、フランス、ドイツ、スロベニア)と日本を含めた計 5 ヵ国の各国統括競技団体の強化育成担当者(スポーツディレクター、ナショナルコーチ)。調査内容は、De Bosscher ら(2006)の国際競技力向上を規定する成功要因を参考に、①選手育成プログラムと支援、②競技活動と学業の両立、③指導者の養成と確保、④トレーニング施設の 4 要因を設定し、半構造化直接面接調査を実施した。調査結果から日本のカヌースラロームの現状を踏まえ、選手育成システムに必要な構成要因を 3 段階に分けて提案した。第 1 段階:既存のトレーニング施設の強化、育成拠点の認定、4 年間の中期計画の策定、育成プログラムの枠組み。第 2 段階:指導者資格制度の強化、専任のナショナルコーチ雇用、地域クラブ指導者との協力・連携体制の確立。第 3 段階:地域の教育機関との協力体制の構築、学業との両立を可能とするサポート体制の整備、一貫指導体制である。

ぽらんホール[農]8月27日14:25

社27−016

エリートスポーツ政策に対する国民の受容態度の形成メカニズムとは ? 共分散構造分析を用いた因果モデルの検討

○舟橋 弘晃(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 /日本学術振興会) 間野 義之(早稲田大学スポーツ科学学術院)

近年の先進諸国におけるエリートスポーツ分野への国費投資の拡大傾向を鑑みると、持続可能なエリートスポーツシステムを構築していくためには「国民の受容性」という視点は不可欠である。従って、本研究の目的はエリートスポーツ政策に対する国民の受容態度を規定する社会心理要因のメカニズムを明らかにすることとした。1050 名の社会調査モニターから得られた 6 つの社会心理変数に関するデータの因果構造を確認的因子分析と共分散構造分析により検討した。その結果、「エリートスポーツ政策に対する受容態度」は「自国アスリートが国際大会で活躍することがもたらす社会的/私的ベネフィット認知」と「エリートスポーツシステムが孕むリスク認知」に規定され、さらにそれらの先行要因は「エリートスポーツ政策アクターの社会的信頼」と「アスリートのロールモデルとしての認識」であるという二層構造が明らかとなった。本モデルは、信頼性、弁別的妥当性、および収束的妥当性の基準値を十分に満たし、分散の約 5 割を説明することが可能であった。エリートスポーツ政策に対する社会全体の理解を高めるためには、社会的ベネフィットに働きかけることが有効であることが示された。

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ぽらんホール[農]8月27日14:40

社27−017

ヨーロッパにおける競技アスリートのデュアルキャリアに関する社会学的一考察 N. ルーマンの社会システム論から

○Leitner KatrinJumiko(立教大学)

 競技アスリートのセカンドキャリア問題がしばしば報告され、解決策として日本では引退後の選手に対する支援対策が行われているが、十分機能しているとは言えない現状のようである。そこで本研究は、ヨーロッパで浸透しているデュアルキャリア、つまりセカンドキャリアへの準備として現役から学業と競技スポーツとの両立ができる仕組みについて、ヨーロッパの現状に対する N. ルーマンの社会システム論を用いて分析することを目的とした。 競技スポーツと教育制度を社会的サブシステムとして捉えてそれぞれの特徴を明らかにし、その間の構造的カップリングの可能性や限界を検討した。また、学生としての役割の中で二重の負担を引き受けるアスリートのソーシャル・インクルージョンを分析し、デュアルキャリアに必要な社会的仕組みの検討を行った。 結果として、ヨーロッパにおける競技アスリートのデュアルキャリアには、平等な依存関係である構造的カップリングでなく、教育制度の一方的な機能付与が主流であることがわかった。また、他方の機能としての競技スポーツから教育制度への協力内容が課題としてあげられ、国家も含めてのネットワーク作りがカギになることが指摘された。

A7[農]8月27日14:00

社27−018

W. ベンヤミンの視点とスポーツメディアの可能性 『翻訳者の課題』を手掛かりとして

○上谷 浩一(大阪体育大学)

 『翻訳者の課題』(1923 年)は W.ベンヤミンがボードレールの詩を翻訳した折に添えた前書きである。芸術や文学作品を対象とした考察なのだが、そこで述べられる翻訳論は、競技者が身体で描き出したパフォーマンスを文字や音声言語に置き換えて大衆に伝達する今日のスポーツメディアの在り方にも通じている。たとえばその冒頭で「芸術作品や芸術形式が問題だというのに、それを受容する人間のことを考えていたら、作品や形式についての認識が実り豊かなものなることは決してない」とある。もちろん文学作品は読者を獲得することで社会的意味を持つのであり、スポーツでも競技者と観客が断絶することはありえない。しかしベンヤミンのこうした指摘は、受容する大衆だけでなく、スポーツメディアとスポーツそのものとのかかわりの側へと我々の視点を導いてくれる。そして、「悪い翻訳とは、非本質的な内容を不正確に伝えることと定義してよいだろう」とも述べている。マスメディアを含めた大衆文化の勃興期である20世紀前半に生き、その未来に警句を投じたベンヤミンに学ぶことで、今日のスポーツメディアのありかたを検討するための新たなヒントを得たい。

A7[農]8月27日14:25

社27−019

運動場面の一人称視点映像と三人称視点映像から想起される運動感覚の相違

○信原 智之(岡山大学大学院)

 近年、映像技術の発展に伴い、行為者が何を見ているのかを疑似体験できるような一人称視点映像を目にする機会が増えた。このようなまなざしによって檜山ら(2011)は、紙漉熟練者の伝統技能を伝承するために一人称視点映像を用いることで、学習効果が高められることを示唆している。一方で運動学習場面においては、運動を三人称視点から観察し分析する研究が多く、体育授業においても、三人称視点で運動を捉えたデジタル教材が多い。しかし、先にあげた研究のように、運動を主観的に捉えるまなざしが、子どもたちの学習効果を高めることも考えられる。よって、まず基礎的研究として、一人称視点映像と三人称視点の映像から想起される運動感覚がどのように異なるのかについて検討する必要がある。そこで本研究は、運動場面の一人称視点映像と三人称視点映像を見た際に、そこから想起される運動感覚の相違を明らか

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02 体育社会学

にすることを目的とする。 この目的に迫るため、被験者に対し運動場面の一人称視点映像と三人称視点映像を視聴した際に、どのように運動感覚を認識しているのかを、半構造化インタビューによって分析することとした。

A7[農]8月27日14:40

社27−020

スポーツ場面における創造的な身体活動に関する一考察 幼少期のスポーツ実践における「演じる」行為の理論的検討から

○竹内 秀一(岡山大学大学院)

 スポーツには、認知と予期の側面から構成される「状況判断」を基にした、創造性や即興性が求められる(日高 ,2006)。身体が即興的に動く場面について、渡沼(2010)は、訓練によって獲得された身体知や身体図式の集積としての身体によって、「動きにおける思考」が展開されると述べる。その指摘は、河口(2011)の、「創造を可能にするものは、動きによって内在化され、記憶された現実の絶えざるイメージの再構成によって醸成されてくるもの」という指摘と類似する点が多い。ところが、このような創造的な身体活動が発露するか否かに関しては個人差が大きい。そこで、どのようにその創造的な身体活動が獲得されていくのかについて、幼少期のスポーツ実践を手がかりとして理論的に検討することを本研究の目的とする。 この幼少期を問題とする背景には、「想像のうちに自分と対象とが一体化する」(亀山 ,2013)時期という特徴がある為である。そこで、幼少期のスポーツ実践における「演じる」という相互作用行為に焦点をあて、E・ゴフマンの相互作用論と H・G・ミードの自我論を鍵概念に検討することとする。

ぽらんホール[農]8月28日13:00

社28−021

好循環推進プロジェクトにおける総合型地域スポーツクラブの事業への要望と成果評価

○宇都宮 大地(鹿屋体育大学大学院) 川西 正志(鹿屋体育大学) 北村 尚浩(鹿屋体育大学)

 2010 年にスポーツ立国戦略が発表され、その重点戦略として、スポーツ界の連携・協働による「好循環」の創出が掲げられた。さらに、運営面や指導面において周辺の地域スポーツクラブを支えることができる総合型地域スポーツクラブ

(拠点クラブ)の育成が施策目標とされている(スポーツ基本計画、2012)。 本研究は、好循環推進プロジェクトにおける総合型地域スポーツクラブの事業への要望と成果評価を明らかにすることを目的とした。調査は、2011 年度から 2013 年度の「地域スポーツとトップスポーツの好循環推進プロジェクト」を受託した 70 クラブを対象に 2014 年 4 月から 5 月にかけて郵送法による質問紙調査を実施した。KJ 法を用いて拠点クラブ育成に関する行政からの支援策に対する要望についての自由記述を分類・整理した。成果評価はクラブ属性による比較を行った。結果から、学校及び行政との連携・協働が図られたことや拠点クラブとしての認知度の向上、競技力向上への貢献などが成果としてみられた。行政への要望としては小学校体育活動コーディネーター派遣の地方予算化や行政内部で事業の情報を共有することなどが挙げられた。

ぽらんホール[農]8月28日13:25

社28−022

総合型地域スポーツクラブにおけるスポーツ指導者のコンピテンシー尺度の開発

○高松 祥平(神戸大学大学院) 山口 泰雄(神戸大学)

 本研究の目的は、総合型地域スポーツクラブにおけるスポーツ指導者のコンピテンシー尺度を開発することである。ま

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ず、総合型地域スポーツクラブに所属するスポーツ指導者 20 名からソートリスティング法を用いて総合型地域スポーツクラブのスポーツ指導者特有のコンピテンシー概念を抽出した。先行研究の資料分析により得られた項目を合わせ、分析者トライアンギュレーションにより質問紙の作成を行った。12 ヶ所の総合型地域スポーツクラブのスポーツ指導者

(n=269)に対して質問紙調査を実施し、探索的因子分析を行った結果、7 因子 35 項目が抽出された。因子はそれぞれ「マナー教育」、「協働的アプローチ」、「マネジメント」、「指導力」、「クラブ外交流」、「クラブ内交流」、「安全管理」と命名された。その後、確認的因子分析を行い、χ2/df は 2.622、GFI = .77、TLI = .86、CFI = .87、RMSEA = .078 であった。また、AVE と CR を算出し、収束的妥当性と弁別的妥当性の観点から構成概念妥当性の検証を行った。適合度指標は比較的良好であり、構成概念妥当性においても基準値を満たしたことから、本尺度の妥当性及び信頼性は立証されたと判断した。

ぽらんホール[農]8月28日13:50

社28−023

総合型地域スポーツクラブの運営評価に影響を及ぼすスポーツ・ソーシャル・キャピタルの要因に関する研究 NPO 法人格の有無による比較を通して

○稲葉 慎太郎(神戸大学大学院) 山口 泰雄(神戸大学) 伊藤 克広(兵庫県立大学)

 本研究の目的は、総合型地域スポーツクラブの運営評価に影響を及ぼすスポーツ・ソーシャル・キャピタルの要因を明らかにすることである。NPO 法人格クラブ 339 と任意団体クラブ 477 のクラブマネジャーを調査対象とし、調査項目は、クラブ運営評価、スポーツ・ソーシャル・キャピタル、内発的動機づけであった。回収数は 439 票(回収率 53.8%)、有効回答数は 438 票であった。分析方法としては、探索的因子分析とパス解析を採用した。結果は、スポーツ・ソーシャル・キャピタルの因子として、社会的信頼、互酬性の規範、地域ネットワーク、スポーツ・ネットワークが抽出された。また、NPO 法人格クラブではクラブ運営評価に社会的信頼、互酬性の規範、内発的動機づけが有意に影響を与え、任意団体クラブでは社会的信頼、互酬性の規範、スポーツ・ネットワーク、内発的動機づけがクラブ運営評価に有意な影響を与えていた。つまり、NPO 法人格の有無に関わらず地域との信頼関係や地域スポーツ振興への規範意識がクラブ運営において重要であるが、任意団体クラブではスポーツ関係者とのネットワークの有効活用がクラブ運営に影響することが示された。

ぽらんホール[農]8月28日14:15

社28−024

日本生まれの欧州型スポーツクラブ文化の検討 横浜外国人居留地のスポーツ活動の再検討

○江口 潤(産業能率大学情報マネジメント学部)

 平成 7 年より先導的育成モデル事業として総合型地域スポーツクラブをスタートさせ、日本各地にスポーツクラブが設立された。国内でスポーツクラブ文化が普及発展することが期待されたが、活動停止や解散に至るスポーツクラブが少なくない。筆者は、日本社会の特性となる「日本的なるもの」がスポーツ文化にも影響しており、欧州に根ざしたスポーツクラブ文化を標榜した総合型地域スポーツクラブの受容は、単に運営財源の確保が課題ではなく、日本人と欧州人との生活文化の本質の相違が背景にあるのではないかと推察する。本稿は、欧州型スポーツクラブの本質がいかなるものかについて幕末明治期に外国人居留地に創設された日本発欧州型スポーツクラブを検討したものである。日本生まれの欧州型スポーツクラブ文化は、本国のように、身分の絆や家族のしがらみから解き放たれ、趣味を語り合い、異なる個性や環境の人が結集し豊かな時間を過ごすことを活動の主要な活動目的としており、クラブの運営はボランティアにより行われ、必要の資金は会員の会費により賄われたようである。

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02 体育社会学

ぽらんホール[農]8月28日14:40

社28−025

地域スポーツクラブ入会に対する子育て世代の意識 スポーツライフスタイルに着目して

○山本 浩佑(順天堂大学大学院) 長登 健(順天堂大学) 高橋 季絵(順天堂大学) 渡辺 泰弘(広島経済大学) 野川 春夫(順天堂大学)

 スポーツ振興計画では、働き世代・子育て世代のスポーツ振興に向けた取り組みが必要とされている。 本研究は、子育て世代のスポーツライフスタイルに着目し、地域スポーツクラブ入会に対する意識とスポーツ振興施策への期待との関連を明らかにすることを目的とした。本研究では、東京都内において活動拠点を主として小学校としている地域スポーツクラブの近隣に居住する児童の保護者に対して質問紙調査を実施した。対象地区によって違いはあるが、75%から 83%の保護者は地域スポーツクラブの存在を知っているにもかかわらず、実際に入会して活動している者は少ない。子育て世代をスポーツライフスタイルによって類型化し、地域スポーツクラブに対する要求、地域スポーツ振興策への期待、スポーツ参与形態などを比較することによって、今後の地域スポーツ振興施策の基礎資料とする。

A7[農]8月28日13:00

社28−026

中学校保健体育授業における評価をめぐる潜在的カリキュラム

○原 祐一(岡山大学)

 中学校の保健体育教師は、1 クラスだけでなく複数クラスの生徒に対して授業を行う。よって教師は、進度の差はあるにせよ同様の授業内容を繰り返し行うことになる。もちろん、授業を行うわけであるから、評価を絶えずおこないながら指導していかなければならない。これらのことは、制度的な制約によってもたらされることであるが、実際の授業実践を教師と子どもの相互行為として捉えようとすると、評価活動を通して生徒は何を学び取っているのかという問題が浮き上がってくる。つまり、教育的意図を超えた学びが存在するのではないかということである。 この何を学んでいるのかというまなざし方は、潜在的カリキュラムとして研究がなされてきた(Jackson,1968)。そこで本研究は、先に挙げた中学校体育教師が様々なクラスの指導をしていく際になされる評価をめぐって、どのような潜在的カリキュラムが存在するのかを明らかにすることとする。このことを明らかにするために、エスノメソドロジー的アプローチから迫る。

A7[農]8月28日13:25

社28−027

溢れる野性とスポーツ 公立 S 中学校におけるフィールドワーク

○田嶌 大樹(東京学芸大学大学院)

 S 中学校は、平成 25 年に近隣の二つの中学校が合併して新設された学校である。開校当初 S 中学校は、生徒の反学校的な行動によって学校の教育活動の主となる授業が成立しないような、いわゆる「教育困難校」であった。この状況は、S 中学校のある地域の文化的特性や、新設校ゆえの教員組織の未成熟さ・生徒の混乱など、様々な要因によって生みだされたものであった。 こうした状況の改善を目指し、学校を中心として S 中学校の職員、地区の教育委員会、T 大学といった様々な組織・人間が直接的・間接的に関与し、学校にて教育実践が行われた。その結果、新設校ゆえの生徒・職員の状況や学校外組織の介入による「学校内の混乱」、「土着の文化特性」といった要素が影響し、種々の教育実践は一つに収斂することなく、学校内の状況に対して様々なベクトルに作用していった。 本発表は、これら種々の教育実践とそれに伴う学校の変容過程を、発表者のフィールドワークにより総体的に記述する

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ことを通して、従来学校現場においては体育授業や運動部活動においてとりわけ意識されてきたような「スポーツ」という事象を、それらの枠組みを超えて改めて読み解こうとするものである。

A7[農]8月28日13:50

社28−028

特別支援教育の体育授業に影響を及ぼす教師の子ども観

○大谷 侑加(岡山大学大学院)

 本研究では、特別支援教育の体育授業に焦点を当て、教師の知識や子ども観が、授業実践とどのような関係にあるのかについて明らかにすることを目的とする。 特別支援教育の体育授業は、子どもの学習を促進するための発問や教材の工夫を教師が行わなければならない。そのような工夫には、教師の教材に対する認識と同時に子どもに対する認識が大きく影響を及ぼしていると考えられる。さらに、この子ども観そのものも教師がどのような知識を身につけているかによって左右される。つまり、授業の中で相互行為がなされる際には、教師の持っているハビトゥスが色濃く表れるわけである。特に、特別支援教育においては、個々の子どものニーズに合わせた対応が求められるために、教育理念との関係だけでない教育的行為を分析しなければならないのである。 これらのことを明らかにするために、本研究においては、特別支援教育に携わる教師に対して、子ども観に関する半構造化インタビュー調査を実施する。また、その教師が体育授業をする際にどのような文献等を参考にしているかを調査することによって、複合的に検討を行うこととした。

A7[農]8月28日14:15

社28−029

高校運動部活動における指導者と上級生からの暴力経験に関する分析

○高峰 修(明治大学) 武長 理栄(笹川スポーツ財団) 海老原 修(横浜国立大学)

 本研究の目的は、高校の運動部におけるスポーツ指導や活動に伴う指導者や上級生からの暴力行為について、その実態を探ることを目的とする。データはインターネット調査によって 2013 年 7 月 25 ~ 29 日に収集した。母集団は全国の16 ~ 19 歳の男女であり、モニター登録している約 110 万人の中から 1,438 人(男子 34.5%、女子 65.5%)が回答した。調査時点で高校・高専に所属している者が 995 人(69.2%)、高校を卒業し何らかの学校に所属している者が 443 人(30.8%)であり、高校時代に運動部活動に所属している/所属していた者は 619 人(43.0%)であった。そのうち欠損値のない559 人を分析対象とした。素手で殴る、物で殴る、蹴る、物を投げつけるといった暴力行為に暴言を加えた 5 つの言動を指導者からまったく受けたことがない人の割合は 79.6% であり、およそ 20% にあたる人が 1 つ以上の暴力 ・ 暴言を指導者から受けていた。上級生から 1 つ以上の暴力 ・ 暴言を受けた人の割合は 13.6% であり、上級生よりも指導者から暴力・暴言を経験する人の割合が多かった。本調査は発表者と笹川スポーツ財団と共同で実施した。

A7[農]8月28日14:40

社28−030

体罰への社会システム論的アプローチ

○佐藤 広菜(横浜国立大学教育学研究科) 海老原 修(横浜国立大学)

 大阪市立桜宮高校で起きた体罰を契機とした自殺問題、全日本柔道連盟にみる女子柔道選手への暴力的指導を契機に体罰問題が論議されている。文部科学省や新聞社が調査に乗り出すものの、その後も顕在化する。大阪市が委嘱した弁護士

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02 体育社会学

チームが昨年、市内の学校を調査した結果、何校もの学校で「指導の一環であり体罰ではない」として市教育委員会に一切報告書を出していなかった。(2014 年 1 月 5 日、朝日新聞)表面的な実態調査を受け入れ、深層への接近を拒絶する態度を社会全体が共有しているかのようだ。いじめ問題が巧妙化し、深層への接近を拒絶する仕掛けに倣うように、我々社会がその隠蔽工作を首肯しているのかもしれない。教育の文脈で行われる暴力が特訓やしつけに転じたとき肯定的に理解される仕組みは、軍隊や警察による暴力を制限・許容する国民国家を認知するそれに似る。この根源的な仕掛けを背景に、体罰を容認・許容する社会構造があると考えられる。本研究は教育が体罰を許容しやすい仕組みを、通過儀礼となるようなスポーツ漫画の暴力シーンに求め、その再生産の可能性を検証する。

第1体育館8月27日13:00

社27−101

スポーツ組織における女性の意志決定者の登用に関する研究

○佐藤 馨(びわこ成蹊スポーツ大学)

 本研究は、スポーツ組織における女性の意志決定者の登用状況とそれに関する組織の考え方を明らかにすることを目的とした。調査は JOC を介して各スポーツ団体・協会に調査協力を依頼し、郵送法による調査を平成 24 年 3 月から 4 月に渡って実施した。回答は 52 団体中、50 団体から得られた(回収率 96%)。結果として、スポーツ組織における意志決定者(役員等)には女性が非常に少なく、そのため役員登用の条件である実績や推薦によって女性の起用を望むのは厳しいと言わざるを得ない。このようにスポーツ組織において女性が役員等に登用される機会が極めて少ない状況で、経験豊富な人材を発掘することは極めて難しく、また、チャンス、経験、人脈を持たない女性が自らを意志決定者として自己認識することは困難であろう。いずれにしても、スポーツ組織において意志決定の場に相応の女性であれば起用するが、そうでなければ起用しないとする組織の考え方が明らかになった。しかしながら一方で、女性はスポーツ組織の推薦等を待つだけでなく、女性自ら組織に働きかけることも同時に必要だと思われる。

第1体育館8月27日13:05

社27−102

地域愛着とチームイメージに関する研究 ―H 市スポーツイベントボランティアを対象として―

○松本 耕二(広島経済大学) 渡辺 泰弘(広島経済大学)

 本研究では、プロスポーツ・チームのホームゲームのサポート活動を行う、スポーツイベントボランティア(以後、HSIV)登録者を対象に、地域愛着とチームイメージとの関連を明らかにすることを試みた。調査方法は、HSIV 登録者250 名を対象に質問紙調査を郵送法にて実施した。調査期間は 2013 年 11 月 14 日から月末までの 2 週間とし、203 名(回収率 81.2%)からの有効回答を得た。主な結果は以下の通りである。サンプルの男女比は 1:1、平均年齢は 58.1 歳で60 歳以上が 50% と多く、現地域での居住年数は平均 27.8 年であった。HSIV への加入は「市報(31.6%)」から情報を入手し、「自らすすんで(79.7%)」登録したとする割合が最も高かった。登録平均年数は 7.33 年であった。サンプルの地域愛着(得点)とサポート活動に従事するスポーツ団体のチームイメージ(得点)との関連については、正の相関(r=.346, p.<.001)がみられた。また、地域愛着の主要構成要因である地域同一性においてチームイメージ得点による差が有意であった(F=6.948, df=2, p.<.001)が、地域依存性では差がみられなかった(F=2.309, df=2, n.s.)。

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第1体育館8月27日13:10

社27−103

部活動を教育活動として位置づけるための課題とその解決に向けて 学習目標と学習内容の観点から

○来田 宣幸(京都工芸繊維大学) 吉田 浩之(琉球大学) 神谷 将志(京都工芸繊維大学) 谷川 哲朗(京都工芸繊維大学) 野村 照夫(京都工芸繊維大学) 梅﨑 さゆり(天理大学・京都工芸繊維大学大学院)

 学校教育の中で実施されている「部活動」は、人間としての豊かな能力を涵養する可能性を持った世界でも類い希ない優れた制度であるが、現在の部活動には、顧問による人権を無視した体罰や暴力、勝利至上主義や非科学的根性主義に基づく長時間練習など多くの問題が存在している。これらの問題の背景には、部活動は学校教育の一環として長く存在してきたにもかかわらず、制度的基準や教育的意義の規定がなく、現場の裁量に委ねられてきた点がある。そこで、本研究では、教育活動を構成する「学習指導」と「生徒指導」の 2 側面のうち、学習指導側面に着目し、学習目標及び学習内容を整理することを目的とした。学校教員及び中学生を対象として部活動を通して身につけたい内容に関する定性的・定量的アンケート調査を実施し、概念的な整理を実施した。その結果、部活動による教育目標としては、行動や技能に関する内容と意識や感情などに関する内容の 2 つの内容に大きく分けることができ、さらに、自分自身の達成に関する観点と他者や集団の達成に関する観点の 2 つの観点に整理することができた。

第1体育館8月27日13:15

社27−104

ゲレンデスキーのフローに関する研究

○古橋 裕二郎(茨城大学大学院) 小林 朋寛(茨城大学大学院)

 『中学校学習指導要領解説 保健体育編』『第 2 章 保健体育科の目標及び内容 第 2 節〔体育分野〕3 内容の取扱い』は、「自然とのかかわりの深いスキー、スケートや水辺活動などの指導については、地域や学校の実態に応じて積極的に行うに留意するものとする。」とし、学校教育での野外運動の充実を図っている。本研究は、野外活動としてのゲレンデスキーに着目し、そこで生成されるフロー感覚(遊びやスポーツなどで、その世界に没入し、我を忘れて楽しんでいる時の感覚のこと)の内実を考察することを目的とした。論文の構成は、スキーの発祥、特性、基本動作(直滑降、プルーク・ファーレン、プルーク・ボーゲン、シュテム・ターン、パラレル・ターン、ウェーデルン、コブへの対応)との関係、土台としての自然(ゲレンデ)におけるフロー、背景としての自然の融合、という章だてにし、それぞれの分析・検討を行った。その結果、ゲレンデスキーにおける各基本動作で生成されるフロー感覚、また、ゲレンデスキーと自然(ゲレンデ)との感応的同調、つまりスキーヤーと自然との触発、会得の関係が明らかになった。

第1体育館8月27日13:20

社27−105

公園イベントにおける「足の筋力測定」参加者について

○益井 洋子(東京未来大学)

 都市農業公園桜まつりのイベントとして足の筋力測定を実施した。多くのイベントが実施している中の一つとしての参加である。このまつりは桜の開花に合わせて開催され、毎年多くの人たちが来場する。「足の筋力測定」というイベント名にし、足の筋力や運動習慣に興味を持ってもらうきっかけとなることを願っている。本研究は、足指筋力測定器を使って足裏の筋力(足趾筋等)測定、握力器を使用して握力測定そして質問用紙の記入を行い、参加者の傾向を探ることを目的とする。参加者は 254 名であった。男性 55 名、女性 157 名であった。年齢は 89 歳から 2 歳である。参加者で一番多い年代は 70 歳代女性が 75 名であり、次いで 60 歳代女性 54 名である。日頃の運動実施については、週に 1 回以上運動習慣のある人 153 名であった。足裏の筋力(足趾筋等)測定では、年代の平均値は、10 歳代男性と 20 歳代男性が高

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02 体育社会学

い数値であった。年齢が高くなるにつれて、足の筋力の数値は低くなる傾向にあることが分かった。このようなイベントは、運動実施が習慣化されていない人たちに対して、運動習慣の重要性を再認識する機会になると考えられる。