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100 NIKKEI MONOZUKURI October 2010
次元設計における効果は、主に2つある。そのうちの1つは、前
回(2010年9月号)の「生産工程を含めた効果の刈り取り」で解説した。後工程で3次元モデルを利用することによる効果といえる。 もう1つの効果が、製品そのものの性能と品質の作り込みだ。今回は、これを早期に実現するための開発スタイルについて説明する(表)。そのキーになるのが、CADのオプションとして機能するCAEである。
CAEは正しく使われているか? CADやCAEベンダーの解説では、CAEは開発プロセスの中で「試作」に置き換わるものとして位置付けられることが多い〔図1(a)〕。これを結果確認型解析という。 そして、設計者がこれを簡単な操作で行えるよう、「設計者向けCAE」と銘打ったCAEツールをオプションとして組み込み、形状データをそのまま解析用のモデルとして利用できるCADが提供されている。しかし、これまで多く
の設計/開発現場と解析事例を見てきたが、この種のCADが効率よく稼働しているところは意外と少ない、というのが正直な感想である。あまり使われていないか、間違った使われ方をされている例が多い。 この「設計者向けCAE」については、CAEのユーザーサポート経験から、その使用に際して2つの点で注意が必要であると考える。①解析機能の制限
設計者向け仕様とするためにオペレーションの簡易化を図り、元のCAEツールと比べて機能が制限されているケースが多い。このため、試作の代用になるような精度を追求する解析には向かないことがある。②解析時間の増大
CADデータをそのまま流用して解析を行った場合、設計現場の実情に合わないぐらい解析の実行に時間がかかることがある。 これらのツールは導入が容易であるとはいっても、使う上では設計現場のニーズとツールの特性をよく把握することが重要だ。この点はベンダーも実情を理解しきれていないと思われる。CAEと設計現場の両方に精通した人の存在が、導入と活用のカギとなる。
3
なかしま・やすし:技術士(航空宇宙部門)。国内衛星メーカー、CAEベンダーを経て、O2(本社東京)へ参画。衛星の構造・機構の設計/開発、および製造/品質試験まで一連の工程をカバーし、設計/解析ノウハウを生かしたサポート活動を展開してきた。O2では18年に及ぶ経
験を生かし、「3D-DPRM」を柱にしたコンサルティング活動に従事。計算力学技術者1級。▲
O2(http://www.o2o2.co.jp/)は、設計開発領域を専門とするプロ集団。顧客企業の業務プロセス改革、高度な技術課題解決を総合的に支援。3D-DPRMなど独自の方法論を持つ。
イラスト:モリナガカツトシ
設計指針をCAD付属のCAEで導出
中島 康● O2 技術ディビジョン コンサルタント
性能と品質の作り込み第7回
取り組み内容(グループ) 活動テーマ 設計インフラ
整備フェーズ設計効率化フェーズ
業務品質向上フェーズ
開発力強化フェーズ
製品力強化フェーズ
A 3次元導入・初期教育
CAD導入 ◎ CAD操作教育の実施 ◎
B 3次元設計の強固な基盤づくり
モデル構築手法の定義 ◎ CAD運用ルールの整備 ◎ ○ 部品ライブラリーの整備 ◎ ○
C 3次元設計手法の定着
設計手法・設計手順の定義 ◎ 設計意図伝達ルールの整備 ◎ スキルアップ教育の実施 ◎
D3次元設計の効率向上と活用拡大準備
解析の導入 ◎ 形状モジュール化 ○ ◎ 省力化プログラムの活用 ◎ ○ CADデータの流通拡大 ◎ ○
E 生産工程を含めた効果の刈り取り
金型設計の3次元化 ◎ ○ 検査・計測工程の改善 ○ ◎
F製品品質の早期作り込み実現のための基盤整備
部門間連携/PJ管理の推進 ○ ◎
技術情報の蓄積 ○ ◎ ○ 金型・部品調達の改善 ◎ ○
G製品品質の早期作り込み実現のための開発スタイル移行
DR主導型設計の推進 ◎
解析主導型設計の推進 ◎
H製品からの視点を 中心とした製品開発力向上
不具合の未然防止 ○ ◎標準化・モジュール化 ○ ◎リーン設計・製造の推進 ◎
PJ:プロジェクト DR:デザインレビュー
表●3次元設計をベースとした開発プロセス構築に向けた取り組み今回は、グループGの取り組みを解説する。
101October 2010 NIKKEI MONOZUKURI
「結果確認」から「解析主導」へ 同じCAEであっても、解析専任者と設計者では役割分担が必要だ。CAEの専門家である解析専任者は、CAEによって試作の代用となるくらい精度の高い解析結果を出すことが求められる。 これに対して設計者は、設計業務の中でより良い意思決定を、CAEによって導き出すことが求められる。このように設計を進める場合、解析実施のタイミングは設計が固まってからではなく、設計前や設計中に、必要に応じて実施することになる〔図1(b)〕。このような設計の進め方を解析主導型設計という。 解析主導型設計によってCAEを使う場合は、結果確認型解析手法よりも使用頻度が上がり、使用時期も前倒しとなる。CAEの使い方(操作方法ではない)に対して、以前からいわれている概念を変えることが必要だ(図2)。 図2では解析主導型設計の例として、締結部のボルトサイズとボルト本数の組み合わせを挙げてみた。ボルト設計でイメージがつかみにくければ、リブの高さと厚さなどに置き換えて考えてもよい。通常、設計はこのような多次元の変数から成る設計空間の中で行う。 設計のスタート時には、CADデータを流用する場合、自然と既存モデルの仕様を適用することになる。流用品の
使用条件が従来と同様ならばそのまま流用しても問題ないが、使用条件が異なる場合は、CAEによって確認する必要がある。解析で問題が確認された場合、設計者は現状設計が設計NGゾーンにあることを認識する。 次に設計者は、流用モデルに対して大まかな変更(使用可能な最大サイズへのボルトの変更や、使用可能な最大数までのボルトの追加など)を行い、解析を実施して変更による効果を確認する。最も効果のある設計方針が見つかれば、設計に関する探索エリアの絞り込みを行う〔図2(a)〕。 設計方式が定まった後は、それに従った詳細なモデル変更をCAD上で行い、CAEでその効果を確認する。解析結果を精査することで、仕様を満足(設計OKゾーンに移動)させるための方策も確認できる。このとき、コスト増を気にしすぎて設計変更の程度を小さく抑えがちにする傾向がよく見られ
るが、そうならないように注意する方がよい。 設計仕様を設計OKゾーンに移行できたら、次はコストダウンのための最適化を行う〔図2(b)〕。CAE解析結果の特徴の1つは、「パーツなどを加えた場合の性能変化」よりも「パーツなどを削除した場合の性能変化」の方が予測しやすいことだ。これを利用すると、より少ない回数の試行錯誤で最適設計結果を得られる。つまり、設計OKゾーン内での最適化は比較的容易な「削除型」になる。設計NGゾーンでコストを気にしない、思い切った設計変更の検討を勧めるのはそのためである。
時間をかけすぎない 過去20年、ハードウエア性能は著しく進歩し、これに伴ってCAEの解析処理速度も飛躍的に向上してきた。一方で、ユーザーが使用するモデル規模も同等レベルで肥大化しており、解析業
(a)一般的な解析の実施時期(結果確認型解析)
(b)解析主導型設計での解析の実施時期
デザイン
商品設計
試
作解
析
生産設計
製
造
デザイン
商品設計
生産設計
製
造
製造着手前に設計の妥当性を、試作に代わってCAEで確認する
「CAE解析」という独立した業務ではなく、デザイン~製造過程における定量的かつ効率的な検討手段の1つが「解析」。必ずしも「解析=CAE 」ではない
解 析
図1●解析作業(CAE)の実施時期
3次元CADを導入したが、なかなか開発プロセスの効率化が進まない─。そう悩んでいる企業は少なくない。この悩みは、新しい機能を持ったツールを導入したからといって解決するものではない。3次元設計に取り組んではいるが、十分な効果が得られていない企業の体質のどこに問題があるかを分析し、その結果に応じた改善方法を選択できるスキルを、本コラムでは伝授します。
102 NIKKEI MONOZUKURI October 2010
務に要する時間がかえって増大する傾向もみられる。 解析主導型設計にてCAEを用いる場合、解析に要する時間は設計品質を左右する。筆者が支援を行ったメーカーでは非常に作り込まれたCADモデルに対して解析を行っていたため、1つのケースに2〜4時間ほどかけて解析(メッシュ作成および解析実行)を行っていた。そのため、1日に1〜2ケースしか設計変更の確認ができず、設計改善の効果が得られていなかった。
そこで、さまざまな手法を用いて解析時間の低減に努め、1ケース当たりの処理時間を15〜30分とした。これによって、1日に10ケース以上の設計変更確認が可能になり、設計内容がブラッシュアップされていった。 では、どのような方法で時間短縮を図ったか。複数の手法を用いたが、代表的なものとしては、①解析モデルの簡略化
②解析モデルで用いる要素の変更
③解析パラメータの設定変更
などである。①については詳細を後述する。②は、設計者向けCAEでは一般的な仕様としてソリッド(Solid)要素(CAEによって名称が異なる場合がある)でモデルを作成するようになっているが、これをシェル(Shell)要素(同上)でモデル化できるようにCADモデルに修正を加え、解析オペレーションの一部を変更した。これは、板金や薄板構造の製品を用いるメーカーでは非常に有効な手法である(図3)。③は解析精度を上げるという名目のもとでお節介とも取れるほど、モデル再構築処理を何度も繰り返すデフォルト設定を、強引に解除した。 これらの処置は、CAEを導入したばかりの部署においては非常に特殊なことに映ったようだが、昔から解析を実施してきた企業や部署では、貧弱なハードとソフトでそこそこの精度を有した解析結果を得るために、ごく普通に行われてきた手法である。
目的に合わせた解析モデリング 解析モデルを簡略化すると「解析精度が落ちる」と思われる節があるが、必ずしもそうとはいえない。解析モデルの簡略化は、解析対象となる製品の対称性を利用したり不要な部分を特定したりして、解析の目的に照らして合理的に進める。当然、これらを考慮せずにやみくもに簡略化すると、解析結果は現実から乖
かいり
離してしまう。とは図2●解析主導型設計による設計へのアプローチまず大まかな変更を検討し、設計が成立するように方針を決める(a)。次いで、要求仕様をクリアさせ、コストダウンのための最適化を行う(b)。
準最適設計値
準最適設計値
準最適設計値
設計パラメータの絞り込み
設計パラメータの絞り込み
準最適設計値
設計パラメータX(例:ボルト本数)
設計パラメータY
(例:ボルトサイズ)
設計の出発点
設計仕様
コストの等高線
最適設計値
設計パラメータの絞り込み
設計パラメータの絞り込み
設計の出発点
最適設計値
便宜上、2変数で表示設計空間
設計OKゾーン
設計NGゾーン
準最適設計値
準最適設計値
準最適設計値
準最適設計値
設計パラメータX(例:ボルト本数)
設計パラメータY
(例:ボルトサイズ)
設計の出発点
設計仕様
コストの等高線
最適設計値
設計の出発点
最適設計値
便宜上、2変数で表示設計空間
(a)
(b)
103October 2010 NIKKEI MONOZUKURI
いえ、簡略化には特殊なスキルが必要というわけではなく、解析対象とする製品のメカニズムを熟知している設計者であれば、容易に対応できるようになるものである。 ここで注意すべき点は、簡略化のための作業工数である。解析時間を短くするために簡略化に非常に時間をかけてしまうのでは、本末転倒である。従って、解析主導型設計にて作業を進める場合は、①解析準備工数
②解析実施工数
③解析評価工数(モデル規模が大きく
なると増加する)
を念頭に置き、場合によっては「解析できない場合(意外によく起こる)」に備えた代用策も用意した上で取り組むことが重要である。 また、設計者向けCAEで一般的に用いられる解析手法「線形解析」の特性を利用することで、図4のような解析(倍率比較法)も可能になる。
結果の評価とフィードバック ここで解析結果を設計にフィードバックさせつつ作業を進めるという、解析主導型設計の具体例を見てみる。解析結果から、曲げ剛性を向上させるための設計変更方法を検討してみた例である。ここで用いる解析モデルは、形状および拘束条件についてのみ、ある程度正しくモデル化されているだけで、材料特性についても誤差が含まれ
ている。 設計者向けCAEにより、最初のモデル案(モデルA)の解析計算が完了すると、デフォルトでは図4(a)のように解析結果が表示される。この結果だけでは、固定部近辺に高い応力集中が見られるのみで、具体的な設計改善指針は得られない。 解析結果は見方が重要なため、変形倍率をデフォルトより拡大して結果表示を行う。設計目的が剛性向上であることから、応力分布については問題にしない。解析結果を見ると、最大変位は45.64mmであり、変形の主因は固定部のボルト配列にあることが読み取れる〔図4(b)〕。解析結果が設計指針を示す一例である。 上記結果より、剛性向上を図るためには製品の板厚増加よりも固定点を変更した方が有効だと考えられるため、
図3●解析要素による処理時間の差(a)はソリッド要素のみ、(b)はシェル要素を多用。作成時間が1.55分(1分33秒)から0.1分(6秒)へ減少した。
最大変位45.64mm
最大変位13.56mm
固定部ボルト配列の違いによる変形の差
図4●解析結果(a)と(b)が初期案で、(b)は変位を強調して表示したもの。(c)が固定点を変更したモデルによる計算結果。(b)と(c)とでは変位が同じように見えるが、表示上の強調度合いが異なっており、実際には変位を約0.3倍に抑えた。
(a)初期モデル(応力) (b)初期モデル(変位) (c)改良モデル(変位)
(a) (b)
104 NIKKEI MONOZUKURI October 2010
固定点の位相を変更したモデルBを作成し、解析を実施した。解析結果を比較すると、最大変位は13.56mmと減少していた〔図4(c)〕。 両解析モデルに定義されている材料物性値に誤差があるため、最大変位量の絶対値は誤差を含んでいる。しかし、双方のモデル化の違いは固定穴の位置だけであるため、図5で提示される解析誤差は比較上すべて相殺されるとみなせる。 従って、固定穴の位置を変更するだけで変位量を約0.3倍に抑えられるという現象は、実際の製品でも同じように起こる。つまり、材料を全く増加させなくても、3.4倍の剛性を得られると予測できる。 このように、解析手法さえ工夫すれば、それほどの労力を要せずとも設計における効果を効率的に得られることが分かる。なお、絶対値として正しい解析結果を得るためには、材料試験などを含む地道なノウハウの積み重ねが必要だ。
取り組みの効果事例 ある家電メーカーでは、CAE環境も整い、社内教育プログラムまで完備されていたが、実際に設計者がCAEを利用するケースは極めてまれであった。そこで、▶このメーカーで取り扱う製品に特化した解析主導型設計のトレーニング・テキストを作成▶合計約6時間のみの解析トレーニングを実施▶その後約半年間のQ&Aによるフォローを実施以上のような施策をしたところ、次のような効果が表れた。①問題点の早期顕在化
従来はさまざまな設計変更依頼に応じて「取りあえず作ってみよう」というスタンスで設計を進めていた。その変更が後に高コストになることが判明すると大慌てで案を修正したり、あきらめてコスト掛け放題のまま進めたりすることもあった。 ところが、解析時間短縮手法の習得
により、設計決定に必要な材料を早期に提示できるようになった。そのため、各部署からの要望を適切に選別し、無駄な検討を省くことでリードタイムの短縮を図れた。②試作費用の削減
従来は、性能確認を目的に試作品を「取りあえず」製作していたため、同一部位で約20回もの試作を繰り返していた。 それが、精度の高い設計解析手法の習得により、たった2個の試作品を作った段階で、早 と々目標スペックを達成してしまった。予定期間の約半分で設計は完了したが、他部門との足並みをそろえるためもあり、残りの期間をかけて綿密なコスト低減対策を実施。これによって大幅なコストダウンも図れた。③設計スキルの向上
設計者は試作品を製作する数だけ経験を蓄積できるが、これには期間を要するために、短期間で多くのノウハウを習得し、スキルを向上することは困難だった。 ところがCAEであれば、試作品を試験する以上に多面的な結果分析が短時間で可能であり、検討回数も圧倒的に増やせる。このため、設計者の設計スキルが短期間で向上した。これは筆者自身による感想ではなく、この企業の設計リーダーから指摘を受けたことである。
真値
実測値
解析値
解析誤差
解析ソフト要因誤差数値演算誤差
外力/境界条件誤差
結合条件設定誤差
物理パラメータ誤差
モデル形状誤差測定誤差
図5●誤差の内訳解析には実測値に対する誤差があるが、誤差の条件が同じ解析結果同士は設計上の厳密な比較ができる。