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酸・塩基の定義 1

酸・塩基の定義 - 名城大学tnagata/education/ochem1r/2019/ochem...酸・塩基の定義 アレニウスの定義: 「水溶液中で H+ を生成するものが酸、 HO‒

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酸・塩基の定義

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酸・塩基の定義

アレニウスの定義:「水溶液中で H+ を生成するものが酸、 HO‒ を生成するものが塩基」

→ 有機化学ではあまり有用でないブレンステッドの定義:「H+ を供与するものが酸、 H+ を受け取るものが塩基」

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酸・塩基反応の例

NH3 + H2O NH4+ + HO–

酸塩基 共役酸 共役塩基

酸が H+ を供与したあとに残る化学種=共役塩基塩基が H+ を受け取ってできる化学種=共役酸

NH3 の共役酸は NH4+H2O の共役塩基は HO‒NH3 の共役塩基は?「NH3 が H+ を供与したあとに残るもの」だから NH2‒H2O の共役酸は?「H2O が H+ を受け取ってできるもの」だから H3O+

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酸・塩基は「相手によって」決まる

H2O + CH3COOH H3O+ + CH3COO–

酸塩基 共役酸 共役塩基水は H+ を受け取る=塩基

HBr + CH3COOH Br– + CH3 COH

OH酸 塩基 共役塩基共役酸

酢酸は H+ を受け取る=塩基(!)

※ ある物質が「酸」かどうかは、反応する相手によって決まる。相手に H+ を渡しているなら「酸」。

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酸の強さの指標:pKa

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酸塩基平衡

A + B C + D

酸・塩基反応は(多くの場合)可逆反応。

可逆反応は2本の「片カギ矢印」で表す

可逆反応は、時間がたつと「平衡状態」に達する

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酸の強さを定量的に示す

H2O + CH3COOH H3O+ + CH3COO–

[H3O+][CH3COO–][H2O][CH3COOH]

= K ����

[H3O+][CH3COO–][CH3COOH]

= K[H2O] = Ka ����

酸解離定数

「酢酸」の酸としての強さを数値で示す可逆反応なので、時間がたつと平衡状態に達する→「化学平衡の法則」が成り立つはず

水溶液中では [H2O] はほぼ定数と見なせるので、

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Ka と「酸の強さ」の関係?

CH3COOHKa = 1.7x10–5 (mol/L)

HCOOHKa = 1.8x10–4 (mol/L)

[H3O+][CH3COO–][CH3COOH]

= 1.7x10–5 (mol/L) [H3O+][HCOO–][HCOOH]

= 1.8x10–4 (mol/L)

[H3O+] = 4.2x10–3 x c1/2 [H3O+] = 1.3x10–2 x c1/2

Ka が大きい=H+を放出する方向に平衡が傾く=強い酸

普通は pKa を使う: pKa = –log10 Ka

pKa が小さいほど強い酸

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有機酸と有機塩基

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有機酸・有機塩基有機酸の例

CH3NH2CH3CH2

NHCH3CH2

NH2

���� ����� ���

有機塩基の例酢酸 フェノール

CO

OHCH3 OH

pKa = 4.76 pKa = 10.0

pKa = 10.7 pKa = 10.9 pKa = 4.6

塩基の強さは「共役酸の pKa」で表す

CH3NH3CH3CH2

NH2CH3CH2

NH3

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酸の強さは何で決まるのか

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酸の強さは何で決まるのか「酸の強さは pKa で決まる」:これでは不十分!

酸の強さ(pKa)は物質の化学的性質→ 物質中の電子の振る舞いによって決まっているはず→ 物質中の電子配置と酸性度の間にはどういう関係があるのか?

【基本的な考え方】1.共役塩基が安定なほど、強い酸である。

H–A + B A– + H–B+ A‒ が安定なほど、平衡は右に偏る。

2.共役塩基は「ローンペア電子のエネルギーが低い」ほど安定。H A A–H+ +

ローンペア

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酸の強さを決める要因 (1):電気陰性度

「電気陰性度」:原子が最外殻電子を引きつける力の尺度

電気陰性度が高い= ローンペアを強く引きつける= ローンペアのエネルギーが低い(安定である)

HF>

H2ONH3CH4pKa 3.215.73660 > >

※ 共役塩基の安定性を比較していることに注意。  CH3‒ < NH2‒ < HO‒ < F‒ (右のものほど安定)※ 同じ周期の原子を比較するときのみ適用できる

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酸の強さを決める要因 (2):軌道の混成

同じ原子上のローンペアで、入っている混成軌道が異なる場合

エネルギー: sp3 混成 >  sp2 混成 > sp 混成安定性: sp3 混成 <  sp2 混成 < sp 混成

CH3CH3 H2C CH2 HC CH

pKa 60 44 25> >sp3 混成 sp2 混成 sp 混成

※ 理由:s 軌道の割合(混成軌道の s 性)が高いほど原子核に電子が近づきやすい→ローンペアが安定化される

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酸の強さを決める要因 (3):原子の大きさ水素原子が異なる周期の原子に結合している場合:

※ 原子核から離れているため、電子間の反発が小さくなるため

ローンペアは大きな軌道に入っているほど安定

HI>

HBr>

HCl>

HFpKa –10–9–73.2

※ 電気陰性度の順序とは逆になっていることに注意

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【練習問題】 化合物 HOCH2CH2SHについて、(1) この化合物が酸として働くとき、放出されるのはどの水素原子か。(2) この化合物が塩基として働くとき、H+と結合するのはどの原子か。

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酸・塩基反応を「電子の動き」で理解する

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酸・塩基反応における電子の動きNH3 + H2O NH4+ + HO–

「どの結合が切れて、どの結合が生成するか」を特定する

NH

HH

OH H

NH

H HH

O H+ +

������

����

・「切断される結合」の電子はどこに行くのか?・「生成する結合」の電子はどこから来るのか?

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電子対はどのように動くか?

① この電子対が ② ここに向かって動いて ③ この結合を作る

① この電子対が ② ここに向かって動いて ③ このローンペアを作る

NH

H H HO

H+ N

H

H H

H

O H+

NH

H H HO

H+ N

H

H H

H

O H+

【N のローンペアが電子不足の H と結合を作る】

【H が「結合2本」にならないように電子を押し出す】

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電子の移動を巻き矢印で表す

NH

H H HO

H+

N

H

H H

H

O H+

① N のローンペアが H と結合を作る② H が「結合2本」にならないように電子を押し出す

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C H + H+

巻き矢印に関する注意・巻き矢印は「電子対」の移動。「原子」の移動ではない!

NH

H H HO

H+ N

H

H H

H

O H+誤り

・結合が「切れる」ときの矢印の向きに注意。 結合電子がどちらに行くかをよく見ること。

C Cl Cl+

(結合電子は Cl が受け取る) (結合電子は C が受け取る)

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手書きの巻き矢印

◯ × × ×

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極性反応を巻き矢印で記述する

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反応式に巻き矢印をつける (1)

CH3Br + –OH CH3OH + Br–【例】

【手順①】

すべての価電子を明記したケクレ式を書く

CH

HH

Br + O H CH

HH

O + BrH

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反応式に巻き矢印をつける (2)【手順②】左辺の「なくなる結合」「なくなるローンペア」と右辺の「新しい結合」「新しいローンペア」に印をつける

CH

HH

Br + O H CH

HH

O + BrH

なくなる結合 なくなるローンペア

新しい結合 新しいローンペア

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反応式に巻き矢印をつける (3)【手順③】「なくなる結合・ローンペア」と「新しい結合・ローンペア」を対応づける

CH

HH

Br + O H CH

HH

O + BrH

[対応付けの条件]必ず電子対の一方は同じ原子上にあること

この対応付けはダメ(ローンペアが O から Br に飛んでいる)

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反応式に巻き矢印をつける (4)【手順④】電子対の移動を巻き矢印で表現する

CH

HH

Br + O H CH

HH

O + BrH

CH

HH

Br + O H CH

HH

O + BrH

① C‒Br 結合が Br のローンペアになる

② O のローンペアが C‒O 結合になる

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NHH

H+ H

OH N

HH H

H+ O H

「反応に関与するローンペア」だけを書くやり方

反応前後で変化しないローンペアは省略してもよい

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【練習問題】 次の反応をケクレ式で書き、電子の動きを巻き矢印を使って示しなさい。反応に関与するローンペアを正しく書き入れること。

H2S + CH3NH2 HS– + CH3NH3+

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ルイス酸とルイス塩基

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ルイスの酸・塩基の定義【ルイスの酸・塩基の定義】酸:「電子対を受け取って共有結合を作るもの」塩基:「電子対を与えて共有結合を作るもの」

(配位結合)

ブレンステッドの酸・塩基の定義の拡張になっている

NHH

H+ H

OH N

HH H

H+ O H

電子対を与えて共有結合を作る 電子対を受け取って

共有結合を作る

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ルイス酸・ルイス塩基

ブレンステッド酸ではないが、ルイスの意味では酸であるもの→ 「ルイス酸」と呼ぶ

AlCl

Cl Cl+

CH3O

CH3 AlCl

ClCl

OCH3

CH3(無水)

ルイスの意味での塩基=「ルイス塩基」(実質的にはブレンステッド塩基と同じ)

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求電子剤と求核剤

Al

Cl

Cl Cl

(無水)塩化アルミニウム代表的なルイス酸

最外殻電子が6個しかない→ 電子を2つ受け入れてオクテットになりたい電子を欲しがっている = 

ルイス塩基(ブレンステッド塩基も同じ) = ローンペアがある = 電子不足の原子と結合を作りたい =

求電子剤

求核剤

「求電子剤」と「求核剤」の反応 = 極性反応

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