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1 トルコ旅行の起点となるイスタンブルではバザールの活気に触れてみては  2 南東アナトリアが 本場のバクラワ(パイ菓子)  3 エーゲ海料理には味を引き立たせるオリーブオイルが欠かせない 4 東部や南東アナトリアでは肉料理が主流  5 小麦や肉を使った料理が特徴の中央アナトリア 6 農業が盛んな黒海地方はヘーゼルナッツの産地  7 温暖な地中海地方では野菜も料理に華を添 える  8 マルマラ海地方は肥沃な大地で育まれた食材が実に豊富 1 2 5 6 7 3 4 マルマラ地方 エーゲ海地方 中央アナトリア地方 東アナトリア地方 南東アナトリア地方 黒海地方 地中海地方 イスタンブル ブルサ コンヤ アダナ アンタキヤ アンカラ カッパドキア トラブゾン リゼ カフラマンマラシュ ガーズィアンテップ シャンルウルファ イズミル 世界3大料理の一つに数えられるトル コ料理。フランス、中国と肩を並べる のは、トルコ料理がオスマン帝国時代 に3大陸からさまざまな食材や調理法が 融合したからだ。 トルコ人の源流は、ユーラシア大陸 から西へと向かった遊牧騎馬民族にあ る。彼らの食文化は羊肉や羊の乳から 作るヨーグルトなどに表れている。この 民族が中央アジアで出合ったのがイスラ ムの食文化。11世紀のイスラム世界で 文化の中心にあったのはイランで、ケバ ブやキョフテ(肉団子)などがアラビア 語やペルシャ語に由来している。 のちにアナトリアでオスマン帝国を築 いたトルコ民族は、やがて地中海の食 文化と出合い、魚介類を取り込んでいく。 魚や野菜の名前がギリシャ語を起源と していたり、薄いパンを「ピデ」と呼ぶ のもギリシャ語の「ピタ」に由来してい る。いくつかの源流が混ざり合い、オ スマン帝国の中枢に持ち込まれると、 各地の食材や食文化は宮廷で磨かれ洗 練された。それらは地方に伝来し、ま た地方や異国から新たな食材や食文化 が宮廷へと持ち込まれ、トルコ料理は 一大食文化へと昇華されていった。 トルコを大きく7つの地方に分けた時、 こうした歴史的背景や食文化を色濃く 感じられるのは、南東アナトリア、東ア ナトリア、そして中央アナトリア地方だ ろう。シリアやイランなどと国境を接す る南東アナトリア地方では、羊肉や乳 製品が好まれ、香辛料やトウガラシ、 ハーブなどを使う辛めの味が特徴。甘 みたっぷりのスイーツも多彩にそろって いる。 またこの南東部には、ガーズィアン テップ、シャンルウルファ、ハタイの地 方料理が3大料理として知られており、 その代表格が世界的にも名高いモザイ ク博物館を擁するガーズィアンテップだ。 この町はユネスコによる創造都市ネット ワークのガストロノミー(食文化)部門 で食文化創造都市に登録されている美 食の町。乾燥野菜やナッツ、肉や魚が 混然と売られる市場を見るだけで、豊 かな食文化が伝わってくる。特に名産 のピスタチオを使ったハチミツ漬けのパ イ、バクラワはことのほか有名だ。 同じく食が魅力の町ハタイでは、ア ラブ料理に触発されたさまざまな種類 のメゼ(前菜)を味わいたい。1920年 の戦争でフランス軍から町を守ったこと で知られるシャンルウルファでは、トル コでは珍しい生肉を使った肉団子料理、 チイ・キョフテが名物となっている。 東アナトリア地方では、バターやヨー グルト、チーズ、ハチミツ、穀物など が主な産物。回転させて焼くジャーケ バブはこの地方が発祥で、肉料理の本 場でもある。トロス山脈の麓に広がる町、 マラティヤは杏子の産地でドライフルー ツが美味しい。 中央アナトリア地方は雨が少なく、 小麦の栽培や畜産が盛ん。ホウレンソ ウと白チーズを使ったギョズレメは、こ のエリアの遊牧民族発祥の料理だ。中 心都市はかつてセルジューク朝の首都 だった古都、コンヤ。ここではひき肉 を使ったトルコ風ピザ、エトゥリ・エキ メッキが外せない。 黒海、エーゲ海、地中海、マルマラ 海と海に面した4つの地方では、豊富な 魚介類との出合いで内陸のアナトリア とはまた違った食の魅力がある。イス タンブルを擁するマルマラ地方では、温 暖で肥沃な土地に果物や野菜がよく育 つ。羊肉や魚介類も豊富で、料理の種 類もバラエティー豊か。例えばウル山の 麓に広がる緑の多い町ブルサは、果樹 栽培が盛んで温泉も有名。ここではパ ンにグリルした肉を挟み、トマトソース、 バター、ヨーグルトを添えたイスケンデ ル・ケバブが名物。栗のスイーツ、ケ スターネ・シェケリはお土産に最適だ。 エーゲ海地方では、やはり海の幸と オリーブオイルを使うメニューが多い。 トルコ第3の都市であるイズミルでは、 港町らしい名物料理、ミディエ・ドル マスを味わいたい。これはムール貝のピ ラフ詰めで、屋台や専門店が出るほど ポピュラーなソウルフードだ。 温暖な気候の地中海地方は野菜や果 物の栽培が盛んで、オリーブの産地で もある。東部に位置するトルコ第5の都 市アダナも食の町。スパイシーな味が特 徴で、名物料理は辛味の効いたアナダ・ ケバブ。独特の酸味があるドリンク、シャ ルガム・スユとセットでいただこう。 温暖湿潤な黒海地方は、ナッツやト ウモロコシ、お茶などの産地。特に黒 海沿いの町リゼの紅茶が知られている。 中心都市の一つトラブゾンは牛による酪 農が盛んで、発酵バターが有名だ。黒 海もまた漁獲量が多く、トラブゾンでは ハムシ(カタクチイワシ)の料理を味わ いたい。 新鮮な魚介類との出合い 8 トルコ料理は奥が深い。 歴史と文化、地理や気候、宗教までもが複雑に絡み合い、大きな食文化を形成しているからだ。 ガストロノミーを切り口に 15 回のシリーズでトルコの 7 つの地方の魅力をひも解く。 7 つの地方を彩る ガストロノミーの魅力 Vol.01 Gastro Turkey 食で旅するトルコ

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1トルコ旅行の起点となるイスタンブルではバザールの活気に触れてみては  2南東アナトリアが本場のバクラワ(パイ菓子)  3 エーゲ海料理には味を引き立たせるオリーブオイルが欠かせない4 東部や南東アナトリアでは肉料理が主流  5小麦や肉を使った料理が特徴の中央アナトリア6農業が盛んな黒海地方はヘーゼルナッツの産地  7温暖な地中海地方では野菜も料理に華を添える  8マルマラ海地方は肥沃な大地で育まれた食材が実に豊富

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マルマラ地方

エーゲ海地方

中央アナトリア地方 東アナトリア地方

南東アナトリア地方

黒海地方

地中海地方

イスタンブル

ブルサ

コンヤ

アダナ

アンタキヤ

アンカラ

カッパドキア

トラブゾン

リゼ

カフラマンマラシュ

ガーズィアンテップ

シャンルウルファ

イズミル

 世界3大料理の一つに数えられるトルコ料理。フランス、中国と肩を並べるのは、トルコ料理がオスマン帝国時代に3大陸からさまざまな食材や調理法が融合したからだ。 トルコ人の源流は、ユーラシア大陸から西へと向かった遊牧騎馬民族にある。彼らの食文化は羊肉や羊の乳から作るヨーグルトなどに表れている。この民族が中央アジアで出合ったのがイスラムの食文化。11世紀のイスラム世界で

文化の中心にあったのはイランで、ケバブやキョフテ(肉団子)などがアラビア語やペルシャ語に由来している。 のちにアナトリアでオスマン帝国を築いたトルコ民族は、やがて地中海の食文化と出合い、魚介類を取り込んでいく。魚や野菜の名前がギリシャ語を起源としていたり、薄いパンを「ピデ」と呼ぶのもギリシャ語の「ピタ」に由来している。いくつかの源流が混ざり合い、オスマン帝国の中枢に持ち込まれると、

各地の食材や食文化は宮廷で磨かれ洗練された。それらは地方に伝来し、また地方や異国から新たな食材や食文化が宮廷へと持ち込まれ、トルコ料理は一大食文化へと昇華されていった。 トルコを大きく7つの地方に分けた時、こうした歴史的背景や食文化を色濃く感じられるのは、南東アナトリア、東アナトリア、そして中央アナトリア地方だろう。シリアやイランなどと国境を接する南東アナトリア地方では、羊肉や乳

製品が好まれ、香辛料やトウガラシ、ハーブなどを使う辛めの味が特徴。甘みたっぷりのスイーツも多彩にそろっている。 またこの南東部には、ガーズィアンテップ、シャンルウルファ、ハタイの地方料理が3大料理として知られており、その代表格が世界的にも名高いモザイク博物館を擁するガーズィアンテップだ。この町はユネスコによる創造都市ネットワークのガストロノミー(食文化)部門で食文化創造都市に登録されている美食の町。乾燥野菜やナッツ、肉や魚が混然と売られる市場を見るだけで、豊かな食文化が伝わってくる。特に名産のピスタチオを使ったハチミツ漬けのパイ、バクラワはことのほか有名だ。 同じく食が魅力の町ハタイでは、アラブ料理に触発されたさまざまな種類のメゼ(前菜)を味わいたい。1920年の戦争でフランス軍から町を守ったことで知られるシャンルウルファでは、トルコでは珍しい生肉を使った肉団子料理、チイ・キョフテが名物となっている。 東アナトリア地方では、バターやヨーグルト、チーズ、ハチミツ、穀物など

が主な産物。回転させて焼くジャーケバブはこの地方が発祥で、肉料理の本場でもある。トロス山脈の麓に広がる町、マラティヤは杏子の産地でドライフルーツが美味しい。 中央アナトリア地方は雨が少なく、小麦の栽培や畜産が盛ん。ホウレンソウと白チーズを使ったギョズレメは、このエリアの遊牧民族発祥の料理だ。中心都市はかつてセルジューク朝の首都だった古都、コンヤ。ここではひき肉を使ったトルコ風ピザ、エトゥリ・エキメッキが外せない。

 黒海、エーゲ海、地中海、マルマラ海と海に面した4つの地方では、豊富な魚介類との出合いで内陸のアナトリアとはまた違った食の魅力がある。イスタンブルを擁するマルマラ地方では、温暖で肥沃な土地に果物や野菜がよく育つ。羊肉や魚介類も豊富で、料理の種類もバラエティー豊か。例えばウル山の麓に広がる緑の多い町ブルサは、果樹栽培が盛んで温泉も有名。ここではパ

ンにグリルした肉を挟み、トマトソース、バター、ヨーグルトを添えたイスケンデル・ケバブが名物。栗のスイーツ、ケスターネ・シェケリはお土産に最適だ。 エーゲ海地方では、やはり海の幸とオリーブオイルを使うメニューが多い。トルコ第3の都市であるイズミルでは、港町らしい名物料理、ミディエ・ドルマスを味わいたい。これはムール貝のピラフ詰めで、屋台や専門店が出るほどポピュラーなソウルフードだ。 温暖な気候の地中海地方は野菜や果物の栽培が盛んで、オリーブの産地でもある。東部に位置するトルコ第5の都市アダナも食の町。スパイシーな味が特徴で、名物料理は辛味の効いたアナダ・ケバブ。独特の酸味があるドリンク、シャルガム・スユとセットでいただこう。 温暖湿潤な黒海地方は、ナッツやトウモロコシ、お茶などの産地。特に黒海沿いの町リゼの紅茶が知られている。中心都市の一つトラブゾンは牛による酪農が盛んで、発酵バターが有名だ。黒海もまた漁獲量が多く、トラブゾンではハムシ(カタクチイワシ)の料理を味わいたい。

新鮮な魚介類との出合い

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トルコ料理は奥が深い。歴史と文化、地理や気候、宗教までもが複雑に絡み合い、大きな食文化を形成しているからだ。

ガストロノミーを切り口に15回のシリーズでトルコの7つの地方の魅力をひも解く。

7つの地方を彩るガストロノミーの魅力

Vol.01Gastro Turkey食で旅するトルコ