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11 A 会場(孔雀) 11:10~11:35 過渡応答を用いた PID 制御器の オートチューニング 広島大学 大学院工学研究院 機械システム応用力学部門 教授 佐伯 正美 ● プレゼン技術の概要 プラントの過渡応答データをひとつ計測し,それを直接に用いて PID 制御器を設計 するデータ駆動型の方法である。過渡応答データと安定度を指定するだけで,外乱抑 制を最適的化する制御器がオフラインの自動計算で得られる。 ● 従来技術・競合技術との比較 本方法に対比されるモデル参照型の設計法の難点は,制御対象の知識が必要であるこ と,システムが不安定化しやすいことが挙げられる。本方法ではこれらの問題はほと んど無いので,極めて簡便に利用できる。 ● プレゼン技術の特徴 ・幅広い特性の安定な制御対象に適用でき,数式モデルの同定は不要である。 ・過渡応答データを1回計測するのみであり,オフラインの設計には試行錯誤がない。 ・閉ループ系の適度な安定度が確保される。 ● 想定される用途 ・PID 制御器のゲイン調整を制御や対象モデルの知識なく行いたい場合。 ・運転状態で特性が変動する場合にロバストなゲインを求めたい場合。 ・閉ループ系の特性が良好でないとき,早急に適切なゲインを求めたい場合。

過渡応答を用いたPID制御器の オートチューニング · PID制御器の設計,電気学会論文誌C,Vol. 131, No. 4, 2011, pp. 758‐763 z周波数応答による設計

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A会場(孔雀) 機械・システム

11:10~11:35

過渡応答を用いたPID制御器のオートチューニング

広島大学

大学院工学研究院 機械システム応用力学部門

教授 佐伯 正美

● プレゼン技術の概要プラントの過渡応答データをひとつ計測し,それを直接に用いて PID 制御器を設計するデータ駆動型の方法である。過渡応答データと安定度を指定するだけで,外乱抑制を最適的化する制御器がオフラインの自動計算で得られる。

● 従来技術・競合技術との比較本方法に対比されるモデル参照型の設計法の難点は,制御対象の知識が必要であること,システムが不安定化しやすいことが挙げられる。本方法ではこれらの問題はほとんど無いので,極めて簡便に利用できる。

● プレゼン技術の特徴・幅広い特性の安定な制御対象に適用でき,数式モデルの同定は不要である。・過渡応答データを1回計測するのみであり,オフラインの設計には試行錯誤がない。・閉ループ系の適度な安定度が確保される。

● 想定される用途・PID制御器のゲイン調整を制御や対象モデルの知識なく行いたい場合。・運転状態で特性が変動する場合にロバストなゲインを求めたい場合。・閉ループ系の特性が良好でないとき,早急に適切なゲインを求めたい場合。

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過渡応答データを用いたPID制御器のオ トチ ニングPID制御器のオートチューニング

広島大学 大学院 工学研究院広島大学 大学院 工学研究院

教授 佐伯正美

2011/11/30 1広島大学新技術説明会2011 in 広島

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目次目次

1.背景と目的

2 提案法の数値例2.提案法の数値例

3.提案法の概説と関連研究

4.企業との関連

2011/11/30 2広島大学新技術説明会2011 in 広島

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フィードバック制御器の設計フィ ド ック制御器の設計(1.背景と目的)

フ ドバ ク制御フィードバック制御

• 工業の製造・製品のいたるところで使われている

• 高性能,省エネ、安全などに寄与

• ハードウエア性能を引き出すソフトウエア技術ハ ドウエア性能を引き出すソフトウエア技術

外乱

制御量目標値

図1 フィードバック制御系図1 フィ ドバック制御系

2011/11/30 3広島大学新技術説明会2011 in 広島

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制御系設計の難しさ制御系設計の難しさ(1.背景と目的)

∞最適制御の評価関数数式モデル

( )0

( ) ( ) ( ) ( )T TJ x t Qx t u t Ru t dt∞

= +∫伝達関数状態方程式

2011/11/30 4広島大学新技術説明会2011 in 広島

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過渡応答データを用いた直接設計(1.背景と目的)

直接設計の利点

• 数式モデルが不要

• モデル誤差を想定したロバスト設計を回避

• 運転状態での実システムの応答を使用

真のシステムで最適化

2011/11/30 5広島大学新技術説明会2011 in 広島

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PID制御器制御器(1.背景と目的)

• PID制御器

1( ) sK s K K K+ +

• 簡単な構造

( )1P I DK s K K K

s sτ= + +

+

簡単な構造

• 現場での調整が行える

• PID制御器が80%以上で用いられる汎用性が高い

• PID制御器が80%以上で用いられる。

• しかし,50%は不十分な調整状態調整が必ずし調整が必ずしも容易でない

2011/11/30 6広島大学新技術説明会2011 in 広島

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研究目的研究目的(1.背景と目的)

PID制御器の「簡便な調整法」を与える。

簡便とは• モデリングや同定が不要モデリングや同定が不要• 評価関数の選定が容易• 幅広い制御対象に適用可能 ループ整形幅広い制御対象に適用可能

制御対象の先験情報が不要(むだ時間の大きさ,不安定ゼロ点など)

ル プ整形による設計

オートチューニングに利用可能

2011/11/30 7広島大学新技術説明会2011 in 広島

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提案法による調整手順(2.提案法の数値例)

Step1) 制御対象が「定常状態」で 外部入力を加えてStep1) 制御対象が「定常状態」で,外部入力を加えて,

制御対象の入出力応答 を測定( ), ( ), [0, ]u t y t t T∈

u(t)

y(t)

定常状態時間

図2 設計に用いる入出力応答

Step2) 安定度aとサンプル周波数を指定(容易)

図 設計 用 る入出力応答

Step3) 測定データを用いて直接設計

「数値最適化によるゲインの自動計算」

2011/11/30 8広島大学新技術説明会2011 in 広島

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数値例1数値例(2.提案法の数値例)

Step1)入出力データの測定

0=

Step1)入出力デ タの測定

( )u t

( )y t

3

1 0.5( )( 1)

ssP s e−−=0.3( ) 1K s = +

図3 設計に用いる入出力応答3( 1)s +( )s

Step2) 設計パラメータの指定

図3 設計に用いる入出力応答

調整不良のPI制御器 非最小位相むだ時間系

• 安定度• サンプル周波数

100点(0.01~100[rad/s])

0.33a = −

[ / ]

2011/11/30 9広島大学新技術説明会2011 in 広島

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数値例1の性能評価数値例 の性能評価(2.提案法の数値例)

STEP3)数値最適化

0.2197( ) 0 6395 0 6437 sK s = + +

時間応答による評価

( ) 0.6395 0.64371 0.1

K ss s

= + ++

( )w t

( )r t 図5 目標値応答と外乱応答( )

( )w t0 5 0 ( )w t

図4 評価のためのステップ目標値と外乱2011/11/30 10広島大学新技術説明会2011 in 広島

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数値例2(極端な場合)(2.提案法の数値例)

測定雑音 有Step1)入出力データの測定

測定雑音 有

( )u t( )y t( )y

0.3( ) 1.7K ss

= +

閉ル プ系が不安定!! 図6 設計に用いた入出力応答閉ループ系が不安定!!

Step2) 設計パラメータの指定

0 33

図6 設計に用いた入出力応答

•安定度•サンプル周波数

100点(0.01~100[rad/s])

0.33a = −

2011/11/30 11広島大学新技術説明会2011 in 広島

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数値例2の性能評価数値例 の性能評価(2.提案法の数値例)

STEP3)数値最適化

0.1635( ) 0 3923 0 0059 sK s = + +( ) 0.3923 0.00591 0.1

K ss s

= + ++

時間応答による評価

( )w t

図7 目標値応答と外乱応答

( )r t

0

2011/11/30 12広島大学新技術説明会2011 in 広島

( )w t0

5 0

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提案法の概説提案法 概説(3.提案法の概説と関連研究)

設計問題• 設計問題

閉ループ系の安定余裕を確保しながら

プ 応答を抑制す ゲステップ外乱応答を抑制するPIDゲイン

ステップ外乱応答の評価式安定度制約式(安定な制御対象の場合)

0

1( )I

y dK

τ τ∞

=∫{ }Re ( ) ( ) 0.33P j K j aω ω > = −

Im0 .3 3a = −

「積分ゲインの最大化により外乱抑制」

R e

( ) ( )P j K jω ω

過渡応答を用いた条件式

2011/11/30 13広島大学新技術説明会2011 in 広島

図8 ベクトル軌跡過渡応答を用いた条件式

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アルゴリズム(3.提案法の概説と関連研究)

STEP3のアルゴリズム

STEP3‐1) 測定信号から,「フィルタバンク」を用いて,

多数の疑似周波数応答を生成多数 疑 周波数 答

STEP3‐2) 安定度制約式の係数を計算

STEP3 3) 数値最適化問題を解くSTEP3‐3) 数値最適化問題を解く

「安定度制約下で積分ゲインの最大化」

(線形計画法、LMIの数値最適化)

2011/11/30 14広島大学新技術説明会2011 in 広島

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データ駆動設計法の比較駆動設 法 較(3.提案法の概説と関連研究)

• モデルマッチングによる設計(VRFTなど)

• 提案法:ループ整形による設計提案法:ル プ整形による設計

表1 直接法の比較

提案法 モデルマッチング法

望ましい閉ループ特性を指定できる望ましい閉ル プ特性を指定できる

閉ループ系の安定性が保たれる

注意すべき制御対象 むだ時間系非最小位相系

多種のプラントへの適用が容易

2011/11/30 15広島大学新技術説明会2011 in 広島

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補足:開発した設計法補足 開発 設 法(3.提案法の概説と関連研究)

過渡応答データ パラメータ空間設計

(1) ( )NIK

安定度領域

数値最適化による設計(1), , ( )(1), , ( )

y y Nu u N

L

L

周波数応答データ パラメータ空間設計PK

パラメータ平面

数値最適化による設計1( ), , ( )MP Pω ωL

1 1( ) ( ) ( )m mK s H s H sθ θ= + +L

制御器のクラス: PID制御器を含む

1 1 m m

2011/11/30 16広島大学新技術説明会2011 in 広島

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想定される用途想定される用途(4.企業との関連)

提案法の特徴提案法の特徴• 幅広い対象に適用可能

(むだ時間系、非最小位相系もOK)(むだ時間系、非最小位相系もO )

• 簡便な方法過渡応答を1度計測するだけ

設計パラメ タ(安定度)の選定が容易設計パラメータ(安定度)の選定が容易

• 外乱抑制を最適化

用途

• PID制御器の効率的調整

• ロバストPID設計

• オートチューニング制御系への適用

• ゲインスケジューリング制御系の構築2011/11/30 17広島大学新技術説明会2011 in 広島

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想定される業界定 界(4.企業との関連)

• 化学プロセス制御

• 電気機械システムの制御

自動車,鉄鋼,各種製造装置,動 ,鉄鋼,各種製 装置,

発電プラントなど

2011/11/30 18広島大学新技術説明会2011 in 広島

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企業への期待(4.企業との関連)

需要• 制御器のゲイン調整を簡便に行いたい制御器のゲイン調整を簡便に行いたい• PID制御調整の技術継承が問題となっている• 制御対象の数式モデルが得られない

提案法の利点有効性の検証に時間やコストがかからない「容易に試せ、導入のためのハードルが低い」

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お問い合わせ先お問い合わせ先

広島大学産学・地域連携センター国際・産学連携部門TEL 082‐421‐3631FAX 082‐421‐3639E‐mail: techrd@hiroshima‐u.ac.jp

広島大学大学院工学研究院機械システム・応用力学部門 佐伯正美

E mail: techrd@hiroshima u.ac.jp

機械システム・応用力学部門 佐伯正美TEL 082‐424‐7589E‐mail: saeki@hiroshima‐u.ac.jp

2011/11/30 20広島大学新技術説明会2011 in 広島

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参考資料参考資料

過渡応答による設計過渡応答による設計

1. 佐伯,過渡応答データに基づくPID制御器の直接設計,電気学会論文誌C Vol 131 No 4 2011 pp 722‐725論文誌C,Vol. 131, No. 4, 2011,pp. 722 725

2. 佐伯,小川,データ駆動ループ整形法によるゲインスケジュールドPID制御器の設計,電気学会論文誌C,Vol. 131, No. 4, 2011, pp. 

8 63758‐763

周波数応答による設計

1 佐伯 2ディスク型混合感度問題の最適PID制御器の設計法 シス1. 佐伯,2ディスク型混合感度問題の最適PID制御器の設計法,システム制御情報学会論文誌,Vol.7, No.12, 1994, pp. 520‐527

2. M. Saeki, et.al., Low‐order H∞controller design on the frequency domain by partial optimization, Int. J. Robust and Nonlinear Control, Vol. 20, 2010, pp. 323‐333

2011/11/30 広島大学新技術説明会2011 in 広島 21