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── 実 施 例 ── ヒートポンプとその応用 2012.9.No.84 ─ 18 ─ ■キーワード/自然エネルギー利用・日射遮蔽・タスクアンビエント空調 鹿島建設㈱ 建築設計本部 平 岡 雅 哉 ・ 小 池 正 俊 ・ 神 谷 麻理子 オムロンヘルスケア研究開発および 本社新拠点 棟には基礎免震構造を採用し,研究施設としての安全性・ 信頼性を高めている。また実験室西側に設けたメカニカ ルバルコニーにより機能性・更新性を確保している。 高層棟は,アトリウムを挟んで事務室と実験室が配さ れており,5層吹き抜けのアトリウムが執務エリアの一 体感を高めている。アトリウムには,空中に浮かぶ会議 室やブリッジ,フロアをつなぐ階段が設けられ,人が集 まる場となるよう計画されている(写真-2)。 建物の外装は,方位・機能に合わせて異なる表情を見 せる。事務室が面する東側は,水平スラブと太陽追尾型 垂直ルーバで構成され,季節や時間の変化により多様な 表情が創り出される(写真-3)。 敷地は西ノ岡丘陵と桂川に囲まれた自然豊かな場所で あり,ビオトープ(写真-4)の設置や地域植生に配慮し た積極的な屋上緑化,外構緑化をはかることで,周辺地 域における生物多様性ネットワークの拠点となるように 計画している(図-1)。 1.はじめに 本建物は,血圧計や体温計などの健康医療機器やサー ビスを開発・販売するオムロンヘルスケアの新拠点であ り,本社機能と研究施設を併設した建物である。敷地は, 京都のJR桂川駅近くの麒麟麦酒京都工場跡地であり, 新しい都市拠点の開発・整備が行われているエリアであ る。本建物は当跡地に建つ最初の建物である。 この建物では,働く人の知的生産性を高める快適な職 場環境を実現するとともに,積極的な自然エネルギー利 用など,省エネルギーを実現する多様な環境技術を採用 して,高水準の環境配慮型オフィスとなるよう計画した。 現在,完成から半年が経過し,完成後の検証を行ってい る段階である。そのため,本報では環境配慮技術や設備 計画の概要について報告する。 建物は,事務・研究用途の入った高層棟と,ショールー ム・社員食堂などが配された低層棟で構成される。高層 写真-1 南西メカニカルバルコニー側より見る

オムロンヘルスケア研究開発および 本社新拠点enec-n.energia.co.jp/.../heatpump/hp84/hp84_05.pdfヒートポンプとその応用 2012.9.No.84 21 実 施 例

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── 実 施 例 ──

ヒートポンプとその応用 2012.9.No.84─ 18 ─

■キーワード/自然エネルギー利用・日射遮蔽・タスクアンビエント空調

鹿島建設㈱ 建築設計本部 平 岡 雅 哉 ・ 小 池 正 俊 ・ 神 谷 麻理子

オムロンヘルスケア研究開発および本社新拠点

棟には基礎免震構造を採用し,研究施設としての安全性・信頼性を高めている。また実験室西側に設けたメカニカルバルコニーにより機能性・更新性を確保している。 高層棟は,アトリウムを挟んで事務室と実験室が配されており,5層吹き抜けのアトリウムが執務エリアの一体感を高めている。アトリウムには,空中に浮かぶ会議室やブリッジ,フロアをつなぐ階段が設けられ,人が集まる場となるよう計画されている(写真-2)。 建物の外装は,方位・機能に合わせて異なる表情を見せる。事務室が面する東側は,水平スラブと太陽追尾型垂直ルーバで構成され,季節や時間の変化により多様な表情が創り出される(写真-3)。 敷地は西ノ岡丘陵と桂川に囲まれた自然豊かな場所であり,ビオトープ(写真-4)の設置や地域植生に配慮した積極的な屋上緑化,外構緑化をはかることで,周辺地域における生物多様性ネットワークの拠点となるように計画している(図-1)。

1.はじめに 本建物は,血圧計や体温計などの健康医療機器やサービスを開発・販売するオムロンヘルスケアの新拠点であり,本社機能と研究施設を併設した建物である。敷地は,京都のJR桂川駅近くの麒麟麦酒京都工場跡地であり,新しい都市拠点の開発・整備が行われているエリアである。本建物は当跡地に建つ最初の建物である。 この建物では,働く人の知的生産性を高める快適な職場環境を実現するとともに,積極的な自然エネルギー利用など,省エネルギーを実現する多様な環境技術を採用して,高水準の環境配慮型オフィスとなるよう計画した。現在,完成から半年が経過し,完成後の検証を行っている段階である。そのため,本報では環境配慮技術や設備計画の概要について報告する。 建物は,事務・研究用途の入った高層棟と,ショールーム・社員食堂などが配された低層棟で構成される。高層

写真-1 南西メカニカルバルコニー側より見る

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ヒートポンプとその応用 2012.9.No.84─ 19 ─

── 実 施 例 ──

2.建物概要建物名称 オムロンヘルスケア㈱研究開発 および本社新拠点所 在 地 京都府向日市寺戸町建 築 主 オムロンヘルスケア㈱監  修 オムロンビジネスアソシエイツ㈱敷地面積  9,917.36㎡建築面積  4,772.77㎡延床面積 16,318.49㎡構  造 (高層棟)SRC造,RC造,S造,免震構造     (低層棟)RC造,一部S造階  数 (高層棟)地上7階,(低層棟)地上2階建物用途 事務所・研究所工  期 2010年8月〜2011年10月設  計 KAJIMADESIGN監  理 鹿島建設㈱ 関西支店施  工 (建築・設備)鹿島建設㈱ 関西支店     (環 境 関 連)オムロン㈱空調機器 空冷ヒートポンプモジュールチラー      (冷却能力 475kW,5モジュール)     AHU(事務室アンビエント空調)     空冷ヒートポンプパッケージ

写真-2 アトリウム 写真-3 建物東側外観

写真-4 ビオトープ

向日市

行者池

水田地帯

JR桂川駅

新川京都市

はり湖池寺戸川

西ノ岡丘陵 計画地 桂川

図-1 生物多様性ネットワーク

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ヒートポンプとその応用 2012.9.No.84─ 20 ─

── 実 施 例 ──

ワーコンディショナの自立運転機能を活用し,自然エネルギー利用電力をリチウムイオンバッテリーに蓄え,食堂ホールの照明・コンセント(一部)へ供給することで,災害時などの避難場所での電力確保を行う(図-3)。

3.環境配慮計画 本建物は健康な居住環境の実現と同時に,徹底した省CO2を実現するインフラとしての設備をそなえることをコンセプトとして計画している。ワークスタイルや負荷要因への対策からオンサイトでの自然エネルギー利用まで,省エネルギー省CO2に寄与する多様な技術を採用している(図-2)。以下に代表的な採用技術を紹介する。3-1 電動垂直ルーバによる日射コントロール 高層棟東面のファサードには,可動式外部ルーバを採用している(写真-5)。ルーバ制御として自動/手動の切り替えが可能であり,自動制御では,午前中は直達日射を遮へいするように太陽を追尾して制御され,直達日射が入らない時間帯には,眺望に配慮して全開となる。また,冬季は前述の制御に加えて,早朝は全開で日射を取り入れ,夜間は全閉となり断熱性を高める制御を行っている。3-2 構内スマートグリッド 太陽光パネル(約30kW)とパワーコンディショナ(5.5kW×6台)により,ショールーム,屋外照明へ優先的に自然エネルギー利用電力を供給する(写真-6)。パワーコンディショナは系統連系しており,ショールームなどへの供給に余裕がある場合は,他の負荷設備へ供給する。さらに将来設置予定の新開発コントローラ,リチウムイオンバッテリーを用いて,発電量・充電量・使用量をリアルタイムにモニタリングしながら充放電制御を行う構内スマートグリッドを構築した。停電時には,パ

高効率空調熱源ヒートポンプ

「窓明けナビ」による ユーザー参加型自然換気

屋上緑化

太陽光発電「構内ミニスマートグリッド」

タスクアンビエント空調「ソーシャルセンサ」による空調・照明制御潜熱顕熱分離による「エコヘルシー空調」

気流選択型パーソナル空調

全電化厨房(業務用エコキュート)

「外部可動ルーバ」などによる高性能ファサードの構築

屋上 緑化

「ドライフォグ」による熱環境緩和

「リアルタイムBEMS」による省エネルギーの運用と見える化

中庭ホール・食堂

腰壁・庇による日射遮蔽

LED照明

実験室 事務室アトリウム

浸透性舗装・緑化

高効率空調熱源ヒートポンプ

「窓明けナビ」による ユーザー参加型自然換気

屋上緑化

太陽光発電「構内ミニスマートグリッド」

タスクアンビエント空調「ソーシャルセンサ」による空調・照明制御潜熱顕熱分離による「エコヘルシー空調」

気流選択型パーソナル空調

全電化厨房(業務用エコキュート)

「外部可動ルーバ」などによる高性能ファサードの構築

屋上 緑化

「ドライフォグ」による熱環境緩和

「リアルタイムBEMS」による省エネルギーの運用と見える化

中庭ホール・食堂

腰壁・庇による日射遮蔽

LED照明

実験室 事務室アトリウム

浸透性舗装・緑化

図-2 主な環境配慮技術

写真-5 可動ルーバ

写真-6 太陽光パネル

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ヒートポンプとその応用 2012.9.No.84─ 21 ─

── 実 施 例 ──

3-5 ユーザ参加型自然換気 アトリウムに面した事務室に対して,アトリウムを利用した自然換気システムを採用した(図-4)。一般的に自然換気の計画では,上層階が中性帯より上となることが多く,自然換気を採用することが難しいが,本建物では最上部開口の大きさ・形状と,各階の開口面積のバランスを工夫することで,風向きに影響を受けず,すべての階で自然換気が可能な計画とした。各階の開口は,ユーザが手動で開閉する。各階設置のモニタに表示される「自然換気ナビ」画面に,「現在自然換気が有効な外界条件か」「自然換気による省エネ効果はどれくらいか」を表示し,ユーザの省エネ意識に訴えることで,自発的な自然換気を促す計画としている(図-5)。

3-3 ソーシャルセンサ(サーマル人感センサ) 一部事務室に,サーモパイル赤外線センサを用いた新開発サーマル人感センサを採用した。従来の人感センサは空間の温度移動で人を判断するのに対し,サーマル人感センサは人や床面の温度から人の在/不在を正確に検知できる。このセンサによる検知データを省エネコントローラで収集し,混雑度を判断し,後述のタスク空調機の制御変更,照明の点滅を行っている。3-4 エネルギー見える化システム 本建屋では約500点の電力量計測を行い,エリアごと,用途ごと,部署ごとに電力使用量を集計している。集計結果はグラフ表示され,省エネ活動成果を容易に確認できる。これらのデータは,事務室内に設置されたモニタにリアルタイムで開示され,省エネルギーへの意識を高める手助けを行っている(写真-7)。このモニタは,社内連絡や後述の自然換気ナビにも利用される。

PVパネル 30kW

パワーコンディショナ

リチウムイオンバッテリー(将来設置)

キュービクル

商用電力

新開発コントローラ(将来設置) 通常時供給エリア(ショールーム)

停電時供給エリア(食堂ホール)

コントローラ

常時電力供給ライン

停電時電力供給ライン

図-3 構内スマートグリッド系統図

T H

外界気象条件計測

トップライトの開閉

手動での窓開閉

開閉状態の監視

事務所実験室

BEMS

写真-7 エネルギー見える化モニタ 図-4 自然換気システム概念図

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ヒートポンプとその応用 2012.9.No.84─ 22 ─

── 実 施 例 ──

3-6 ドライフォグによる気象緩和 微細な水を噴霧することにより,蒸散効果で周辺温度を下げるドライフォグ設備を,2階ルーフガーデンと屋上の設備置場に設置している。2階ルーフガーデンでは,ドライフォグの噴霧による屋外環境の緩和を意図して設置している(写真-8)。屋上の設備置き場には,空冷ヒートポンプチラーと空冷ヒートポンプパッケージの屋外機が設置されており,夏期の外気温度が高い時間帯に,機器近傍で噴霧することで,機器への吸込空気温度を低下させて運転効率を向上させるよう計画している(写真-9)。噴霧条件は外気温度や降雨状態によって設定することが可能であり,スケジュールで噴霧することもできる。3-7 建物の環境性能評価 建物の環境性能評価としてCASBEE新築(2010年度版)を用いた評価を行い,第三者認証でSランクを取得している(図-6)。 事務所ビル,研究施設としての機能性,快適性を向上させる計画に加え,前述のとおり自然エネルギーの積極的な利用や,高効率な設備システムの採用,自然植生に配慮した緑化やビオトープ設置などの環境配慮技術を積極的に採用することで,BEE値4.2という高い評価を得ることができた。

4.空調設備計画 在席状況が変動する事務室では,外気処理主体のアンビエント空調(AHU)と,在席状況に合わせて制御されるタスク空調(空冷HPPAC)による,タスクアンビエント空調方式を採用した(図-7)。アンビエント空調機の熱源には,空冷ヒートポンプモジュールチラーを採用した。事務室には人感センサ(一部サーマル人感センサ)が設置されており,センサによって検知された在席状況に合わせて照明とタスク空調機が制御される。在・不在を検知して,在席エリアを快適にコントロールすることで省エネルギーをはかる。 事務室の外気処理はアンビエント空調機で行っている。冬期は,空調機に2段設置した加湿器を室内湿度に

図-5 「自然換気ナビ」表示画面例

8019

Q SQ= 4.2

30%:☆☆☆☆☆ 60%:☆☆☆☆ 80%:☆☆☆ 100%:☆☆ 100%超:☆

標準計算

SLR = 4.2

4.2BEE  建築物の環境品質Q 建築物の環境負荷L

このグラフは, LR3中の「地球温暖化への配慮」の内容を,一般的な建物(参照値)と比べたライフサイクルCO2排出量の目安で示したもの

建築物の環境効率

3.94.3

3.2

1

2

3

4

5

3.84.4 4.3

1

2

3

4

5

3.5

5.0 4.8 5.0

1

2

3

4

5

3.53.8 4.0

4.4

1

2

3

4

55.0 5.0

4.5

1

2

3

4

5

3.7

3.2

4.4

1

2

3

4

5

4.2

190

50

100

0

 Q

A B+

B-

C

BEE=1.0

音環境 機能性

S: ★★★★★ A: ★★★★ B+: ★★★ B-: ★★ C: ★

温熱環境 光・視環境

①参照値

( kg-CO2/年・m2 )

②建築物の取り組み

③上記+②以外の オンサイト手法

0 40 80 120

建設 修繕・更新・解体 運用 オンサイト オフサイト

④上記+ オフサイト手法

100%

75%

75%

75%

4.4

3.9

4.3

3.8

4.8

1

2

3

4

5Q2 サービス性能

Q3 室外環境敷 )( 地内

LR3 敷地外環境

LR2 資源・マテリアル

LR1 エネルギー

Q1 室内環境

== ==

BEE=1.5BEE=3.0

80 S

(BEE:Built Environment Efficiency)

ライフサイクルCO2(温暖化影響チャート)

大項目の評価(レーダーチャート) LR 建築物の環境負荷低減性 建築物の環境負荷を低減させる性能評価)

建築物の環境品質(建築物の居住環境のアメニティを向上させる性能評価中項目の評価(バーチャート)

25×(SQ-1)25×(5-SLR)

3.8

建築物の環境品質

50 100

BEE=0.5

建築物の環境負荷 L

Q1室内環境SQ1=3.9

Q2サービス性能SQ2 = 3.8

Q3室外環境(敷地内)SQ3 = 4.8

LR1エネルギーSLR1 = 4.4

LR2資源・マテリアルSLR2 = 4.3

LR3敷地外環境SLR3 = 3.8

空気質環境

対応性 ・更新性

耐用性 ・信頼性

生物環境の保全と創出

まちなみ・景観

地域性・アメニティ

建築物の熱負荷

自然エネルギー

設備システム効率化

効率的運用

水資源保護

汚染物質回避

地球温暖化への配慮

地域環境への配慮

周辺環境への配慮

非再生材料の使用削減

写真-8 2階ルーフガーデンでの噴霧状況

写真-9 屋上設備置き場での設置状況

図-6 CASBEE第三者認証による評価

噴霧ノズル

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ヒートポンプとその応用 2012.9.No.84─ 23 ─

── 実 施 例 ──

6.おわりに 本建物は2011年10月に完成し,現在,実運用での性能検証を行っている。今後も引き続き運用改善などのフォローを行い,省エネ運用を実現していく予定である。 最後になりましたが,当建物の設計・施工にあたり,多大なるご指導,ご協力をいただいた建築主,監修様をはじめとする関係者の皆さまに,紙面をお借りして心より御礼を申しあげます。なお,本プロジェクトで採用された構内スマートグリッド,サーマル人感センサ,エネルギー見える化システムは,オムロン㈱環境事業推進本部様との共同研究によるものです。

合わせて段制御し,十分な加湿能力を確保した空調計画としている。また中間期には,窓開けによる自然換気と合わせて,アンビエント空調機での外気取入量を増加させた外気冷房を行うことで,自然エネルギーを積極的に利用できる計画としている。東側ペリメータへの配慮として,可動ルーバと庇による日射遮へいと,フロアヒータによる暖房対策を行っている。あわせて暖房に配慮して,ペリメータゾーンの空調吸込は足元から行っている。 事務室に隣接して設けられた集中思考室では,放射効果とパーソナル気流を組み合わせた空調方式を採用した(図-8)。この空間は,集中思考のための小さな部屋であり,窓面積が占める割合が大きいため,設計段階から窓面からのほてり感,冷放射が想定された。そのため,室内の放射環境を改善する目的で,天井材に微細孔のあるメタル天井を採用し,天井チャンバ方式での空調システムを採用した。空冷ヒートポンプパッケージ機器の吹出空気を天井チャンバ方式で室内へ供給することで天井表面温度を下げ,放射効果のある空調システムとしている。天井チャンバ内に供給された吹出空気は,窓際から室内へ供給される。加えて,部屋の利用者が好みで開閉可能なパーソナル制気口を天井面に設置し,気流感を得ることで冷房時の温熱感が改善されるよう計画している。暖房計画としては,窓をペアガラスとすることで断熱性を向上させ,さらに窓際に自然対流型電気ヒータを設置して温熱を供給することで,冷放射とコールドドラフトの対策としている。

5.衛生設備計画 本建物には,従業員のための社員食堂が設けられている。厨房を電化厨房として計画することで厨房の空調負荷を低減し,あわせて,低速で外気を供給する高効率換気方式を採用することで厨房での省エネルギーをはかっている(写真-10)。 また,シャワールーム用,厨房用の給湯設備には,自然冷媒CO2ヒートポンプ給湯設備を採用し,給湯における省エネルギーに配慮している。

外気

タスク空調機 タスク空調機停止

在席 不在

アンビエント空調機

ON-OFF*風向は手動

ペリメータヒータ(冬)

ペアガラス

ペアガラス+遮熱フィルム+ブラインド

アンビエント空調機より

アンビエント空調機へ

タスクPAC

アンビエント空調機より

アンビエント空調機へ

タスクPAC

【暖房時】

【冷房時】

メタル天井で放射環境改善パーソナル吹出口

図-7 タスクアンビエント空調概念図

図-8 集中思考室空調システム

写真-10 多孔板からの緩やかな給気による換気