13
「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」 『Minds 診療ガイドライン作成マニュアル』 - 1 - 特別寄稿 4 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 小嶋 雅代 1 、中山 健夫 2 1 名古屋市立大学大学院 医学研究科 公衆衛生学分野 2 京都大学大学院 医学研究科 健康情報学分野、 2015 12 15 日 掲載 本稿は Minds ガイドラインセンターが執筆を依頼し、著者が執筆したものであり、著作権は 著者に帰属します。Minds ガイドラインセンターの見解を示すものではありません。

推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 1 -

特別寄稿 4

推奨作成における

既存のシステマティックレビューの活用

小嶋 雅代 1、中山 健夫 2

1 名古屋市立大学大学院 医学研究科 公衆衛生学分野

2 京都大学大学院 医学研究科 健康情報学分野、

2015 年 12 月 15 日 掲載

本稿は Minds ガイドラインセンターが執筆を依頼し、著者が執筆したものであり、著作権は

著者に帰属します。Minds ガイドラインセンターの見解を示すものではありません。

Page 2: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 2 -

1 診療ガイドラインの作成における既存のシステマティックレビューの活用

新たな診療ガイドラインの推奨を作成するに当たり、その根拠となるエビデンスのシス

テマティックレビュー(systematic reviews: SR)が必要であることは世界的な共通の認識

となったと言える。

今日の診療ガイドライン作成において必要なプロセスは、まずガイドラインに含めるべ

き臨床課題を決定し、課題に沿った臨床疑問(Clinical Question:CQ)を立てるところま

では従来通りであるが、次に行うべきことは、CQ に合致した既存の SR の有無を確認し、

新たな SR を行うべきかどうかの決定である{Oxman, 2006}。既存の SR が存在しない場合

には、CQ に対して新たな SR を行う。また、利用可能な既存の SR が確認できた場合にも、

既存の SR の検索対象とならなかった最新のエビデンスについて、およびわが国の医療の特

殊性を反映した和文論文について、追加検索が必要となる。

本稿では、診療ガイドラインの作成に既存の SR を活用する利点と注意点について解説す

る。

Page 3: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 3 -

2 日々蓄積されるエビデンス、既存のシステマティックレビュー数も急増

既存の SR を活用する第一の利点は、新たな診療ガイドラインの推奨作成のために行うエ

ビデンスレビューの作業負荷を大幅に軽減できることである。PubMed 上に収録される論

文数は増加の一途を辿っている。例えば関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)を例に

取ると、”rheumatoid arthritis”をキーワードとして検索される論文数は、2000 年は 2500

編弱であったのが 2010 年に 4 千編近く、2014 年は 5 千編近くまで急増している。この中

からさらにキーワードを追加し、各 CQ に合致する論文を検索・選定していくわけである

が、よほど特殊なキーワードを加えない限り、吟味すべき論文数は膨大であり、限られた時

間で一つ一つ正確に評価していくことは、もはや非現実的とも言える。一方、利用可能な既

存の SR の数も年を追うごとに激増している。PubMed 上で”systematic review”を[title]

に含む論文を検索すると、1980 年代までは散見されるのみであるが、1990 年代後半から急

増しはじめ、2000 年 300 編弱、2005 年 800 編弱であったのが、2010 年には 3 千編近く、

2015 年には 1 万編を超えている(図 1)。臨床家の関心の高い CQ は、吟味すべき論文も数

多く、実際に、RA 治療を変えた革命的な薬剤である生物学的製剤のひとつ、トシリズマブ

の RA 治療における有効性と安全性について、2010 年に発表されたコクランレビュー

{Singh, 2010}を調べてみると、最初の検索で 409 編が候補となり、タイトルと抄録を吟味

した結果、22 編が全文レビューの対象に絞られ、最終的には 8 編の RCT が SR の対象とな

っている。

日々新しい論文が発表される中、診療ガイドライン作成者にとっては最新のエビデンス

の吟味だけでも膨大な作業が必要であり、既存の SR で検証済みの論文の再吟味から始める

意義は問い直す必要がある。

図 1 PubMed 上で検索される“Systematic Review”を[title]に含む論文数

Page 4: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 4 -

3 質の高い既存のシステマティックレビューは「作成過程の厳密さ」を保証し

てくれる

既存の SR を活用する利点は、診療ガイドライン作成者の作業負荷の軽減だけではない。

最新の診療ガイドライン作成にはすべての過程において「厳密さ」が求められている。質の

高い既存の SR を活用できれば、「エビデンスの吟味」の過程における厳密さがそのまま保

証されることになる。

国際的に Evidence-based Medicine が普及・定着するのに伴い、診療ガイドラインの作

成にも質の評価が求められることが一般化しつつある。国際的な診療ガイドラインの評価

ツールである AGREEⅡ(2009 年、初版は 2003 年){Brouwers, 2010}では、全 25 項目中、

「作成の厳密さ」に 8 項目が当てられており、エビデンスが系統的な方法で検索されてい

ること、エビデンスの選択方法が明確に記述されていること、エビデンス総体(body of

evidence)の強さと限界が明確に記述されていることを求めている。米国医学研究所(U.S.

Institute of Medicine of the National Academy: IOM)は、”Clinical Practice Guidelines

We can trust”と題した報告書を 2011 年に発表し{Robin Graham, 2011}、「信頼できる診

療ガイドライン」に求められる基準として、「SR に基づくこと」、さらに「明示的で透明性

のあるプロセスに基づいて作成されること」を挙げている。

GRADE Working Group は診療ガイドライン作成と共に SR のプロセスについても提案

を行っている{Guyatt, 2008, Jeschke R, 2008,相原守夫, 2010}。GRADE 法で作成された

SR であれば、前述の IOM 基準と AGREEⅡ評価項目を満たすことが期待できるが、

「GRADE 法による」と書かれた SR のすべてが、必ずしもその基準を厳密に満たしている

とは限らず、後述の通り、個々の SR の質の評価は不可欠である。

Page 5: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 5 -

4 コクランレビューの活用

コクラン共同計画(Cochrane Collaboration)とは、1992 年に英国の国民保健サービス

の一環として始まり、現在国際的に展開されている医療技術評価のプロジェクトである。そ

の主な活動は、臨床家、政策決定者、そして患者自身が合理的な意思決定を下すのに有用な

情報を提供するために、様々な疾患の治療に関する SR を作成し、適宜、更新し、コクラン

レビューとして提供することである{Cochran e Review, 2013}。玉石混交の情報が氾濫する

中で、個人が全ての臨床研究を取捨選択し、結果を評価し、意思決定に用いるのは不可能で

あるとのポリシーの下、コクラン共同計画では、レビューの過程を厳密に定め{The

Cochrane Collaboration, 2013}、エビデンスの質の評価を徹底して行っており、利用者が信

頼できる情報提供を行っている。

2009 年以後のコクランレビューは GRADE の提案を採用しており{Higgins JPT, 2008}、

統一された形式で報告書が作成されている。コクランレビューの報告書には、レビューに採

用されたすべての論文の個々のサマリーも収載されており、CQ に完全に合致するレビュー

が無かったとしても、部分的に参考にできる情報を見つけられる場合もある。

以上から、新たな診療ガイドラインを作成する際に、対象疾患に関連のある最新のコクラ

ンレビューを把握することは以前にも増して不可欠と言えよう。

Page 6: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 6 -

5 既存の SRの探し方、選び方

さて、では具体的に既存の SR をどのように探し、選び、新しい診療ガイドラインの作成

に活用すれば良いのか。タイトルに“systematic review”の語を含んでいれば、あるいは

PubMed において“Systematic Reviews”のサブセットの文献を選べば、「既存の SR」と

してそのままで活用できるかといえばそうではない。通常の介入研究、観察研究と同じよう

に、個々の SR にも SR としての質の吟味が必要である。複数の論文を個人の関心・興味に

従って選び解説したものは、著者の力量によっては優れたレビューには成り得ても、診療ガ

イドラインの基となる SR としては必ずしも適当ではない。明確に作られた臨床上の疑問・

CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

ない統合されたものが SR なのである。

SR の質の評価ツールとして代表的なものに AMSTAR(A Measurement Tool to Assess

Systematic Review)がある{Shea, 2009}。AMSTAR の評価内容は、①CQ と採用基準が予

め明らかにされていたか、②文献の選択、データの抽出が二人以上で行われたか、③二つ以

上のデータソースを使って文献検索が行われたか、④publication status が除外基準に含め

られたか、⑤採用論文と除外論文の両方のリストが報告されているか、⑥採用された論文の

詳細(対象者の性、年齢、人種、病期、罹病期間、合併症など)が報告されているか、⑦採

用された論文のエビデンスの質の評価が報告されているか、⑧採用された論文のエビデン

スの質の評価が SR の結論に適切に反映されているか、⑨個々の研究結果の統合方法が適切

か、⑩出版バイアスの評価がされているか、⑪利益相反について述べられているか、の 11

項目である。総スコア 11 点中 8 点以上あれば High quality、3 点以下では Low quality と

されている。AMSTARスコアが著しく低い SR(3点以下)は、診療ガイドラインの礎として、

そのまま利用することには疑問が残る。

診療ガイドライン作成のための SR を検索する際に、基となるデータベースとして何を利

用したら良いか。PubMedをはじめとした通常の文献検索データベースを利用することも、

もちろん可能である。しかしながら、既存の SR の活用の目的が、作業の効率化と質の保証

であること、また追加検索を前提としていることを考慮すれば、前述のコクランレビューの

みを収載した The Cochran Database of Systematic Reviews(CDSR)、もしくは少し対象

を 広 げ 、 The Database of Abstracts of Reviews of Effects ( DARE,

http://www.crd.york.ac.uk/CRDweb/)を含めた二つのデータベースを優先することが勧め

られる{Smith, 2011 32 /id}。DARE とは、英国・ヨーク大学の the Center for Reviews and

Dissemination(CRD)のスタッフによって作成・運営されているデータベースである。世

界中の様々な分野の医学文献を対象に、診断、予防、リハビリテーション、検査、治療など

のトピックに従い、DARE の基準を満たす質の高い SR のみを選定し、構造化抄録を作成

し、収載している。DARE にはコクランレビュー以外の SR も数多く含まれており、コクラ

ンレビューとそれ以外とを区別して検索することもできる。 CDSR、DARE、この二つの

データベースに収載された SR であれば、基本的に AMSTAR の評価基準を満たしているこ

Page 7: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 7 -

とが期待できる。いずれも The Cochran e Library(http://www.thecochranelibrary.com/)、

もしくは CRD(http://www.crd.york.ac.uk/CRDWeb/)のホームページ内で検索可能であ

る。

既存の SR の検索対象期間であるが、治療方法が近年になり激変した場合など、トピック

によっては、検索期間を比較的短期に限定しても良いだろう。

Page 8: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 8 -

6 「既存のシステマティックレビュー」のシステマティックレビュー

診療ガイドラインで設定した CQ に合致する質の高い既存の SR が複数あった場合、どの

ようにそれらの情報を統合すれば良いのか。「SR を SR する」方法は、Smith らの報告が参

考になる{Smith, 2011}。また、複数のコクランレビューを”Overviews of review”として

統合する手順は、コクランハンドブックに詳しく紹介されている{Higgins JPT, 2008}。

なお、診療ガイドライン作成のために「既存の SR」を SR する場合、必ずしも個々のレ

ビューで取り上げられたすべてのアウトカムを評価する必要はなく、あくまで、診療ガイド

ライン作成上で重要とされたアウトカムについてのみ、取り上げれば良い{Smith, 2011}。

また、既存の SR の中には、複数の論文データのメタアナリシスを行い、統合されたアウト

カムの効果量を算出しているものがあるが、これらを単純に再統合することは慎重にすべ

きである。SR 間の CQ とアウトカムが完全に一致していれば、各メタアナリシスで統合さ

れた効果量の点推定値と標準誤差から、統合値を統合することは可能である。しかし、統合

しようとする SR 間に多少なりとも CQ やアウトカムの不一致があったり、重複する RCT

が含まれていたりする場合には、後述のように、各 SR に含まれる個々の RCT に立ち戻り、

診療ガイドラインの CQ により近い RCT を新たに選びなおし、メタアナリシスを行うのが

妥当であろう。

近年、ネットワークメタアナリシスという新しい統計手法が R や STATA などの統計パ

ッケージを用いて計算可能となり、論文数も増えている。ネットワークメタアナリシスとは、

A と B を比較した結果と、A と C を比較した結果を基に、B と C を間接的に比較する統計

手法である。統合前の個々の研究が十分に質の高いものであることが要求されることはも

ちろん、B と C を直接比較した場合に比べ、エビデンス総体の質は下げて評価する必要が

ある。今後は診療ガイドライン作成にも活用される場面が増えてくると予想されるが、その

際には慎重な結果の解釈が欠かせない{Puhan, 2014}。

Page 9: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 9 -

7 「既存のシステマティックレビュー」を基に新たなシステマティックレビューを

行う

新たに作成する診療ガイドラインの CQ に完全に答えてくれる SR を既存の文献の中か

ら見つけることは必ずしも容易ではなく、ほぼ一致するものが見つかったとしても、CQ の

PICO、即ち対象とする患者(P:Patient)、治療介入の方法(I:Intervention)や比較の仕方

(C:Compare)、アウトカム(O:Outcome)が若干ずれている場合が少なくない。例えば、

「関節リウマチ患者のエビデンスが必要であるのに変形性関節症患者が含まれている(P)」、

「経口剤に関する CQ なのに、注射薬も含めている。同じ薬剤だが投与方法が違うものが混

ざっている(I)」、「社会復帰について見たいのに、ADL しか評価していない(O)」などで

ある。

このような場合、SR 自体の質の評価が AMSTAR 基準{Shea, 2009}で満点であったとし

ても、診療ガイドラインで設定された CQ に対する適用可能性が不確実であれば、「非直接

的(indirect)なエビデンス」として、その診療ガイドラインにおいてはエビデンス総体の

質として、やや低く扱う必要がある。

しかしながら、その既存の SR が検討対象とした個々の RCT から、診療ガイドラインの

CQ に PICO が近い RCT を選びなおす、必要によっては既存の SR を参考に PICO、検索

式を見直し新たに SR を行うことは、その CQ に対するエビデンス総体の質を上げるため

に、試みる価値がある。実際には、既存の SR のみで十分なエビデンスが得られる診療ガイ

ドラインの CQ はごく一部に限られ、上記のように既存の SR を基に新たな SR を追加し、

両者を合わせて評価すべき場合の方が多いであろう。

どのような場合にも、既存の SR の検索対象とならなかった最新のエビデンスと、診療ガ

イドラインの CQ に答える上で必要な和文論文については追加検索を行うことを忘れては

ならない。

Page 10: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 10 -

8 安全性の評価に「既存のシステマティックレビュー」は活用できるか

既存の SR は RCT に限定されたものが圧倒的に多い。治療や予防的な介入の有効性に関

するエビデンスの質の高さという点では、十分に計画された RCT は観察研究に勝るとされ

ている。しかし、RCT では稀な事象や潜在的な事象を把握することができない。また通常

RCT は有害事象が起きやすい高齢者や合併症を持つ患者群を対象から除外しており、そこ

から得られる結果は実際の患者の姿とは異なっていることを留意する必要がある。近年の

診療ガイドラインでは、推奨決定に「益と害のバランス」が重視されており、益である治療

の有効性と共に、害である副作用・安全性の評価も重要である。治療の安全性と治療効果と

は独立して評価するべきであり、治療の有効性検証を主眼とした既存の SR を安全性の評価

に活用するには無理がある。

コクラン共同計画は、2007 年 6 月から The Cochrane Adverse Effects Methods Group

(AEMG)が登録参加しており、治療介入効果を評価する際の有害事象の取り扱い方法に関す

る情報を提供している{Loke, 2011}。同グループの基本的な考え方に基づけば、有害事象の

エビデンスについては Research Question を幅広く設定し、情報源も実験的研究、観察研

究や登録データなど、広く集めるべきであり、多くの場合、質的・記述的な方法でまとめる

のが最適である。また現在、市販後の pharmacovigilance system によるレジストリデータ

が、有害事象のエビデンス源として注目を集めている。

なお、有効性に関するエビデンスとして、RCT の実施が難しい領域で観察研究を SR で

どのように扱うかについての議論は、発展途上の段階と言える(Minds では観察研究の扱

い方について『Minds 診療ガイドライン作成マニュアル ver.1.1』の 88~93 頁、96~97 頁

で提案している)。

Page 11: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 11 -

9 まとめ

以上のように、今後の診療ガイドラインの作成は既存の SR の活用が基本となる。わが国

の臨床上重要でありながら SR が行われていない CQ については、新たな SR の作成が必要

となるが、その成果を、コクランレビューを含む学術誌に発表できれば、国際的に誰もが利

用可能な貴重なエビデンスを示すものとなり、また SR の著者としての学術的業績を残すこ

とにもなる。診療ガイドラインは領域にもよるが、一般的に 5 年を目安に改定することが

望ましいとされており、その基となる SR も更新を継続する必要である。今後、様々な領域

で、国内のみならず、世界の診療ガイドライン作成に役立つ、質の高い SR がわが国から数

多く発表されていくことを期待したい。

Page 12: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 12 -

参考文献

相原守夫、三原華子、村山隆之、相原智之、福田眞介、GRADE ワーキンググループ:

診療ガイドラインの GRADE システム:治療介入.凸版メディア.弘前,2010.

Brouwers MC, Kho ME, Browman GP, Burgers JS, Cluzeau F, Feder G, et al.

AGREE II: advancing guideline development, reporting and evaluation in health

care. CMAJ 2010; 182(18):E839-E842.

Cahill K, Stevens S, Perera R, Lancaster T. Pharmacological interventions for

smoking cessation: an overview and network meta-analysis. Cochrane Database

Syst Rev 2013; 5:CD009329.

Cates CJ, Wieland LS, Oleszczuk M, Kew KM. Safety of regular formoterol or

salmeterol in adults with asthma: an overview of Cochrane reviews. Cochrane

Database Syst Rev 2014; 2:CD010314.

Cochran Review:http://community.cochrane.org/cochrane-reviews.

Guyatt GH, Oxman AD, Vist GE, Kunz R, Falck-Ytter Y, Alonso-Coello P, et al.

GRADE: anemerging consensus on rating quality of evidence and strength of

recommendations. BMJ 2008; 336(7650):924-926.

Hidemichi Yuasa, Koji Kino, Eiro Kubota, Kenji Kakudo, Masashi Sugisaki. Primary

treatment of temporomandibular disorders: The Japanese society for the

temporomandibular joint evidence-based clinical practice guidelines, 2nd edition .

Japanese Dental Science Review 2013; 49(3):89-98.

Higgins JPT, Green S (eds): Cochran handbook for systematic reviews of

intervensions Version 5.0.1. The Cochran Collaboration; 2011 available from

http://handbook.cochrane.org.

一般社団法人日本リウマチ学会:関節リウマチ診療ガイドライン 2014. メディカルレ

ビュー社.大阪, 2014.

Jeschke R, Guyatt GH, Dellinger P, Schunemann H, Levy MM, Kunz R, et al. Use

ofGRADE grid to reach decisions on clinical practice guidelines when consensus is

elusive. BMJ 2008; 337:a744.

Loke YK, Price D, Herxheimer A; Cochrane Adverse Effects Methods Group.

Systematic reviews of adverse effects: framework for a structured approach. BMC

Med Res Methodol. 2007 Jul 5;7:32.

Oxman AD, Schunemann HJ, Fretheim A. Improving the use of research evidence

in guideline development: 8. Synthesis and presentation of evidence. Health Res

Policy Syst 2006; 4:20.

Puhan MA, Schunemann HJ, Murad MH, Li T, Brignardello-Petersen R, Singh JA,

et al. A GRADE Working Group approach for rating the quality of treatment effect

Page 13: 推奨作成における 既存のシステマティックレビューの活用 · CQ に対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を検索、同定、選択し、評価を行

「特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの活用」

『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』

- 13 -

estimates from network meta-analysis. BMJ 2014; 349:g5630.

Robin Graham, Michelle Mancher, Dianne Miller Wolman, Sheldon Greenfield, Earl

Steinberg . Clinical Practice:Guildelines We Can Trust. In. Washington: The

National Academies; 2011.

Shea BJ, Hamel C, Wells GA, Bouter LM, Kristjansson E, Grimshaw J, et al.

AMSTAR is a reliable and valid measurement tool to assess the methodological

quality of systematic reviews. J Clin Epidemiol 2009; 62(10):1013-1020.

Singh JA, Beg S, Lopez-Olivo MA. Tocilizumab for rheumatoid arthritis. Cochrane

Database Syst Rev 2010(7):CD008331.

Singh JA, Christensen R, Wells GA, Suarez-Almazor ME, Buchbinder R, Lopez-

Olivo MA, et al. Biologics for rheumatoid arthritis: an overview of Cochrane reviews.

Cochrane Database Syst Rev 2009(4):CD007848.

Smith V, Devane D, Begley CM, Clarke M. Methodology in conducting a systematic

review of systematic reviews of healthcare interventions. BMC Med Res Methodol

2011; 11(1):15.

The Cochrane Collaboration. The Cochrane Organisational Policy Manual, 20014

[updated [2014/12/22]. http://www.cochrane.org/organisational-policy-manual

引用記載例:

小嶋雅代,中山健夫.“特別寄稿 4 推奨作成における既存のシステマティックレビューの

活用”.Minds 診療ガイドライン作成マニュアル.小島原典子,中山健夫,森實敏夫,山口

直 人 , 吉 田 雅 博 編 . 公 益 財 団 法 人 日 本 医 療 機 能 評 価 機 構 . 2015 ,

http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/guideline/special_articles4.pdf,2015 年 12月 15 日参照.