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車載LANのEMC対策
TDK EMC Technology 実践編
TDK株式会社 マグネティクスビジネスグループ 友成 寿緒
103
昨今、自動車の高機能化に伴い電子制御装置(ECU)が急速に
増加しております。そのため機器間を接続する共通のインタフェー
スが 不可欠となり、それぞれ用途に合わせて最適なインタフェー
スによって機器間接続されております。代表的な車載LAN規格と
いえばCAN、LINが挙げられ、次世代のインタフェースとしてはバ
イワイヤを実現するFlexRayが挙げられます。これらのインタフェ
ースはデータレートは異なるものの、自動車内部をケーブルにて接
続される点では共通です。自動車内部には様々なノイズ源が存在す
るため、機器が外来ノイズの影響を受けないように、また、その機
器自体からノイズを出さないようEMCを考慮した回路設計を行う
必要があります。 ここでは、上述した代表的な車載LANである
CAN、FlexRay、LINにおけるEMC対策部品について説明いたし
ます。
1 はじめに
図1 車載LAN(CAN/LIN/MOST/FlexRay)の採用事例インナミラー(防眩)
プリテンショナ(シートベルト)
リモートキーエントリ
ミラー制御インパネ
エアコン制御
ワイパステアリング
エンジン制御
ライト制御
ミリ波レーダ(プリクラッシュセーフティシステム)
冷却水温度センサ
ギア制御
サスペンション(ダンパ制御) ブレーキ
(By wire)ABS
EPS アクセルエアバッグ
車両制御(ESP)
シート制御
ハイブリッド制御
ドアモジュール(ウィンドウSW)
サスペンション(ダンパ制御)
バッテリ
トランク
リアモニタバックシートモニタ
サンルーフフロントモニタ
エアバッグ
105
自動車の国際EMC規格としては、輻射ノイズ規格はCISPR25、
イミュニティ規格はISO11451/11452が挙げられます(図4)。
車載機器ではノイズによる誤動作がユーザーの命に関わる問題と
なる可能性があること、またAM、FM、TPM(Tire Pressure
Monitoring)センサなどの無線システムへの干渉を防ぐ必要があ
ることからこれらの規格の規制値はTV・PCなどの民生機器の規格
に比べると大変厳しい値となっております。
図5はそのことを示す一例です。図5(a)は弊社の3m法暗室の
暗ノイズレベルを測定した結果です。動作している電子機器がない
状態でも、150kHz ~ 1MHzまでの帯域では規格ラインを超えてい
ることがわかります。これは使用したアンテナの増幅器の性能が原
因であるものの、暗ノイズレベルにおいても規格値内にすることは
大変な作業であることがわかります。増幅器の性能に依存しない
1MHz以上の帯域においてもマージンがない状態でこの規格を適応
する場合、電子制御装置からの輻射ノイズレベルはほとんど許され
ないことがわかります。
また、図5(b)はイミュニティ測定結果の一例です。ある車載
LANインタフェースのドライバを接続するUTPケーブルにBCI法
3 自動車におけるノイズ規格とEMC問題
図4 自動車のEMC規格実車評価
部品評価
Emission規格Immunity規格
CISPR12, CISPR25 EN55012, 25ISO11451-2(放射イミュニティ)ISO11451-3(放射イミュニティ)*車載無線機
ISO11451-4(BCI法)ISO10605(ESD)
Emission規格Immunity規格
CISPR25 EN55025ISO11452-2(放射イミュニティ)ISO11452-3(TEMセル法)ISO11452-4(BCI法)ISO11452-5(ストリップライン)ISO11452-7(DPI)ISO10605(ESD)
図5 車載機器用EMC規格の厳しさ
50
40
30
20
10
00.50.1 1 5 10
Frequency(MHz)
Level(dBμV/m)
0.15MHz-30MHz
With mono-pole50
40
30
20
10
050 100 500 1000
Frequency(MHz)
Level(dBμV/m)
30MHz-1GHz
With Biconical/Log-periodic
CISPR25-Class5FM band TPM bandAM band
BCI measurement setup
Pulse generator
TXD Node1(Tx)
RF injection(SG) Level monitor(Spectrum analyzer)
Node2(Rx)
Oscilloscope
2600mm900 mm
50mm
イミュニティ試験の条件と試験結果。試験方法はBCI(Bulk Current Injection)法を用いる。ノイズ印加によってDataラインに大きな電圧が発生。差動伝送であるため、ある程度の電流レベルまでは影響を受けないが印加電流が100mAを越えると通信エラーとなる。
TP4 RxD
印加ノイズなし
100mAノイズ印加
Data
RxD
Data
RxD
ノイズ印加なし。通信良好
RXD端子から信号出力なし⇒通信不能
ノイズ印加中。
ノイズ印加なし。通信良好
RXD端子から信号出力なし⇒通信不能
ノイズ印加中。
(a)輻射ノイズ
(b)イミュニティ
104
低燃費、低排ガス、これが現在の自動車業界全体におけるキー
ワードでしょう。記憶に新しい2008年の石油高騰をきっかけに、米
国の自動車メーカーもようやく低公害車の開発に舵を切ることにな
りました。さらに米国政府も地球温暖化対策に積極的に乗り出す方
向で、世界が同じ方向に向いている状況下、自動車の排出ガスの規
制(欧州のEURO5、米国カリフォルニア州のZEV規制、日本のポ
スト新長期規制など)は先進国を中心に年々厳しくなる方向で進め
られております。
このように排出ガス規制が強まる一方で、駐車アシスト機能、バ
ックモニタやミリ波レーダによる衝突防止装置などの高機能なオプ
ションは自動車の魅力を高める重要な要素となっております。図1
はどのような電子制御装置が最近の自動車で使用されているか示し
たものです。ドア操作などの身近な機能から、サスペンションなど、
自動車の基本機能である、走る、曲がる、止まるを司るような機能
まであらゆるところに電子制御装置が使用されているのがわかりま
す。
今後も自動車の高機能化は進み進化していくことは間違いありま
せん。しかしながら、高機能化=>電子制御装置の増加=>ハーネ
スの増加を意味し、結果、燃費の悪化、排出ガスの増加を招きかね
ません。このように排出ガス規制と自動車の高機能化は相反する動
きなのですが、この問題を解決するための一つの解が車載LANシ
ステムです。図2は車載LANシステムのメリットを示した図です。
機器間接続のネットワーク化を積極的に図ることにより、1対1接続
時に比べハーネス量が低減できていることがわかります。また、導
入されるLANシステムはその機能によって大きく3つに分類されま
す(図3)。
通信速度を必要としないボディ系にはCAN/LIN、走る、曲がる、
止まるといった基幹機能を担うパワートレイン系には、高速で安全
性の高いインタフェースのFlexRay、映像・音声データ伝送を必要
とするマルチメディア系は数百Mbpsのデータ伝送が可能な
MOST、IDB1394が主に使用されております。
2 なぜ車載LAN?
図2 車載LANシステム導入のメリット
図3 車載LANの構成
Gateway
ECM ABS Lighting A/C DoorLock
EAT PCM Seat P/W AirBag
High speed Low speedECM ABS
EAT PCM
Gateway
Lighting
Seat
A/C DoorLock
P/W AirBag
アクセラレータ
ミリ波レーダ
シートベルト
サスペンション
エアバック ブレーキペダル
エンジン
ブレーキ
エアサス
ビデオカメラ
オーディオ
テレビ
スピーカ
EPSモータ制御系ユニット
ヘッドライト
リアライト
ルームランプ
モータ
ターンシグナル モータ
ワイパー モータ
パワーウインド モータ
エアコン、ブロアモータ
ドア モータ
ドアミラー モータ
シート モータ
モータ
モータ
モータ
カーナビゲーションシステム
テレビ
映像専用IF(GVIF、LVDS、RGB)
EPSモータ
モータドライブユニット
DC/DCコンバータ
バッテリ
ダッシュボード(ゲートウエイ)
従来の電装部品制御の配線
ボディ系車載LAN(CAN、LIN) パワートレイン系車載LAN(FlexRay) マルチメディア系車載LAN(MOST)(IEEE1394)
CANに代表される車載LANの場合
105
自動車の国際EMC規格としては、輻射ノイズ規格はCISPR25、
イミュニティ規格はISO11451/11452が挙げられます(図4)。
車載機器ではノイズによる誤動作がユーザーの命に関わる問題と
なる可能性があること、またAM、FM、TPM(Tire Pressure
Monitoring)センサなどの無線システムへの干渉を防ぐ必要があ
ることからこれらの規格の規制値はTV・PCなどの民生機器の規格
に比べると大変厳しい値となっております。
図5はそのことを示す一例です。図5(a)は弊社の3m法暗室の
暗ノイズレベルを測定した結果です。動作している電子機器がない
状態でも、150kHz ~ 1MHzまでの帯域では規格ラインを超えてい
ることがわかります。これは使用したアンテナの増幅器の性能が原
因であるものの、暗ノイズレベルにおいても規格値内にすることは
大変な作業であることがわかります。増幅器の性能に依存しない
1MHz以上の帯域においてもマージンがない状態でこの規格を適応
する場合、電子制御装置からの輻射ノイズレベルはほとんど許され
ないことがわかります。
また、図5(b)はイミュニティ測定結果の一例です。ある車載
LANインタフェースのドライバを接続するUTPケーブルにBCI法
3 自動車におけるノイズ規格とEMC問題
図4 自動車のEMC規格実車評価
部品評価
Emission規格Immunity規格
CISPR12, CISPR25 EN55012, 25ISO11451-2(放射イミュニティ)ISO11451-3(放射イミュニティ)*車載無線機
ISO11451-4(BCI法)ISO10605(ESD)
Emission規格Immunity規格
CISPR25 EN55025ISO11452-2(放射イミュニティ)ISO11452-3(TEMセル法)ISO11452-4(BCI法)ISO11452-5(ストリップライン)ISO11452-7(DPI)ISO10605(ESD)
図5 車載機器用EMC規格の厳しさ
50
40
30
20
10
00.50.1 1 5 10
Frequency(MHz)
Level(dBμV/m)
0.15MHz-30MHz
With mono-pole50
40
30
20
10
050 100 500 1000
Frequency(MHz)
Level(dBμV/m)
30MHz-1GHz
With Biconical/Log-periodic
CISPR25-Class5FM band TPM bandAM band
BCI measurement setup
Pulse generator
TXD Node1(Tx)
RF injection(SG) Level monitor(Spectrum analyzer)
Node2(Rx)
Oscilloscope
2600mm900 mm
50mm
イミュニティ試験の条件と試験結果。試験方法はBCI(Bulk Current Injection)法を用いる。ノイズ印加によってDataラインに大きな電圧が発生。差動伝送であるため、ある程度の電流レベルまでは影響を受けないが印加電流が100mAを越えると通信エラーとなる。
TP4 RxD
印加ノイズなし
100mAノイズ印加
Data
RxD
Data
RxD
ノイズ印加なし。通信良好
RXD端子から信号出力なし⇒通信不能
ノイズ印加中。
ノイズ印加なし。通信良好
RXD端子から信号出力なし⇒通信不能
ノイズ印加中。
(a)輻射ノイズ
(b)イミュニティ
104
低燃費、低排ガス、これが現在の自動車業界全体におけるキー
ワードでしょう。記憶に新しい2008年の石油高騰をきっかけに、米
国の自動車メーカーもようやく低公害車の開発に舵を切ることにな
りました。さらに米国政府も地球温暖化対策に積極的に乗り出す方
向で、世界が同じ方向に向いている状況下、自動車の排出ガスの規
制(欧州のEURO5、米国カリフォルニア州のZEV規制、日本のポ
スト新長期規制など)は先進国を中心に年々厳しくなる方向で進め
られております。
このように排出ガス規制が強まる一方で、駐車アシスト機能、バ
ックモニタやミリ波レーダによる衝突防止装置などの高機能なオプ
ションは自動車の魅力を高める重要な要素となっております。図1
はどのような電子制御装置が最近の自動車で使用されているか示し
たものです。ドア操作などの身近な機能から、サスペンションなど、
自動車の基本機能である、走る、曲がる、止まるを司るような機能
まであらゆるところに電子制御装置が使用されているのがわかりま
す。
今後も自動車の高機能化は進み進化していくことは間違いありま
せん。しかしながら、高機能化=>電子制御装置の増加=>ハーネ
スの増加を意味し、結果、燃費の悪化、排出ガスの増加を招きかね
ません。このように排出ガス規制と自動車の高機能化は相反する動
きなのですが、この問題を解決するための一つの解が車載LANシ
ステムです。図2は車載LANシステムのメリットを示した図です。
機器間接続のネットワーク化を積極的に図ることにより、1対1接続
時に比べハーネス量が低減できていることがわかります。また、導
入されるLANシステムはその機能によって大きく3つに分類されま
す(図3)。
通信速度を必要としないボディ系にはCAN/LIN、走る、曲がる、
止まるといった基幹機能を担うパワートレイン系には、高速で安全
性の高いインタフェースのFlexRay、映像・音声データ伝送を必要
とするマルチメディア系は数百Mbpsのデータ伝送が可能な
MOST、IDB1394が主に使用されております。
2 なぜ車載LAN?
図2 車載LANシステム導入のメリット
図3 車載LANの構成
Gateway
ECM ABS Lighting A/C DoorLock
EAT PCM Seat P/W AirBag
High speed Low speedECM ABS
EAT PCM
Gateway
Lighting
Seat
A/C DoorLock
P/W AirBag
アクセラレータ
ミリ波レーダ
シートベルト
サスペンション
エアバック ブレーキペダル
エンジン
ブレーキ
エアサス
ビデオカメラ
オーディオ
テレビ
スピーカ
EPSモータ制御系ユニット
ヘッドライト
リアライト
ルームランプ
モータ
ターンシグナル モータ
ワイパー モータ
パワーウインド モータ
エアコン、ブロアモータ
ドア モータ
ドアミラー モータ
シート モータ
モータ
モータ
モータ
カーナビゲーションシステム
テレビ
映像専用IF(GVIF、LVDS、RGB)
EPSモータ
モータドライブユニット
DC/DCコンバータ
バッテリ
ダッシュボード(ゲートウエイ)
従来の電装部品制御の配線
ボディ系車載LAN(CAN、LIN) パワートレイン系車載LAN(FlexRay) マルチメディア系車載LAN(MOST)(IEEE1394)
CANに代表される車載LANの場合
107
CANの歴史は長く1992年にダイムラーが採用してから始まりま
した。最初からCANが標準規格だったわけではなく、各メーカー
は独自インタフェースを開発して車載LAN化に取り組んできまし
たが、開発の効率化、コスト削減、共通化による接続性の確保を理
由に2000年あたりからCANに統一化されていきました。このよう
に10年以上続くCANの歴史ですが、TDKのCANBUS用コモンモ
ードフィルタも歴史が長く、幾つかの変遷を経ております。TDK
のCANBUS用コモンモードフィルタは、構造で大別すると2つの
シリーズに分けられます(図7)。
一つはトロイダルコアを使用したZJYSシリーズ、もうひとつは
ドラムコアを使用したACTシリーズです。
特性においても
① ディファレンシャルモードでインピーダンスを持つ
分割巻タイプ(Dual mode filter)
② ディファレンシャルモードでインピーダンスを持たない
バイファイラ巻タイプ(Common mode filter)
に分けられます。コモンモードフィルタとしては信号に影響を与え
ない②が一般的ですが、ディファレンシャルモードノイズ成分を抑
制するために積極的にインピーダンスを持たせた①のタイプもノイ
ズの状況に合わせて使用されております。
使用温度範囲はZJYSが-40~+125℃、ACT45Bシリーズが
-40~+150℃*に対応しており、信頼性の面においても車載機器
用部品に対する要求仕様をすべて満たすよう製品設計されておりま
す。 * ACT45Bはエンジンルームなどの高温化における使用を想定し、150℃でも
信頼性保証できるよう設計された部品です。
次世代車載LAN規格「FlexRay」においてもEMCの問題はCAN
と同様です。イミュニティ向上と輻射ノイズ抑制を行うために
FlexRayにおいてもEMC対策は回路設計において重要な要素にな
ります。CANに比べると伝送レートが速いため(10Mbpsが仕様
上の最大伝送レート)、信号品質も考慮した上でフィルタを選定し
なければなりません。さらに、イミュニティの面を考慮すると高い
コモンモードインピーダンスが必要となります。以上の背景から
FlexRay ConsortiumがリリースしているFlexRay物理層の規格
書*1とアプリケーションノート*2においてコモンモードフィルタの
電気的仕様について言及されております。公開されているフィルタ
仕様は以下の通りです。
DCR:2Ω以下(-40~+125℃の使用温度範囲内)
L値:100μH
漏れインダクタンス:<1μH参照規格は以下の通り。
*1 FlexRay_Electrical_Physical_Layer_Specification_V2.1_Rev.B
*2 FlexRay_Electrical_Physical_Layer_Application_Notes_V2.1_Rev.B
5 CANBUSフィルタ
6 FlexRay用フィルタ
コモンモードフィルタ
5VRegulator
TXD
GND
VCC
RXD
CANH
CANL
R2R2
R2R2
CAN Cable(UTP)
スプリットターミネーションSplit termination
CMF CMF10μF
PulseGenerator(250kHz)
47nF
TXD
GND
VCC
RXD
CANH
CANL
スプリットターミネーションは2つの抵抗の中点をGNDに接続し、コモンモード成分をGNDに流すことでコモンモード成分を低減する手法。CANおよびFlexRayではメインバスの終端抵抗において適用される。また、分岐ノードは数kΩの抵抗で終端されることがあるが、この抵抗に対してもスプリットターミネーションを適用し、コモンモードノイズ対策を行える。ただし、抵抗値が高いため効果は限定的。
(b)測定回路
図7 TDK-CANBUS用コモンモードフィルタ ラインアップ
ACT45シリーズ
(ドラムコア)
ZJYSシリーズ
(トロイダルコア)
バイファイラ巻
分割巻
ACT45Bシリーズ
ACT45SシリーズCAN用
コモンモードフィルタ バイファイラ巻
分割巻
ZJYS81R5-2Pシリーズ
ZJYS81R5-2PLシリーズ
106
にてノイズを印加したところ通信ができなくなりました。EMC対
策部品は外された状態ですので、耐ノイズ性能が弱くなっていたこ
とが通信不能となった原因ですが、イミュニティに関してもEMC
設計を施すことがいかに重要かを示しております。
車載LANではLINと低速CANを例外として、低振幅、低輻射ノ
イズレベル、外来ノイズに強いことを特徴とした差動伝送を採用し
ており、もともとEMCを考慮した物理層となっております。しか
しながら、自動車内には大電流による強磁界の影響やモータ系のノ
イズ、点火プラグのような瞬間的に発生するバースト系のノイズな
ど、ノイズの発生箇所、種類、さらに周波数もさまざまであるため、
差動伝送を採用している電子制御装置でも影響を受ける可能性があ
ります。
また、輻射ノイズの観点においても差動伝送は原理的には低EMI
になるはずですが、現実にはシステム全体で見た場合、2本のライ
ン(プラスとマイナスライン)が完全に対称性ではないため輻射ノ
イズレベルはゼロとなりません。従って、イミュニティの面からも
輻射ノイズの面からもEMC対策を施す必要があります。
本誌の他の章でも紹介されているように差動伝送のEMC対策に
はコモンモードフィルタが有効です(コモンモードフィルタの原理
などの詳細については本誌「信号に影響を与えず放射ノイズの根源
を絶つコモンモードフィルタ」、「高速差動インタフェースのEMC
対策」を参照ください。)
コモンモードフィルタを使用することで得られる効果としては、
1.輻射ノイズの抑制
2.イミュニティ向上
が挙げられ、これは上述した車載LANにおけるEMC問題を解決す
ることができる素子であることを意味しております。
実際にCAN-ICを用いてコモンモードフィルタの効果を確認した
結果を図6に示します。使用したコモンモードフィルタは後述する
CAN用コモンモードフィルタとして一般的なACT45B-510-2Pで
す。
次項よりCAN、FlexRayでTDKが推奨するコモンモードフィルタ
とLIN向けで行われるEMC対策手法とフィルタについて説明いた
します。
4 コモンモードフィルタの効果
図6 CANBUSラインにおけるコモンモードフィルタの効果(輻射ノイズ)
0102030405060708090
10 100 50050 1000Frequency(MHz)
Level(dBμV/m)
スプリットターミネーション
フィルタなしスプリットターミネーション+コモンモードフィルタ
0102030405060708090
0.1 10 501 50.5 100Frequency(MHz)
Level(dBμV/m) スプリット
ターミネーション フィルタなし
スプリットターミネーション+コモンモードフィルタ
0102030405060708090
10 10050 1000500Frequency(MHz)
Level(dBμV/m)
スプリットターミネーション
フィルタなし
スプリットターミネーション+コモンモードフィルタ
CAN Transceiver
PG(250kHz)
1.5m CAN Cable
CAN Receiver
GND plane
(a)輻射ノイズ測定データ
Mono-pole
Horizontal
Measurement setup
Vertical
◦スプリットターミネーションについては次ページにて説明
107
CANの歴史は長く1992年にダイムラーが採用してから始まりま
した。最初からCANが標準規格だったわけではなく、各メーカー
は独自インタフェースを開発して車載LAN化に取り組んできまし
たが、開発の効率化、コスト削減、共通化による接続性の確保を理
由に2000年あたりからCANに統一化されていきました。このよう
に10年以上続くCANの歴史ですが、TDKのCANBUS用コモンモ
ードフィルタも歴史が長く、幾つかの変遷を経ております。TDK
のCANBUS用コモンモードフィルタは、構造で大別すると2つの
シリーズに分けられます(図7)。
一つはトロイダルコアを使用したZJYSシリーズ、もうひとつは
ドラムコアを使用したACTシリーズです。
特性においても
① ディファレンシャルモードでインピーダンスを持つ
分割巻タイプ(Dual mode filter)
② ディファレンシャルモードでインピーダンスを持たない
バイファイラ巻タイプ(Common mode filter)
に分けられます。コモンモードフィルタとしては信号に影響を与え
ない②が一般的ですが、ディファレンシャルモードノイズ成分を抑
制するために積極的にインピーダンスを持たせた①のタイプもノイ
ズの状況に合わせて使用されております。
使用温度範囲はZJYSが-40~+125℃、ACT45Bシリーズが
-40~+150℃*に対応しており、信頼性の面においても車載機器
用部品に対する要求仕様をすべて満たすよう製品設計されておりま
す。 * ACT45Bはエンジンルームなどの高温化における使用を想定し、150℃でも
信頼性保証できるよう設計された部品です。
次世代車載LAN規格「FlexRay」においてもEMCの問題はCAN
と同様です。イミュニティ向上と輻射ノイズ抑制を行うために
FlexRayにおいてもEMC対策は回路設計において重要な要素にな
ります。CANに比べると伝送レートが速いため(10Mbpsが仕様
上の最大伝送レート)、信号品質も考慮した上でフィルタを選定し
なければなりません。さらに、イミュニティの面を考慮すると高い
コモンモードインピーダンスが必要となります。以上の背景から
FlexRay ConsortiumがリリースしているFlexRay物理層の規格
書*1とアプリケーションノート*2においてコモンモードフィルタの
電気的仕様について言及されております。公開されているフィルタ
仕様は以下の通りです。
DCR:2Ω以下(-40~+125℃の使用温度範囲内)
L値:100μH
漏れインダクタンス:<1μH参照規格は以下の通り。
*1 FlexRay_Electrical_Physical_Layer_Specification_V2.1_Rev.B
*2 FlexRay_Electrical_Physical_Layer_Application_Notes_V2.1_Rev.B
5 CANBUSフィルタ
6 FlexRay用フィルタ
コモンモードフィルタ
5VRegulator
TXD
GND
VCC
RXD
CANH
CANL
R2R2
R2R2
CAN Cable(UTP)
スプリットターミネーションSplit termination
CMF CMF10μF
PulseGenerator(250kHz)
47nF
TXD
GND
VCC
RXD
CANH
CANL
スプリットターミネーションは2つの抵抗の中点をGNDに接続し、コモンモード成分をGNDに流すことでコモンモード成分を低減する手法。CANおよびFlexRayではメインバスの終端抵抗において適用される。また、分岐ノードは数kΩの抵抗で終端されることがあるが、この抵抗に対してもスプリットターミネーションを適用し、コモンモードノイズ対策を行える。ただし、抵抗値が高いため効果は限定的。
(b)測定回路
図7 TDK-CANBUS用コモンモードフィルタ ラインアップ
ACT45シリーズ
(ドラムコア)
ZJYSシリーズ
(トロイダルコア)
バイファイラ巻
分割巻
ACT45Bシリーズ
ACT45SシリーズCAN用
コモンモードフィルタ バイファイラ巻
分割巻
ZJYS81R5-2Pシリーズ
ZJYS81R5-2PLシリーズ
106
にてノイズを印加したところ通信ができなくなりました。EMC対
策部品は外された状態ですので、耐ノイズ性能が弱くなっていたこ
とが通信不能となった原因ですが、イミュニティに関してもEMC
設計を施すことがいかに重要かを示しております。
車載LANではLINと低速CANを例外として、低振幅、低輻射ノ
イズレベル、外来ノイズに強いことを特徴とした差動伝送を採用し
ており、もともとEMCを考慮した物理層となっております。しか
しながら、自動車内には大電流による強磁界の影響やモータ系のノ
イズ、点火プラグのような瞬間的に発生するバースト系のノイズな
ど、ノイズの発生箇所、種類、さらに周波数もさまざまであるため、
差動伝送を採用している電子制御装置でも影響を受ける可能性があ
ります。
また、輻射ノイズの観点においても差動伝送は原理的には低EMI
になるはずですが、現実にはシステム全体で見た場合、2本のライ
ン(プラスとマイナスライン)が完全に対称性ではないため輻射ノ
イズレベルはゼロとなりません。従って、イミュニティの面からも
輻射ノイズの面からもEMC対策を施す必要があります。
本誌の他の章でも紹介されているように差動伝送のEMC対策に
はコモンモードフィルタが有効です(コモンモードフィルタの原理
などの詳細については本誌「信号に影響を与えず放射ノイズの根源
を絶つコモンモードフィルタ」、「高速差動インタフェースのEMC
対策」を参照ください。)
コモンモードフィルタを使用することで得られる効果としては、
1.輻射ノイズの抑制
2.イミュニティ向上
が挙げられ、これは上述した車載LANにおけるEMC問題を解決す
ることができる素子であることを意味しております。
実際にCAN-ICを用いてコモンモードフィルタの効果を確認した
結果を図6に示します。使用したコモンモードフィルタは後述する
CAN用コモンモードフィルタとして一般的なACT45B-510-2Pで
す。
次項よりCAN、FlexRayでTDKが推奨するコモンモードフィルタ
とLIN向けで行われるEMC対策手法とフィルタについて説明いた
します。
4 コモンモードフィルタの効果
図6 CANBUSラインにおけるコモンモードフィルタの効果(輻射ノイズ)
0102030405060708090
10 100 50050 1000Frequency(MHz)
Level(dBμV/m)
スプリットターミネーション
フィルタなしスプリットターミネーション+コモンモードフィルタ
0102030405060708090
0.1 10 501 50.5 100Frequency(MHz)
Level(dBμV/m) スプリット
ターミネーション フィルタなし
スプリットターミネーション+コモンモードフィルタ
0102030405060708090
10 10050 1000500Frequency(MHz)
Level(dBμV/m)
スプリットターミネーション
フィルタなし
スプリットターミネーション+コモンモードフィルタ
CAN Transceiver
PG(250kHz)
1.5m CAN Cable
CAN Receiver
GND plane
(a)輻射ノイズ測定データ
Mono-pole
Horizontal
Measurement setup
Vertical
◦スプリットターミネーションについては次ページにて説明
109
本編で述べましたよう車載機器のEMC対策技術は機器が正常に
動作するために重要な要素です。今後、高機能化は一段と進み、活
用される無線機器が増えていくであろうことを考慮すると、EMC
対策技術はますます重要になっていくと思われます。本誌にて紹介
した部品はEMC対策を行う上で補助的な役割ではありますが、
EMC対策において絶大なる効果をもたらします。TDKでは車載
LANに関する豊富な評価データを基に製品開発を進めており、さ
まざまな要求に対応できるよう努めております。紹介しきれなかっ
たノイズ対策事例も多数ありますので、お気軽にご相談ください。
8 まとめ
0mA25mA50mA75mA100mA
-1012345678
マスターノード
(Volt)
(nsec)
0mA25mA50mA75mA100mA
-1012345678
スレーブノード
(Volt)
(nsec)
100mA NG!
0mA25mA50mA75mA100mA
-1012345678
マスターノード
(Volt)
20(μsec/div)
0mA25mA50mA75mA100mA
-1012345678
スレーブノード
(Volt)
20(μsec/div)
印加電流100mAの時に通信エラー発生。LINラインにフィルタを入れることにより改善されることが分かる。
BCI(0〜 100mA)印加時の受信端子Rxの出力波形を測定EMCフィルタなし
(c) 試験結果
108
TDKのFlexRay用コモンモードフィルタはドラムコアタイプと
トロイダルコアタイプの2種類あります(図8)。
両製品ともはんだレス継線技術を用いております。
LINバスは差動伝送ではなくシングルエンド伝送であるため、フェ
ライトビーズやキャパシタ、3端子フィルタによる対策が有効とな
ります。LINの伝送レートはCAN、FlexRayなどに比べ遅く、数十
kbps程度です。従って使用するビーズ、キャパシタも比較的大き
な定数を使用する必要があります。イミュニティ試験での対策事例
を図9に示します。
イミュニティ試験では対策部品がない場合、印加されたノイズに
よって通信エラーを起こすことが確認されましたが、3端子フィルタ
(TDK品番:ACF321825-331、C:300pF)挿入によって改善され、
印加ノイズによる影響はなくなりました。
LIN推奨部品
3端子フィルタ:ACFシリーズ
インダクタ:NLVシリーズ NLV25T-XXXX-EFD
NLV32T-XXXX-EFD
NLCVシリーズ NLCV25T-XXXX-EFD
NLCV32T-XXXX-EFD
7 LIN におけるノイズ対策
図9 LINにおけるEMC対策
ENVcc
RxDTxD GND
LIN Driver
Pulse G10kHz
+5V +5V+5V+5V
LIN Bus100nF
100nF
+12V +12V
Cbus=10nF
MASTER NODE
1.5m CableLIN Bus
EMC Parts ENVcc
RxDTxDGND
LIN Driver
100nF
100nFFilter
VsVs
1k
SLAVE NODE
ACF3218 series
Ground plane1500mm
900mm 50mm
Bulk current injection probe RF monitoring probe
LIN Transceiver(MASTER NODE)
LIN Transceiver(SLAVE NODE)
RF injection(SG & Amp& RF coupler)
Level monitor(Spectrumanalyzer)
RX2 LIN
TXDRXD
Pulsegenerator10kHz
RX1
RXDLIN
(a)対策回路例
LIN(Local Interconnect Network)LINバスはシングルなのでLCフィルタでの対策が適している
LINハーネスへのBCI(Bulk Current Injection)試験ISO11452-4電波暗室にて測定:プローブを使いケーブルに高周波電流を印加する
試験条件: ・EMCフィルタはスレーブノード側に挿入 ・1mm径、1.5mハーネス ・ハーネスは他にGND、12Vバッテリハーネスを接続 ・20kbps(=10kHz)をマスターノードのTXD端子に印加 ・Cbus=10nF
(b) 評価回路
図8 FlexRay用コモンモードフィルタ
ACT45R-101-2Pはんだレス接合100μH
-40 to +150℃<2Ω[150℃]
ZJYS90V-101-2PTLはんだレス接合100μH
-40 to +125℃<2Ω[125℃]
製品名特長
インダクタンス値使用温度範囲DCR
ACT45シリーズ(ドラムコア)
ZJYS90V-101-2P(トロイダルコア)
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本編で述べましたよう車載機器のEMC対策技術は機器が正常に
動作するために重要な要素です。今後、高機能化は一段と進み、活
用される無線機器が増えていくであろうことを考慮すると、EMC
対策技術はますます重要になっていくと思われます。本誌にて紹介
した部品はEMC対策を行う上で補助的な役割ではありますが、
EMC対策において絶大なる効果をもたらします。TDKでは車載
LANに関する豊富な評価データを基に製品開発を進めており、さ
まざまな要求に対応できるよう努めております。紹介しきれなかっ
たノイズ対策事例も多数ありますので、お気軽にご相談ください。
8 まとめ
0mA25mA50mA75mA100mA
-1012345678
マスターノード
(Volt)
(nsec)
0mA25mA50mA75mA100mA
-1012345678
スレーブノード
(Volt)
(nsec)
100mA NG!
0mA25mA50mA75mA100mA
-1012345678
マスターノード
(Volt)
20(μsec/div)
0mA25mA50mA75mA100mA
-1012345678
スレーブノード
(Volt)
20(μsec/div)
印加電流100mAの時に通信エラー発生。LINラインにフィルタを入れることにより改善されることが分かる。
BCI(0〜 100mA)印加時の受信端子Rxの出力波形を測定EMCフィルタなし
(c) 試験結果
108
TDKのFlexRay用コモンモードフィルタはドラムコアタイプと
トロイダルコアタイプの2種類あります(図8)。
両製品ともはんだレス継線技術を用いております。
LINバスは差動伝送ではなくシングルエンド伝送であるため、フェ
ライトビーズやキャパシタ、3端子フィルタによる対策が有効とな
ります。LINの伝送レートはCAN、FlexRayなどに比べ遅く、数十
kbps程度です。従って使用するビーズ、キャパシタも比較的大き
な定数を使用する必要があります。イミュニティ試験での対策事例
を図9に示します。
イミュニティ試験では対策部品がない場合、印加されたノイズに
よって通信エラーを起こすことが確認されましたが、3端子フィルタ
(TDK品番:ACF321825-331、C:300pF)挿入によって改善され、
印加ノイズによる影響はなくなりました。
LIN推奨部品
3端子フィルタ:ACFシリーズ
インダクタ:NLVシリーズ NLV25T-XXXX-EFD
NLV32T-XXXX-EFD
NLCVシリーズ NLCV25T-XXXX-EFD
NLCV32T-XXXX-EFD
7 LIN におけるノイズ対策
図9 LINにおけるEMC対策
ENVcc
RxDTxD GND
LIN Driver
Pulse G10kHz
+5V +5V+5V+5V
LIN Bus100nF
100nF
+12V +12V
Cbus=10nF
MASTER NODE
1.5m CableLIN Bus
EMC Parts ENVcc
RxDTxDGND
LIN Driver
100nF
100nFFilter
VsVs
1k
SLAVE NODE
ACF3218 series
Ground plane1500mm
900mm 50mm
Bulk current injection probe RF monitoring probe
LIN Transceiver(MASTER NODE)
LIN Transceiver(SLAVE NODE)
RF injection(SG & Amp& RF coupler)
Level monitor(Spectrumanalyzer)
RX2 LIN
TXDRXD
Pulsegenerator10kHz
RX1
RXDLIN
(a)対策回路例
LIN(Local Interconnect Network)LINバスはシングルなのでLCフィルタでの対策が適している
LINハーネスへのBCI(Bulk Current Injection)試験ISO11452-4電波暗室にて測定:プローブを使いケーブルに高周波電流を印加する
試験条件: ・EMCフィルタはスレーブノード側に挿入 ・1mm径、1.5mハーネス ・ハーネスは他にGND、12Vバッテリハーネスを接続 ・20kbps(=10kHz)をマスターノードのTXD端子に印加 ・Cbus=10nF
(b) 評価回路
図8 FlexRay用コモンモードフィルタ
ACT45R-101-2Pはんだレス接合100μH
-40 to +150℃<2Ω[150℃]
ZJYS90V-101-2PTLはんだレス接合100μH
-40 to +125℃<2Ω[125℃]
製品名特長
インダクタンス値使用温度範囲DCR
ACT45シリーズ(ドラムコア)
ZJYS90V-101-2P(トロイダルコア)