Title 腎孟尿管外への尿自然溢流の3例

Author(s) 石坂, 和博; 峰, 正英; 金親, 史尚; 後藤, 修一; 横川, 正之

Citation 泌尿器科紀要 (1989), 35(10): 1767-1771

Issue Date 1989-10

URL http://hdl.handle.net/2433/116702

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿紀 要35:1767-1771,1989 1767

腎孟尿管外への尿自然盗流の3例

帝京 大学 医学部付属溝 口病院泌尿器科(主 任1横 川正之教授)

石 坂 和 博,1峰 正 英,金 親 史 尚

後 藤 修 一,横 川 正 之

SPONTANEOUS URINARY EXTRAVASATION :

REPORT OF THREE CASES

Kazuhiro ISHIZAKA, Masahide MINE, Fuminao KANEOYA,

Shuichi GOTOH and Masayuki YOKOKAWA

From the Department of Urology, Teikyo University School of Medicine, Mizonokuchi Hospital

We report three cases of urinary extravasation successfully recovered by conservative mea-sures. Two of them were regarded as spontaneous peripelvic extravasation caused by small ureteral stones. After several days' indwelling ureteral catheter extravasation was ceased and the stones were discharged spontaneously in both cases. The other was regarded as spontaneous rupture of the renal pelvis with urinoma formation due to ureteral obstruction by bladder cancer inva-sion. Intra-arterial chemotherapy, radiation and hyperthermotherapy to the bladder under percu-taneous nephrostomy yielded recanalization of obstructed ureter and resolving of urinoma. We shortly review previous reports and discuss the role of diagnosis and treatment.

(Acta Urol. Jpn. 35: 1767-1771, 1989)

Key words: Spontaneous extravasation, Spontaneous rupture, Renal pelvis

緒 言

腎孟尿管外への尿 自然溢流 は比較的稀な現象 とされ

てきたが,最 近 われわれは尿管結石に よる自然腎孟外

溢流 と,浸 潤性膀胱癌症例 の腎孟 自然破裂を相次いで

経験 したので報告す る.

症 例

症 例1:52歳,男 性

主 訴=左 腰 背 部 痛

現病 歴:1988年5月29日 夜,突 然 左腰 背部 痛 出現.

翌 日近 医受 診 し,点 滴 静 注 腎 孟 造影 に て 左 尿管 結 石 の

介 在 と造 影 剤 の 腎 孟 外 へ の 漏 出 を 認 め た た め,当 科 転

院 とな った.

現症:身 長170cm,体 重57kg・ 体 温37・7℃ ・脈

拍96/整.血 圧110/74mrnHg.左 側 腹 部 に圧 痛 お よ

び筋 性 防御 を 認 め た 。

検査 所 見.血 算;Hb15.lg/d1,RBcso6×104,

Ht45.5%,WBClI,300,Plt29.8xlO4・ 血 液 生 化;

異 常 な し.空 腹 時 血 糖;141mg/dl・ 血 沈1時 間 値3

mm.検 尿;蛋 白(一),糖(rr]),RBC(5-6/hpf),

WBC(一),上 皮(一).

放 射 線学 的 検査1点 滴 静 注 腎孟 造 影;左 軽 度 水 腎 の

ほか,腎 孟 尿 管 周 囲 に造 影 剤 の 漏 出を 認 め た(Fig.

1).逆 行性 腎孟 造 影1当 日施 行 した と こ ろ,上 腎 杯か

らの 造 影 剤 漏 出 が再 現 され,第3腰 椎 左に 小 結 石様 陰

影 を 認 め た,

入 院 後経 過:尿 管 結 石 に よる 腎孟 外 自然 溢 流 の 診断

で,尿 管 カ テ ーテ ルを 留 置 した.4日 後 の 排 泄 性 腎孟

造 影 で は 造影 剤 の溢 流 は 認 め られ な くな った た め,カ

テ ー テル 抜 去 し,そ の3日 後 に 自 然排 石 した.

症 例2:51歳,女 性

主 訴=左 腰 背部 痛

現 病 歴=1988年10月lHよ り左腰 背 部 痛 出 現.10月

17日 癌 痛発 作 に て 近 医 入 院.翌 日の 点 滴 静 注 腎孟 造 影

に て 左 腎孟 周 囲に 漏 出 像 を認 めた た め 転 院 とな った.

現 症1身 長148cm,体 重53kg.体 温37/7℃.左

側 腹 部 痛軽 度 あ る も圧 痛 は な か った,

検 査 所 見:血 算;Hb14.69/d王,RBc460×lo4,

WBC15,600,plt23.9×104.血 液 生 化;異 常 な し.空

腹1時血 糖;91mgtdl.血 沈1時 間 値26mm.検 尿;蛋 白

(_),糖(一),RBC(80-100hpf),wBC(20-30/hpf)。

1768

野

泌尿紀要35巻10号1989年

Fig.1.Casc1.IVPshQwedslightdilated

calicesofleftkidneyandperipelvicex・

travasationofcontrastmedium.

虚dAfFig.2.Case2.IVPshoweddilatedcalicesof

leftkidneyandperipelvicextravasation

ofcontrastmedium.

放射線学的検査:点 滴静注腎孟造影;左 中等度 の水

腎 と腎孟尿管周囲の漏 出像,お よび7×5mmの 下 部

尿管結石を認めた(FEg.2).逆 行性 腎孟造影;転 院

の翌 日施行 したが,漏 出は再現 されなか った.

入院後経過:尿 管結石に よる腎孟外自然溢流の診断

で尿管 カテーテルを留置 した まま抗生剤投与.60後

の腎孟造影にて水腎は ぼぼ消失,溢 流 もないので カテ

ーテルを抜去 し,そ の2日 後 自然排 石 した.

症例3=81歳,男 性

主訴;下,腹 部痛

既 往 歴:1978年,胆 石 に て 胆 嚢 摘 出術 を うけ た,高

血 圧 お よび 糖 尿 病 に て 内服 治 療 中.

現 病 歴:1988年3月 頃 よ り頻 尿 とな っ た が 放 置 し

た.5月1日 下 腹 部 痛 に て近 医受 診 した と ころ,血 尿

を 指 摘 され た.さ らに 右側 腹 部痛 お よび悪 心 嘔 吐 も伴

うよ うに な った た め,5月7日 当科 受 診 した.

現 症:身 長159cm,体 重59kg.体 温36.6℃.血

圧140/90mmHg.脈 拍72/整.右 側 腹 部 痛 お よび 下 腹

部 痛 あ り。腹 部 に腫 瘤 は触 れ なか った.

検 査 所 見 血 算;HbI2.99/d1,R.BC439×104,

Ht40.0%,WBC8600,Plt32,8×104.血 液 生 化;

BUN26.9,Cr2.1と 上 昇,そ の 他異 常 な し.血 沈1

時 間 値88mmと 充 進 突 腹 時 血 糖120mg/d1.CEA

1.5ng/ml(正 常2.5以 下).血 清TPA140u/ml

(llOU/m1以 下).検 尿;蛋 白(冊),糖(一),RBC

(o-1/hpf),wBc(5-61hqf),上 皮(一),細 菌(一).

放 射 線 学 的検 査:点 滴 静 注 腎 孟 造 影;腎 孟 か ら下 方

に 向か い 並 走す る3本 の帯 状 陰 影 を 認 め,一 見3重 複

尿 管 を 疑 わせ た.ま た 膀 胱 右 側 部 分 に 陰 影 欠 損 を 認 め

た(Fig.3).造 影CT;拡 張 した 右 腎 孟 周 囲 に,

皮 膜 に 包 まれ た 軽 度増 強 され るcysticlesionを 認 め

た(Fig.4).下 方 の ス ライ ス では,こ の 病 変 が 尿 管

周 囲 に も続 い て い る の が確 認 され た.こ れ に よ り,3

重 複 尿 管 に 見 え た の は拡 張 した 腎 孟 尿 管 と,そ の 周 囲

に 広 が る尿 貯 留 腫 で あ ろ うと考 え られ た.

Fig.3.Case3.DIPshowedrlghthydroneph・

rosisandthrecparallellinesrunning

downwardfromrightpelvis,whichwere

revealedtobetheureterandurinoma

formationaroundit.Fillingdefecton

therightsidcofthebladderwasalso

observed.

石坂,ほ か:腎 孟 自然破裂 ・自然腎孟外溢流

一 一馳脳 論」己=璽賜

1

Fig.4.Case3,Computedtomographyshowed

dilatedrightrenalpelvisandurinoma

formationaroundit.

幅

Fig.5.Case5.Antegradepyelographyfrom

rightnephrostomyshQwedIeakagefrom

thepelvis.

膀胱鏡所見:右 尿管 口か ら右側壁,後 壁にか けて隆

起 してお り,表 面は浮腫状であ った.

入院後経過:経 尿道的膀胱生検にて,G2,筋 層 まで

浸潤す る移行上皮癌の診断がえ られた.膀 胱癌 と尿貯

留腫との関係を 明らかにで きぬ まま,6月9日 右経皮

腎痩を造設 した.腎 痩か らの造影で腎孟 か らの漏 出お

よび尿管下端 での通過障害が確 認 された(Fig.5),

以上 より、膀胱癌の尿管下端閉塞に よる腎孟内圧 上昇

を原因 とす る腎孟 自然破裂 と,破 裂部か らの漏 出によ

る尿貯留腫形成であ った と診断 された.腎 懐形成 後約

2週 後に撮影 したCTで は尿貯 留腫は 自然吸 収 され

てお り,腎 痕か らの造影で も漏 出は認め られ な くなっ

ていた.

膀胱癌 に対 して,右 内腸 骨 動 脈 か ら,6月22日

CDDP100mgを,7月ll日CDDPl50mgを 注

入.8月1日 よ り骨 盤部に50Gy、 膀胱部に さらに10

GyのLinac照 射を行 った.こ の後尿管下端の通過

1769

障害は軽減 され,さ らに5-Fu,ADM,CDDPよ り

なる化学療 法を併用 した膀胱部温熱療法を施行 した と

ころ,11月12日 の排泄性腎孟造影 では右腎の排泄 は良

好 とな り,水腎 も消失 したので腎繧 カテーテルを抜 去,

腎保存 に成功 した.

考 察

外傷や腎疾患がないに もかかわ らず,急 激 な腎孟 内

圧 の上 昇に よ り惹起 され る腎孟周囲への尿漏 出は,自

然腎孟外溢流(以 下 溢流 と略す)と 腎孟 自然破裂(以

下破裂 と略す)と に分 けられ る.溢 流は,解 剖学的に

腎孟 の最 も弱い部分である腎杯 円蓋部に顕微鏡的亀裂

が生 じたもので,む しろ,過 剰 内圧か ら腎孟 を守 る安

全機構 であるともいわれているρ.哩曜自然"の意義は,

腎,上 部尿管お よびその周 囲に,機 械操作,手 術,外

傷,破 壊的病巣,内 外 からの圧迫がない こと2)と され

ている.破 裂は腎孟 の肉眼的規模の損傷 であ り,漏 出

量,症状 ともに重 くな り,両者 の区別は重要 であるとい

われ ている3),IVP所 見における鑑別点 としては,腎

杯周囲の漏 出像 ・腎杯拡張 ・閉塞部位 までの尿管描出

・再現性の有無な どがいわれ てい るが2・4),実 際上は

一致 しないことも多 く12』20).RPに より診断 す るこ

とになる.手 術的に破裂部位を確認 した場 合だけを破

裂 とする意見や5),RP上 破裂と診 断 したが開腹する

と裂孔 を認め なか った報告など もあ るが6),RP上 腎

孟か らの漏 出を確認 したな ら破裂 として治療 をすべ き

と考える.

尿路外への尿 自然溢流は比較的稀な現象 とされ てき

たが,Cooke7)に よれぽ16,574例 のIVP中14例

(0.1%)に 溢流を認めたと し,Bernardino8)は 腎痛

痛発作12時 間以内に撮影 したIVPの17%に 溢流 を認

めた としてお り,確 認 され る機会は少ないが,軽 症の

ものは少なか らず起 こっている可能性 もある.

原疾患はTwersky9),Kahnlo)ら の報告に よれば

結石が 最多 だ った とされ,本 邦報 告 例と して は,黒

川5)に よれば,溢 流69例 中,結 石30例,腫 瘍12例,破

裂14例 中,水 腎症5例,結 石3例,腫 瘍4例 であ った.

われわれ も最近の本邦報告 例を集計 してみたが1982

年以降溢流30例,破 裂9例 が 報告 され ている3・5・6・11-24)

(Table1).年 齢は広範囲にわた り,溢 流は男性,左

側に多い傾 向が うかがえる.原 疾患は,溢 流では半数

が尿管結石 で,悪 性腫瘍の後腹膜浸潤に よる尿管通過

障害がついでいる.腫 瘍の内訳は,子 宮癌2例,直 腸

癌2例,結 腸癌2例,前 立腺癌2例 であ った.そ のほ

かの特異 な例 としては,神 経 因性膀胱に よる尿閉1例,

睾丸腫瘍の化学療法中の利 尿が1例 報告 されている20).

1770 泌尿紀要35巻10号1989年

Tab且e1.最 近 の 本 邦 報告 例(1982年 以 降)

自然腎孟外溢流 腎孟 自然破裂

症例数

年 齢

男:女

左:右

原疾息

結 石

腫 瘍

永腎症

その他

30

26-80

(平 均5臓)

19:11

20:10

14

8

0

8

9

4f-69

(平 均59歳)

4:5

5:4

2

3

3

1

破裂は,尿 管結石,腎 孟結石,胃 癌,膀 胱癌,直 腸癌

が1例 ずつ,そ の他 として子宮筋腫手術中の尿管結紮

が1例 と,様 々であ った.

治療 としては,尿 路 閉塞 に対する処置,溢 流 した尿

に対す る処置,お よび原疾患に対する処置が あ り様 々

な方法が選択 されている.小 結石に よる溢流は抗生剤

投与 のみで経過をみたとい う自然治癒 もしくは尿管 カ

テーテル留置な どで十分な ことが多 く,溢 流の治療 の

約半数を 占めている.直 径5mm以 上にな る と手術

を施行 している場合 もあるが,溢 流が中等度以下な ら

ば,保 存的にみて,2～3日 で治癒す ることが多い と

されて いる5)わ れわれの経験 した2例 の溢流では尿

管 カテーテルを留置 したが抜去後数 日で結石を 自排 し

てお り,カ テーテル留置は 自排 を促進す る可能性 も考

えられ る.破 裂においては,約 半数に外科的処置が講

じられ腎摘 となることもあ り,開 創治療の対象 となる

ことが多い.し か しなが ら,自 験例においては尿貯留

腫形成 を伴 う破裂例であ った にもかかわ らず経皮腎懐

のみで再 吸収 され,さ らに,粘 り強い治療 に よ り,腎

疲抜去の うえ腎保存 がで きた.外 科的処置を講ず るか

保存的処置を行な うかの鑑別は重要で,個 別に判断 さ

れ るべ きものであるが,自 験例はいずれ も保存的対処

が効を奏す る結果 とな った.

結 語

尿管結石に よる腎孟外 自然溢流の2例 と,膀 胱腫瘍

による腎孟 自然破裂 の1例 を若干の文献的 考察 を加 え

報 告 した.

文 献

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徳 男:自 然 腎孟 外 溢 流 の1例,西 日泌 尿48:937-

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(1989年1月26日 受 付)