19
(92) 企業救済の社会的効率性 一債権の絶対優先順位からの逸脱の経済的意味一 1 はじめに バブル経済の崩壊で棄損した銀行の自己資本を補強するために・公的箕金 の導入が図られた.この公的資金の導入を行うに当たって,それが銀行によ って不振企業への債権放棄として利用され再建の見込みのない企業の延命策 に通じるのではないか,という批判があった.また,企業の過剰債務を解消 するために,企業の負債の一部を株式と交換するデッド・エクイティ・スワ ップを積極的に活用できる環境の導入が議論された際にも,安易な負債の株 式化は企業のモラルハザードを招くのではないかという意見もあうた.その 様な銀行による債権放棄や,債務の株式化は,契約時に高い煩位での弁済の 確保を定めた当初の負債契約とは一見明らかに矛盾する.ただし,債務者と 債権者間での事後的な交渉の結果,返済すべき負債の額が減額されるという 現象は決して珍しいことではない.例えば,米国においては,Chapter11 とChapter7というそれぞれ再建型,清算型の法律が存在し,再建型の倒 産処理法案であるChapter11の下,絶対優先順位からの逸脱という現象が 頻繁に観察されている.また,日本においても,従来からメインバンクによ る負債の劣後化や債権放棄と言う形での優先関係の順位変更及びそれによる 企業の再建措置はたびたび行われている、 ここで問題となるのは,その様に事後的に債権債務関係の調整をして行わ れる企業救済は,どの様な社会的合理性を持っているのか,言い換えると, 「第一弁済順位にあるものから返済が行われ,上位の弁済順位にある請求権 650

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(92)

   企業救済の社会的効率性

一債権の絶対優先順位からの逸脱の経済的意味一

松 本 訓 一

1 はじめに

 バブル経済の崩壊で棄損した銀行の自己資本を補強するために・公的箕金

の導入が図られた.この公的資金の導入を行うに当たって,それが銀行によ

って不振企業への債権放棄として利用され再建の見込みのない企業の延命策

に通じるのではないか,という批判があった.また,企業の過剰債務を解消

するために,企業の負債の一部を株式と交換するデッド・エクイティ・スワ

ップを積極的に活用できる環境の導入が議論された際にも,安易な負債の株

式化は企業のモラルハザードを招くのではないかという意見もあうた.その

様な銀行による債権放棄や,債務の株式化は,契約時に高い煩位での弁済の

確保を定めた当初の負債契約とは一見明らかに矛盾する.ただし,債務者と

債権者間での事後的な交渉の結果,返済すべき負債の額が減額されるという

現象は決して珍しいことではない.例えば,米国においては,Chapter11

とChapter7というそれぞれ再建型,清算型の法律が存在し,再建型の倒

産処理法案であるChapter11の下,絶対優先順位からの逸脱という現象が

頻繁に観察されている.また,日本においても,従来からメインバンクによ

る負債の劣後化や債権放棄と言う形での優先関係の順位変更及びそれによる

企業の再建措置はたびたび行われている、

 ここで問題となるのは,その様に事後的に債権債務関係の調整をして行わ

れる企業救済は,どの様な社会的合理性を持っているのか,言い換えると,

「第一弁済順位にあるものから返済が行われ,上位の弁済順位にある請求権

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            企業救済の社会的効率性           (93)

への債務が完済されない場合には,それより下位にある請求権への支払いが

なされない」という絶対優先順位の原則(Abso1utePriority Rule,以下

APR)からの逸脱が果たしてどの様な経済的意味を持;ているのかという

ことである.本稿では,APRからの逸脱によって,債務者に私的情報を積

極的に開示する誘因が与えられることを述べる.目本あるいは米国のいずれ

においても・企業の破綻処理は,債権者・債務者問の私的整理の方法が最初

は模索されるのが通常である.しかし,その場合であっても,私的整理の交

渉不成立時における現状維持点(StatuS-quo point)である倒産法の持つ影

響は大きく,倒産法で与えられた権利の強弱が彼らの事後的な利得に大きな

影響を及ぼしていると考えられる.そのため,本稿では,企業の破綻処理に

関する法律がどの様にあるべきかという視点ボら上述の間題を扱うことにす

る.

 また・こういったAPRふらの逸脱という現象を巡っては,今のところ賛

否両論が存在する.例えぱ,APRの遵守の正当性を述べた議論として,

Townsend(1979)など1)は,事後的に生じた企業の収益が債権者と企業家

との問で情報非対称的で,債権者が企業の私的情報を知るためには監査費用

がかかる状況をモデル化した.彼らはその様な状況で最適な契約としていわ

ゆる負債契約を導出し,その負債契約の下ではある一定の負債の表面価格を

企業経営者が支払えない場合には,企業の収益をすべて投資家に譲渡する

(APRの厳守)のが、死重的損失である監査費用を最小化し,効率的である

と述べた.また,Longhofer(1997)は,同じフレームワークで,APRか

らの逸脱は,事後的に債権者の収益を低下させるために負債の金利の上昇を

招き・正のNPVを持つ投資が信用割当によづて排除されてしまうために,

常に望ましくないことを説明している.逆に,APRからの逸脱を正当化す

る主張も見られる.例支ぱ,Berkovith,Isra1eandZender(1998)は,

APRからの逸脱が認められない場合には,企業家が行う努力がふ業家の取

り分に十分反映されず何ももらえない(企業を清算したら,それまで企業家

が行うてきた埋没費用を企業家が回収できない)可能性があるため,企業家

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(94)   一橋論叢 第124巻’第5号 平成12年(2000年)11月号

による事前の経営努力が過小供給になる可能性があることを指摘した。そし

てAPRからの逸脱が行われるならば,企業家のサンクされた投資が保護さ

れる二とになり,企業家の努力水準を高めて,そもそも倒産の発生確率を低

下させて事前的な効率性を改善すると述べている.また,HeinkelandZech-

ner(1993)は,企業が財務的困窮に陥った場合には企業経営者がどれほど

努カをしても負債を返済し得ないといった状況を想定し・APRからの逸脱

が行われない場合には,一度経営の悪化した企業の経営者は収益を高めるた

めの事後的な努力を一切放棄してしまうという可能性を考えた.この場合,

APRからの逸脱が行われることによづて,経営者に正の利得を保証するこ・

とで,たとえ経営状態が悪化しても経営者の努力を引き出すことが可能とな

るのである.

 本稿では,事後的に資産代替の可能性のある環境で,企業経営者が,企業

の経営状態に関して事後的に生じた内部情報を債権者と共有し,プロジェク

トの選択も合めた社会的に効率的な意志決定を行う誘因を与えるという点で,

APRからの逸脱が有効であることを述べ.また,それが正当化されるか否

かは,債権者及び裁判所の情報処理能力に依存することを示す.一般的に,

情報が非対称的である場合,逆選択,努力の過小供給などのモラルハザード,

資産代替といった間題が発生しうると認識されているが,本稿の意義は,事

後的な資産代替の問題に着目し,APRからの逸脱,または。企業救済の可

能性によってもたらされる事前的な便益を明らかにした点に特徴がある。

 2節では,モデノレの基本構造を述べる.3節では,そのモデルについての

考察を行う.そこでは,事前的には情報が対称であるが,事後的に情報の非

対称性が発生しうる時に,企業の側に資産代替の誘因が生じうる状況を考え

ている.その場合,企業経営者に生じた私的情報が,企業の投資の選択に大

きな意味を持つなら,その情報を活用することに対する報酬として,債権者

から債務者への所得移転が必要となり,それがAPRからの逸脱の経済的な

便益であることを述べる.また,第4節で債権者によるモニタリングの影響

について考える.経営者の私的情報を活用するためにAPRからの逸脱が望

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            企業救済の社会的効率性    ・      (95)

ましいか否かというのは,返済額の滅免を望み出た企業を,債権者がどの程

度識別できるかという能カに依存するかもしれない.最後に,本稿のモデル

と現実との対応について考えて終わりにする.

2 モデルの概略

 0・1・2時点からなるモデルを考える.O期において,オーナー企業の経

営者は・彼が保有するプロジェクトを実行するために,外部の投資家から1

だけの資金調達を負債によって行う.このプロジェクトは,1期において実

現する企業の経営状態及び企業経営者の選択の意恩決定によって収益性が影

響される.なお,投資の収益は,2期において実現し,経営者投資家との間

で・当初の契約あるいは法制度に基づいて行われる負債の再交渉によって新

たに決められた契約にしたがうて,利得の配分が行われる.

 1期で実現する経営状態は,θ∈{θ1、θ21の2種類ある.投資のプロジェク

トは・この経営状態が収益性(θ1>θ2)を決定するが,それぞれが実現する

確率はα,β(但しα十β=1)である.なお,その状態の実現値は,債権者

が直接観察することが出来ず,経営者の私的情報であるとする.また,プロ

ジェクトは・経営者が1期で行う意思決定によっても異なった性質を持つ、

つまり,経営者は,将来返済すべき負債額と実現したプロジェクトの収益性

を考慮し,プロジェクトをNPVが高く安全性の高いもの,あるいは,NPV

は低いが成功した場合にはより高い収益が見込めるリスクの高いものにプロ

ジェクトの性質を変更できるものとする.前者を,タイプaの性質のプロ

ジェクト,後者をタイプbのプロジェクトと呼ぶことにする.

 具体的には・プロジェクトのタイプaという性質は,状態1(θ、),2(θ、)の

いずれであっても選択可能で,R+θ,(ただし,{:1,2)の収益をもたらす.こ

れは状態1及び2のいずれであうても投下資本1よりも大きいとする(1~十θ、

>1,R+θ2>1).また,状態2が生じた場合に限り,1/2の確率でR+θ、十θ

(単純化のためR+θ1と等しいとする)を,1/2の確率でR+θ,一3θ(〉0)の

収益をもたらすプロジェクトの性質タイプBというのを経営者は選択可能

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(96)   一橋論叢 第124巻 第5号 平成12年(2000年)11月号

であるとする.したがって,債権者がプロジェクトの性質がタイプbとい

うのを選んだ場合,期待収益がR+θ2一θとなるが。その値はR+θrθ〈1

とする.

 また,1期において,企業経営者は,企業の継続に関する意思決定を行

う2〕.つまり,企業の経営をそのままr継統」(すなわち・既存の経営者が

企業経営を継続しプロジェクトの性質を選択する)するか,「再建」型の倒

産法を申請するか選択する.企業がr再建」型の倒産を申告した場合には・

裁判所・債権者による企業の経営状態θ、についての調査を経て,返済すべ

き負債の再調整が行われる.この負債の再調整は,当初定められた負債より

も少ない返済額を要求するものであるかもしれないし(APRからの逸脱),

あるいは当初の約束を再確認して厳密に負債の返済を要求するものであるか

もしれない(厳密なAPRの遵守).また,企業経営者が嘘の情報を言って

倒産処理の中し立てをし,それを債権者及び裁判所が調査によって確認し得

た場合には,企業経営者は虚偽の報告に対するペナルティとして解雇される

とする3).

 2期は,企業がr継続」あるいはr再建型」の倒産法を申告した時の・利

益の分配期である.ここでは,当初の衰約あるいは2期で再調整された契約

に基づいての支払いが企業家から債権者に行われることになる.

 なお投資のプロジェクトの収益は,企業経営者の能力に依存する部分

(R)と純粋に外的な要因(θ)からなっていると解釈する.例えば・企業の

ビジネスが当該経営者の人望や特殊技術な・どに依存する場合・彼と同等のプ

ロジェクトが実行可能である企業経営者を,経営者市場で代替するのは困難

な状況というのが考えられるであろう.その場合,経営者の能力に依存する

収益Rは,企業経営者が企業から放逐された場合には実現されることのな

い収益である.

 最後に,債権者と企業経営者とは,それぞれリスク中立的であるとする.

幸た,リスクフリーな市場利子率は単純化のためOとする一また・0期で約

束した2期に返済されるべき負債の額面を1〕とする.

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○期

資金蘭達投資を実行

企業救済の社会的効率性

    図1    1期

   C0θ’\lllllllll

θ里         ypea R+θ,

      CO

RE t…bくlll1二。

2期

収益の実現利益の配分

(97)

                  ype日   R+θ2

 以上の状況を,「継続」を「C0」。「再建型の倒産法」を「R五」として状

況を図示すると図1のようになり・以下では,債権者の収支が均等し(bre.

ak-even)し,企業経営者の効用を最大化するような倒産処理メカニズムを

考えることになる.

       3企業経営者の意思決定と負債の表面価格

・企業の意思決定

 ここでは,まず企業経営者が倒産を申告すると,裁判所・債権者が企業の

経営状態について完全に釦りうる場合に,企業経営者の1期時点における意

恩決定と負債の表面価格との関係について考察する.企業の経営状態の指標

であるθは経営者のみにしか観察されない変数であり,債権者は,何らか

の法的アクションを取るのに十分なだけの,企業の経営状態についての情報

を積極的に獲得することが出来ない.そのため,企業が倒産を中告するか否

かと言う決定は,経営者の自発的な判断によらざるを得ない.したがって,

どの様な状態が実現したのか,そもそも負債の表面価格がどの様なものであ

ったのか,また,倒産を申告したときにどの様に利得の配分が行われるのか

という3点が・経営者の判断に影響を及ぼすので重要である.

 まずは・企業が倒産を申告し裁判所債権者がθの値を知ったとしても,

債権債務の調整が行われない,すなわち,当初締結した負債の表面価格D

                                655

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(98)   一橋論叢 第124巻 第5号 平成12年(2000年)11月号

に基づいて利得の配分が行われる場合に,企業経営者が行う意思決定問題に

ついて考えてみよう.経営者の意思決定が問題となるのは状態2が生じた時

であるが,彼は投資のNPyの大小ではなく,債権者に返済をした後に手元

に残る額を考慮してプロジェクトの性質を決定する。つまり,タイプaの

投資を選んだときの1期時点における企業家の期待収益Max{R+θ2-nO}

ll/プ・を選んだ1きの去…1・・1…一州・去…1・・1ゾ・1

一D,O}を比較してプロジェクトを選択する.したがって,経営者がプロジ

ェクトの選択に関して無差別になるのはDが刀:R+θ2一θという場合であ

り,1)がその値よりも大きければ,企業経営者はプロジェクトbを選好す

る誘因を持つことになる.ここで1~十θ、一2は,プロジェクトbの期待収益

と等しい値となっており,これは1よりも小さいと仮定されていたから・負

債の表面価格がそれ以下になるということはあり得ない。そのため,状態2

が生じたときに企業経営者の利得は社会的には望ましくないプロジェクトb

を選んだ方が利得が高く,彼はプロジェクトbを選ぶという資産代替の問

題が生じうることになる.

 同様に,APRからの乖離が見られる場合には,当初の負債の表面価格1)

を再交渉し新たに決められた返済すべき額の下で・経営者にどれだけの利得

が与えられるかによってプロジェクトに関する意思決定が行われる・

・負債の表面価格の決定

 上では,負債の価格と企業の経営状態及びプロジェクトの性質によって・

企業経営者のインセンティブが影響を受けることを述べた.ここでは,

APRからの逸脱がある場合と無い場合の負債の表面価格を求め,また,そ

の時の社会厚生について議論する.

厳密なAPRの遵守

 APRが厳密に適用されるとしよう.企業経営者は,倒産を申告しても,

返済すべき負債の額が減免されるわけではないので,状態1及び状態2のい

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企業救済の社会的効率性 (99)

ずれにおいても,企業の「継続」が選ぱれるであろう.すなわち,負債の表

面価格はD〉R+θ2一θであるから,θ1の企業家は企業を継続し,θ2の経営

者は起死回生のチャンスをものにするために継続を選んでタイプbの投資

を選ぶ.したがって,債権者は,企業家がθ2であるなら,1/2の確率でプ

ロジェクトが成功し1)を,1/2の確率でプロジェクトが失敗しR+θ2-3召を

得ることになる.このとき,負債の表面価格は,

α・i仰・θll・βG・i仰・θ。・1l・去・i仰・θ。一・・1)

   =1                        (1)

を満たすようにDが決定される4).

 したがって,

             1一(1/2)β(R+θ2-32)          D=                 (2)               α十(1/2)β

となる.厳密なAPRにしたがった場合には,状態2においてNPVの低い

投資案を実行するという経営者の誘因を解消し得ないため,非効率性が生じ

ることになる.

APRからの逸脱が許されている場合

 再建型の倒産をθ2の企業が申告し,それを裁判所・債権者が確認し得た

場合には,APRからの逸脱が認められるとしよう5).その乖離の幅をXで

表す.このとき,θ2の企業経営者は,APRからの逸脱が生じることによっ

て生じる債務の滅少(利得の上昇X)を考慮に入れて,継続してタイプb

を選ぶか,再建型の倒産を申告し債権者・裁判所の観察の下,安全な投資を

選ぶかという意思決定を1期に行うことになる6).Xが十分大きい場合には,

企業経営者は,危険な投資を選択して,それが成功し3期に収益を得ること

が出来るという可能性に賭けるよりも,再建型の倒産処理を申告し債権者と

同意の上で安全な投資を選択するとともに,Xの利得を確保するのが好ま

しくなるであろう.この場合,1)は次のように決定される.

657

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(1OO)  一橋論叢 第124巻 第5号 平成12年(2000年)11月号

       αMin{。0,1~十θ1}十βMinlD-XR+θ21=1    (3)

 ここでXの値について考えてみよう.Xは,θ2の経営者が,自ら企業の.

経営状態を正直に申告するのに必要な債権者から経営者への移転である.こ

の様な移転が,意味を持つためには,企業の経営者にXを与えることで,

彼に適切な誘因を生み出す物である必要があるだろう.言い換えると,企業

の経営状態がθ2である時に,確かに経営者が申告する誘因を持つためには,

経営者にとって,再建型の倒産処理を申告したときの利得が,それをせずに

企業を継続し危険な投資を行うた場合の利得と比べて,少なくともそれ以上

になっていなければならない.経営者が,r再建型」の倒産法を中請し安全な

投資を行った時の利得はMax{R+θ2一(D-X),Olである.当初の負債の額

面Dの下で経営者が「継続」を選び危険な投資を行った場合の彼の利得は1            1TM・・{R+θ・十・■州十了M・・{R+θ・一3θ一州であるから・

                 1     M・・{R+θゾ(D-X)・O}〉万M・・{R+θ・十θ■州

        1       +万M・・{R+θr3・一以0}

となっている必要カミある.ここで左辺は正,右辺は第一項が正,第二項がO

となる7〕ので,結局,

       R+θ。一(D-X)≧(1/2)(R+θ。十θ一1))

をXが満たしていなけれぱならない.

 したがうて,Xの値が,θ2の経営者の1期における意思決定に関して,

                             1継続と再建型倒産処理との申告でちょうど無差別になるようなX=τ(D+θ

一1~一θ2)であるとしよう8).

 これを(3)式を整理した9),

                1+βX             1)=             (4)                α十β

に代入すると,

             1一(1/2)β(R+θ2一θ)          D=                (5)               α十(1/2)β

658

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            企業救済の社会的効率性           (lo1)

がAPRからの逸脱が行われる場合のDの値となる.

 ここで,厳密にAPRが厳守される場合と,APRからの逸脱が可能であ

る場合についての比較を行おう.ここでそれぞれの場含のDの値に注目し

てみる。これは,企業が0期において発行する負債の表面価格であるが,前

述の2式を比べると

       1一(1/2)β(R+θ2-3θ)  1一(1/2)β(R+θ2一θ)

         α・(1/2)β > α・(1/2)β  (6)

という関係が成り立っている.APRからの逸脱が行われた方が,当初の負

債あ表面価格であるDの値が小さくなっているのがわかる.Franksand

Torous(1989)は,Mertoh(1974)による危険負債の価格決定モデルを用

いて・APRからの逸脱をもたらすChapter11が存在する時としない時で

は,APRからの逸脱が行われる時の方が,負債の表面価格が高くなると言

うことを述べている.しかし,本稿のモデルでは,APRからの乖離が可能

な方が・逆に負債の表面価格の低下をもたらす形になっている.本稿でこの

様な議論が導かれたのは,状態2が生じた場合には,先程述べたように当初

の負債価格の下では事後的に資産代替が発生する可能性があるためである.

事後的に生じる資産代替の誘因を解消するためには,債権者から企業経営者

への補填が必要となり,APRからの逸脱は,そのための手段と考えられる.

もちろんその様な負衝の支払額の変更は,当初の負債の表面価格に織り込ま

れることになり,負債の額面(X↑⇒1)↑)を増加させる効果を持つ.ただ

し,本稿での環境においては,APRからの逸脱によるそのような負債の表

面価格の上昇分は,事後的な資産代替の可能性を低下させることによる表面

価格の下落分(プロジェクトbからプロジェクトaへ⇒D↓)に吸収・凌駕

され,結果として,企業はより低い価格での資金調達が可能となるのである.

また,実際,債務者のO期時点における期待利益を考えると,APRからの

逸脱が無い場合には,それがある場合と比べて,タイプbのプロジェクト

が実施される可能性がある分だけ,株価(経営者の期待利得)を通じて,事

後の社会厚生水準のみならず事前の社会厚生宇βθだけ低下させてしまうこ

659

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(102)   一橋論叢 第124巻 第5号 平成12年(2000年)11月号

とも容易に確かめられよう.

 もっとも,状態1と状態2のそれぞれの状態に応じて,債務者から債権者

への支払額の変更が可能(すなわちAPRからの逸脱が可能)であり・それ

が契約締結当事者同士の合意の下に可能であるなら,法律によって倒産した

債務者を保護する必要はないと考えられるかもしれない.しかし・その様な・

債権債務の調整が事後的に実行可能であるとは限らない.すなわち,経営者

が1期において生じた状態が2であることを正直に申告した場合(私的に再

建処理を中し出た場合),債権者は当初の負債の減額を認めずに,企業に対

しタイプaのプロジェクトを強制しようとする誘因を持つかもしれない。

この時,企業経営者は1期で債権者に経営状態に関するパラメータを申告し

ても,結局は当初の負債の返済を要求されるので,企業経営者は自ら状態2

であると申告しないであろうm).米国のChapter11でしばしばAPRから

の逸脱が観察されるのは,外生的に与えられた法律において債務者の保護を

与えることによって,債権者によるコミットメントの手段を提供していると

解釈できるかもしれない.

4倒産申告後に債権者(及び裁判所)が正確には情報を知り得ないケース

 二れまでは,経営者が企業に生じた経営状態を申告すれば,債権者もその

生じた状態を正確に認識できる考えてきた.しかし,債権債務の総額の確定

や資産価値の検査などに大きな費用がかかるなら,正確な惰報を伝達するの

は不可能であり,企業が再建型の倒産を申告したとしても,債権者が得る情

報は不確実なものとなるのが一般的であろう.

 そのため,次に,企業が倒産型の処理を申告したとしても,債権者が倒産

を申告した企業のθ、を確実に確かめられるのは確率的にγの割含でしかな

く,(1-7)の確率で債権者は判断できないとしよう.その様に経営者と債

権者の情報伝達能力が限定されると,これまでの状況に加えて次のような問

題が発生する.すなわち,状態2の企業経営者になされるAPRからの逸脱

による債務の削減を狙って,状態1が生じた企業の経営者が,本来なら倒産

660

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            企業救済の社会的効率性           (103)

法を申請すべきではないにも関わらず債権者の譲歩狙うて倒産を申請すると

いう可能性である(strategic default).

 ここで,状態1が生じたときに,企業経営者が瞳の情報を申告しており,

それを債権者及び裁判所が確認し得た場合には,企業経営者は虚偽の報告に

対するベナルティとして解雇されるので,その場合、企業に固有な部分に関

する収益Rの価値が損なわれるll).

 まずは,企業経営者の誘因の問題について考えよう.自然の状態1が生じ

たときに,企業経営者が状態2が生じたという嘘の誘因を申告しないために

は,企業活動を継続した方が負債の減額を求めて再建型の倒産を申請した方

が望ましいという次の条件が満たされる必要がある(strategicdefau1tが

行われないための条件).

        R+θrD≧(1一γ)(R+θ1一(D-X))   (7)

 逆に,自然の状態2が生じたときには,企業経営者が企業活動を継続して

プロジェクトbを選ぶのではなく,APRからの逸脱を求めて倒産を申請し

プロジェクトaを選ぶためには,次の条件が必要となる(資産代替が行わ

れないための条件).

                 1         R+θ・■(D■X)≧万(R・θ・・θ一D)  (8)

 負債の表面価格Dと企業が倒産処理を中告した場合のAPRからの逸脱額

Xが・同時にこの2式12)を満たし得るなら,状態1が生じた場合には企業

活動を継続し,状態2が生じた場合には再建型の倒産処理を申請してプロジ

ェクトaが選ぱれファーストベストが達成されることになる.また,この

時の債権者の期待収益は前節と同じくα1)十β(1)一X)=1であり,表面価格

・は・一暗と脇この・を(・)式11代入する1,…からの逸

脱額Xが

     1R+θ1一    α十β       (=λ)≧X(α妾蒜β)

(9)

661

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(104)   一橋論叢 第124巻 第5号 平成12年(2000年)11月号

 また,(8)式に代入して

             1               +グ1~一θ2          X≧α十β    (=B)      (1O)              2一β                α十β

である場合に,(7)と(8)が同時に満たされる.すなわちλ≧3であることが・

この様なDとXの組み合わせが可能であるための条件となる・ここでλと

Bとの大小関係にについてであるが,λは債務者による嘘を債権者(及び裁

判所)がどの程度見破れるかという能力γの単調増加関数になっている。極

端なケースとして,γが1の時は,申告をすれば完全に債権者が企業の経営

状態についての情報を得るという以前の議論と同じになり,γがOの時は,

嘘の申告をしても全く見破れない場合となる.後者の場合には,債権者は企

業経営の状態がどちらであるのか全く知ることができないので倒産を申請し

たすべての経営者に同一の返済を求めざるを得ない.この場合には,当初の

負債の表面価格と返済を求めるべき負債額が異ならないと考えられるから,

                                 ‡APRからの逸脱は行われえない.また,λと8を等しくするようなγを7

とすると,γ≧〆であるなら,言い換えると,企業経営者が倒産を申告した

ときに,そのタイプを債権者及び債権者が正確に見抜ける確率が十分高いな

ら,λ≧Bとなり,状態1が生じたときには正直に企業経営者に「継続」を

選ぶ誘因を与え,状態2が生じたときには再建型の倒産を申皆させてタイプ

aのプロジェクトを選ぱせるような1)とXが存在することになる.

 次に,γ<γ*のケースについて考えよう.この場合,λ<3であるので,

企業経営者に状態1及び2の両方で適切な誘因を与えるような,DとXの

組み合わせは存在し得ないことになる.そのため,倒産法に織り込まれた

様々な条項によって生じうる絶対優先順位からの逸脱額Xが(1)X<λ<B,

(2)λ≦X≦B,(3)λ<B<Xとなる3通りのパターンが考えられ,その様な

Xを所与としてそれぞれのケースで債権者の期待収益をブレイク・イーブ

ンするようなDという契約が結ばれることになろう.そこで,Xが(1)か

ら(3)のそれぞれの範囲にある場合の社会的なコストについて考えてみる.

662

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            企業救済の社会的効率性           (105)

 (1)においては,xがλ及びBよりも共に小であるため,1期において状

態1が生じた企業は,債権の譲歩を求めて債権者と交渉,あるいは,倒産法

の申請といった行為を行う誘因が押さえられるものの,状態2が生じた企業

はタイプbのプロジェクトを選んでしまう.従って,この場合の,社会的

なコストは,企業の状態が2となる確率βにタイプbが選ばれることによ

る投資価値の減少分θをかけた・βθがそのコストになる.(3)においては,

これとは逆に・状態2が生じた企業には適切な誘因が与えられるものの,状

態1が生じた企業へ状態2の企業のように返済額の返済を求める誘因が生じ

る.この場合の社会的コストは,企業の状態が1となる確率αに経営者が

解雇される確率,またそれによって失われる経営者固有の生産性Rをカ、け

たα㍑となる13)・(2)の場合には,状態1及ぴ状態2のいずれの場合であ

っても不適切な誘因を企業経営者に与えるため,社会的費用はα柵十βθと

なり,もっとも望ましくない.したがって,債権者をブレイク・イーブンし

っつ,βθとα炊という費用を比較して,α柵の方が小さい場合は,3〈X

(情報伝達が不正確でもAPRからの逸脱が行われる)が,βθの方が小さい

場合にはX<λが(この場合X=Oでよく,すなわちAPRからの逸脱は必

要ない)望ましい.企業が再建型の倒産処理を申告した場合に与えられるべ

きXは,それらの社会的コストとの兼ね合いでどれほどであるべきかとい

うことが決定されることになる.

              5終わりに

 本稿では・APRからの逸脱が債権者と債務者との間の事後的な情報の非

対称性を解消するための誘因を与え,その誘因効果が生かされるためには,

倒産企業に関する情報をどれほどの精度で債権者・裁判所が知りうるカ、とい

うことが重要であると考えた.これは,日本における銀行の企業救済が,何

故上場企業などの大企業に多く,中小の企業の場合にはそうでないと考えら

れるのかと言うことを次のように説明できる.

・APRを無視した企業救済が効率的であるのは,企業が倒産を申告したと

                                663

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(106)   一橋論叢 第124巻 第5号 平成12年(2000年)11月号

きに裁判所・債権者がある程度正確に企業の経済状態を把握できなければな

らない.そのためには,倒産企業を取り巻く様々な状況を理解し,また,企

業の経済的な財務内容の調査が必要となろうが,これらの情報獲得活動には

費用がかかるであろう.上場企業などの場合には,企業が危機的な状況に面

する以前から有価証券報告書など様々な形での情報の公開をもとめられたり,

あるいは,それらの情報を利用して形成される株価の動向などから,銀行や

裁判所が企業の情報にアクセスするのは比較的容易であると考えられる.そ

のため,個人経営などの中小企業などに比べて,上場企業などの大企苧に関

する惰報獲得費用に規模の経済が働く可能性がある.だとすると,大企業に

関しては本来健全な企業が,負債の滅免を求めるために債権者に私的に債権

の滅免を求めたり裁判所に債権型の倒産を申告したりするという誘因を押さ

えつつ,負債の返済額が過大であるために危険な投資案を選択しようとする

企業にはAPRからの逸脱を許容するような債権の滅免という行為が合理的

な理由を持ウていると考えられる14〕.逆に,・情報獲得のための費用が規模の

わりには大きい中小企業などでは、その様な傾向は小さくなづている可能性

があり,また,中小企業の中でも収益にしめる経営者の企業特殊能力の貢献

分が小さい企業は厳密なAPRが守られ,それが大きい企業については

APRからの逸脱が許されるのが望ましいといえよう15)、したがって,大規

模な株式会社は強い拘束力を持って再建処理を可能とする会社更生法・非公

開の中小企業向けには債権者債務者問での自治性が強く白由度の高い和議法

と言うように,規模に応じて利用可能な手段が法的に用意されていることは,

理に適っているといえよう.ただし、その場合であっても。経営陣の退任を

強制する等厳しいペナルティを持つ会社更生法を米国のChapter11の様に

債務者保護の性格をより強いものとしたり・また・従来和議法の下では・和

議の弁済計画を債権者・債務者が話し合づて取り決めてもそれが一度認可さ

れると裁判所の監視を離れるため,計画の履行が確保されなかった等の間題

一.気が指摘されていたたが,民事再生法の導入あるいは今後日本の倒産諸法を

見直すにあたっては体系としてのトータルな制度の調整が必要であろう・

 664

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             企業救済の社会的効率性          (107)

 また・米国では・再建型倒産処理法であるChapter11にある様々な条項

が債務者に強い権利を与え,APRからの逸脱が生じていると言われている.

米国においては,倒産後の企業についてもその債権が厚みのある市場(ディ

ストレス証券市場)で取り引きされ,一般的な機関投資家に加えてその市場

専門の投資ファンドも存在する16〕.その様なディストレス証券市場が成立す

るためには,破綻後の企業についての情報への投資家のアクセシビリティが

必要となる.日本とは異なり,米国では裁判所の手続き過程において様々な

情報が開示され,倒産企業の債券の売買が行われるための環境が整ってい

る17)・逆に・裁判過程で開示された情報は,破綻企業の債権の価格に市場と

いうフィルターを通じて集約され,その債券の価格や取引動向は,裁判所や

既存債権者が低コストで企業の経済状態を判断する際に極めて有効なものと

考えられる・そういった事情から・米国では債務者保護の色彩の強いChap-

ter11と整合的な環境が整備されており,目本に卸・ても民事再生法の施行

など企業の再建を容易にするための環境整備が行われている折,裁判過程に

おける情報の開示など,参考にすべき点が多々あるように恩われる.

 もっとも,本稿の議論では,企業の経営状態がどうなるのかということに

ついては,貸出契約締結時点では企業経営者が操作し得無いと仮定していた.

しかし,企業経営者は,将来生じうる白体を完全にはコントロールできない

ものの・経営努力などを通じてある程度は操作できるかもしれず,APRか

らの逸脱がその経営努力にどの様な影響を与えるえるかについては今後の検

討課題としたい、

              参考文献

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(108)   一橋論叢 第124巻 第5号 平成12年(2000年)11月号

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  ofSeniority”丁加Rω{刎o∫F伽口ηc伽S〃肋∫

1)同様の議論としてGa1e and He1lwig(1985)やWinton(1995)。

2) 1期では,負債の満期が到来していないので,負債のデフォルトが生じてい

るわけではない.ここで考えている倒産とは,現行の債権債務関係を維持した場

合に,将来著しく経済的なロスが生じる可能性がある場合である.民事再生法

(要項については(http:〃www,moj.go.jp/PRESS/990826-2-htm),会社整理,

会社更生法の下では,将来破産する可能性があったり・支払不能に陥る見込みが

ある場合であっても手続き開始の中し立ての要件となるため,倒産をこの様に解

釈しても特に問題はたい.また,米国のChapter11では・そもそも申し立ての

要件が必要ない.ただし,日本の現行の和議法では,実際に債務超過に陥ってい

ること,あるいは,満期の到来した負債に対しての支払いが行い得ない場合に限

られている.そのため,極端に経営が悪化してから初めて申し立ての要件を満た

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           企業救済の社会的効率性           (109〕

すことになり。再建をしようにもすでに「手遅れ」となっていることが多いとい

われている一前述の民事再生法の目的の一つは,この点を改善しようとするもの

である.

3) また・資金調達がなされ企業のプロジェクトが開始されることの期待利益は,

状態2が生じた場合に経営者が危険なプ目ジェクトを選んでも金体として正であ

るとする.すなわち,α(R+θ1)十β(R+θゾ2)〉1.

・)(1)式はα・・仲・古(糾θ。一・・))一1と書き換えられる.・・糾θ、一地

 は本文中の仮定より明らかであるし,また,D≦R+θ1,刀≦R+θ2+θも本文中

 の仮定及ぴ注3のα(沢十θI)十β(R+θ2-8)〉1という条件よりもとまる.

5) ここでは1企業経営者は再建型の倒産処理法を利用する際に,債権者,及ぴ

 裁判所に,経営状態を嘘偽り無く申告し,また申告された値が正しいことは債権

 者・裁判所も確実に観察できると仮定していた.

6) 図1で・状態θ2が生じた企業の選択肢としてrC0+タイプa」rC0+タイ

 プb」rRE(十タイプa)」という3通りの選択肢があるのがわかる、ただし,

 APRからの逸脱の可能性がある場合rC0+タイプa」という選択はrR万(十

 タイプa)」に支配されるので,rC0+タイプb」とrRE(十タイプa)」という

 選択肢のみが問題となる.

7)R+θ2+θ〉D,D-X≦R+θ2となる、紙数の制限上証明略.

8)Xの値をこれ以上大きくしても,θ2の企業の経営者の誘因へ与える影響はも

 はや存在しない.

9)注7の結果を利用して(4)式のように整理できる、

10)1期に満期を迎える短期負債を利用することで,同様の効果が実現可能であ

 る一すなわち,1期満期の負債を発行すると,企業の手元にはその時点でキャソ

 シュが無いので必ずデフォルトする.したがって,状態1およぴ状態2の生じた

 企業のいずれもが倒産を申請せざるを得ないが,それによって債権者が繕果を観

 察してプロジェクトを強制させることが可能となる.

  ただし,このような短期負俊を通じたメカニズムは,倒産に伴って様々な毅用

 が発生する場合には本来健全な企業である状態1が生じた企業も倒産させざるを

 得ないため,望ましいものとは言えない.

11)企業が倒産すると,会社更生法が認められるには経営者の放逐が前捉である

 し・従来の和議・あるいは今後利用される民事再生法も,倒産が企業経営者の能

九経営努カ不足,詐害的行為などに由来するなら,その経営者は解雇されるの

 が通常である.もっとも,本稿のモデルでは,事後的には債権者は経営者を追放

 しないほうが,高い利得を得られるので債権者あるいは裁判所による解雇という

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(110)  一橋論叢 第124巻 第5号 平成12年(2000年)11月号

  脅しはcredib1eでないという批判もあろうが,その場合には虚偽の中告が露見

  し経営者の名声が女われて収益性が低下したと考えれぱよい、

 12)正式には(7)式はMax{R+θ、一1),Ol≧Max{(1一τ)(R+θI一(D-X)),O}、ま

                     1           1  た,(8)式は・M・・lR・θダ(D-X)・Ol・万M・・1沢十θ1+・1以O}十万M・・{R

  +θ雪一32-D,O}と表現される。

 13) ただし,実際に,このプロジェクトがファイナンスされるためには,α1γ(R+θ1)

  十(1一γ)θ1}十β(R+θ2)≧1が成立していなけれぱならない.

 14)藤原(1993)は,1991年2月以前の10年問で倒産した企業の中から負債額

  の犬きい順に100社を抽出した実証分析によって,「メインパンクの不動産抵当

  順位の商い企業ほど,再建型の整理形態をとっている」ことを明らかにしている一

  藤原は,その解釈の一つとして,糖報生産を行うメインバンクが,他の一般行に

  対してr救済ornot」という決定のイニシアティブをとるための手段と述べて

  いる、これは,本稿のモデルの解釈と一致する.すなわち,他の一般行は担保権

  の行使をしようとしても,メインバンクの方が低当煩位が高くほとんど債権を回

  収できないため,その判断はメインバンクに頼ることにならざるを得ない、した

  がって,日々の取引を通じてより往コストで企業の情報にアクセスできるメイン

  バンクの再建の抵当順位が高いと言うことは,結果として事前の優先順位から逸

  脱した債権・債務の再調整を通じた企業救済が行われるために重要た要素であっ

  たと考えられる.

 15)加波(1998)によれば,重厚長大の装置産業よりも第三次産業に属する業種

  の方が和議の認可率が高いという見解を支持するデータを示している・これは・

  第三次産業に属する企業における収益構成が,経営者固有の能力に依拠するとこ

  ろが大きいと考えれば,本稿の予想と一致する.

 16)はげ鷹ファンド(VultureFund)と呼ぱれている一詳しくは,Gilson(1995)一

 17)松尾(1999).

[;1雛鋤冨麹(一橋大学大竿院博士課程)

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