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15 日看管会誌 Vol. 14, No. 2, 2010 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 14, No. 2, PP 15-21, 2010 原著 Collaborative Practice Scales 日本語版の 信頼性・妥当性と医師 - 看護師間の 協働的実践の測定 Measuring the Physician-Nurse Collaboration: Reliability and Validity of the Japanese Version of Collaborative Practice Scales 小味慶子 1) 大西麻未 2) 菅田勝也 2) Keiko Komi 1) Mami Onishi 2) Katsuya Kanda 2) Key words : interprofessional collaboration, physician, nurse キーワード : 協働,医師,看護師 Abstract This study aimed to examine collaborative practice between physicians and nurses in Japanese hospitals. The Collaborative Practice Scales (CPS) developed by Weiss & Davis (1985) was translated into Japanese. A self-administered questionnaire survey by using the Japanese version of CPS was conducted on 520 physicians and 2,139 nurses at four hospitals in four prefectures, and data from 275 physicians and 1,678 nurses who completed the Japanese version of CPS were analyzed (valid response rates of 52.9% and 78.4%, respectively). The Cronbach’s alpha of the Japanese version of CPS were over 0.9 for total scores, 0.84-0.88 for subscales. Factor analysis confirmed that the factorial structure of the Japanese version of CPS for nurses was almost consistent with the original version. As for physicians, it was slightly different from the original version. Although the validity of subscales for physicians requires further investigation, the total scores of CPS could be utilized for measuring collaborative practice between physicians and nurses. The results showed the CPS total scores of our subjects were low in comparison with those of previous studies in the United States. The CPS total scores of physicians were related to their specialties and those of nurses, to their qualifications and positions. Further investigation into factors influencing collaborative practice is required for physicians. For nurses, it is necessary to develop their communication skills. 本研究は,医師 - 看護師間の協働的実践の現状を明らかにすることを目的として,Weiss & Davis(1985)によって開発された Collaborative Practice Scales(CPS)の日本語版を作成 し,医師および看護師を対象とした自記式質問紙調査を実施した.4 府県 4 病院の医師 520 名, 看護師 2,139 名に質問紙を配布し,CPS の全項目に回答した医師 275 名(有効回答率 52.9%), 看護師 1,678 名(同 78.4%)を分析対象とした.CPS 日本語版の Cronbach の α 信頼性係数 は医師用,看護師用ともに総合得点で 0.9 台,下位尺度で 0.8 台であった.探索的因子分析の 結果,看護師用 CPS はほぼ原版と類似した因子構造を持つことが確認された.医師用 CPS は, 原版とはやや異なる構造であり,下位尺度の妥当性については検討する必要があると考えられ たが,総合得点を用いることによって,CPS 日本語版をわが国の医師,看護師の協働的実践 の評価に利用可能であると判断された.CPS の総合得点を米国の先行研究と比較したところ, 受付日:2010 年 6 月 16 日  受理日:2010 年 9 月 18 日 1) 高知県安芸福祉保健所 Aki Public Health and Welfare Center of Kochi Prefecture 2) 東京大学大学院医学系研究科看護管理学分野 The University of Tokyo

Collaborative Practice Scales日本語版の 信頼性・妥 …janap.umin.ac.jp/mokuji/J1402/10000002.pdf日看管会誌 Vol. 14, No. 2, 2010 15 The Journal of the Japan Academy of

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15日看管会誌 Vol. 14, No. 2, 2010

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 14, No. 2, PP 15-21, 2010

原著

Collaborative Practice Scales 日本語版の信頼性・妥当性と医師 - 看護師間の

協働的実践の測定Measuring the Physician-Nurse Collaboration: Reliability and Validity of the Japanese Version

of Collaborative Practice Scales

小味慶子 1) 大西麻未 2) 菅田勝也 2)

Keiko Komi1) Mami Onishi2) Katsuya Kanda2)

Key words : interprofessional collaboration, physician, nurse

キーワード : 協働,医師,看護師

AbstractThis study aimed to examine collaborative practice between physicians and nurses in Japanese

hospitals. The Collaborative Practice Scales (CPS) developed by Weiss & Davis (1985) was translated into Japanese. A self-administered questionnaire survey by using the Japanese version of CPS was conducted on 520 physicians and 2,139 nurses at four hospitals in four prefectures, and data from 275 physicians and 1,678 nurses who completed the Japanese version of CPS were analyzed (valid response rates of 52.9% and 78.4%, respectively). The Cronbach’s alpha of the Japanese version of CPS were over 0.9 for total scores, 0.84-0.88 for subscales. Factor analysis confirmed that the factorial structure of the Japanese version of CPS for nurses was almost consistent with the original version. As for physicians, it was slightly different from the original version. Although the validity of subscales for physicians requires further investigation, the total scores of CPS could be utilized for measuring collaborative practice between physicians and nurses. The results showed the CPS total scores of our subjects were low in comparison with those of previous studies in the United States. The CPS total scores of physicians were related to their specialties and those of nurses, to their qualifications and positions. Further investigation into factors influencing collaborative practice is required for physicians. For nurses, it is necessary to develop their communication skills.

要  旨

本研究は,医師 - 看護師間の協働的実践の現状を明らかにすることを目的として,Weiss & Davis(1985)によって開発された Collaborative Practice Scales(CPS)の日本語版を作成し,医師および看護師を対象とした自記式質問紙調査を実施した.4 府県 4 病院の医師 520 名,看護師 2,139 名に質問紙を配布し,CPS の全項目に回答した医師 275 名(有効回答率 52.9%),看護師 1,678 名(同 78.4%)を分析対象とした.CPS 日本語版の Cronbach の α 信頼性係数は医師用,看護師用ともに総合得点で 0.9 台,下位尺度で 0.8 台であった.探索的因子分析の結果,看護師用 CPS はほぼ原版と類似した因子構造を持つことが確認された.医師用 CPS は,原版とはやや異なる構造であり,下位尺度の妥当性については検討する必要があると考えられたが,総合得点を用いることによって,CPS 日本語版をわが国の医師,看護師の協働的実践の評価に利用可能であると判断された.CPS の総合得点を米国の先行研究と比較したところ,

受付日:2010 年 6 月 16 日  受理日:2010 年 9 月 18 日1) 高知県安芸福祉保健所 Aki Public Health and Welfare Center of Kochi Prefecture2) 東京大学大学院医学系研究科看護管理学分野 The University of Tokyo

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Ⅰ.はじめに

医療技術の高度化や疾病構造の変化,患者の重症化やニーズの多様化・複雑化に伴い,患者に良質なサービスを提供するためには,多様な職種の専門知識の活用と職種間の連携が求められている.2008 年の厚生労働省の 「 安心と希望の医療確保ビジョン 」でも,職種間の協働・チーム医療の充実が政策のひとつとしてあげられるなど(厚生労働省 , 2008),チーム医療を推進する動きは年々活発になっている.

協働 collaboration は,チーム医療において核となる概念である.協働にはさまざまな定義があるが,多くの場合,患者のニードを満たすために,異なる専門職種が互いの能力を尊重・活用しながら患者ケアを行うプロセスや関係性を指す(Coluccio & Maguire, 1983; D'Amour, et al., 2005; Fagin, 1992; 吉井 , 2004).

職種間の協働,特に医師 - 看護師間の協働的な関係は,患者の死亡率や病棟から ICU への再入室率の低下(Baggs & Schmitt, 1997),在院日数の短縮化や術後疼痛の緩和(Gittell, et al., 2000),職員の満足度の向上と関連する(草刈ら , 2004; Stichler, 1990)など,医療の質に影響を及ぼす要因のひとつと考えられている.しかし,職種間の協働的関係は,相互関係への認識の相違やコミュニケーション不足などの要因によって阻害されがちである

(Pethybridge, 2004; Skjørshammer, 2001)など,単にともに働けば成立するものでないことも明らかにされている.

海外では,これまでさまざまな尺度を用いて,医師 - 看護師間の協働の程度が測定され(Adams, et al.,1995; Baggs, 1994; Shortell, et al., 1991), 風 土などの組織的要因や個人の知識・スキルが影響を及ぼすことが明らかにされているが(San Martín-Rodríguez, L., et al., 2005),日本ではそのような研究は限られている.医師との協働に対する看護師の認識に関連する要因などが調査されているものの

(宇城,中山,2006),事例研究や看護師のみを対象とした調査が多く(草刈ら , 2004),実態は充分に把握されていない.医師 - 看護師間の協働的関係の促進に向けた方策を検討するためには,両者の関係性の現状を把握し,関連する要因を明らかにしていくことが必要である.

そこで本研究では,医師‐看護師間の協働的実践の現状を把握することを目的として,Weiss & Davis(1985) に よ っ て 開 発 さ れ た Collaborative Practice Scales(CPS)の日本語版を作成し調査を実施した.

Ⅱ.研究方法

1.CPS日本語版の作成CPS は,医師 - 看護師間の協働的実践の程度を調

査するために,Weiss & Davis(1985)によって米国で開発された尺度である.Weiss & Davis(1985)は,Thomas & Kilmann(1978)の理論に基づき,協働を「医師および看護師の知識・技術の,患者ケアに対する相乗的な影響を可能にするような両者の相互作用」と定義し,対人葛藤の解決過程に個人が用いる 5 つの様式(防衛,適応,妥協,競争,協働)を自己主張性(assertiveness)と協調性(cooperativeness)の 2 次元からとらえ,この 2つがともに高い状態にあることを協働としている.CPS には医師用と看護師用がある.医師用は,主に協調性を測定する尺度であり,「 看護師の貢献に対する理解と尊重 」(『私は,治療計画を立てるとき,看護師の意見を考慮している』など 5 項目)と 「 看護師との合意形成 」(『私は,治療や療養のゴールを設定していくために,看護師と互いに合意できるまでよく話し合っている』など 5 項目)の 2 つの下位尺度,全 10 項目で構成されている.看護師用は,主に自己主張性を測定する尺度であり,「 専門的知

本研究の対象者の方が低い値であり,医師では専門領域と,看護師では免許・資格,職位と関連があることがわかった.医師については,看護師との協働的実践に影響を及ぼす要因をさらに詳しく明らかにする必要があること,看護師については,コミュニケーションスキルの開発が必要であることが示唆された.

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識や意見の主張 」(『私は,医師の指示が適切でないと判断した時にはそのことを医師に伝えている』など 4 項目)と 「 共同責任に対する互いの期待の明確化 」(『私は,看護独自の実践分野について医師に伝えている』など 5 項目)の 2 つの下位尺度,全 9 項目で構成されている.医師用と看護師用のいずれも,各項目について 「 全く実践していない(1 点)」 から 「 常に実践している(6 点)」 までの 6 段階で評価し,合計得点が高いほど協働的な実践を行っていることを示す.

本研究では,この CPS の日本語版作成手順として,原作者の許可を得た上で,まず研究者および母国語を日本語とするバイリンガルが日本語への翻訳を行った.次に,最初の翻訳には関与していないバイリンガルに逆翻訳を依頼した.最後に,英語を母国語とするバイリンガルおよび研究者を含む複数の看護学研究者で,原版との意味の等価性を確認し,CPS 日本語版案とした.そしてこの CPS 日本語版案を用いて,現役の医師・看護師,看護学研究者らに回答してもらい,理解が困難な点の有無について尋ね,必要に応じて表現の修正を行い CPS 日本語版とした.

2.医師及び看護師を対象とした質問紙調査1)対象者調査は,機縁法により協力の得られた関東,近畿,

四国,九州の 4 病院で行った.国公立病院と社会医療法人立の病院が 2 施設ずつで,全て 300 床以上である.調査対象者は,常勤,あるいは看護部長が常勤と同様の業務と責任を有すると判断した医師と看護師とした.なお,本論文では特に断らない限り,各種看護職を総称して「看護師」と記述する.2)調査手順調査対象施設の施設長及び看護部長に調査の趣

旨,方法を説明し許可を得た.医師への調査票の配布は,診療部長または看護部長,もしくは施設の研究支援部局を通して行い,看護師への調査票の配布は看護師長を通して行った.調査票とともに密閉できる封筒を配布し,各部署に設置した回収袋によって調査票を回収した.調査期間は 2009 年 10 月~ 11月であった.3)調査内容CPS 日本語版の質問項目に加え,すべての対象者

に,性別,年齢,臨床経験年数,現在の病院での勤務年数を尋ねた.職種ごとの調査項目として,医師に対しては専門領域(診療科目)を尋ねた.回答は,厚生労働省医療施設調査の診療科目分類を参考に,内科系,外科系,その他(リハビリテーション科,放射線科,麻酔科,病理・検査科)に分類し,これに研修中を加えた 4 区分とした.看護師に対しては,取得免許および資格,現在の職位,勤務経験病棟,卒業または修了した看護関連教育機関を尋ねた.

3.倫理的配慮本研究は東京大学大学院医学系研究科・医学部倫

理委員会および各調査対象施設の倫理委員会の承認を得て実施した.対象者には,調査の趣旨,協力は任意であること,協力の諾否は勤務の査定に影響しないこと,匿名性の確保の方法などを書面にて説明した.調査票の回収をもって同意とみなした.調査票はすべて無記名とした.

4.分析方法まず,CPS 日本語版の内的整合性の検討のため,

Cronbach のα信頼性係数を全体および下位尺度ごとに算出した.また,探索的因子分析によって因子構造を確認した.次に,医師,看護師それぞれの CPS 総合得点と属性との関連を探索するために,単変量解析を実施した.これらの解析においては,CPS 全項目に回答があったものを有効回答とし,解析対象とした.各尺度得点としては,項目点数の和を項目数で除して平均したものを用いた.2 群の平均値の比較では t 検定,3 群以上の場合は一元配置分散分析と scheffe の多重比較,相関係数については t 検定を行い,有意水準は 0.05 とした.解析には統計パッケージ PASW Statistics 18.0 for Windowsを用いた.

Ⅲ.結果

1.回答状況および対象者の属性医師への調査票の配布数は 520 票で回収数は 290

票,看護師への配布数は 2,139 票で回収数は 1,749票であった.このうち,解析対象となった有効回答

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数は医師が 275 票(有効回答率 52.9%),看護師が1,678 票(有効回答率 78.4%)であった.

対象者の属性を表 1 に示す.医師および看護師の平均年齢と臨床経験年数はいずれも医師の方が有意に高く,また,医師の 82%,看護師の 5% が男性であった.医師の専門領域は,外科系が 45% と最も多く,看護師の最終学歴は 56% が 3 年制専門学校・短期大学で,看護師として働く者が 89%,職位はスタッフが 86% を占めていた.

2.CPS日本語版の信頼性・妥当性Cronbach のα信頼性係数(以下,α係数とする)

は,医師・看護師ともに総合得点で 0.9 台,下位尺度で 0.8 台であった(表 2).

次に,CPS 医師用,看護師用それぞれについて,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った.因子数は,原版のとおり 2 因子とした.回転後の因子負荷量を表 3,表 4 に示す.医師用 CPS では,

「看護師との合意形成」の全項目と「看護師の貢献に対する理解と尊重」のうち 3 項目が第 1 因子に対して高い負荷を示した.看護師用 CPS では, 「 専門的知識や意見の主張 」 と 「 共同責任に対する互いの期待の明確化 」 のいずれも 1 項目を除いてそれぞれ第 1 因子,第 2 因子に高い負荷量を示した.因子間の相関係数は医師用 CPS が 0.684,看護師用 CPS が0.722 であった.

3.医師看護師それぞれの尺度得点と属性との関連医師・看護師それぞれの属性別 CPS 総合得点を

表 5 に示す.医師・看護師ともに,年齢及び経験年数と総合得点に有意な正の相関があった.また,医

n (%) n (%)

男性 226 (82.2) 87 (5.2) **

女性 47 (17.1) 1,582 (94.3)**

*

研修中 32 (11.6)

内科系 74 (26.9)

外科系 124 (45.1)

その他 33 (12.0)

准看護学校 84 (5.0)

2年制専門学校 551 (32.8)

3年制 〃・短大 934 (55.7)

大学・大学院 102 (6.1)

准看護師 98 (5.8)

看護師・保健師 1,494 (89.0)

助産師 58 (3.5)

認定・専門看護師 23 (1.4)

スタッフ 1,434 (85.5)

主任等 113 (6.7)

師長 95 (5.7)

1) 欠損値のため人数の合計が一致しないことがある

年齢 (M ±SD )b)

3) 下方の区分を優先した

職位

2) 保健師・助産師専門学校・短大専攻科は含まない

免許・資格3)

* P<0.05,

** P<0.01,

a) χ

2検定,

b) t検定

最終学歴2)

38.6±10.5

経験年数 (M ±SD )b) 12.8±10.2 11.4±8.7

専門領域a)

医師 (N =275)1)

34.1±9.1

看護師 (N =1,678)1)

性別a)

表1 対象者の属性

平均値(±SD) Cronbach'sα医師用CPS(n=275)総合得点 3.36 ± 1.01 0.92下位尺度得点

看護師の貢献に対する理解と尊重 3.34 ± 1.06 0.84看護師との合意形成 3.37 ± 1.08 0.88

看護師用CPS(n=1,678)総合得点 2.74 ± 1.03 0.92下位尺度得点

専門的知識や意見の主張 3.09 ± 1.18 0.88共同責任に対する互いの期待の明確化 2.46 ± 1.03 0.88

表2 職種別尺度得点および信頼性係数

1 2看護師との合意形成5 私は、治療や療養のゴールを設定していくために、看護師と互いに合意できるまでよく話し合っている 0.798 0.047

6 私は、看護師と患者ケア(治療や看護を含む)の計画や実施に、どの程度関わってほしいかについて話し合っている 0.822 0.022

7 私は、患者にとって最もよい患者ケア(治療や看護を含む)の方法について看護師の合意を得るようにしている 0.744 0.078

8 私は、医療に関する決定に看護師自身がどの程度関わっていきたいかについて話し合っている 0.944 -0.164

9 私は、看護師の方が自分よりも専門的能力を持つ部分があることを認め、それを看護師に伝えている 0.432 0.204

看護師の貢献に対する理解と尊重1 私は、患者と話すとき、看護ケアの重要性を強調している 0.296 0.470

2 私は、患者の支援を強化するために必要なことについて看護師のアセスメントを尋ねている -0.100 0.959

3 私は、医学的アプローチと看護学的アプローチの類似点と相違点について看護師と話し合っている 0.502 0.293

4 私は、治療計画を立てるとき、看護師の意見を考慮している 0.467 0.250

10 私は、患者と様々な情報を話し合うことについてのお互いの責任の所在を、看護師と話し合っている 0.673 0.152

因子負荷量

(注)番号は質問紙での項目順

表3 CPS医師用の因子分析結果(主因子法・プロマックス回転)

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師は専門領域と総合得点の間に,看護師は免許・資格,職位と総合得点の間に有意な関連があった.

Ⅳ.考察

1.CPS日本語版の信頼性・妥当性CPS 日本語版は総合得点でも下位尺度でもα係

数は 0.8 以上で,内的整合性は十分保たれていると

考えられる.因子分析の結果,看護師用 CPS は 2つの下位尺度がともに 1 項目を除いて特定の因子に高い負荷量を示していることから,ほぼ原版と同等の因子構造を示したと考えられる.医師用 CPS については,10 項目中 8 項目が第 1 因子へ高い負荷を示しており,原版の 2 因子構造とは異なる結果であった.しかし,医師用 CPS・看護師用 CPS ともに因子間の相関が高く,総合得点でのα係数が高いことから,総合得点によってこの尺度を使用することが可能であると考えられる.従って,今回作成した CPS 日本語版は,わが国の医師,看護師の協働的実践の評価に利用できることが確認されたが,下位尺度の妥当性についてはさらに検討を重ねる必要がある.

2.医師および看護師の協働的実践の現状国内・海外ともに,医師 - 看護師間の協働につい

ては,看護師のみを対象とした調査が多く,医師を対象とした調査は少ない.そのため,本研究の対象者の得点を,先行研究と比較することには限界があるが,Nelson, et al.(2008)および Weiss & Davis

(1985)によって米国で行われた調査では,医師のCPS 得点の平均値はそれぞれ 4.3,4.6 であり,本研究の対象者の 3.4 はこれらに比べ明らかに低い値である.下位尺度ごとの平均値も同様に先行研究より低く,本研究で対象となった医師は,米国に比べると CPS で測定される協働的な実践を行っていない現状が明らかになった.医師用 CPS は,医師が積極的に看護師の意思決定への参加を促し,合意形成しようとする行動や,看護の独自性を認める姿勢を測定しているので,看護師の専門性に対する評価の違いが結果として行動や姿勢の違いに表れたものと

1 2

3 私は、医師の考えているより自分の専門的力量がある時はそのことをはっきり述べている 0.383 0.459

5 私は、患者ケア(治療や看護ケアを含む)に有効だと考える方法を医師に提案している 0.664 0.215

7 私は、医師の指示が適切でないと判断した時にはそのことを医師へ伝えている 0.927 -0.168

8 私は、患者にとって治療選択や結果に対応することが難しいのではないかと予測する時は医師にそのことを伝えている 0.928 -0.087

1 私は、医療に関する決定にどの程度関わることが期待されているのか医師に尋ねている -0.131 0.865

2 私は、患者と様々な情報を話し合うことについてのお互いの責任の所在を、医師と話し合っている -0.104 0.903

4 私は、患者ケア(治療や看護ケアを含む)計画を立てる際に、どの程度参加したいか、医師と話し合っている 0.127 0.719

6 私は、看護よりも医学分野に入る実践についても医師と話し合っている 0.364 0.478

9 私は、看護独自の実践分野について医師に伝えている 0.554 0.322

因子負荷量

専門的知識や意見の主張

共同責任に対する互いの期待の明確化

(注)番号は質問紙での項目順

表4 CPS看護師用の因子分析結果(主因子法・プロマックス回転)

性別a)

 男性 3.33±1.03 2.60±0.93

 女性 3.42±0.59 2.75±1.03

年齢(相関係数)a) 0.253 ** 0.293 **

経験年数(相関係数)a) 0.234 ** 0.328 **

専門領域b)

 研修中 2.75±0.86 **

 内科系 3.59±0.83

 外科系 3.38±1.04

 その他 3.26±1.13

最終学歴1) b)

 准看護学校 2.47±0.95

 2年制専門学校 2.74±1.08

 3年制〃・短大 2.78±1.00

 大学・大学院 2.66±1.06

免許・資格b)

 准看護師 2.46±0.97 **

 看護師2) 2.74±1.02

 助産師3) 2.80±0.98

 認定・専門看護師 4.11±0.89

職位b)

 スタッフ 2.61±0.97 **

 主任等 3.42±0.99

 師長 3.93±0.88

mean±s.d.

1)保健師・助産師専門学校・短大専攻科は含まない2)保健師免許保有者を含む3)看護師・保健師免許保有者を含む

** P<0.01, a) t検定, b) 一元配置分散分析

医師(n=275)mean±s.d.

看護師(n=1,678)

表5 属性別尺度得点

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とらえることができる.米国には治療行為を行うことのできる上級実践看

護師が多く存在し,その歴史も古いなど,裁量や役割範囲の違いがこの結果に結びついている可能性が高い.わが国では,看護師の役割や業務範囲の拡大は,近年具体的に議論され始めたテーマであり,このような動きが医師の看護の専門性に対する認識を変え,協働的実践を促していくことが期待される.

しかし,このような背景要因が考えられるものの,医師が看護師との関わりにおいてとる行動や姿勢に影響を及ぼす要因は充分に明らかにされていない.協働に関する研究の多くが看護師によるものであり,医師の職種間関係への関心は低いと指摘されている(Dougherty & Larson, 2005; Fagin, 1992).医師 - 看護師間の協働的関係は,どちらの職種にとっても職務満足度と関連している(Chang, et al., 2009; 草刈ら , 2004)が,その関連は看護師の方が強い(Baggs, et al., 1997)という報告も,協働を重要であると考える程度が職種間で異なっていることを示唆するものである.これは,看護教育では調整やコミュニケーションを伴う相互依存的な意思決定が強調されることに対し,医学教育では自立的な意思決定が強調されるという教育的背景の相違(Barrere & Ellis, 2002; Fagin, 1992)によるものであるかもしれない.また,どのような職種間関係をより良いとするかは職種によって異なるという指摘(Mills, et al., 2008)からも,医師 - 看護師間の協働的関係の促進に向けた介入を検討するためには,医師の職種間関係に対する考えや現状認識についても同時に把握していく必要があると考えられる.

また,個人属性と協働的実践の関係については,年齢,臨床経験年数,専門領域が CPS 得点と有意に関連していた.年齢が高く,経験が長いほど協働的な実践を行っているという結果は先行研究で報告されている(Nelson, et al., 2008)が,CPS を用いた先行研究の多くは ICU など専門領域を特定して行われており,これらの領域ごとの違いは検討されていない.本研究では内科系医師の方が他の専門領域の医師より協働的な実践を行っているという結果であった.内科系と外科系では,クリニカルパスの活用の程度など,医師と看護師とのコミュニケーションの方法や頻度が異なる可能性がある.今後は,専門領域特有の看護師との相互作用のあり方や,それ

が職種間関係に与える影響にも着目し,検討していく必要がある.

看護師の CPS 得点は,医師と同様に先行研究より低い値であった.看護師の CPS 得点は,自己主張的なコミュニケーションを表すが(Weiss & Davis, 1985),看護師の自己主張的な行動は,伝統的な性役割観に加え,教育的背景や,自己主張的行動が看護の本質とも言われているケアリング行動と相反するものとみなされがちであるという理由で,特に医師に対してはあまり発揮されていないことが明らかにされている(Timmins & McCabe, 2005).加えて,日本人のコミュニケーションの特性を諸外国と比較すると,間接的な表現,タスク志向より関係志向,あいまいさなどの特徴で表されることから(Goldman, 1994),看護師に特有の行動特性に加え,日本の文化的背景が本研究の結果に反映されていると考えられる.中川,林(2008)の調査でも,看護師は意見の表明や指摘といった直接的な行動よりは,情報提供や意思確認といった間接的な方法によって医師の指示の明確化や指示の変更を促していた.本研究の結果も,このような看護師のコミュニケーション特性を反映している.しかし,互いの見解が異なる場合,その背景にある考えを表明できないと目標達成や計画の共有につながらない場合がある(中川,林,2008).看護師に対するアサーティブ・トレーニングなど,コミュニケーションスキルを高めるための教育やその評価が必要であると考えられる.

3.本研究の限界と今後の展望本研究では地域と設立主体を考慮して対象施設を

選定したが,4 施設と限られており,日本全体へと結果を一般化するには限界がある.今後は,さらに地域や設立主体,施設規模なども考慮して調査対象を拡大し,日本の現状を明らかにするとともに,施設特性が医師‐看護師間の協働に及ぼす影響についても検討していく必要がある.

Ⅴ.結論

医師 - 看護師間の協働に対する両者の実践について CPS 日本語版を作成し,調査を実施した.その

Page 7: Collaborative Practice Scales日本語版の 信頼性・妥 …janap.umin.ac.jp/mokuji/J1402/10000002.pdf日看管会誌 Vol. 14, No. 2, 2010 15 The Journal of the Japan Academy of

21日看管会誌 Vol. 14, No. 2, 2010

結果,作成した CPS 日本語版が利用可能であり,それを用いて測定した医師および看護師の協働的な実践の程度は,米国の結果に比べ低く,医師は専門領域と,看護師は免許・資格,職位と関連があることが明らかとなった.

謝辞:本研究にご協力を頂いた対象者の皆様および調

査を快諾して下さった 4 病院の院長,診療部長,看護部長,

研究担当の皆様に厚く御礼申し上げます.

なお,本研究の一部は日本学術振興会科学研究費補助

金(課題番号 17209067)によった.また,本論文は 2009

年度東京大学大学院医学系研究科に提出した修士論文の

一部を加筆修正したものである.

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責任著者 大西麻未東京大学大学院医学系研究科看護管理学分野〒 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1E-mail [email protected]

Correspondence: Mami OnishiThe University of Tokyo7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, [email protected]